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とばっちり復讐ゲームには異世界人が紛れ込んでいた

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 たとえ悪魔にこの身も魂も、全てを捧げても。そんな言葉を冗談ではなく本気で願う青年と、そしてそれを叶えた悪魔がいた。彼女は医師であり、柳城悟を長年見てきた主治医だった。思春期の理不尽と悪意と憎悪と揶揄いと、そして愛と呼ぶには身勝手すぎる執着の結果、何度も悟は壊れた。その度に何度でも修復してきたのは彼女だった。

 そう、治療などではなく修理だった。彼女は体と心が壊れるまで使いまわされる哀れな贄を、根本的な解決には至らないと知りながら、それでも断腸の思いで治療し続けた。
悟は疎か彼女にとってもそれは、地面に穴を掘っては埋めて、埋めた穴を掘り返してはまた埋めるような徒労でしかない囚人の罰と同等には、心を摩耗する行為だった。

 彼女は子を宿すことができなかった。幼き頃にそう告げられて以来、生涯一人で過ごすと決めた彼女は、産み出すことができない分、多くの人を救おうと決めた。数多の命を救うことが、きっと彼女がこの世に生まれた理由なのだろうと思いながら。

 志半ばにして、柳城悟はこの世を去ることになった。それはもう実にあっけなく。
全身の神経を分断されたかのように身体の自由が動かなくなり、徐々に衰え腐り落ちてゆく難病だった。この世には救いなどないのだと涙を流す悟に、たとえ偽りでもよいから救いを与えてやりたいと、彼女は思った。

「延命は望みません」
 
 もしも脳だけが中途半端な状態で生き伸びてしまい、植物人間状態になったのなら。その時は殺してくれと悟は彼女に告げる。

「だけど、悔しいです、とても悔しい……」

 真っ当な人生を送ることが、悟なりの彼らに対する復讐だった。お前たちのことなど何も気にしていない、自分の足だけでちゃんと立てている、もうあんなくだらないことするなと笑い飛ばしてやるために、血のにじむような思いで彼は生きてきた。

「彼らに復讐したい?」

 彼女の優しい声に、悟は「はい」と諦めの表情でそう答えた。
 それから数日後、心肺停止でこの世を去った悟は天涯孤独のため、彼女が喪主となり葬式は滞りなく行われた……ように見えた。実際には悪魔の契約の証として、彼女は悟からあるものを取り出して、そして培養液にそれはしまわれた。

 『それ』の生への執着は異常だった。科学の常識など超えて生き続けるそれとは、悟の脳だった。眼球を取り除かれた脳みそは何も見ることはできないし何も聞くこともできないだろう。何かを感じることはできるのかもしれないが、それを外部に伝えるすべはない。
 
けれども『それ』がこの世に存在するようになってから、怪異としか表現することができない事象が発生し、いつしか日常となった。
ひとりでに物が移動する、ポルターガイストのような現象が発生する、次第に力は強まり、意思があるとしか思えないその事象は、柳城悟の脳に触れようとした人間の手首をいとも容易く捻じ曲げた。ぐきりと骨伝いに響かせた鈍い音は『それ』が初めて見せた明確な暴力性だった。

目などないくせに『それ』には、遠くのものを見通せる能力があった。何かのスイッチを作動させたり、ペンやチョークを浮遊させ、紙や黒板に何かを書き綴ることなど造作もなかった。けれどもその文章は乱れ、時には狂人の書いた文のように支離滅裂で、読む者の心すら不安定にさせた。

 復讐に燃えた希少な美青年の脳みそを、アンダーグラウンドの下衆な住人達は喉から手が出るほどに欲しがった。「それ」をコレクションにするには生命維持が必要なので、その方面の知識に長けた者が絶えず監視する必要があるが、その手間や費用を度外視しても欲しがるコレクターは星の数ほど存在した。

 彼女は悪趣味なコレクターたちをスポンサーに付けて、裏社会を暗躍することにした。表向きは心優しい医者として、裏では資金集めのため時に脳の力を使い、時に手を汚しながら復讐の時を待ち続けていた。

 時が経ち中老に差し掛かった彼女は、人間という者に幾度となく絶望をしながらも、それでもまだ人の良心に縋りつきたかったのかもしれない。
 彼女は生物実験室の通り道にわざと、自身の手記を落とした。あの子であれば、瞬時にこれを読み取れるだろうからと。

「……」

 生物実験室へ向かう途中、李流伽はこげ茶色の皮の手帳を拾った。外側も中も年季の入った手帳の頁をぱらぱらとめくってみれば、そこにはある人物の無念の最後と、その人物の意志を受け継いだ者の半生が記載されていた。
 生物実験室には、きっと柳城悟がいる。手記通りであれば、恐らく悟が李流伽を待ち構えているのだろう。

