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第五章 真実への道
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「で、実験てなんだい?」
沖田が問う。
「百聞は一見にしかずってね。もうちょっと待ってて下さい」
一方の誠は、七美が買ってきた生理用品をはさみで刻む作業に忙しい。
「こんなもんかな。では……犯人のトリックが可能かどうか、実験の始まり始まり」
鑑識詰め所の、ステンレスのテーブルの上。誠がビーカーを置く。刻んだ生理用品のチップを一つだけ入れ、きゅうすで水を注いでいく。
「おお……これは……」
沖田が目を丸くする。
注がれた水が、みるみるチップに吸い込まれていく。やがてビーカーは空になる。
「じゃあ、次だ。あむ……」
誠はチップの一つを口に含み、茶碗に急須から水を注ぐ。それを空けていく。
「ごほんごほん」
「ちょっと……大丈夫?」
むせたらしい誠を、七美が気遣う。
「大丈夫だ。むせてなんかないから」
そう言った少年が、手の中のチップを見せる。いつの間にか口から出していた。水を飲んでいない。首尾よく、吸収素材に吸い取らせることができたようだ。
「なるほど、この方法なら……。睡眠薬入りの紅茶を飲むことを避けられるな……」
「睡眠薬は口の粘膜からも吸収されるが……。その前に生理用品を吐き出せばいい……。今の高森君みたいに……」
沖田と速水が、そろって感心した顔になる。これで、ラバンスキーに一服盛った謎が解けたことになる。
「すっかり騙されたラバンスキーさんは……勧められるままに睡眠薬の入ったアッサムを飲んでしまった……。最近の睡眠薬は味がしないものもあるし、多少変な香りがしてもアッサムならごまかせた……」
七美が、製薬会社のホームページを見ながら推理を巡らせる。
『良薬は口に苦し』は今は昔。最近の薬は、飲みやすさにも配慮されているらしい。
「よし、謎はほぼ解けた。後は、物証さえあれば……」
誠は顎に拳を当てる。
事件の全ては説明がついた。だが、依然として証明できるだけの物証は見つかっていない。
(うん……?)
椅子に改めて腰を下ろして、尻に違和感を感じる。
「なんだこりゃ……?」
尻のポケットを探る。
出てきたのはビニールテープだった。くしゃくしゃに丸まっている。どうやら、トリックに使われたものと同じようだが……。
「ああ……ああああああーーーーっ!」
県警本部中に響かんばかりの大声が上がる。少年は頭を抱えて絶叫し続けた。
「おいおい……どうしたんだ高森君……」
沖田はあっけに取られている。もちろん、七美も速水も同じだ。
「俺はなんてミスを……。これですよ……」
そう言って、ポケットから出てきたビニールテープを見せる。
「あれ……? これ……同じ物じゃないのか……?」
速水が、押収物の中からビニールテープを手に取る。くしゃくしゃに丸められていることといい、同じ物とみてよさそうだ。
「実は、ボヤ騒ぎがあった時、うっかりこいつをポケットに入れてたんです……。失敗した……しかも、ズボンごと洗濯しちまった……。犯人の指紋も硝煙反応もついてたも知れないのに……。なんてこった……」
誠が絶望的な表情になる。
さらに付け加えるなら、自分の指紋をつけてしまった。もはや、証拠として意味を成さないだろう。
「うん……高森君……ちょっと待ってくれ……」
沖田がなにかに気づく。
「ほんとすんません……。犯人を起訴できなかったら俺のせいです……」
まだ取り乱している誠は、今にも発狂しそうだ。
「そうじゃない、落ち着け。ちょっと貸してみてくれ」
使い捨てのゴム手袋をはめた沖田が、慎重にビニールテープを受け取る。
「これさ、内側まで触ったか?」
「内側……? いえ、触ったのは表面だけだと思いますけど……」
エリート警視の真剣な表情に、少年は多少落ち着きを取り戻す。
「速水警部、ピンセットあるかな?」
「待って下さい……。ありました」
速水が沖田にピンセットを手渡す。
慎重に、ビニールテープをほどいていく。まるで、誕生日プレゼントの包みを開けるように。
「高森君は一度も内側に手を触れていない。では問題だ。この指紋、誰のだと思う?」
ゴム手袋をした手で、ビニールテープを拡げてみせる。
内側ののりに、指紋がはっきりと残っていた。こればかりは、洗濯しても落ちなかったらしい。
「犯人のか……」
「これで物証があがった……」
誠と七美が顔を見合わせる。
