恋するジャガーノート

まふゆとら

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第三話「進化する生命」

 第三章「明日への一歩」・⑤

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       ※  ※  ※


<───ガアアァ‼ ゴオオォォッッ‼>

 怪獣の姿となったクロが、田畑を蹴って対峙する怪獣へと突進を仕掛ける。

 すると、相手もまた、それに応えるように吼え、巨大な爪を構えた。

『・・・あの怪獣──』

 シルフィが何か言いかけたのと同時──クロが仕掛けた!

 進行する勢いそのままに右足を内側に放り投げるようにして、身体を半回転させて尻尾を振り回す!

 ムチのようにしなる巨大な尻尾の一撃は、その風圧で畑の土を巻き上げた──が、しかし──

<ガアアァゴオッ‼>

 それを予期していたかのように、怪獣は左の爪を地面に突き立て、待ち構える。

 振るわれた尻尾は、大地の力を借りた盾に弾き返され、足を掬う事に失敗する。

 慌てて体勢を立て直そうとするクロに、怪獣は間髪入れず、右の爪を横薙ぎに振るう!

 クロも反応して咄嗟に左腕を構え防御するが、強大な遠心力を纏った爪の勢いを殺し切るには足りず、押し切られてそのまま横滑りして、大地に膝を付いてしまう。

 横滑りした部分──

 畑三つ分の面積が、まるでトンボ掛けされたかのように真っ平らになってしまったのを見て、スケールの大きさに息を呑んだ。

『・・・やっぱり。

「戦い慣れてる・・・?」

 クロが悔しそうに怪獣を睨むのが見え、そこでシルフィが途切れた話の続きを補足した。

 その言葉の意味するところが理解わからず、オウム返ししてしまう。

『言葉通りの意味だよ。同じ怪獣同士で縄張り争いでもしてるのか、はたまた・・・普段からクロみたいなのと戦ってるのか──とにかく・・・相手は同じサイズの敵と、戦い慣れてる。多分間違いない』

 あっけらかんと出た台詞に、絶句してしまう。

 じゃあ、あの大穴の先では、巨大な怪獣たちが跋扈ばっこしてるかも知れないって事⁉

 ・・・いや、それよりも前に───

「クロは・・・そんな百戦錬磨の敵を相手にしてるの・・・⁉」

『・・・そういう事になるね』

 シルフィの顔が険しくなる。

 クロに目を向けると──同じように突進して行って、次は手の甲で打ち払われてしまう。

 背後の山に叩きつけられ、苦しそうに身体をよじる。

 逃げ惑う人々を尻目に、自分の敵を見据えた怪獣は、爪を構えながら悠々と歩を進め、クロを追い詰める───





 怪獣はクロの頭目掛けて、閉じて合わせた爪を槍のように突き出す──

 すんでの所で躱したクロは、背にした山に体重を預けて両脚を持ち上げ、正面に立つ怪獣を蹴り飛ばす!

 ───が、これも読まれていたようだ。怪獣は既に爪を身体の前に構えていた。

 蹴り攻撃も直撃はせず、敵の怪獣を押し戻すだけに終わった。

 クロは眉を顰めながら、山の斜面に両手を当て、刺さっていた自分の背びれを抜いてようやく立ち上がる。

 相対する怪獣は、余裕綽々と言った様子で、両手の爪を擦り合わせ、火花を散らしてクロを挑発する。

 獰猛に笑うその顔が照らされ──怪獣が、戦いを楽しんでさえいる事が本能的に判ってしまった。

「クロ・・・!」

 手も足も出ない状況に、奥歯を噛みしめる・・・いや、悔しがってるだけじゃダメだ・・・!

 何か・・・何か逆転の方法を考えるんだ──!
 

       ※  ※  ※


「慌てず冷静に! お年寄りと子どもには手を貸して! 押さないで広がって下さい!」

 喉を枯らしながら、逃げる人々に呼びかける。

 訓練学校で、「避難誘導をする時はJAGDが秘密組織でなくなる時」などと冗談交じりに教官が口にしていた事を思い出す。

 元から笑えなかったが、最早冗談ではなくなってしまった。

 都市部ではないとはいえ・・・人の住まう地域でジャガーノート二体が戦闘──

 ここ二週間で、JAGDの長い歴史の中でも「初」となる事態が立て続けに起こっている。

 地球史における人類の支配の期間が終わろうとしているのか──

 いや、そもそも、人類はジャガーノートという強大な存在が瞬きをしているその一時いっときだけ、繁栄を許されたちっぽけな存在だったのではないか──

 そんな風にすら感じてしまう。

 だが・・・だがそれでも・・・!