 扉を横にスライドさせて、生物実験室の中へ恐る恐る足を踏み入れると、複数ある実験台の一つ、ちょうど黒板を背にして一番前の席にそれはあった。
 こんな時でもなければグロテスクでとても目を向けたいものではないだろう。想像よりも薄っすらした桃色で、脳みそがぷかりぷかりと筒状のガラスケースに浮かんでいた。
柳城悟は、こんな姿になっても今も生きていた。

「……初めまして」

 李流伽はまっすぐに悟に向き合い、彼との対話を試みようとした。脳みそは透明な液を揺蕩うように浮いている。心なしか彼はそこまで悪い気分ではないのだろうと思うのは、李流伽の勝手な妄想だろうか。
 長い話になりそうだからと一言断りを入れてから、実験台に並べられている椅子を引きそこに座っても、脳は特に機嫌を損ねた様子もなく李流伽を座らせてくれるようだ。

「私の名前は、山野内李流伽です。あなたをいじめた、山野内義人は私の父です」

 悟は特に反応も見せない。まるで「そんなことは知っている」と言わんばかりに穏やかのままのように見える。

「私は、あなたとお話がしたいんですけど……どうしようかな」

 廊下に落ちていた皮の手帳を見るに、柳城悟は超常的な力で物を動かすことが可能なはずだ。何らかの方法で意思の疎通を図れるかもしれない。
そんな彼女の意を汲んだのだろうか、教室横にかかっているカレンダーがひらりと一枚破かれて、そのまま李流伽の据わる台の上に舞い降りた。

 教室の端に転がっていた黒のマジックが動き出すと、カレンダーの裏側に何やら文字を走らせる。「はい」「いいえ」「男」「女」0から9までの数字、そして五十音表があっという間に書き込まれた。

「……なるほど」

 李流伽は自身の財布から十円を取り出すと、「はい」「いいえ」の真ん中の余白に十円玉を置いて、人差し指を乗せた。余白に鳥居があれば完璧にこっくりさんだなと、心のどこかでぼんやり思いながら。

「……悟さんの出身校はどこですか」

『あーるがくえん(R学園)』

「好きな食べ物は」

『こっぺぱん』

「へえ、そうなんですね。私、あのパンだけだと口の中がぱさぱさになっちゃってちょっと苦手です」

『ぎゅうにゅう』

「はい?」

『いっしょにたべると、おいしい』

「そっかなるほど、牛乳パックといっしょに食べれば、ぱさぱさが無くなって美味しいかもですね」

 振り落とされないように、それなりの力を込めて指を押さえているにもかかわらず、十円玉はすいすいと言葉を連ねる。柳城悟という人物は、案外おしゃべりな人だったのかもしれないと、李流伽はどうしてか寂しく感じた。

「聞いてくれますか?……実は私、恋バナというのが苦手で。友達が楽しそうに話しているのを、端で眺めていることが多かったんです。頼むからその話題をこっちに振って来るなって必死に念じながら」

 恋というものがずっとわからなかったからだと、李流伽が思わず本音をこぼすと十円玉は何かを考えこむように、ぐるりぐるりと余白の辺りを弧を描くようにしてくるくる動き、やがて考えがまとまったのか、まるで言葉を選ぶかのようにゆっくり文字を綴る。

『りんせい?』

「……あはは。初恋は実らないって、本当でしたねぇ」

 李流伽は颯の如く現れて、目的を果たすとさっさと自分の世界へ帰っていった麗しき変態の姿を思い返してやりながら、ぐりぐりと少しだけ拗ねるように十円を弄った。

『かなしかった?』

「……はい。完全に脈無しで、ぽっかり胸が抉られた気分」

『きずついた?』

「はい。変な人だったけどそれ以上に……不思議で飄々としてて、つかみどころがないけどそこが魅力的な人だったから。本当に変な人だったけど、客観的に見れば容姿も絵本に出てくる王子様みたいに綺麗な人、だったんだと思います。

でも私、何と言ったらよいか……イケメンというか、容姿が整っている男の人が苦手なんです本当は。でも、お別れするんならもっとよく顔を見ておけばよかったですね。目に焼き付けておけばよかった」

『ふふふ』

「……性格が悪いですね。でもあなたにとってはそうですね。父親への復讐のとばっちりで、私はしなくてもいい酷い失恋をしたんです。心が傷つきました。
今でも思い出したらズキズキします。私が新しい恋をしたとしてもそれが成就したとしても、きっとこのズキズキは一生ものです……ねえ、嬉しいですか?少しは気が晴れましたか?」

 自嘲めいた独白に対して返ってきた十円からの返信は、李流伽にとって意外なものだった。

『うらやましい』

「……どうして?」

『ぼくは、こいをしらずにしんだから』

「……」

 柳城悟は自身の恋は知らずに、身勝手な他人共の恋をいじめという形で押し付けられ壊された。悍ましくも美しく歪んだ李流伽の父は、壊すことでしか毒々しい愛を注ぐことができない男だった。彼の愛とは悟を使ったオナニーでしかない、独りよがりで未熟なものだったのだろう。

