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4章 暗雲

36話 カロージェロ、エドワードを断罪する

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「エドワードさん、お話があります」
 カロージェロにそう声をかけられたエドワードは、無視しようかと思ったがゆっくりと振り向いた。

「……貴方も知っての通り、賊の襲撃があって非常に多忙なのですが。なにせ、戦える者が私一人になってしまったので」

 エドワードとしては、お前のせいだと罵りたい。
 賊は隣国の暗殺者で、カロージェロを狙ってやってきたのだ。ほとんど自分一人で退け、おまけに大事な仲間が重傷で現在意識不明ときたら、カロージェロを城塞から叩き出し、賊にラッピングして贈りつけてやりたいとも考えてしまうほどだ。
 だが、ジーナの治療には聖魔術の【回復ヒール】がいる。そして、神官長よりもカロージェロの方が魔術は上手だ。だから激情にかられるままふるまうのを耐えている。

 そのカロージェロはといえば、逆にお前のせいだと言わんばかりにエドワードを睨みつけていた。
「……私は今、司法の道を選んでいなかったことをこれほどまでに悔やんだことはありません。ですが、そんなことは関係ない。貴方を断罪します」
「ハッ!」
 カロージェロのセリフを聞いてエドワードは鼻で笑った。
「お前、まさか賊を殺したことを罪だとか抜かすつもりか? ――なら、お前はおとなしく殺されておけばよかったんだよ!! そうしたらジーナがあんな目に遭わずに済んだんだ!」
 エドワードは罵り怒鳴った。
 近くにいた使用人たちが驚いて立ち止まり、対立する二人を凝視した。

 エドワードの罵りを聞いたカロージェロは、チラリと使用人たちを見た。神官としては罪を周囲に知らしめるような真似をするのは良くないとわかっているが、カロージェロもかなり感情的になっていてもはやその配慮をする余裕などない。
 ぞくりとするほどに美しい蔑みの笑みを浮かべ、エドワードに告げた。
「そんなことは思っていませんよ。私が問うのは、貴方の過去の罪と、今回の罪です」
 ピクリ、とエドワードの頰が微かにひきつった。
「貴方は過去、王族の近衛騎士だった。なのに、王族を害そうとした罪で投獄され、騎士団を追放され家からも除籍されていますね」
 カロージェロの問いに、エドワードは荒んだ笑みを浮かべる。
「……あぁ、ではそうなっているのか。で、その公式発表を鵜呑みにしたお前は、勇者が宝剣を抜き魔王に振りかざしたかように、俺を断罪しようってワケかよ!」

 カロージェロはエドワードの口調に笑顔を消して眉根を寄せた。
 まったく悪びれていないし、裏があるという含みを持たせている。しかしカロージェロに対して弁解する気はなさそうだ。
 それが本当かどうかわからない――いや本当だろうとカロージェロは考え直した。なぜなら、カロージェロの断罪を聞いたエドワードが少しホッとしたような顔をしたからだ。彼の罪は、それではない。
 だが、彼の罪はさらに重くなった。彼の罪の文字がよりいっそう滴るような赤く太い文字で印されているのが見える。
 彼は、何らかの罪を意識している。

「一神官であり、この町にずっと留まっていた私が数少ない伝手を使って調べられたのはそこまでです。ですが……私にはわかります。貴方はさらに罪を重ね、そして――今回も犯した」
 ピクリ、とエドワードの頰がまたひきつる。

「ここは城塞です。暗殺者がいくら手練れとはいえ、そうやすやすと侵入することができるのはおかしい。実際、町の門や関所はきちんと管理されていて、怪しげな賊が通ろうものなら即町中に広まります。なのに、なぜ簡単に賊が侵入できたか。……手引きした者がいる」
 カロージェロはエドワードを見据え、指を突きつけてて言った。
「……貴方が手引きをしたのだ、エドワード!」

 エドワードは口を開閉した。
 弁解しようと思えば容易い。が、エドワードはカロージェロに弁解する気などなかった。
 それに……結果として、それは当たっていた。

「それほどまでに私を消したかったのですか!? ならば、何も城塞に賊を呼び込むなどというような危険極まりない手段に出ることはないでしょう!? そのせいでジーナさんはひどい怪我を負ったのですよ! 優しい彼女が人を見捨てるような真似が出来ると思ったのですか!? そして……シルヴィア様に万が一のことがあったらどうする気だったのです!?」
 カロージェロがエドワードを詰ると、エドワードは初めて痛いところを突かれたように顔を歪めた。
 そして、何も言わないまま踵を返す。
「お待ちなさい! エドワードさん、話はまだです!」
 カロージェロは怒鳴ったが、エドワードはそのまま歩き去った。

 エドワードは、ジーナが休んでいる部屋に入ると、眠るジーナの耳もとにささやく。
「……――すまなかった」
 そして、そばで眠るシルヴィアの髪をそっと撫でた。
「……私がいなくても、しゃんとしてくださいね。魔力があるからといって、使いすぎはダメですよ。私が言ったことを忘れないでください。シルヴィア様――」
 エドワードは、シルヴィアの髪に軽くくちづけると、部屋を出た。

 そのときから、エドワードは姿を消した。
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