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緑の村での小休憩

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 ちょっとした誤解というか、意思の疎通の不備はあったわけだけど。
 スイとはどうにか良好な関係を築くことができた。

 その日はもう、まだ日も高い時間からぐっすりと休んで。
 翌朝、再び目覚めたときには、昨日とは打って変わって快調だった。


 ―――――――――――――――
 レベル13

 体力 93921
 魔力 0

 筋力 66  敏捷 60
 知性 67  器用 53
 ―――――――――――――――


 スイの食事と手厚い看護で、ここまで体力回復したよ。
 体力の完全回復はまだだけど、この調子だと一両日中には全快だね。

 でも、知性の回復が69で頭打ちしたんだけど。
 最大値が4も減って、70切っちゃった。どころか、筋力との差がたったの1ですよ。
 頭悪いことして死にかけたからですか、そーですか。
 脳筋も近いかな、僕。切ない。

 今朝も、スイが笑顔と共に食事を運んできてくれた。
 昨日もちらりとは見たけれど、スイのお父さんも一緒だ。
 お父さんというのは、僕の想像だけどね。なにせ、顔の面影とか似ているし。緑だし。

 しかも、このお父さん。多分偉い人だ。

 僕が今いる建物は、昨日、後から知ったことだけど、僕らが目的地としていた集落にあった。
 ベッド近くの窓から見てたんだけど、周りには他にも同じ造りの建物が並び、同じような緑の肌した人々がいた。
 その中で、お父さんは他の人に指示を出している立場みたいだったから、間違いないだろう。

 というわけで、僕の中ではスイのお父さんは村長さんと命名した。

 スイは村長の娘さん。素朴で気立てのいい語感がマッチしてるね!

 スイと村長さんは、まず、僕の枕元のしろに跪いて一礼していた。
 偉いね、しろ。白いし、翼あるし、神の遣い的な扱いなのかな。

 そうだ。
 ちょっと2人のステータスも視てみよう。

 ……あ、頭痛しない。よかった。


 ―――――――――――――――
 レベル18

 体力 351
 魔力 20

 筋力 105 敏捷 124
 知性 100 器用 103
 ―――――――――――――――


 うわっ。スイ、レベル高っ!
 なに、この高能力ハイスペック。全能力値、オール100オーバーだよ!

 ああ!? しかも、魔力がある! 魔力だよ、魔力! 初めて視た! すげー。

 くぅ! いろいろ教えてほしいけど、ジェスチャーだけじゃ無理だよ!
 このステータスって概念自体を伝える自信すらないし! しょぼーん。
 
 気を取り直して、村長さんは、と……
 はだけた胸や肩はムキムキだし、腹筋6パックだし、かなり強そう。


 ―――――――――――――――
 レベル81

 体力 3640
 魔力 0

 筋力 635 敏捷 444
 知性 130 器用 203
 ―――――――――――――――


 …………

 どこの戦闘民族ですか?

 なにこれ、人外だよ、人外! やっぱり、緑だから!? 緑は強いの!?

 こんな秘境で暮らしているから、外敵もいるだろうし、必然的に強くなるのはわかるけど。
 それにしても強すぎませんか?
 部族一の戦士とか? まさか、転生とか召喚とか経験されてないですよね?

 でも、僕に語りかけてくる表情は優しさと温かさに満ちており、そんな人間兵器みたいな雰囲気は欠片もない。
 もちろん、言葉は通じないけど。
 いい人でよかったと心から思います。

 今日は体調がよかったので、リハビリかねて、スイと集落内の散歩に出かけた。

 集落は森の木々と裏の丘に挟まれて、周辺からは目立たないような造りになっており、きっと僕が大空から見下ろしでもしなかったら、気づくことすらできなかっただろう。
 ここを目指して進んでいた行程も、村にいたスイに見つけてもらえるくらいまでは、近くに来ていたということだ。
 くぅ。あの苺事件さえなければ、あんな醜態を晒すこともなかったのに! 主に恥じらい的な部分ね。

 村にはやっぱり住人がいて。
 道すがら出会った村人たちは、僕を見て一瞬ぎょっとするけど、隣のスイを見て安堵し、頭のしろを見てやっぱり跪いていた。
 しろ自身は不思議そうに首を傾げているのが、ちょっとおかしい。

 同じ部族だから当然だろうけど、村人たちも全員、緑の肌をしていた。
 ここでは、きっと、僕のほうが珍しいんだろうね。
 肌の色以外は、なんにも変わらない。人柄としては、むしろ温厚なほうだろう。

 父親らしき村人が、狩ってきた獲物を子供たちに誇らしげに渡し、子供たちがそれを担いで大はしゃぎしている風景が、なんだかとても微笑ましかった。なんだか、ほっこりする。

 あー、ウチの両親はどうしてるんだろうなー。心配してるよね、きっと。

 あ、やば。ちょっと里心ついて泣けてきた。いや、これは心の汗だ。僕は泣いてない。泣いてなんかないさ!

 隣に並ぶスイが、無言で後ろ髪を撫でてくれた。
 それ、今ダメだから。
 今そんなことされると、泣くか惚れるかのどっちかだよ?

 その日は、午前中は暑いほどの好天だったのに、午後からいきなり天気が崩れた。
 大粒の水滴に額を打たれたと思ったら、前が見えないほどの大雨。先日のスコールみたい。

 濡れるのが苦手なしろは、即座に僕の頭の上から離脱し、服の裾から懐に潜り込んできた。

 やめてね、しろ。下穿いてないのに見えちゃうから。

 一時的に最寄の軒下に避難したが、止むような気配はなく、雨勢は増すばかり。
 こんな大雨がよくあるのかスイにジェスチャーで訊ねたけど、そうそうあることじゃないらしい。

 もうちょっとスイと一緒に散歩を続けたかったけど、無理みたいだ。

 で、次の日も雨。大豪雨。暴風雨でないだけマシだろうけど。
 今日は日がな一日、スイと室内でお喋りジェスチャーして過ごしたわけだけど……
 帰るための手がかりは得られなかった。

 スマホや携帯ゲームを見せたけど、スイは文字通り不思議なものを見る顔で、これがなんなのかはわからないみたい。
 まあ、電気も水道もない時点で、わかりきっていたことだけど。
 当初、電話でもあればと思ったのは、やっぱり浅はかだった。

 この周辺には、他に集落もないらしい。

 だとすると、僕もそろそろこの村を出るべきだろう。
 体力はすっかり全快している。なにより、このままここにいると、情が移って離れられなくなる自信がある。

 僕の目的はあくまで日本に帰ることだから。

 それに、この村は自給自足。暮らしぶりから、貯蓄に余剰があるとも思えない。
 そんな中で、僕としろの食い扶持は、多少なりとも確実に、村の生活を圧迫させているはず。
 働かざるもの食うべからず。働かない僕が食べてばかりなんて、いけないのは中学生でも理解できる。

「明日、スイに村を発つことを言わないと……」

 鳴り止まない外からの大雨の音を聞きながら、僕はうとうとしていた。

 遠くから地鳴りのような音が聞こえたけど、すぐにまどろみの中に消えてしまった。
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