 悟に嫉妬したみなみの醜い恋心は、その最愛である義人に対して毛の先ほども琴線に触れることなく、いつだって無いもの見えないものとして扱われた。厳密に言えば義人の目にはいつも悟しか見えておらず、仮にみなみ以外からの好意や執着であっても、彼にとっては群衆以下でしかなかっただけなのだが。

『あなたは』

 たどたどしく十円は動き出す。この脳みそはとてつもない力を持ちながらも、どこかその心は幼い。まるでいじめられた学生時代で時が止まってしまったかのように。

『こいをして、こうかいしてる?』

 悟が望むのは「こんな辛い思いをするぐらいなら、恋などしなければよかった」という後悔の言葉なのだろうか。本当にこの脳みそは、仇である義人の娘が傷つき苦しむ様を見たいと考えているのだろうか。

「いいえ」

 李流伽はこれまでにないぐらい穏やかに、少しだけ大人になった笑みを悟に向けた。

「歪んだ過去のせいで、私の恋を感じる部分が凍ってだめになってしまわなくてよかったと思ってます。心の中のこれが、汚いものじゃないって思えたから。それが失恋だったとしても」

 胸の痛みは、気持ちのいいズキズキだと李流伽は笑う。だからこそ李流伽は悟に対して同情と怒りと親愛と憎悪と、アンビバレントな感情が渦巻いてはやるせなくなった。
 李流伽の、柳城への審判の時は今だった。

「柳城悟さん、首輪の爆弾を作動させたのは、あなたですか?」

『……はい』

 悟は淀みなく答える。まるで予めこの問いかけを予測していたかのように。

「最初に爆破させた生徒は、誰でもよかったのですか?」

『はい。ぼくにとって、つごうのわるいこうどうをおこそうとするひとであれば、だれでもああなったかのうせいはある』

「では、私が教室を出て職員室に向かおうとしても、ああなっていた?」

『……いいえ』

「それは、私がイジメの主犯格の娘だから?」

『はい。あなたがべつのこうどうをとろうとするのなら、ぼくはほかのほうほうをかんがえた。あなたたちは、あのじてんでころすつもりはなかった。むしろときがくるまでいかされていたとかんがえてもらってもいい』

「なぜ、いじめにほとんど関係のない人ほど……殺したのですか」

『このよは、りふじんだ』

「……?」

 普通に生きていただけなのに、彼らに対して殺されるほどに悪いことなどしていなかったはずなのに、どうして僕は虐められたのだろう。僕がこの世にいるだけで、彼らは不愉快だったのかもしれないけれど。
 
突然R学園に連れてこられて復讐ゲームに巻き込まれた生徒たちも、また理不尽だ。不条理だ。酷く、この世の全てを嘆きたくなるほどに残酷だっただろう。

僕に悪いところがあったとしても、それは身体に消えない傷を負って、左目の視力を奪われるほどのことだったのだろうか。

 そして首輪をつけられた生徒たちの殆どは、彼らの親や親族が無視や揶揄った程度の悪さしかしていない。中にはイジメ未満の傍観者だったというただそれだけで、惨たらしく殺されるほどの何かをしたのだろうか。
何もしてない。何もしていないでしょう。ぼくたちは違うけど、同じ。

 柳城悟の言葉はまともではないが、李流伽にはそれを否定することまではできなかった。

「……」

 大人の道理で言えば、復讐や殺人が行われてはいけない理由は、回りまわって「自分が殺されない」ためだと李流伽は思う。感情のままに人を殺せば、殺された人の親族や友人、恋人などが加害者に対して報復をおこない、そしてそれは繰り返される。殺し合いのループだ。  
社会集団の中で生存権の取り決めを行わなければ、この世は無法地帯となり睡眠すらまともに取れない修羅の国となり果てるだろう。

「……そういえばR学園の一階から地下倉庫に抜ける場所だけ、監視の目が行き届いていませんでした。そのおかげで私たちは作戦会議などができたんですけど」

『あそこは、きらい。みたくない。ぼくがいじめられたばしょだから』

「……嫌なことを、思い出させてしまってごめんなさい」

 カメラの設定が困難、もしくは電波の問題かと思っていたあの場所は、柳城悟への忌まわしき行為が繰り返し繰り返し行われていた場所のため、あえて彼は視界を遮っていたのだと李流伽は知った。

 もしかしたら監視カメラもあったのかもしれないが、悟がその場所だけは意図して視野に入れていなかったので、そこでだけはどんな行動を取っても、首輪が爆発することはなかったのかもしれない。きっと、彼にとって地下倉庫と踊り場は呪いの地だったのだ。
脳だけになっても、冷酷無比なくせにところどころ人間臭く自分よりも幼い子供のようで弱い目の前の男に、李流伽はどんな思いを抱けばいいのかわからなくなっていた。

