リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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バシリアス ※BL

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 エレベーターに乗り、彼の肩を強く握り寄せながら、頭をフル回転させる。
 彼の言葉を思い出せ。
 彼ほど医療に長けた者を俺は知らない。彼は凄い人物だ。彼の言葉を思い出せば彼を救えるかもしれないんだ。
『──……俺の血液なら冷凍してある。結晶が出来ないようグリセリンを混合している。使用する時には糖液を混ぜてグリセリンを除いたり、濃縮赤血球液を作ったりする。でもそれをいちいちするのは面倒だろう? だから、この機械を作ったんだ』
 ──そうだ。あの装置には彼の血液が大量に保存されている。ド素人の俺でも使用出来る。彼の言葉通りに冷凍血液を作るのは、俺じゃ到底無理だ。グリセリンの量、混合の仕方、保存温度、全く分からないのだ。濃縮赤血球液、糖液、何だそれは! うまそうな名前をしやがって! 分かるもんか!
 彼が面倒くさがり屋で良かった。彼の知識の詰まったあの機械の使い方なら覚えている。一部青透明のチューブが繋がった献血用の針、一部赤透明のチューブが繋がった輸血用の針、それを目的に応じ使い分ければ良い。
昔屋敷にいた頃、献血と輸血の仕方は父から教わった。玩具でだが。他にも教わった気がするが、殆どを覚えていない。俺にとってこの家はトラウマだ。脳がパンパンになって全く覚えられないのだ。意味の分からない言葉ばかりを並べられて脳は全然理解してくれない。
 ──とにかく、その針を刺し、機械の表に付けられたスイッチか、リモコン操作で献血・輸血を行える機能を彼が開発したのだ。使用行程ならこの目で見た事がある。彼の血液が抜かれ、彼の体内へ入れられる様を見た事がある。美しい彼の赤い血液に見惚れた事がある。
 俺には〝アレ〟を扱える。
『──血液は必要ない』
 まるで付け足すように、脳裏に彼の声が響いた。
『血液は必要ない。まだ作り物だし、冷凍しているうちなら心臓は動かない。血液は必要ないのさ。どうせ固まってしまうし、使ってしまっては勿体無い。献血は苦手なんだ』
「なら、どうすれば良いんだ、羅聖。教えてくれ。お前を助ける為にはどうすれば良い」
 ──思い出せ。続きを思い出すんだ。
 エレベーターが地下に到着し、扉が開く。出ると、そこは更衣室だった。ここであいつは白衣に着替えるのか。──だがそんな時間はない。
 次の部屋に進むと、あらゆる方向から風が吹き付けられた。周りの白い壁の一面に、複数の丸い穴が開いており、そこから強い風が送られてくるのだ。慌てて次の部屋へ移動しようとすると、今度は深い霧が掛かったような感覚に合う。目に染みる、エタノールの強い匂いがした。これは消毒液か何かだろうか。
 次の部屋は研究室だった。彼はここで肉体の解剖や細胞の培養を行う。そして空中へ浮かぶ液晶画面へ、つまりコンピューターへ自動的に記録させるのだ。
『俺はいつも生理食塩水を使って実験をしている。その装置はこっちのでっかい奴だ。いつも実験用に使うからな、こいつはたっぷりないと困る。もうプログラムを組み込んであるから、勝手に作ってくれるのさ。もちろん、注入も吸引もこの針で可能だ。輸液の装置はこっちだ。ちゃんと臓器に合わせてプログラムされているんだぞ。このタッチパネルで部位を選択すれば自動で計算して作ってくれるんだ。楽だろう?』
 ──生理食塩水、輸液、何だそれは。何だそれは!
 と、とにかく、今は彼の血液を抜こう。確か中央の台に乗せれば身体をスキャンし、体内を精密に表現したモデルが現れる筈だ。
 彼を台の上にそっと乗せ、手前にあったスキャンのオンオフスイッチを押す。
台に灯りが付いた瞬間、台から空中にオーロラのような緑の光が帯び、羅聖の頭から足先まで何度も何度も徘徊する。羅聖の身体の上に緑の糸が現れ、細かく枝分かれし、彼の心臓らしきモノが浮かび上がる。更に皮膚や臓器、髪の毛や睫毛までもがスキャンされていく。
 スキャンを終えたとたん、『完了しました(100%)』と空中に文字が表示される。
『スキャンが完了致しました。次の指示をお願い致します』
 突然女性のアナウンスが聞こえたと思ったら、周囲がパアッと明るくなり、パパパパパっと宙に複数の大小様々な液晶画面が浮き出る。病院で見られるような心臓の心拍数や、目玉の構造、血管の血液循環予測図や、遺伝子計算など、羅聖の身体の情報が数値や文字となって分析され、目の前に広がっている。
 ──凄い、凄い。やっぱり彼は天才だ! これなら彼を助けられるかもしれない!
「……か、彼を生き返らせたい。どうすれば良い。蘇生、蘇生がしたいんだ」
『計算中です。ただいま計算中です、しばらくお待ちください』
「頼む早くしてくれ」
  高いメロディが鳴り、『データを表示致します』と新しい画面が現れた。ズラズラッ──と雪崩のように方法が表示された。あまりの量に頭が混乱してしまう。
『どの方法で〝蘇生〟致しますか』
「一番成功率の高いモノだ」
 検索中……と表示され、貧乏揺すりをしながら黙ってそれを待つ。
『絞り混みが完了致しました。次の内のどの方法で〝蘇生〟しますか』
「か、簡単なモノを頼む」
『絞り混みが完了致しました。方法の選択が完了しました。これから〝蘇生〟を開始致します。ご協力と指示をお願い致します』
 第1段階はクリアか? ホッと息を吐き、ぐっと身を引き締める。アナウンスの声に耳を傾(かたむ)け、一言一句聞き逃さぬようにする。
『──献血装置を使用して、身体の中に存在する全ての血液を抜いてください』
「分かった。血液が抜けたら止めてくれ」
『承知致しました』
 握っていた彼の手を離し、献血装置へ駆け寄る。リモコンと献血用の針を取り、羅聖の手を握る。
「どこにどの角度で刺せば良い。赤い光で彼に表示してくれ」
『承知致しました。──……計算中です。────……完了しました』
 細長い赤の光が複数の箇所を刺し、針の角度も明確に示されていた。その光にそって針を動かし、昔習った事を思い出しながら彼の身体にプツリと針を刺し込んだ。彼の身体の上のスキャンモデルに青い光が追加される。これが針らしい。なるほど、これを見ながら彼の血管に刺せば良いんだな。
 用意された複数の針を打ち、袖で額の汗を拭う。画面に〝tperfecパーフェクト〟と表示され、ホッと息を吐く。なんかゲームみたいだな、perfectはやめろと伝えておく。
『成功です。血液を抜いてください』
 リモコンのスイッチをオンへ切り替えると同時に、彼のまだ赤く美しい血液が急速に抜き取られていく。新規で現れた画面には数値が現れ、それがどんどん数を減らし下がっていっている。きっと〝0〟と表示されれば、彼の血液が全て抜き取られた事になるのだろう。
「次は?」
『生理食塩水・輸液装置の針を用意してください。全ての血液が抜けた直後、同じ箇所へ針を刺してください』
 また刺すのか……。 羅聖に針を刺していると考えると罪悪感のようなものが胸の内でのたうち回る。
「分かった。どちらを使用するかの判断は任せる」
 生理食塩水と輸液は別々のタンクに保存されているが、針やチューブは同じモノを共有している。
『〝βασιλιάςバシリアス〟を用意してください』
 ん? 何だって?
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