恋するジャガーノート

まふゆとら

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第四話「蘇る伝説」

 第二章「復活の雷王‼ 古代からの目覚め‼」・②

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「えぇっと・・・どこから説明したらいいんだろ?」

「俺ら兄妹は、小学生の頃からだな」

「そうだね。えっと、ハルとみーちゃんは兄妹で、初めて会ったのは小学生の時だから、もう十年以上前になるんだ。二人とはそれからずっと友達なんだよ」

「兄妹・・・家族、ですね」

 自分の中にある知識と照らし合わせるように、クロが反芻する。

「そそっ! お兄ちゃんとハヤ兄ぃが小学校四年生の時に同じクラスでね。その時私は三年生だったんだけど、気づいたら三人で遊ぶようになってたんだよね」

「んで、アタシと山サンは高校からっスね~」

 サキが隣の山田さんにぴとっ、とくっつく。

「う、うん。だから・・・五年前・・・になるのかな?」

 山田さんは少し恥ずかしがりながらも、拒む様子は全くない。
 サキの見た目を怖がってた最初の頃が嘘のようだ・・・。

「そうだったんですね・・・」

「人に歴史あり・・・ってやつだな!」

「歴史ってほど時間経ってもないけど。でも、こんなに仲良くなるなんて思わなかったな~。それこそ最初は、お兄ちゃんがハヤ兄ぃに泣かされて帰ってきたのが始まりだったし・・・」

 みーちゃんの「ほんと情けないんだから」というジト目が、実の兄に炸裂する。

「・・・なんでそんな事ばっか覚えてんだよぅ・・・んぐっ! んぐっ!」

 視線を外してぼやきながら、ハルが残りのビールを煽る。

「あれはハルが給食のプリン勝手に多く食べたからでしょ」

 クラス委員だった僕が指摘すると、駄々こねた挙げ句暴力に訴えてきたのでついつい反撃しちゃったんだっけ・・・
 いやでもあれはハルが悪かった。だから僕の拳も痛まなかった。

「しかも、三人で遊ぶようになってからも、事あるごとにハヤ兄ぃに対抗してスポーツやらゲームやらで挑んでは負け続けて・・・」

「うぉぉぉお‼ やめるぉぉぉおおおおお‼ 黒歴史をほじくり返すなぁぁああああ‼」

 ハルが頭を抑えてテーブルに突っ伏す。
 ・・・恥ずかしがる気持ちは凄く分かるよ。うん。

「ぷぷ~っ! 桜井ダッサ~!」

「まぁ、オトコノコってそんなもんじゃないっスかね? 知らないケド」

「ちくしょぉぉおおお‼ 飲まなきゃやってらんねぇぇぇえええ‼」

 叫ぶなり、肩を怒らせながらカウンターにおかわりを注文しに行った。

 言われて思い出したけど、子供の頃はハルによく勝負挑まれたっけ・・・懐かしいなぁ。

 負けても全く懲りないし・・・おまけに仕返しがいちいちズルかったり・・・って待てよ?
 ・・・まさか、「宇宙人」の噂もそのだったんじゃ・・・?