「差由羅さんと里井さんはまだ生きていると思います。彼らはどうなりますか」

『どうなると、おもう?』

「……」

『それで、たぶんせいかい』

 死ぬにしても生かされるにしても、ろくなことにはならないのだろう。見せかけの大量殺人鬼は、下衆なアンダーグラウンドの住人達の玩具となって壊れるまで使いまわされるのかもしれない。

 ……少しだけ未来の話をするのならば。あの後に麻実と健剛の二人は回収されて、麻実に対しては治療が施された。そして二人は引きはがされてしばらくの間別々の人生を歩む。
現役女子学生の殺人鬼として麻実はアイドルのように持て囃されて、制服姿のまま闇の闘技場に幾度も駆り出された。

 顔に傷がつき、指をへし折られ顔が変形するほどに殴られても、彼女は生きたくて戦い続けた。彼女の武器は日本刀で、それこそダークヒーローのように何人もの人間を屠ってきた。
 二十代の貴重な時間を殺人で過ごした彼女は、引退試合だと聞かされて闘技場にやってきた。

 目の前の敵は、岩石のようにそそり立つ全身が凶器のような感情のないゴーレム、健剛だった。麻実は予期せぬ再開に表情を絶望色に染め上げて、刀を構えるのが一瞬遅れた。
引退とは自身の死だと、瞬時に理解をしたからだ。麻実の一瞬の戸惑いが決着の瞬間となった。健剛は麻実を抱きしめるかのように鯖折りをし、膝をついて戦意喪失した彼女の骨が全身へし折れるほどに砕いて、足を砕いて、最後は首を。

「ひさし……ぶり、だね?げんき、してた?」

「……」

「あいた、かった」

「……」

「ねえさといくん、生きてて、たのしいこと、なにかあった?」

 惨たらしく殺される直後で、口からは血反吐を吐き全身には筆舌に尽くしがたい激痛が走っているというのに、麻実は聖母のようにおだやかな笑みを健剛に向けた。
 最後の力を振り絞って彼女がしたことは、すっかり力の入らなくなった手で健剛の頬を包み込んだことぐらいだ。

「だき、しめて」

 彼女の願いは、自身の死と共に叶えられた。
健剛は、初めて自分を使い、自分に役割を与え命令をしてくれた人がいなくなったことに、少しだけ心に冷たい風が走るような思いを抱いた。

「……貴志さんと、大山さんはどこへゆきましたか」

 彼らの行動の一部を見てきた大河や凛成の話を統合させるに、彼らも罪は犯したがそれの帳尻合わせをおこなうように、悲惨な最期を迎えた。
彼らの被害に遭った生徒たちにしてみれば、そんな死すらも生ぬるいだろう。けれども李流伽は、彼らの死後はどこかに解放されて欲しいと願った。

『ふたりはずっといっしょ。ぱらぱらすなになって、うみに』

「……そうですか」

 一緒に焼かれて身体も骨も一つになって、海に散骨されたのだろうかと李流伽は思いを馳せる。早く学校という檻から出たがっていた二人だ。冷たい土の中に籠るよりは、よっぽど良いのかもしれない。

「凛成さん……異世界人は」

『げんき』

「あっそうですか」

 無事ターゲットである李流伽を見事傷つけミッションコンプリートした凛成は、多額の報酬を受け取り元の世界でかかかと高笑いをしているのだという。先ほどの感傷はどこかへ吹っ飛び、心配して損をしたと腹が立った李流伽はそっと舌打ちをした。

「……復讐はもう終わるのだと思います。少なくとも生沼川重行も、岸本みなみも、山野内義人も、あなたが望むなら簡単に破滅に追い込むことができるでしょう。じっくり甚振ることも、死にたいと思っても死なせてもらえないぐらいの拷問も、あなたなら」

『……』

「悟さんは、これからどうするつもりですか?」

『……』

「復讐を終えたら、何をしたい?」

『……』

「どこか行ってみたいところはありますか?
できることは限られているかもしれないけれど、もしその身体を動かすことができないのなら、私が運んであげる。そばに居ることしかできないけど、あなたが嫌じゃなければ。私にできることがあるなら。そばに居てもいいですか?」

『りるかは、ぼくのことをどうおもう?』

「……友達に、なりたかったなぁって思います」

 胸が痛かった。
虫けらのように殺された同朋たちの無念さが、罪悪感という形で李流伽の足元に縋りつき、重力のように下へ下へ引きずり降ろそうとしてくるようだ。そして犯さなくてもよい罪を犯すことになった者達の狂った運命が、憎くて切なかった。
こんな出会いでなければと彼女「たち」は何度も願った。

