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序章
《Asseus》罪と責務①
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「実はエイケン家のワルキューレはオージンを裏切って子を作ったのです」
カルホフディは耳を疑うようなことを淡々と言った。
ムキムキマン其の弐と入れ替えに、スニィオに振り出しの部屋へと連れて来られた俺は、
今度はアセウス、カルホフディと椅子に座っていた。
さっきは横並びだったが、今度は小さな三角形に向かい合わせだ。
「それを嘆き、オージンはすべてのワルキューレに二択をさせました。神としてヴァルハラで生きるか、人として消滅するか。そして、ワルキューレは人間界から去ったのです。今人間が魔物に怯えるこの世界を招いたのはエイケン家のワルキューレなのですよ」
「え?! それって、最後のワルキューレの?」
俺はついカルホフディに尋ねた。
エイケン家のヴァルキュリャって、ゴンドゥルだよな?
「いえ。エイケン家のワルキューレは二人います。最初と最後の二人です。
許されざる裏切りを犯したのは最初の方です。最後の方は、他と一緒にヴァルハラに還りました」
カルホフディの賢そうな瞳がエルドフィンに向けられた。
疑問が解消されたらしいことを確認し、言葉を続ける。
「オージンはそのワルキューレに神の血を返すよう命じたのですが、魂も肉体も消滅するその末路が受け入れ難かったのか、裏切者は行方をくらましたと言われています。現在唯一の半神半人のワルキューレです。
残された子は、人間で唯一神の力を持つ存在になってしまいました。ワルキューレ無き今、魔物が命を狙うだろうことは必至でした。慈悲深きオージンは赤子を守るために魔剣を授け、彼の持つ神の力を封印した、と伝えられています。それがエイケン家に伝わるアセウス、貴方ですよ」
衝撃の事実の連発だ。
俺はアセウスを眺めるしかできなかった。
神の子……
そう言われて、お前はどう感じるんだろう。
松明の灯りでは薄暗くて、表情が良く見えなかった。
身体の動きはほとんど見られない。
落ち着いてんのかな。
俺は手汗がすごいっつーのに。
俺はさりげなく手汗を拭った。
「封印についてはなんて? 解く方法があるのか、ないのか? 伝えられていることはある?」
「伝わってはいません。ですがアセウス、封印とは、必ず解く方法があるものです」
カルホフディは言いよどむことなく確言した。
二人とも、言葉以上のことを会話してんだろ?
行間の会話っつーのだっけか、俺はそんな風に感じていた。
こいつらも幼馴染みなんだっけ。
「裏切者の存在はワルキューレ伝承から消されました。オージンのワルキューレは十一人とされ、ワルキューレの一族は十一家とされました。しかし、分かるでしょう? 十のワルキューレ一族に残されたのは誉れの名だけです。すべての元凶であるエイケン家だけが、特別な一族のまま残った。この史実を伝承する家、伝承を止めた家、他のワルキューレ一族と関わりを続ける家、断った家、様々ありますが、他の九家はすべてエイケン家との関わりを断ちました。エイケン家と付き合いを続けているのはソルベルグ家だけです」
普通だったら、袋叩きだよな。
神への忠誠を示すっっとか言って、裏切者の一族惨殺血祭りにあげてってなりそう。
「ソルベルグ家はどうして?」
アセウスがか細い声で尋ねた。
あぁ、やっぱり、かなりまいってるじゃん、アセウス。
「エイケン家とソルベルグ家のワルキューレは比較的初期からのワルキューレということで、親交が厚かったと聞いています。それに、他のワルキューレ一族から神の血が失われたこと、エイケン家にだけ神の血が代々受け継がれること、どちらも万物の父オージンが決めたことです。ソルベルグ家にとっての真の忠誠とは、神の決めたことを受け入れ従うことです。神の意に反して、私的な感情を向けるなどということはありえません」
「……そうか……。ありがたいね、今の俺にはこんなにも心強い」
「……エイケン家はこの裏切りの伝承は止めたのでしょう? 枷だけを伝承していると聞いています」
「そんなことまで……。ホフディ、お前はいつ受け継いだんだ?」
「理解できていたかは曖昧ですが、5歳の時からです」
「そうか……」
「あのさぁ、枷って何? か聞いてもいい?」
俺は重苦しくなり始めた空気をぶったぎるように割って入る。
空気なんて読まねぇぜっ!!
