恋するジャガーノート

まふゆとら

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第三話「進化する生命」

 第三章「明日への一歩」・①

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◆第三章「明日への一歩」


<ガアアアア───ゴオオオオオオ───ッ‼>

 No.005ガラムの、カラスの鳴き声を濁らせたようなものとは全く違う、丹田はらの底を震わす大音量。

 怯えた鳥たちが、慌てるようにバタバタと飛び去っていくのが見えた。

 下手くそに弦楽器を奏でたような不快な声を発するそれは、茶色いイボのついた肌に、黒い頭と爪と・・・No.005の持つ特徴を全て兼ね備えていた。

 ──が、しかし・・・

 全長150センチのNo.005に対し、山林の向こうで土煙を纏いながら歩く巨体は、軽く50メートルを超えていた。

 おそらく、No.007ヴァニラスと同じくらいはあるだろう。

 振り返って、今さっき、改めて「ともだち」となった男に話しかけようとして──

「この子は、任せて下さい!」

 開口一番、そんな事を言われてしまった。

 ・・・あの巨大な生物を見て、。その勇気は誇らしいが──

「しかし、まだヤツらが近くにいる可能性もある!」

「えっと・・・それじゃあ、アカネさんが持ってる閃光手榴弾・・・でしたっけ? あれをいくつかもらえませんか? あのかいじゅ・・・恐竜みたいな動物って、強い光が苦手なんですよね!」

 意思は固いようだ。だが、それでも。

「民間人を放っていくなんて出来るわけが──」

「アカネさんッ!」

 強い口調で名前を呼ばれ、思わず口を噤んだ。

「・・・アカネさんにはきっと、今もっと先にやるべき事があるんですよね? アカネさんじゃないと出来ない事が。だから・・・僕も、僕に出来る、精一杯の事をします」

 今、彼の瞳に宿るものを、私は知っていた。


「───僕を、信じて」


「ッッ‼」

 途端、脳裏にフラッシュバックする光景があった。

 満天の星空と───白い、壁──? 目の前にいる幼いハヤトが、私を見上げ、囁いた。


『大丈夫だから・・・僕を信じて。アカネちゃん───』


 声が聴こえたのと、同時──景色がホワイトアウトして、思わず膝をついた。

「クッ・・・・・・!」

「あ、アカネさん⁉ 大丈夫ですか⁉」

 今の記憶は──なんだ──?

 見覚えのない記憶・・・だが今見たのは、確かに、私が幼い頃に遊んでいた、あのハヤトだった。


 ───私にも、忘れている記憶があるとでも言うのか───?


「・・・す、すまない。何でもないんだ・・・」

 差し伸べられた手を借りずに、立ち上がった。

 ・・・あまりにもリスクが大きいが、事態は一刻を争う。

 軍人としては愚の骨頂としか言えない判断ではあるが、今は──

 JAGDの機動部隊隊長としてではなく、「桐生 茜」として、目の前のともだちを信じてみようと、決意した。

「ハヤト。これを預ける。さっきの恐竜用の特別仕様だ。ハンマーを握りながらピンを抜いて、地面に投げつけるとすぐに光が出る。直視すると網膜を灼かれるから気をつけろ」

「わかりました!」

 返事を聞いて、筒状のそれを三つ手渡した。バレたら・・・軍法会議で済めば儲けものだな。

「出来る限り暗闇を避けて、山を真っ直ぐ下って車道を目指すんだ。恐竜どもは基本的に群れで行動するから、囲まれたと思ったらすぐにそれを使え。・・・軍人でない君にこんな事を言うのは気が引けるが・・・その子を、頼んだぞ」

「わかりました。アカネさんも・・・気をつけて」

 頷き合って、互いに背を向けて駆け出した。

 ・・・恥ずかしい話、かけてもらった言葉一つで、体の底から力が漲ってくるのを感じる。

 むず痒い自分を否応なく意識しながら、<ヘルハウンド>のシートに跨った。

『おや。お色直しの時間ですか?』

 見計らったタイミングで冷やかしが飛んできたが、無視してヘルメットの左に手を当てる。

「こちらハウンド1! 全員、あのデカブツは見えてるか!」

『ハウンド2、確認!』

『ハウンド3も見えてます! それと・・・残ったNo.005たちが、一斉にあのジャガーノートの元に集まってるみたいです!』

 やはり・・・あの巨大な新種は見た目通り、No.005どもの親玉という事か。

「新たに現れたジャガーノートを「No.008ナンバーエイト」とする! ハウンド2、ヘリには着いたか!」

『──たった今、到着しました。こちらは、ヤツを空から足止めします』

 マクスウェル中尉が提案してくる。言いたい事を察してくれるのは有り難い。

 乗ってきたUH-60ブラックホーク自体にミサイル等は搭載されていないが・・・代わりにFIM92スティンガーSMAWロケットランチャーが積んである。

 弾頭は対巨大ジャガノート用の特別仕様だ。

 過去のNo.004メイザ戦での火力不足を考慮して試作されたものだったが、積んでおいて正解だったな。

「頼んだ! ・・・ハウンド3! 市民の避難誘導に向かえるか!」

『アイ・マム! 至急山を下りて状況を確認します!』

 柵山少尉が応答する。

 巨大ジャガーノートを前にして、ここまで迅速に動ける部隊は、JAGDの中でも我々を措いて他にはいまい。

 ・・・まぁ、幸か不幸か、立て続けに三連続で相手にすれば、嫌でも感覚が麻痺なれるか。

 タイミング的にはどう考えても私が疫病神原因だろうなと確信しつつ、司令室に繋いだ。

「松戸少尉! 緊急事態だ! 至急、自衛隊及び在日米軍に航空戦力の支援を要請!」

『かしこまりまし──たッ! 今申請を上げました! 状況は逐次報告します!』

 私の一言を待ち構えていたであろう松戸少尉の返事が聴こえる。

 彼女の先回りの的確さには驚かされるな。さすが常設三人は必要なオペレーターを一手に引き受けるだけの事はある。

「任せるぞ! 私は足を生かして市民の避難状況を確認しつつ、No.008の元へ向かう!」

 一つ、息を吐いて──ヘルメットのシールドを下ろした。

「───総員、作戦開始ッ! 市民を避難させ、No.008を撃滅せよ‼」

「「「「アイッ! マムッ!」」」」

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