『ぼくの、おねがいごときいてくれますか』

 最初で最後の願いでもあるそれを李流伽に託したいと、悟は懇願するように十円玉を震わせる。

「なんでしょう」

 聡い彼女のことだ、悟の願いがなんであるか瞬時に理解をしたのだろう。淡々と答えてはいるが、目からは堪え切れなくなったかのように透明な液が溢れ出ている。

『ぼくをこわして』

 脳になった柳城悟は、人として死んでからも本人が望まぬままに渇望され求められ、そして搾取され続けてきた。そして脳の機能を止めること、彼は自ら死ぬことすら許されない
身体となった。

いつか来る復讐の時を待ちわびながら、その代償に彼らの願いを叶えてはきた。
特殊な生物兵器や呪物のように扱われ続けているうちに、もし悟にもまだ心というものがあるのなら、それはどす黒く爛れてゆき、拭っても拭っても落ちない汚れのように侵蝕し、次第に狂っていった。

「私からも、ひとつお願いがあります」

『……なあに?』

「あなたを、ぎゅってしてもいいですか」

 悟の返事を聞く前に、李流伽は実験台へ身を乗り出して円柱の水槽を抱きしめた。
一定の温度が保たれたそれは想像よりも温かく、生きている何かが確かにここにいるのだということを、肌越しにも感じさせた。

水槽と制服越しに体温を伝え合う行為は、彼らの胸にじんじんした熱を与えた。ドクドクとなる胸の高鳴りは、同情や憐憫だけではない嬉しさがあった。
 悟と李流伽の抱擁は永遠のようでもあり、けれどもたった数秒の儚い出来事のようにも感じられた。

「……いやでしたか?」

 離れなければならない未練をそのままに、李流伽は再びそっと十円玉に指を乗せて、悟の反応を待つ。硬貨はもじもじと照れるように動き、やがてゆるゆると彼らしくないのろまな動作で動き出す。

『どきどきする』

『どうしよう、こまったな』

『むねが、くるしい』

 ぐるぐるぐると、紙に穴が開いてしまうぐらいに回り続けている十円玉が、李流伽には例えようもなく愛おしく感じる。文字を綴るのはラブレターのようで、足取りも軽く浮かれたような一言一言は恋人との逢瀬のようだった。彼はこの限られた時の間で李流伽に出会い、心を通わせ、そして。

『しあわせ』

『ありがとう』

『はつこいがきみでよかった』

『いきてて、よかった。ありがとう』

 沢山のありがとうを繰り返すと、十円玉はその役目を終えたとばかりにぱたりと動きを止めて、二度と動くことはなかった。
 彼女の中に未練を残したくはなかったから、彼は物言わぬ物体になった。それが人を愛するという感情が芽生えた柳城悟の、最初で最後の気遣いだった。

「……」

 李流伽は実験台の上に乗ると、存外重い水槽を胸に抱えて抱きしめ、頬ずりをしながら「大好き」と返してやった。
ぴくりと微かに揺れる脳はどこか照れているようで、これから殺されるというのに無機質な物体になり切れないその姿に、李流伽は狂おしいほどの愛おしさと、哀しさを感じた。

別れの時はいつでも名残惜しいものだ。それも、心が通じ合った者同士であればなおのこと。李流伽はこつんと水槽に額を当てて、最愛に対する眼差しをその一瞬に詰め込んだ。

そして未練も思いも断ち切るように水槽を頭上へ持ち上げ、思い切り床へと叩きつける。ガシャンと窓中のガラスが割れるような酷い音を響かせて、水槽のガラス片は地面に飛び散り、中を満たしていた液体は溢れ出て、そして淡い桃色の脳も地面に転がり落ちた。

「大好き……大好き」

 もう少しだけ時が過ぎ去れば、この物体は確実に死を迎えるだろう。数えきれないほどの罪を犯した彼にだって、最後ぐらい救いがあってもいいだろう。それに李流伽だって「彼」と両想いになれて幸せだった。恋に時間は関係ない、例えひとときだとしても、心を通わせた二人は確かに恋をして、そして思いは成就した。
李流伽は子守歌のように、柳城悟の傍について彼の命が尽きるまで「大好き」だと言い続けた。

「……李流伽!いるか!」

 ガラリと乱暴にドアを開けてやってきたのは、汗だくになった生沼川芳樹だった。重傷を負った宇良響と共に病院にやってきた芳樹と大河は、小春を病院に呼び寄せた。そしてSNSにて李流伽が送った写真に気付いた彼は、そのまま学校へ戻ってきたというわけだ。

