【本編完結】異世界で開花した力で、自分を裏切った男に生涯復讐していく話

雷尾

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裏切りの言葉に強制的に故郷を離れ

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「……俺、芽以と番ったんだ」

「えっ?」

 敦の言葉を合図に、恥ずかしげな様子でくるりと後ろを向いた芽以の項には、くっきりとαの歯形が付いていた。

「……ごめん、ごめんね奏。僕が君の最愛を奪うことになっちゃって……ほんとうにごめん!」

「芽以は悪くない、悪いのは全部俺だ、ごめん奏。俺達、運命の番だったんだ」

 フェロモンに狂い、安っぽい二人の世界に酔いしれる敦と芽以に待ったをかけたのは奏だ。彼の身体つきはΩとは思えないほどに引き締まっておりかなりの筋肉質である。
ほどよい筋肉と平凡でどこか印象が薄い没個性的な容姿ながらも、それでも比較的整っている顔つきのため、よくβや、時にはαにすら間違えられた。

「敦、お前は俺ともすでに番ってるけど、これはどうするんだ?」

「……ごめん」

「まさか、俺には番解除しろとか言わないよな?俺に苦しみ抜いて死ねと?」

「そんなことは!もちろん奏には生涯かけて償うつもりだし、ヒートの時は……」

「そんな、敦は僕だけを選んでくれるんじゃないの!?」

「……は?」

 なんと幼馴染であり仲の良い友人だったはずの芽以は、こともあろうに奏に「番解除をしろ」と持ち掛けるつもりであったらしい。もともとβでありまともに勉学に勤しんでこなかった芽以は、番を解除されたΩの末路など知らないらしく、離婚届の延長線上のものだと安直に考えていたようだ。

「番を解除されたらなぁ、解除したほうにもされたほうにも両方ダメージがいくんだよ。お前保健体育の勉強してたか?」

「……そんなの、知らなくて」

「あまり芽以にキツイ事をいわないでくれ、知らなかったんだ」

「不貞野郎は黙ってろ。私は学校に通っていたにもかかわらず、義務教育もまともに受けていませんって意味になるけど知らないで済むと思うか?」

「奏、酷い……!」

「酷いのはどっちだよ芽以。他人事じゃないから言っておくけど、番を解除されたΩがどうなるか知ってるか?まず番を解除された衝撃で全身が動けなくなるぐらいの痛みが起こるんだとさ。重苦しいヒートが一生付きまとうし、身体が衰弱していくから短命だと言われているんだ」

「そんな、僕は……」

「……奏、俺はお前の番を解除する、つもりはないから……一生かけて責任を」

 ソファを蹴り飛ばし鋭い眼差しで睨み付けるその姿は、Ωだというのにまるでαの威圧フェロモンでも放っているかのように、敦と芽以は身を竦ませている。

「敦にめでたいお知らせをするつもりだったけど、二人のせいで全く逆の知らせになっちまった」

「っまさ、か?」

「俺、敦との間に子供ができたんだ」

 気丈に振る舞っていた奏は耐えきれない様子で涙をにじませると、そのまま持ち前のフィジカルで敦の頬を思い切りぶん殴った。
それからついでに芽以の頬にも張り手を食らわせる。怒りが収まらず奏は来客用として二人に出した冷茶の中身も彼等にぶちまけて、敦と芽以の頭をぐちゃぐちゃに濡らしてやった。これが熱いコーヒーや緑茶であったら火傷の一つでもしていたかもしれない。

「芽以、後天性Ωの妊娠率かどれぐらいか知ってる?」

「え……?」

「芽以はさっきから『え?』ばかりだな。昔はお前のそんなお馬鹿なところが可愛かったけど、今はもう苛立ちしかないわ。20代でも5パーセント前後と言われている。もちろん加齢とともに妊娠率はどんどん下がっていく、30代半ばになればほぼ絶望的だろうな」

「そんな……僕」

「そんな、子供がいるって」

 二人の冒頭の台詞は同じだったが、自身が子を成す可能性が低いことに悲しんでいる芽以とは別に、敦は奏の腹に視線が釘付けだった。

「先に言ってくれたらこんなことにはってか。だから今日言おうとしたんじゃねえか。お前と番って中出しセックスして三週間、妊娠検査薬を使ってみたら見事に陽性だったんだ。その後に病院で検査して確定したのが今日、まさに今日だったんだよ!」

「俺の、子供……!」

 東堂敦は財閥当主の長男であり、霧ヶ峰奏は敦の妻となるはずだった。これからどうなるかは現状不明だが、現時点での敦は正妻と妾ができかけている状況である。

「敦。俺とのことはなかったことにしたいんだろ?どうする?番解除するか?お腹の子は中絶するか?番解除された瞬間に流れちまうかもしれないけど!」

「するわけないだろ!俺と、君の子を……!」

「触るな、触るな!」

 目からぽたぽたと冷たい雫をこぼす奏の姿に、長い間恋人として、そして番としての情は残っていたのだろう。頭部をずぶ濡れにさせたまま敦は奏を胸の中に引き入れて抱きしめた。最低そのもので真実の愛という性欲と、身の保身と世継ぎしか考えていないような男だというのに、ふわりと漂う敦のフェロモンは奏の心のさざ波を凪いでくれる。

「何してるの敦、なんで奏を抱きしめるの!」

「ごめん、芽以。君のことは運命として惹かれているけど、奏と子供も大切にしたい」

「そんな、そんなの許されるわけないでしょ!」

「芽以、俺の立場もわかってくれ」

「……そりゃ、そうだよな」

 最後の肯定の言葉は敦ではなく、奏から放たれた。敦からすっと身を離すと奏は能面のような威圧すら感じ取れるような無の表情のまま、スマホを取り出した。
 音声付きの動画はすぐさま東堂ファミリーのグループラインに送信され、彼は「なすべきことはひとまず済んだ」とにやりと顔を歪める。

「奏、お前!」

「さてどうする?番解除か?俺だって子供は産みたい。子供には罪はない。だけど」

 目に見えて狼狽する敦と、状況を理解していない間の抜けた表情を見せる芽以を尻目に、奏は言い放つ。

「どんなことになろうとも、お前ら二人とも幸せになんかさせない。例え俺が地獄に落ちてもお前たちも同じように地獄に引きずり落とす」

 地を這うようなどす黒い呪詛は、芽以と、とくに敦を絶望の底に叩き落とすようだった。
 その言葉に、初めて「取り返しのつかないことをした」と絶望し、顔面蒼白させた敦とは対照的に、芽以は小馬鹿にした表情を奏に向けている。

「地獄にって……大げさだよ、いくら幼馴染に婚約者を取られたからって」

「っ……もう黙れ芽以!」

「どうして怒鳴るの?」

「流石に人として言っちゃいけないことぐらいわかるだろ!?」

 奏の少し珍しいヘーゼルアイの目から柔らかな光が消えた瞬間、突然地面に眩いばかりの薄紫色の円が現れ、それは複雑な図式を形成し奏の身体を中に引きずり込んだ。
あまりにも突然のことに敦も芽以もとっさの判断ができず、後に残ったのは地面に転がった湯のみと、濡れた絨毯と、そして鳴りやまない東堂家の怒りのラインの通知のみであった。
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