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押しかけ護衛はNoとは言えない

11 くんくんはいろんなものを救う

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視界がジャダに変わった。
何処かでぐしゃっと肉が潰れる音と、グェッと声がしたがどうでも良かった。

臭いに沁みて、腫れて涙で覆われた目でジャダを見上げる。
鼻にふうわりと掻き回されたハーブの香りが漂ってきた。

天国だっ‼︎

側から見てると壁ドン野郎の首根っこを掴んで、ぶんと捨てただけだったが
視界を埋めていた相手が変わったレンは、地獄から天国への変貌に飛び付いた。

ミントやローズマリーの混ざった微かな香りがふわんと舞い上がる。
へおぅとなったレンは命綱のように、それにしがみついた。


くうぅぅ~~ん。

レンの喉から子犬のような音が出た。
いや、それは横隔膜が肺を押し出して漏れた空気の音かもしれない。
本能が汚染された肺の空気を入れ替えようと全力で呼吸器を動かし始める。
清廉な空気を全身の細胞が求めて、レンはふんふんと匂いをかいだ。

おわっ!とジャダの胸筋が震えたが、離されない様に強くしがみつく。

くんくんくん。
焦る身体は深呼吸では無く、過呼吸のように速く忙しない息でジャダの胸に顔を埋めた。

あぁぁぁっ、生きかえるうぅ~

どさくさに紛れて抱き上げられて、レンの足先は床から浮いている。
レンは子供の様に縦抱きされたまま、ジャダの匂いを堪能していた。

頭のてっぺんから爪先まで、じんじんと細胞が沸き立っている。
そのありがたみと尊さで、うっとりとジャダの筋肉に顔を擦り付けた。

レンは柔軟剤の無いこの世界で、殺菌も含めて洗濯のすすぎに酢水を使っている。
酢は果物で作っているので、匂いが残らないようにと幾つかのハーブを浸して仕上げている。
おかげでジャダのシャツは"清々しい草原の香り"というフレーズの匂いなのだ。


「うん。弟って呼称はいろいろあるからな…」
リーサルウェポン野郎を殴り飛ばしてからスキンヘッド達は頷きあった。
「とにかく、あのちっこいのに手出し無用だぞ!」
その目は達観した生温い慈愛に満ちている。

そんなレンのくんくんは割と長く続いた。
鼻粘膜の回復を無事に果たしたレンは、理性が戻った途端に羞恥というダメージを受けたのだった。


帰り道、レンはあたふたと説明をしている。
うんわかってる。
本当は説明じゃ無くて言い訳だよね。

相手の異臭に身体が思いっきり拒否して麻痺して動けなかった事。
そのせいでジャダに飛びついたけど、洗濯のすすぎのハーブの匂いが心地よくて思い切りくんくんしてしまったのだ。
~~という事を必死に説明した。

拳を振り上げるオーバーリアクションと真っ赤に茹で上がった顔に、ジャダはにっこりと笑った。

「そういう時は風で口と鼻を覆ったり、結界を張るって教えたよね」

ほぉ~ら、実戦って難しいよね。
課題が見つかって良かったね。
そう言うジャダの目は笑っていなかった。

あ、やべぇ。
レンは固まった。
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