「これ、見た。びっくりした……お前が無事でよかったよ」

 生物実験室に行きなさいという文字が記された黒板の画像を見つけて、李流伽の身に何か危険が迫っているのではないかと、彼は駆けつけてくれたのだ。

「芳樹さん……私、今度は両想いになれたんですよ」

 李流伽の言葉に「は?」と首を傾げる芳樹の目には、李流伽とその足元に転がっている脳みそが映っていた。

「……じゃあ、あの脳みそが柳城悟だったのか」

 廊下を並んで歩く芳樹と李流伽は、互いの状況確認を兼ねて会話している。ゲームから解放されて生き延びることができた二人は、もうこの学校に用はないと言わんばかりに校舎を後にする。

「……いいのか。その」

 あの脳みそを回収しなくても。芳樹は大河から聞いていた、義人の悍ましいほどの柳城悟への執着と異常性を包み隠さず伝える。

「お前の父親のことだし、あまり悪く言われたくないだろうけど……あれは異常だから柳城悟が脳だけになっちまっても、変な気起こしそうな気がする」

「……大丈夫、彼の心はここにいます。私が持ってきました」

 だからもう大丈夫と、李流伽は自分の胸に手を当てた。生物実験室に転がり落ちた物体は、柳城悟の抜け殻でしかないと李流伽は言い放つ。蹂躙されても引き裂かれても踏みつぶされても、彼はもうあそこにはいない。
 まっすぐに前だけ向いて歩く李流伽を、芳樹はなんともやりきれないという風に表情を少しだけ歪ませ、それからぽんっと友人にするようにして肩を軽く叩いた。

「……彼氏持ちの頭を撫でてやるわけにいかないからな」

 嫉妬されちまったら大変だし。芳樹の言葉に、李流伽は俯きながらも照れくさそうに、ただ笑った。

 芳樹の予測通り、李流伽たちが立ち去った後に義人は生物実験室にたどり着き、そこで柳城悟の亡骸を見つけた。独りよがりであろうが身勝手であろうが、愛というものは時にとてつもない力を発揮するらしい。

 芳樹は「それ」が柳城悟だと一目で見抜いた。常人であればグロテスクで生々しいそれなど触れることもしないだろう。けれども彼は違った。義人は脳を抱えるとまじまじとあらゆる角度から眺め、頬ずりをし脳の皺に舌を這わせ、気のすむまで愛撫をする。

「あは、やっと会えた悟。愛してるよ、ずっと愛してる。綺麗だよ悟。傷ついてこんな姿になっても愛してる、醜く傷ついた君が好き、大好き。僕を思って苦しんで、憎んで、ずっとずっとずっと……」

 人以下の何かになり下がった男は、自身のズボンのジッパーをずり下げてそそり勃ったペニスを淡い桃色の塊に押し付ける。存外柔らかいそこには男の蹂躙の跡が痛々しく残り、穴が開き、ぐちょぐちょと聞くに堪えない音が周囲に響き渡る。
 白濁を吐き出され、原形をとどめなくなるほど犯して、腰を打ち続ける男は自分の愚かな行為に夢中で、静かに部屋に入ってきたものに気が付かなかった。

「よくも、悟を……っ!」

 彼女は手に持ったメスで義人の頸動脈をかっ切る。両目を潰しくり抜いて、舌を抜き急所を蹴り上げ男性器を踏みつけて睾丸を潰す。
男が失禁をして床が汚れるのも厭わずに、はらわたを引きずり出し腸を掴み上げ、子供のめちゃくちゃな悪戯のように、箍が外れた鬼や悪魔のように原形をとどめなくなるまでそれは続いた。

 悟を地面に叩きつけたのは李流伽だが、彼女の中ではすっかり義人の仕業になっている。冤罪と言われたらそれまでかもしれないが、これまでのことを考えたのなら、この程度の娘の罪ぐらい父親が被るべきだろう。

「…………みんな、消してやる」

 彼女はゲームの協力者たちによって拘束された南条みなみを生物実験室に連れて行き、肉食獣に食い散らかされたような無惨な山野内義人の死体を見せつけた。
 声なき声を上げ気が狂わんばかりに取り乱すみなみに、彼女は歪みきった笑みを向けると、血みどろの白衣をふわりと翻して、みなみを義人の腹に近づけさせてぐりぐりと顔に贓物を押し付けた。

「いや、いやぁ、いやぁああ!」

 彼女は、切り取った義人のペニスと睾丸をみなみの口に捻じ込み、そのまま食わせる。吐き出すことは許されず、咀嚼し飲み込むまで何度も何度もそれは繰り返された。
 好きな男のそれなら、喜んで食うのが筋だと悪魔の笑みを浮かべながら。

 彼女は、悟に対していつしか母性のような感情を抱いていた。しかし生きながらにして徐々に食い殺されていった悟を見るうちに、いつしか彼女は子を取られた鬼と化した。

―みなみの身体は、義人の棺桶となる。
義人のペニスを喰わされ腸や目玉をしゃぶらされ、義人の頭蓋骨を割り脳みそをほじくっては、雛鳥に餌を与えるかのように、それらはみなみの口に運ばれて行った。