だが、互いに厳しい表情のままだ。指紋を解析すれば、親しい人間が殺人犯であることが確定してしまう。事件が解決することとは、別問題だった。
沖田が問う。
「百聞は一見にしかずってね。もうちょっと待ってて下さい」
一方の誠は、七美が買ってきた生理用品をはさみで刻む作業に忙しい。
「こんなもんかな。では……犯人のトリックが可能かどうか、実験の始まり始まり」
鑑識詰め所の、ステンレスのテーブルの上。誠がビーカーを置く。刻んだ生理用品のチップを一つだけ入れ、きゅうすで水を注いでいく。
「おお……これは……」
沖田が目を丸くする。
注がれた水が、みるみるチップに吸い込まれていく。やがてビーカーは空になる。
「じゃあ、次だ。あむ……」
誠はチップの一つを口に含み、茶碗に急須から水を注ぐ。それを空けていく。
「ごほんごほん」
「ちょっと……大丈夫?」
むせたらしい誠を、七美が気遣う。
「大丈夫だ。むせてなんかないから」
そう言った少年が、手の中のチップを見せる。いつの間にか口から出していた。水を飲んでいない。首尾よく、吸収素材に吸い取らせることができたようだ。
「なるほど、この方法なら……。睡眠薬入りの紅茶を飲むことを避けられるな……」
「睡眠薬は口の粘膜からも吸収されるが……。その前に生理用品を吐き出せばいい……。今の高森君みたいに……」
沖田と速水が、そろって感心した顔になる。これで、ラバンスキーに一服盛った謎が解けたことになる。
「すっかり騙されたラバンスキーさんは……勧められるままに睡眠薬の入ったアッサムを飲んでしまった……。最近の睡眠薬は味がしないものもあるし、多少変な香りがしてもアッサムならごまかせた……」
七美が、製薬会社のホームページを見ながら推理を巡らせる。
『良薬は口に苦し』は今は昔。最近の薬は、飲みやすさにも配慮されているらしい。
「よし、謎はほぼ解けた。後は、物証さえあれば……」
誠は顎に拳を当てる。
事件の全ては説明がついた。だが、依然として証明できるだけの物証は見つかっていない。
(うん……?)
椅子に改めて腰を下ろして、尻に違和感を感じる。
「なんだこりゃ……?」
尻のポケットを探る。
出てきたのはビニールテープだった。くしゃくしゃに丸まっている。どうやら、トリックに使われたものと同じようだが……。
「ああ……ああああああーーーーっ!」
県警本部中に響かんばかりの大声が上がる。少年は頭を抱えて絶叫し続けた。
「おいおい……どうしたんだ高森君……」
沖田はあっけに取られている。もちろん、七美も速水も同じだ。
「俺はなんてミスを……。これですよ……」
そう言って、ポケットから出てきたビニールテープを見せる。
「あれ……? これ……同じ物じゃないのか……?」
速水が、押収物の中からビニールテープを手に取る。くしゃくしゃに丸められていることといい、同じ物とみてよさそうだ。
「実は、ボヤ騒ぎがあった時、うっかりこいつをポケットに入れてたんです……。失敗した……しかも、ズボンごと洗濯しちまった……。犯人の指紋も硝煙反応もついてたも知れないのに……。なんてこった……」
誠が絶望的な表情になる。
さらに付け加えるなら、自分の指紋をつけてしまった。もはや、証拠として意味を成さないだろう。
「うん……高森君……ちょっと待ってくれ……」
沖田がなにかに気づく。
「ほんとすんません……。犯人を起訴できなかったら俺のせいです……」
まだ取り乱している誠は、今にも発狂しそうだ。
「そうじゃない、落ち着け。ちょっと貸してみてくれ」
使い捨てのゴム手袋をはめた沖田が、慎重にビニールテープを受け取る。
「これさ、内側まで触ったか?」
「内側……? いえ、触ったのは表面だけだと思いますけど……」
エリート警視の真剣な表情に、少年は多少落ち着きを取り戻す。
「速水警部、ピンセットあるかな?」
「待って下さい……。ありました」
速水が沖田にピンセットを手渡す。
慎重に、ビニールテープをほどいていく。まるで、誕生日プレゼントの包みを開けるように。
「高森君は一度も内側に手を触れていない。では問題だ。この指紋、誰のだと思う?」
ゴム手袋をした手で、ビニールテープを拡げてみせる。
内側ののりに、指紋がはっきりと残っていた。こればかりは、洗濯しても落ちなかったらしい。
「犯人のか……」
「これで物証があがった……」
誠と七美が顔を見合わせる。
だが、互いに厳しい表情のままだ。指紋を解析すれば、親しい人間が殺人犯であることが確定してしまう。事件が解決することとは、別問題だった。
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