「・・・んくっ! んくっ! ・・・だからさァ・・・あの頃は・・・ハヤトの・・・なんつーかなァ・・・その・・・ら、ライバル的な何かになりたかったっつーかァ・・・」

 2杯目も瞬く間に飲み干してしまったハルは、早くもへべれけと言った様子。
 顔を赤くして、思い切り口を滑らせている。

外見ガワくらいしか良いとこ残ってない桜井にも、かわいい時期があったんだ~~ぷぷっ!」

「っせーぞ山田ァッ‼」

 いつもの流れが始まりそうになったところで、クロが袖をくいと引っ張ってくる。

「・・・ハヤトさん・・・「ライバル」って・・・なんですか・・・?」

「う~ん・・・争い合ってても、実はお互いに認め合ってる仲・・・って感じの意味かな?」

 怪獣の説明をした時にも思ったけど、改めて聞かれると説明が難しい言葉って、意外と多い。
 クロといると、色んな事に気付かされるなぁ。

「そうそうッ! 男にはさァ! 戦ってこそ理解わかり合える時ってのがあんだよ~!」

「お兄ちゃんは別に戦わなくても、口を開けばすぐ理解バレるでしょ。バカだって」

 ハルの声量が三割増しになっている。だいぶアルコールが回ってきたみたいだ。
 みーちゃんのツッコミも意に介さず、話を続ける。

「ハヤトと倉木兄弟なんて正にそれだよなッ! 昔はとんだ不良だったんだぜ~アイツら!」

 と、そこで話が嫌な方向に飛びそうになる。

 あの二人の過去については・・・会議の時にも出たけど、済んだ話だから蒸し返したくない。

「その話はやーめ! 今はそんな事ないし、当時だって事情があったんだから」

 話が更に進む前に、みーちゃんがハルをなだめた。
 今日は本当に彼女に頼りっぱなしだ。・・・いや。今日「も」か。

「そりゃそうだけどよォ~!」

「アタシも言いたい事はありまスけど・・・昔はともかく、今はエミリーサンと三人で毎日のように練習してるんスから、ハルサンは見習わなきゃ」

「おっ、俺はいいんだよ・・・そんなにアクションしないし・・・」

 ハルは自分に話の矛先を向けられ、途端に弱腰になる。

「そんな調子だからだらしない肉がつくのよブタ彦」

「んだと山田ァーッ‼ 表出ろゴルァ──ッッ‼」

 どうもこっちの二人は、何度喧嘩しても仲直りする気はなさそうだ。

 ・・・というか、元からライバルじゃなくて「喧嘩友達」ってやつなのかな?

「・・・でもよ、まぁ発端はともかく、ハヤトとあの兄弟、結果だけ見るとすげぇセーシュンって感じだよな? 殴り合いの喧嘩した後に、友達になる・・・ってシチュエーションは」

 少し落ち着いたのか、いよいよがなる元気もなくしたのか・・・
 テーブルに顎を乗せながら、ハルが中空を見ながら呟く。

「ち、近くで見てた私からすると・・・そもそも喧嘩にもなってなかったけど・・・。二人がかりなのに、ハヤトくん相手に手も足も出ない! って感じで・・・・・・あの時のハヤトきゅん・・・・・・かっこよかった・・・うへ、うへへへ・・・・・・」

「あ、あはは・・・」

 ・・・思い出した。あの時はヘルメットしてたのに、山田さんには後で見破られたんだ。
 ・・・・・・もちろん、筋肉の付き方で。

「────んっ? ・・・・・・喧嘩した後の、仲直り・・・・・・」

 と、そこで山田さんが何かを閃いた様子を見せる。

「来た・・・来たわッッ‼ 倉木兄弟パターンだッッ‼ 最初は敵として登場・・・そして死闘を経ての共闘ッ! どうして今まで気づかなかったんだろ・・・! 絶対外さない鉄板だけど、子供から大人まで世代を超えて伝わる熱い展開・・・ッ‼ これならいけるッッ‼」

 急にひとりの世界に入ったかと思うと、隣のテーブルに移り、ノートパソコンを取り出す。
 前髪を束ねているシュシュをするりと外し、驚異的なスピードで文字を打ち込み始めた。

「おっ。あけみサン、何か降りてきたっぽいっスね」

「や、山田さん、あんまり無理しないでね・・・?」

「アイデアが・・・! アイデアが溢れて止まらないぃぃ・・・ッ! うへへへへ・・・・・・ッッ‼」

 山田さんは執筆モードに入ると、目が隠れるくらいに長い前髪を下ろす。
 ・・・ので、笑みを浮かべていると怖さが倍増する。

 最初は皆して困惑したっけなぁ・・・。
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