262 / 299
バシリアス ※BL
13
しおりを挟む
3年後、咲路の愛が最高潮に達した時が来た。無事、羅聖は咲路の心臓を抜き取り、自分の心臓を彼に移植した。
咲路は目を覚ましてすぐ、屋敷のダイニングキッチンに向かった。食卓に並ぶ自分の心臓を見て不思議な感覚に陥った。生のままなのか、血が皿いっぱいに溜められている。
羅聖はさんざん心臓を愛撫した後に、ナプキンを首から掛け、ナイフとフォークを使い一口一口味わうように食していく。口の端から血が流れる姿が麗しかった。血抜きをし、焼いてはいるが、咲路も同じようにナイフとフォークを使いウサギの肉を食べていた。扱えずに結局丸かじりしていたのだけれど。
咲路は自分の心臓を食べる弟の姿を眺めた。咲路は恐ろしさよりも喜びを感じていた。
羅聖がその全てを食した時だった。羅聖はナイフとフォークを机に落とし、ゆらりと身体が横に傾き、地面に倒れ込む。
咲路は一瞬呆けていた。
いったい何が起きたのだと。
しかし直ぐに弾かれるように席を立ち、咲路は羅聖に駆け寄る。彼は呼吸をしていない。彼は心臓を動かしていない。確かめて理解した。彼は死亡している。
「そんな……」
まだ温かいままの羅聖を腕に抱きかかえる。
「嫌だ、嫌だ、いくな、いくな羅聖。一人にしないでくれ、俺を一人にするな、ずっと傍にいてくれ……っ」
柔らかすぎる羅聖の身体を揺する。
「しっかりしろ、羅聖、羅聖!」
彼は目を覚まさなかった。
「頼む、お前だけなんだ。目を開けてくれ。お前だけなんだお前しか信じられないんだお前しか愛せないんだ、お前しか要らない。お前しか要らないから目を開けて。俺を一人にするな。嘘つき。約束したじゃないか……俺の夢を叶えてくれるって言ったじゃないか。ずっと一緒にいてくれるって言ったじゃないか……っ! 目を開けろ、頼む、羅聖、羅聖……」
──羅聖はピクリとも動かない。
何度呼び掛けても、返事をしない。手を握っても、抱き締めても、いつものように返してはくれない。死ぬのか、もう死んでいるのか、それともまだ生きているのか。
分からない。分からない。
羅聖は咲路に父から学んだ事を教えていた時、彼を天才だと褒めた。咲路はその時の事を思い出していた。
本当にそうか?
ならどうして死に行くお前を助けられない。
俺は無能だ、未熟者だ。
落ちこぼれのガキんちょだ。
お前がいたからここまで来れた、お前がいたから天才になれたんだ。お前無しじゃ何をすれば良いのか分からない。お前がいないと必死になれない。
一人にするな、広すぎる。
ここは広すぎる。
俺だけでは広すぎる。
お前と屋敷で過ごしてきて、幸せだった。それはお前が隣にいたからだ。隣で俺を見ていてくれたからだ。俺はお前がいないと生きている意味がない。いっそお前の隣で一緒にくたばってしまおうか。
──嫌だ。嫌だ嫌だ。
俺はお前ともっと長く生きたいんだ。もっと長く一緒にいたいんだ。こんなところでお前を死なせてたまるか。俺の心臓を食べた事でお前を死なせるなんて、そんな事許してたまるか。
どうすれば良い。考えろ。失いたくないなら考えろ。
『ようは血を循環させられれば良い』
ふと、彼の言葉が脳裏に過る。心臓について研究していた彼が言っていた様々な言葉の中の唯一理解出来た言葉だ。
──血が、循環……。
「……こいつの循環装置が停止したのか」
考えろ。考えろ。止まったなら、動かせば良い。動かす為にはどうすれば良い。
「──循環装置の復元……修理。確か実験の記録をしていたな。修理についての説明書があるかもしれない。ダメだ、専門用語も何も分からない。何より羅聖ならすべて頭に叩き込んで処分しているかもしれない。あったとしてもまず解読する事にさえ時間が掛かってしまう」
ならどうすれば良い。どうすれば良い。こうしている内に彼の身体がどんどん冷たくなっていく。冷たく……。
冷えた彼の指先に触れながら、頭の中に再び彼の言葉が思い浮かんだ。
『冷凍だ。冷凍しながら作ったんだ。腐ってしまっては意味がないからな』
──冷凍。そうだ、冷凍だ。冷凍しよう!