 腹が妊婦のように義人でぱんぱんに膨らんだみなみは、生きたまま焼却された。
棺桶の役目としては妥当だろう。こんな悪趣味で想像を絶する光景すらも、マニアにとっては喉から手がでるほどに欲しいものらしい。全て映像化されたそれは、真意がわからないスナッフフィルムとしてアンダーグラウンドの奥の奥で、高額で取引がおこなわれた。

 ―いつのまにか復讐ゲームは○○地方の異例の大規模土砂災害とその名を変えて、ゲームの贄たちはその被害者ということになっていた。あの映像を見た遺族の誰からも声が上がらないのは、多額の慰安金が参加者遺族全員に払われたからだ。

 中には金を受け取ろうとしない者もいたが、子や親族を殺された者たちは皆、心に後ろめたさがあったためだろうか、皆口を閉ざしたまま真実を語ろうとするものは誰一人、いなかった。人を虫けらのように消し去り、そしてその映像を金にする組織となど、関わり合いになりたい者などいないだろうから。

 李流伽を含めたゲームを生き残った数少ない者達は皆、賞金として学生が持つにしては莫大すぎる富をそれぞれ手にした。

「お母さん……もう、お父さんはいない。だから、お父さんから自由になっても良いんだよ。お母さん、いままでありがとう」

 義人に対する嫉妬と恋慕に狂った母をその呪縛から開放するため、李流伽は母との別れを決意した。自分の姿をその目に映すたびに義人の鱗片が彼女の脳裏によぎるのであれば、李流伽は母の目の前から消えようと思った。
母もいつか、今度こそまともに人を愛し、そして愛される人生を歩んでほしいと彼女は強く願った。

けれども母は首を縦に振ることなく、無表情のまま涙を流し、そして李流伽を抱きしめた。

「李流伽は、お母さんの子です」

 李流伽の母は、あなたはお母さんの子ですと何度も繰り返しながら彼女を抱きしめ続けた。
 ……もう少しだけ一緒に生きてもいいだろうか。いつか母の固く凍て付いた心と表情が溶けるその日まで。母に新しい最愛ができたとしても、私も近くにいていいのだろうか。やはり自分にはまだまだ人の心がわからない部分があると、李流伽は視界を滲ませながらそう考えた。

「芳樹のほうは何とかなったみたいだな」

「……ああ、割れ鍋に綴じ蓋って親父とおふくろのことだろうな」

 生沼川家の中でも過去一、二を争う激しい夫婦喧嘩の末、どうやら離婚は回避されたようだとは芳樹の談だ。

「もう二度とよそ様に迷惑を掛けないように、親父を監視するんだとさ」

 芳樹母のそれは、やはり父に対する愛というものなのだろうか。芳樹の父は、欠けた指を見返すたびに、過去の自分の行いを恥じて「二度とあのようなことはしない」と自身を戒めるのだという。

「知らん。もう好きにやれっての」

全てが面倒くせえと嘆く芳樹の隣で、穏やかに微笑んでいるのは大河だ。
 大河の母は、戻ってこなかった。土砂災害に巻き込まれて亡くなってしまったということにされているみなみとは、遺体としても対面することは叶わず、結局彼女は燃え尽きた骨となって南条家へ帰ってきた。

『……』

 骨壺を抱えるどころか、思わず後ずさりして触れるのすらためらったのが大河の答えだった。父は息子の些細な様子を読み取って、自身が代わりに白木の箱を抱えるがそこには彼女に対する愛情めいたものは、微塵も感じられなかった。
 事務的に淡々と葬儀は終わり、父と子に残ったのは「ようやく終わった」という、とてつもない疲労感と虚無の念のみだ。

『……今まですまなかった、大河』

 気にしないで、もしくは何が?と返すのがいつもの正しい大河のはずだった。けれども口を突いて出た言葉はそのどれでもなく。

『……今更遅いよ、父さん。僕は、ずっと……』

『ごめんな、父さんは仕事にかまけて家の事を蔑ろにして……お前のこと見ていなかった。あいつの……母さんの異常性なんてずっと前からわかっていたのに』

 力なく泣き笑いの表情を浮かべる大河に、眉を下げ申し訳なさそうにうなだれる父の姿があった。
 それから肩に父の手を添えられて、大河は幼き頃のように均整の取れた父の身体に抱き付くと、父も無言で同じぐらいの力でそれを返してやる。スーツに馴染んだ煙草の香りが、どこか懐かしくて切なかった。

「小春」

「大河、芳樹。ちょっと久しぶりだね」

 少しだけやつれた小春が彼らと合流した。瀕死の重傷を負った彼女の父は、それでも徐々に回復し意識を取り戻した。

「小春のお父さんは」

「うん、お父さんね。子供に戻っちゃった」

 暴行により片目を失い肛門を裂傷した宇良響はすっかり幼児退行してしまい、今では小春の事も覚えていないようだと彼女は言う。

「ずるいよね」

 柳城悟は同じような目に遭っても、彼は自分を見失わず最後まで戦い抜いたというのに。響は簡単に心を壊されて、辛さから逃れるために簡単に自分というものを捨ててしまった。逃避のすべがあるということは、ある種の救いなのだろう。

「お父さんには生きてもらうよ。辛くても絶対に逃がさない」

 そのためのお金なら沢山あるしね、と天使のような笑みを浮かべる小春に、大河と芳樹の背筋は凍り付いた。

「……そういえば、お前たち、その」

 別れたんだっけか、という言葉を紡ぐ前に大河と小春は何かを察したように互いに顔を見合わせて、それから笑顔で芳樹の方を向き直った。

「大河お兄ちゃんとは兄妹に戻ったの」

「これからも妹の小春をよろしくな」

「……そっか。お前らがそれで幸せならいいよ」

「それに、小春は今恋をしてるからな」

「もう、言わないでよ大河!」

 小春は頬を赤らめると、顔に手を当ててしきりに照れている。
彼女の想い人はつい最近知り合ったという、知的で飄々としているように見えて心根は優しく、少しだけずれたところもあり、イケメンアレルギーという珍しい症状を抱えた読書が好きなメガネが似合う華奢な身体つきの人なのだそうだ。

「どんな時も落ち着いててすごくカッコよくてね、でもそれ以上に可愛くて守ってあげたくもなるの」

「……」

 恐らく脈のない恋だろうと、芳樹は瞬時に悟った。その人は短期間のうちに二度恋をし、一つ目は失恋に終わり、二つ目で成就させたばかりだからだ。身持ちの固いアイツは、彼氏の他に彼女までは作らないだろうと、芳樹は内心チベットスナギツネのような虚無の表情を浮かべている。

「……どんまい。元気だせよ」

「どういう意味?」

 ぎらりと芳樹を睨みつける小春の目線は鋭く、恐ろしい。小春は小動物のような愛くるしくか弱そうな姿をしているが、その中に潜む魂は本質的には小型の肉食動物のようなものだ。彼女は存外強かで、実のところ守られるよりも守るという意志のほうが強いことを、大河も芳樹も知っていた。

「みなさん、お待たせしてすみませんでした。この辺ちょっと道がわからなくて迷子になってしまって」

「李流伽ちゃん!」

 小春は人懐こい仔犬のように李流伽の元へ駆け寄り、思い切り抱き付いた。距離の近さは女同士の特権とでも言わんばかりに、彼女にべったりくっついては無いはずの尻尾をぶんぶん振って、全身で喜びを表現している。

「よう」

「連絡くれたらよかったのに」

 大河の言葉に今更ながら「そうだった」と李流伽は自身のスマホを取り出すと、SNSの画面を開く。

「……あ」

 スマホを眺めて放心している李流伽の様子に、小春は勿論大河と芳樹も心配そうに彼女とスマホに目線をやり、それから三人とも何かに気が付いたように自身のスマホを取り出して、同じようにSNSの画面を開いた。

『元気?』

 簡素なコメントとともに、SNSには写真が数枚李流伽たちへの返信として投稿されていた。

『@master_rinrin』

 初期アイコンで最近作られた完全に捨てアカウントであろうそれには、他の投稿は一切なかった。rinrinの前の『master』は、恐らくマスターベーションの略ではないかと李流伽は最低な推測をする。……それはこの上なく正しい、推測ではなくもはや事実なのだが。

これらはいつの間に取られたものだろうと、彼らは半分呆れつつ投稿主に思いを馳せる。

アップされた画像は大河が芳樹にべったり張り付いて睡眠をとっている写真や、小春が李流伽と指を絡めて手を繋いでいる写真、何故か保健体育の教科書のみが映し出された写真もある。何かの記念に撮影しておきたかったのだろうか。

「あ……」

 離れた距離から、貴志忠臣と大山祥吾が二人で廊下の壁に背を預けて何やら楽し気に雑談をしている写真があった。
 それから校門に向かって駆けてゆく、田中と花山の後ろ姿の写真もあった。

忌まわしいはずの復讐ゲームの記録は、写真越しには学校生活や修学旅行のように彩られており、まるで彼らと三年間共に学生生活を送って来たかのような錯覚に囚われる。
そこにないはずの思い出は、きっと追憶と憐憫だ。共に過ごせたはずの、共に過ごしたかった時間の偽りの共有は、彼らの視界をじわりじわりと滲ませた。

「馬鹿......」

そして最後は大河、芳樹、小春、李流伽が歩いている後姿に、少し離れたところから自撮りのように無理やり映りこんで、Vサインをしている凛成の写真があった。
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