前世ではさんざん読めねぇ奴扱いだったしな!
(俺としてはめっちゃ読んでんのにさぁ……泣)
「それは俺から話すよ、エルドフィン。エイケン家ではその赤ちゃん……えーっと、神の血? のことを別の形で伝承してるんだ」
「おぅっ! たのまぁっ!」
アセウスはエイケン家に伝わる『罪の責務』の話をした。
エイケン家一族に必ず存在する神への贄、《Asseus》。
「債務」、「義務」? ふざけんじゃねぇよ。
そんなDQNネーム、何百年も継承してんじゃねぇよ。
平然とした顔で説明するアセウスに、俺の方が胸が痛くなってきた。
エイケン家の伝承はカルホフディが語った伝承を都合良く抜き出したものだった。
都合良く、祝福だとか、特別だとか、飾り立てて、
都合の悪い、罪やワルキューレ史実の部分は割愛されて。
こんなもんなんだろうな、なんて頭が冷める。
前世で必死に覚えさせられた歴史だって、都合の良い作りものが混じってるんだろう。
胡散臭いことに、エイケン家の伝承は一族の掟とやらが半分近くを占めていた。
当主継承のルールだとか、待遇・行動制限のルールとか。
なんだよおめぇら、皇室かよ。
すげー政治的な印象を受けた。
カルホフディからソルベルグ家の伝承を聞いた後だけに余計だ。
アセウスは、個人的な感情は一切挟まずに、
伝えられたことをそのまま話してるって感じだった。
だって、一族の掟やらと、今までのアセウスがまるで合致しない。
話を聞きながら、エルドフィンの記憶が次々再生される。
前世の記憶がメインメモリに入り込んだせいで、存在すら忘れ去られてた記憶。
「……て感じ。肝心なことは何にも伝わってなくてさ。ホフディの伝承聞いちゃうと、クソ過ぎて情けない」
淡々と話し終えたアセウスはバツが悪そうに笑った。
カルホフディは耳を疑うようなことを淡々と言った。
ムキムキマン其の弐と入れ替えに、スニィオに振り出しの部屋へと連れて来られた俺は、
今度はアセウス、カルホフディと椅子に座っていた。
さっきは横並びだったが、今度は小さな三角形に向かい合わせだ。
「それを嘆き、オージンはすべてのワルキューレに二択をさせました。神としてヴァルハラで生きるか、人として消滅するか。そして、ワルキューレは人間界から去ったのです。今人間が魔物に怯えるこの世界を招いたのはエイケン家のワルキューレなのですよ」
「え?! それって、最後のワルキューレの?」
俺はついカルホフディに尋ねた。
エイケン家のヴァルキュリャって、ゴンドゥルだよな?
「いえ。エイケン家のワルキューレは二人います。最初と最後の二人です。
許されざる裏切りを犯したのは最初の方です。最後の方は、他と一緒にヴァルハラに還りました」
カルホフディの賢そうな瞳がエルドフィンに向けられた。
疑問が解消されたらしいことを確認し、言葉を続ける。
「オージンはそのワルキューレに神の血を返すよう命じたのですが、魂も肉体も消滅するその末路が受け入れ難かったのか、裏切者は行方をくらましたと言われています。現在唯一の半神半人のワルキューレです。
残された子は、人間で唯一神の力を持つ存在になってしまいました。ワルキューレ無き今、魔物が命を狙うだろうことは必至でした。慈悲深きオージンは赤子を守るために魔剣を授け、彼の持つ神の力を封印した、と伝えられています。それがエイケン家に伝わるアセウス、貴方ですよ」
衝撃の事実の連発だ。
俺はアセウスを眺めるしかできなかった。
神の子……
そう言われて、お前はどう感じるんだろう。
松明の灯りでは薄暗くて、表情が良く見えなかった。
身体の動きはほとんど見られない。
落ち着いてんのかな。
俺は手汗がすごいっつーのに。
俺はさりげなく手汗を拭った。
「封印についてはなんて? 解く方法があるのか、ないのか? 伝えられていることはある?」
「伝わってはいません。ですがアセウス、封印とは、必ず解く方法があるものです」
カルホフディは言いよどむことなく確言した。
二人とも、言葉以上のことを会話してんだろ?