「……手術室、まずは手術室に連れていく!」
彼の膝下と肩を掴み、身体を抱き上げる。部屋を飛び出し、一心不乱に廊下を駆け抜けていく。こんなに走ったのは初めてだ。狩りの時は身を潜め、森の中は迷わぬように慎重に、体力も温存する為に軽めに走る。全力疾走などした事がない。
そもそも、こんなに必死になった事すらない。
「それから、それから、冷凍室……っ」
咲路は目を覚ましてすぐ、屋敷のダイニングキッチンに向かった。食卓に並ぶ自分の心臓を見て不思議な感覚に陥った。生のままなのか、血が皿いっぱいに溜められている。
羅聖はさんざん心臓を愛撫した後に、ナプキンを首から掛け、ナイフとフォークを使い一口一口味わうように食していく。口の端から血が流れる姿が麗しかった。血抜きをし、焼いてはいるが、咲路も同じようにナイフとフォークを使いウサギの肉を食べていた。扱えずに結局丸かじりしていたのだけれど。
咲路は自分の心臓を食べる弟の姿を眺めた。咲路は恐ろしさよりも喜びを感じていた。
羅聖がその全てを食した時だった。羅聖はナイフとフォークを机に落とし、ゆらりと身体が横に傾き、地面に倒れ込む。
咲路は一瞬呆けていた。
いったい何が起きたのだと。
しかし直ぐに弾かれるように席を立ち、咲路は羅聖に駆け寄る。彼は呼吸をしていない。彼は心臓を動かしていない。確かめて理解した。彼は死亡している。
「そんな……」
まだ温かいままの羅聖を腕に抱きかかえる。
「嫌だ、嫌だ、いくな、いくな羅聖。一人にしないでくれ、俺を一人にするな、ずっと傍にいてくれ……っ」
柔らかすぎる羅聖の身体を揺する。
「しっかりしろ、羅聖、羅聖!」
彼は目を覚まさなかった。
「頼む、お前だけなんだ。目を開けてくれ。お前だけなんだお前しか信じられないんだお前しか愛せないんだ、お前しか要らない。お前しか要らないから目を開けて。俺を一人にするな。嘘つき。約束したじゃないか……俺の夢を叶えてくれるって言ったじゃないか。ずっと一緒にいてくれるって言ったじゃないか……っ! 目を開けろ、頼む、羅聖、羅聖……」
──羅聖はピクリとも動かない。
何度呼び掛けても、返事をしない。手を握っても、抱き締めても、いつものように返してはくれない。死ぬのか、もう死んでいるのか、それともまだ生きているのか。
分からない。分からない。
羅聖は咲路に父から学んだ事を教えていた時、彼を天才だと褒めた。咲路はその時の事を思い出していた。
本当にそうか?
ならどうして死に行くお前を助けられない。
俺は無能だ、未熟者だ。
落ちこぼれのガキんちょだ。
お前がいたからここまで来れた、お前がいたから天才になれたんだ。お前無しじゃ何をすれば良いのか分からない。お前がいないと必死になれない。
一人にするな、広すぎる。
ここは広すぎる。
俺だけでは広すぎる。
お前と屋敷で過ごしてきて、幸せだった。それはお前が隣にいたからだ。隣で俺を見ていてくれたからだ。俺はお前がいないと生きている意味がない。いっそお前の隣で一緒にくたばってしまおうか。
──嫌だ。嫌だ嫌だ。
俺はお前ともっと長く生きたいんだ。もっと長く一緒にいたいんだ。こんなところでお前を死なせてたまるか。俺の心臓を食べた事でお前を死なせるなんて、そんな事許してたまるか。
どうすれば良い。考えろ。失いたくないなら考えろ。
『ようは血を循環させられれば良い』
ふと、彼の言葉が脳裏に過る。心臓について研究していた彼が言っていた様々な言葉の中の唯一理解出来た言葉だ。
──血が、循環……。
「……こいつの循環装置が停止したのか」
考えろ。考えろ。止まったなら、動かせば良い。動かす為にはどうすれば良い。
「──循環装置の復元……修理。確か実験の記録をしていたな。修理についての説明書があるかもしれない。ダメだ、専門用語も何も分からない。何より羅聖ならすべて頭に叩き込んで処分しているかもしれない。あったとしてもまず解読する事にさえ時間が掛かってしまう」
ならどうすれば良い。どうすれば良い。こうしている内に彼の身体がどんどん冷たくなっていく。冷たく……。
冷えた彼の指先に触れながら、頭の中に再び彼の言葉が思い浮かんだ。
『冷凍だ。冷凍しながら作ったんだ。腐ってしまっては意味がないからな』
──冷凍。そうだ、冷凍だ。冷凍しよう!
「……手術室、まずは手術室に連れていく!」
彼の膝下と肩を掴み、身体を抱き上げる。部屋を飛び出し、一心不乱に廊下を駆け抜けていく。こんなに走ったのは初めてだ。狩りの時は身を潜め、森の中は迷わぬように慎重に、体力も温存する為に軽めに走る。全力疾走などした事がない。
そもそも、こんなに必死になった事すらない。
「それから、それから、冷凍室……っ」
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~
双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。
なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。
※小説家になろうでも掲載中。
※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる