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第一部ヴァルキュリャ編  第二章 コングスベル

童貞が美少女の耳に囁いてみた件。

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 一人軟禁されたなら、やるこたぁ一つしかないわな。
 
 
「エルドフィン ボナ ランドヴィーク」
 
 
 シュウウウウウッ
 
 ベッドの上に浮かぶソグンは少し不本意そうな表情かおをしていた。
 
 
「エルドフィン……、ここ・・は……」
 
「コングスベルにあるヨルダール家の屋敷内。いきなり閉じ込められちゃってさ。あ、ていっても表向きは友好的に逗留とうりゅうを許された流れなんで、大人しくして様子見なくちゃなんだけど」
 
 
 固く閉ざされた扉に寄り掛かるようにして、ソグンに現状を説明する。
 ソグンの表情は変わらない。
 
 
「あなたは……シグル姉様の言葉を少しも気に留めないのですか」
 
「?」
 
「協力するとは言いましたが……少しは私の立場も気遣っていただきたいものです。ゲイロルル姉様はこの辺りにはいらっしゃらないようなので、まぁ、支障はありませんが」
 
 
 呆れたように言いながら、ソグンは空中から降りてくる。
 シグルの言葉? なんのことだ?
 
 1.この娘・・・そういう風・・・・・に使うのは止めなさい。
 2.現れてはやったが私は時間が惜しい。
 3.立場上おおっぴらには協力出来ないが、知りたいことがあるなら聞くがいい。
 4.陥れるようなことはするなよ。私はたまたま・・・・出会ったお前と、気まぐれに・・・・・言葉を交わしただけだ。
 
 げっ、目の前にクイズ番組みたいな四択パネルが出てきた。
 傍点まで再現して仕事が細けぇ。
 俺の右手学習能力高杉君だな。
 立場っつーと3が正解くさいが、どれも正解のような気もする。
 
 
「あぁ~、あの時みたいに怒鳴り込んで来られるかも知れなかったんだ。悪ぃ、次から気をつけるよ」
 
 
 実はヨルダール家のヴァルキュリャさんと会えないか聞くつもりだったんだが、当然のごとく言えなくなった。
 おふぅっ。なんて気の遣えねぇ俺。
 そりゃ美少女じゃなくても、俺のこと好いてくれる奴が皆無だった訳だわ。
 なんと説明するのが正解かわからん負の感情を笑って誤魔化していると、俺の背中を何かが吹っ飛ばした。
 
 バンッッ!!
 っどぅぇえぇっっ! 何ぃぃっ?!
 
 前につんのめりそうになるのをこらえて振り向く。
 俺の目の前には、開いた扉の前に立ちふさがる兵士がいた。
 
 
「え……?」
 
「貴様、今誰と話していた?!」 
 
「え??」
 
「部屋に何者かいるのか? くまなく調べろっ!!」
 
 
 兵士が二人、部屋になだれ込んで来た。
 俺の存在ことなど無視して、部屋の中を調べ始める。
 といっても、狭い一人部屋なのよ。
 調度品もほとんどないのよ。ベッドくらいな訳よ。
 凹凸のない、のっぺりした壁で囲まれた直方体。窓もない。
 一人は四方の壁を叩いたり触ったり見て回り、もう一人はベッドの下を覗いた流れから床を調べていた。
 いや、下じゃなくて上に居るんだけどね。
 兵士達の目の前に座るソグンを素通りして、真剣に検索する様子がシュールだ。
 こうなってみると、よりはっきり分かる。
 この部屋は「監獄」だ。
 居住者が隠し事も悪巧みも出来ないように、作られている。
 
 
「異常ありません」
 
 
 二人は俺の前に仁王立ちの兵士に報告すると、足早に部屋から立ち去った。
 部屋に残された俺と兵士A。
 
 
「誰と……、何を話していた?」
 
 
 兵士Aはじっと俺を見てくる。 
 そりゃぁ、ソグンとですけど、見えてないんじゃあ……。
 
 
「あ、あれ? 俺、何か喋ってました? 独り言の癖があるから、無意識に何か言ってたのかなぁ~」
 
  
 このセンで誤魔化してみる。
 兵士A、俺を見たまま黙っている。
 ………………………………… 
 …………おっ、3分経たずに諦めたか。
 疑わしい振舞いは慎んでください、そう苦々しく言い残して兵士Aは部屋から出ていった。
 もちろん扉はまた固く閉じられる。
 
 唖然としていると、ソグンが先に口を開いた。
 
 
「エルドフィン、部屋をゆっくり見回す振りをして、絶対に一箇所で止めたりせずに見てください。ベッドと反対側の壁、他の壁とは違い彫刻で飾られている部分ところが、覗き窓になっています」
 
 
 ソグンの言う通り、ゆっくりと視線を巡らせると、ベッドの反対側、壁の真ん中に、草花をデザインしたような幾何学の模様の彫刻がほどこされていた。
 げっっ。あそこから見られてるんかよ。
 丸見えじゃねぇか。
 俺のプライバシーはどこへっっ。
 
 
「部屋を調べたうちの一人が扉の外に、他の二人が隣の部屋からこの部屋の様子を覗き見ています。ここ・・で話すのは難しそうですが?」
 
 
 いや。
 要は、俺が喋ってるところを見られなければいいんだろ?
 俺は監視窓のある壁に背を向けた。
 ほら、これで見られねぇ!
 
 
「これで、あいつらに聞こえないように喋れば良いんだろ?」
 
 
 俺は可能な限り小さな声で囁いた。
 聞こえなかったようで、ソグンは首をかしげる。
 もう一度囁く!
 ソグンは眉を寄せて再度首をかしげた。
  
 くっそーぉっ!
 もっと近づかなきゃダメか! 
 俺はベッドに乗って、壁寄りに女の子座りをしているソグンに近付く。
 なんだよ、逃げんなよっ。
 少し後ずさったソグンに目で訴えながら膝を進めると、壁を背に座るソグンのほぼ隣までたどり着いた。
 耳元で喋れば流石に聞こえるだろ!
 と思ったのだが、意外に足が邪魔で耳の位置が遠い。
 ギリギリまでにじり寄って見るが、腰はキツいし、足に触っちまいそうだ。
 
 
「足、ずらして」
 
 
 ソグンの耳に全集中して囁く。 
 渾身の囁きが届いたのか、俺の意図がわかったのか、ソグンは寝かせていた足を立てた。
 よっしゃあっ! これで耳に――っ!
 口を寄せようと距離をつめた時だ。
 時間が止まった。
 世界が白んだ。
 ソグンの頬を染めた顔が間近で俺を見てる。
 
 何コレ。
 どーゆー表情かおなの、コレ。
 照れてるのか、笑ってるのか、泣きそうなのか。
 俺、女の子にこんな表情かおで見られたことねぇ。
 ヤバイ、可愛い、ヤバイっ、可愛いっ、ヤバイっっ。
 
 まつ毛細くて細けぇ~っ。(カワイイ)
 唇なんでそんな風に膨らんでんの。(カワイイ)
 首筋エロいの犯罪でしょ。(カワイイ)
 え、俺今何しようとしてるんだっけ?
 耳かわいい、質感マシュマロみたい。(カワイイカワイイ)
 あ、ヤバイ。ドキドキしてきた。(カワイイカワイイ)
 なんかがどっかからあふれてくる。(カワイイカワイイカワイイ)
 
 指が、右手が、意思とは関係なく動き出そうとする。
 ソグンの太腿が近い、触れそうなくらい近い。
 これ、触れたらまた、あの、ヤバい感覚がするんだろ?
 妄想が暴走する。
 今絶対俺、エロ過ぎるヤバい顔さらしてる。
 はずなのに、ソグン。お前、……いいのかよ。
 いいなら、触るぞ、触っちまえ、指を太腿の中へ・・っ。 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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