行間の会話っつーのだっけか、俺はそんな風に感じていた。
こいつらも幼馴染みなんだっけ。
「裏切者の存在はワルキューレ伝承から消されました。オージンのワルキューレは十一人とされ、ワルキューレの一族は十一家とされました。しかし、分かるでしょう? 十のワルキューレ一族に残されたのは誉れの名だけです。すべての元凶であるエイケン家だけが、特別な一族のまま残った。この史実を伝承する家、伝承を止めた家、他のワルキューレ一族と関わりを続ける家、断った家、様々ありますが、他の九家はすべてエイケン家との関わりを断ちました。エイケン家と付き合いを続けているのはソルベルグ家だけです」
普通だったら、袋叩きだよな。
神への忠誠を示すっっとか言って、裏切者の一族惨殺血祭りにあげてってなりそう。
「ソルベルグ家はどうして?」
アセウスがか細い声で尋ねた。
あぁ、やっぱり、かなりまいってるじゃん、アセウス。
「エイケン家とソルベルグ家のワルキューレは比較的初期からのワルキューレということで、親交が厚かったと聞いています。それに、他のワルキューレ一族から神の血が失われたこと、エイケン家にだけ神の血が代々受け継がれること、どちらも万物の父オージンが決めたことです。ソルベルグ家にとっての真の忠誠とは、神の決めたことを受け入れ従うことです。神の意に反して、私的な感情を向けるなどということはありえません」
「……そうか……。ありがたいね、今の俺にはこんなにも心強い」
「……エイケン家はこの裏切りの伝承は止めたのでしょう? 枷だけを伝承していると聞いています」
「そんなことまで……。ホフディ、お前はいつ受け継いだんだ?」
「理解できていたかは曖昧ですが、5歳の時からです」
「そうか……」
「あのさぁ、枷って何? か聞いてもいい?」
俺は重苦しくなり始めた空気をぶったぎるように割って入る。
空気なんて読まねぇぜっ!!
前世ではさんざん読めねぇ奴扱いだったしな!
(俺としてはめっちゃ読んでんのにさぁ……泣)
「それは俺から話すよ、エルドフィン。エイケン家ではその赤ちゃん……えーっと、神の血? のことを別の形で伝承してるんだ」
「おぅっ! たのまぁっ!」
アセウスはエイケン家に伝わる『罪の責務』の話をした。
エイケン家一族に必ず存在する神への贄、《Asseus》。
「債務」、「義務」? ふざけんじゃねぇよ。
そんなDQNネーム、何百年も継承してんじゃねぇよ。
平然とした顔で説明するアセウスに、俺の方が胸が痛くなってきた。
エイケン家の伝承はカルホフディが語った伝承を都合良く抜き出したものだった。
都合良く、祝福だとか、特別だとか、飾り立てて、
都合の悪い、罪やワルキューレ史実の部分は割愛されて。
こんなもんなんだろうな、なんて頭が冷める。
前世で必死に覚えさせられた歴史だって、都合の良い作りものが混じってるんだろう。
胡散臭いことに、エイケン家の伝承は一族の掟とやらが半分近くを占めていた。
当主継承のルールだとか、待遇・行動制限のルールとか。
なんだよおめぇら、皇室かよ。
すげー政治的な印象を受けた。
カルホフディからソルベルグ家の伝承を聞いた後だけに余計だ。
アセウスは、個人的な感情は一切挟まずに、
伝えられたことをそのまま話してるって感じだった。
だって、一族の掟やらと、今までのアセウスがまるで合致しない。
話を聞きながら、エルドフィンの記憶が次々再生される。
前世の記憶がメインメモリに入り込んだせいで、存在すら忘れ去られてた記憶。
「……て感じ。肝心なことは何にも伝わってなくてさ。ホフディの伝承聞いちゃうと、クソ過ぎて情けない」
淡々と話し終えたアセウスはバツが悪そうに笑った。
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