「こんな所で・・・終わらせてなるものかッ!」

 そのために、JAGDが在る。その存在がおおやけになろうとも、私の意思は変わらない。

 ジャガーノートから、人類を──仲間を──そして、「ともだち」を守ってみせる!

「足元に気をつけて! 重い荷物は置いていって下さい!」

 避難誘導をしている途中も──巨大なジャガーノートたちが闘うリングと化した大地は、平衡感覚が狂いかける程に揺れ続けていた。

 コンクリートに膝をついて、擦り剥けた膝の痛みを抑えながら、人々は必死に巨大な影たちに背を向けて逃げて行く。

 ──そしてようやく、見える範囲での避難が終わった。

「ハァッ・・・! ハァッ・・・! ・・・総員! 状況はどうか!」

 喉の奥からどうにかしゃがれた声を捻り出し、マイクに呼びかける。

『クッ・・・! 何とか・・・持ちこたえていますが・・・! 数が多く・・・ッ!』

『後はもう手持ちの弾しかないんだ! いずれ押し切られちまう・・・!』

『・・・支援、求む・・・!』

『自衛隊、在日米軍ともに審議中で返事ありません‼ 皆さん‼ 整備課に要請した救援ヘリがあと20分後には着くはずです・・・! どうかそれまで耐えて下さい! 絶対に死んじゃダメですよぉっ‼』

 オープンチャンネルからは、銃声と、悲鳴と・・・新しいNo.005のものと思われる濁った叫び声が、絶え間なく聴こえてくる。

<オオオオオオオオッ‼>

 咆哮と共に、一際大きな揺れが起きた。No.007が再び山の斜面に叩きつけられている。

 避難誘導をしながら見ていた限りでも、状況は明らかだった。

 No.007は、圧倒されている。No.008に弄ばれている──このままでは、まずい!

 航空戦力どころか、支援のヘリが来るまでの時間を稼ぐ事すら出来ない!

 額を、汗が伝うと───

『─────マスター』

 そこで、私を呼ぶ声がした。

 そういえば、しばしテリオの声を聞いていなかった事に気づく。

『遅れて申し訳ございません。初めて使う装備なので、使用前のシミュレーションに時間がかかってしまいました』

「・・・? 何の話だ?」

 我ながら何とも間抜けに聞き返してしまう。

『今の我々に残された──最後の武器です』

 この窮状にあっても、平時と変わらない抑揚のない声が応え───

 <ヘルハウンド>のタンデムシートに取り付けられたダークグレイのリアボックスが、水色の光を発する。

 ボックスの両側のパーツにも光が伝導つたうと、それぞれが独立して展開・変形し──

 瞬く間に、細長いシルエットへと姿を変えた。

『マスター。両側のパーツを取り外し、コネクタを接続して下さい』

 一体何が始まろうとしているのか・・・一つも理解できなかったが、藁にもすがる思いで、リアボックスの後ろに回り込む。

 パーツは双方とも長さは1メートル、重さも30キロ以上はある。一般女性ならそもそも持ち上げる事すら苦労するであろうそれを取り外し、凹凸部分を合わせると──出来上がったのは───

「・・・アンチマテリアルライフル・・・か?」

 肩で息をしながら、ぽつりと口にする。

 仰々しいデザインの、ダークグレイのライフル──しかし、その全長は、私よりも大きい。180センチはあるだろうか。

 個人で携帯する通常の対物ライフルないし狙撃銃の大きさなど、あっても150センチだ。
 これはいくら何でも大きすぎる。

 そして何より不可解なのが・・・リアボックスと、左側についていたパーツが、束になったコードで接続されている事だ。

 再度、疑問符を浮かべたところで・・・その驚くべき答えが右耳から飛び込んできた。 


『これが──対巨大ジャガーノート用携帯型メイザー兵器<SG-004>の試作型──』


『開発名称コードは───「メイザー・ブラスター」です』

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