上 下
63 / 63
ギルドでの討伐

10 別の道 アオニアとナヴァ

しおりを挟む
回復師は手に負えない損傷を魔石で溜めていた力で覆う。
ラップのように創面を塞いで壊死や流血を抑える。
そして上級者へ受け渡す時間を作る。
魔石は決して修復や回復させるモノでは無い。
その魔石がレンの身体に溶けて吸収されたと言う。
そして損傷もダメージさえ無くなったという。

にわかに信じられない事を言われて、アオニアは目を見張った。
頭の中で学んできた事がシナプスとなって轟き激流となって渦巻く。
そんな事、聞いたことがない。
でも細胞レベルで修復が出来るなら、ナヴァの細胞を立て直せるのでは…

アオニアの青空の眼は虚無に似たような碧紺の思考へと沈んでいく。

召喚されても番の現れなかった異世界人。
人と違う魔力の波動。
そしてその波動は、自分にナヴァの成長を示唆してくれたあの男に似ていた。

ジャダに自分の印章を渡していたリンドルム様。
レンのギルドタグのチェーンにも付けていた。
あの男がここまでするのは理由があるはずだ。

……きっとレンに使われたのは"産まれなかった子供"の魔石だ。

かつて社交界に噂が走った。
リンドルム様の子供が胎内で魔石になったという。
魔力があり過ぎて身喰いしたのだと、負け犬の遠吠えのようにあちこちでこそこそと囁かれたものだ。

下級回復師の魔石では死にかけるほどの損傷をカバー出来るはずもない。
あの時、傷を覆う為に魔石が掻き集められた筈だ。
儀式の担当官のリンドルム様はその場にいた筈だ。
彼がその魔石を使ったのなら、あの波動は頷ける。

ああ、産まれなかった子供。
番が現れなかった異世界人。
吸収されて、命になった魔石。

……そうだ、番なら。

番は人種も性別も年齢にもとらわれない。
番は魂を分け合った者。自分の魂の半分だ。
魔力も同じ。魂も同じ。
その相手の魔石だとしたら身体の隅々に溶けて生命になってもおかしくない。

「ナヴァ!ナヴァ‼︎私はこれから魔力を溜めるよ!」

私は魔力を溜めて石にする術を知っている。
急成長で爆ぜる細胞に、私の魔石を流し込もう。
覆うんじゃない、吸収させて身体を作り変えるんだ。
小指の爪の先までも、二人の魔力で出来上がっていくんだ。

ナヴァの小さな身体を勢いよく抱き上げた。
ぐぅと息が漏れる。
細い肩に額を付けて、アオニアは震えた。

「私達は繋がれる。愛し合える。一つになれるんだ!」

闇のようなナヴァの目の中に小さな光が生まれた。
それがどんどん大きくなり、うるうると輝く。
愛してる。
君が私で、私は君だ。
もう離れない。
離れなくていい。



希望で輝く嵐のような二人をレンは静かに見ていた。
ほんの少し切なげに揺れて、口がきゅっと一文字になる。
アオニアはらしくないその顔を見た。
いつだって前を向いていた目が、合った途端に伏せられる。

そうか、2日。

動けない体のまま、叫んで噛みつこうと暴れていたレン。

ハントヴェルゲの領主は生粋の貴族だ。弱味を見つけ出すのが上手い。
弱味が無ければ理論をすり替えて弱味を作り出すのも上手い。
ジャダは領兵により、領地の神殿に解呪に向かった。
まだ若いレンの弱味にするには充分だろう。

 でも、そういうのは好きじゃない。

「ジャダは無事だ。」

レンがぴくりと視線を上げる。

「神殿も領主もリンドルム様に敵対する事は無い。
ジャダは大っぴらにリンドルム様の印章を見せていた。
今更消す事は出来ないさ。」

アオニアは胸元から革紐を引っ張り出すと、小袋から黒い物を取り出した。
繭のようなソレは、指で挟むとふこっと歪んで中の銀が光る。

「コレは君がギルドタグに付けていたリンドルム様の印章だ。」

君から離されたら察知されそうだったから、君の髪を丸めて中に入れてたんだ。
旅中に何処かで捨てるつもりだったんだけどね。


アオニアはレンの唇を指で割ると上顎の頬側にソレをぐにっと押し込んだ。

「コレに助けを呼べばリンドルム様に届く。」

アオニアは笑った。不敵で眩しく美しい笑顔だ。
しがらみの消えた夏空のような笑顔だ。

「私の知ってるジャダは諦めの悪い男だ。
しつこい程に食い付く猟犬のように君を探しているだろう。
君が呼べば地獄の底からでも走って来るさ。」

ナヴァの小さな手がレンの頬を撫でた。
産毛がそよぐだけの風のようだった。


アオニアはナヴァを抱き上げると「じゃ」と一言残し、
振り返る事無く去って行った。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉

あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた! 弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

過食症の僕なんかが異世界に行ったって……

おがこは
BL
過食症の受け「春」は自身の醜さに苦しんでいた。そこに強い光が差し込み異世界に…?! ではなく、神様の私欲の巻き添えをくらい、雑に異世界に飛ばされてしまった。まあそこでなんやかんやあって攻め「ギル」に出会う。ギルは街1番の鍛冶屋、真面目で筋肉ムキムキ。 凸凹な2人がお互いを意識し、尊敬し、愛し合う物語。

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

総長の彼氏が俺にだけ優しい

桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、 関東で最強の暴走族の総長。 みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。 そんな日常を描いた話である。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。

拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ 親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。 え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか ※独自の世界線

処理中です...