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命の恩人でした

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 なんで、こんなところに原住民ゴブリンが!?

 だめだ、だめだめだよ! こんな状況で襲われちゃったら、僕あっさり死んじゃうよ?

 僕は残った力を振り絞って、ベッドの上を這いずり、なんとか逃げようと試みた。
 だけど、弱りきった身体は正直で。
 そんな僕の意向をすっかり無視してくれて、まともに動きやしない。

 急に脱力してしまった僕の身体は、ベッドの端から転げ落ちようとする。

 視界の端から、覆い被さろうと接近する緑の影。

 伸びてくる腕を、僕は懸命に手で払いのけようとしたけど、か弱い抵抗など意に介さずに、その腕はそのまま僕の身体を抱きとめていた。

(……あれ? もしかして今、僕がベッドから落ちしようとしたのを防いでくれた?)

 恐る恐る相手を見ると、そこにいたのは以前に見かけた醜悪な連中とは、とても似ても似つかぬ姿。

 肌は確かに緑色だけれど、とても可愛らしい顔をした女の子がそこにいた。

 たぶん年は僕と同じくらい。
 僕が着てるのと、同じ様な服を身にまとっている。

 少女は僕に向かって、熱心に何事かを語りかけてきてくれているけれど、まったくもって喋っている言葉の意味がわからない。
 ただ、その表情から、心配と安堵を抱いてくれてるのはよくわかった。

 見た目で驚いてしまったけれど、この人絶対良い子だ!

 僕の直感がそう告げている。

 僕も知る限りの言語で話しかけてみたけれど、残念ながら少女は首を捻るばかり。
 もどかしいけれど、きっとそれは向こうも同じだろう。

 いろいろとやり取りをしているうちに、うるさくしてしまったようで、しろも目を覚ました。

「しろ」

 僕がそう呼んだ声に、少女が反応する。

「……しろ」

 辿々しい発音で、少女がしろを指差した。

 なにか意味が通じたっぽい。
 しろで繋がる架け橋だ。

 僕はしろを指差して、「しろ」「しろ」と連呼し、次に自分を指差して、「あお」「あお」と連呼した。

 少女はすぐに理解してくれたみたい。
 しろを指差して「しろ」、僕を指差して「あお」と確認するように言ってくれた。

(やった、通じた! なんか、すっごい嬉しい!)

 僕は肯定を示すために、こくこくと首を上下に動かす。

 今度は少女が自分を指差して、「スイ」「スイ」と繰り返した。

 スイ? なるほど、きみの名前はスイだね!

 お返しに、僕が少女を指差して「スイ」と言うと、少女ははにかむような素敵な笑顔を見せてくれた。

 まあ、ただ名前だけでそれ以上の会話は進まず、結局はジェスチャーとボディランゲージでの対話となったんだけど。
 お互いの名前がわかっただけでもよしとしよう。

 やっぱり僕を助けてくれたのはスイで、1人で僕を担ぎ、苦労してここまで運んでくれたらしい。
 そのときの必死な顔まで再現してくれるスイが、微笑ましくて可愛かった。

 素性のわからない危険人物かもしれない僕を、どうして助けてくれたのか訊いてみると――
 スイはまず、しろを指差して崇めるように跪き、次に僕を指差して、同じように跪いた。

 つまり、スイにとって。しろは崇拝の対象であり、そのしろと一緒にいた僕もまた、崇めるべき対象ということらしい。だから、助けた。そういうことだろう。

(今度もまた、しろに助けられちゃったみたいだね)

 僕が膝の上で丸まるしろを撫でると、しろは嬉しそうに喉を鳴らして目を細めていた。

 スイが僕を見ながら、自分のお腹を両手で押さえて身体をくの字に曲げ、切なげに眉根をしかめていた。

 たぶん、お腹空いてるかってことだろう。

 ――びっくりするほど空いています!

 ムンクの叫びばりの表情で、僕が同じジェスチャーを返すと、スイはくすくすと笑って部屋から出て行った。

 しばらくして戻ってきた、スイの抱える木をくり貫いた器には、色とりどりの木の実や果物がいっぱいだった。

 その中に、赤い苺っぽい実を見つけた僕は、

「苺怖い、苺怖い」

 我ながら、しっかりトラウマになっていた。

 まあ、いくらなんでもあの毒苺ではないだろうけど。
 でも僕、今後、苺を食べられる自信がありませんよ? はい。

 しっかりそれを避けて、貪るように食べる食べる、食べ尽くす。
 人心地ついたときには、器の食べ物はすっかりなくなっていた。

(はぁ~、なにか生き返る気分……)

 言ってはみるものの、大げさではなく力が漲ってくる気がする。

 ステータスを視てみてると、


 ―――――――――――――――
 レベル13

 体力 6129
 魔力 0

 筋力 22  敏捷 21
 知性 60  器用 34
 ―――――――――――――――


 おおぅ。
 もっすご体力が回復していた。
 しかも、微毒の状態異常バッドステータスまで完全に消えてるよ! ぱちぱちぱち。いやっはー!

 たぶん、そういった効能の食べ物が混ぜてあったんだろう。
 スイの心優しい気配りに、涙が出そうになったよ。ぐす。

 豪快に食べ終わった僕に、スイは首を傾げて、なにかを訊ねたそうな仕草を見せた。

 きっと、美味しかったかどうかを聞きたがっていると判断した僕は、少し悩んでから、指でOKサインを出してみた。

(通じるかな?)

 すると、途端にスイの顔が耳まで赤くなり、恥じらって両手で顔を覆ってしまった。

(ええっ!? これってもしかして、こっちではなにか恥ずかしいサインだったりするの!?)

 この恥じらいぶりは、卑猥か下ネタか。エロか――エロなのか!?
 まるで、小学生男子にエロネタでからかわれた女子のよう。

(どーしよ)

 そんなつもりはなかったのに。そうだ、ここはしれっと流してしまおう。

 ワンモアチャンス! これなら大丈夫かな?
 僕は親指を立てて、ぐっとスイに突き出してみる。

 スイの顔から、ついに湯気が立ち昇った。

 これもダメ? むしろ悪化? こんなつもりじゃなかったのにー!

 げに難しきは、異文化コミュニケーションってね。
 はぁ……
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