リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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バシリアス ※BL

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 お腹いっぱいになったからか、大冒険に疲れたからか、眠気が生じ、咲路のベッドで寝かせて貰っていた。
 天色の髪の頭を掴まれ、喉笛に硬くて冷たいモノが当たっている。薄く、平べったいそれが、少しずつ肌にめり込んでくる。静かに目を開けると、目前の瞳が大きく見開かれ、持ち主の肩がビクリと震えた。
「──何をしているんだ……」
「調理だ」
「ボクを食べる気なのか、咲路」
「2ヶ月は肉を食えてない。お前を捌けば4日間は持つ」
「人肉は臭いぞ」
「臭みを充分に取れば大丈夫だ。豚も牛も鳥も、皆臭いだろ」
「どんな病気が起こるか分からないんだぞ。それでも食べるのか?」
「充分に加熱すれば大体の肉は大丈夫だ。それに少しは耐性が付いている筈だ」
「それはありえない。動物の肉を食い続けてきたから人肉に慣れたなんて話は聞かないだろう」
「人肉を食って死んだ話も少ない」
「そもそも食う奴が少ないからな。それに人肉は不味いらしいぞ。臭みの強い猪肉や不味いと言われる猿肉に例えられるらしいな。それでも食べるのか?」
「子供と女の肉は柔らかい」
「……もっと美味しく食べられる方法を知ってるぞ」
「何だって?」
「食欲と性欲を同じように感じれば良いんだ。人肉を食べる事に性欲を感じろ。ボクを食べるなら上手く調理して美味しく食べてくれ。さあ……そのナイフで捌いてみろ」
 シャツのボタンを一つずつ開けていけば、咲路の唇が震えて、カレの喉がごくりと唾を飲み下した。咲路の眼は揺れている。カレの手を引いて、自分(ジブン)の胸に触らせる。
「──ぁ……」
「何だ、どうした?」
 咲路の頬にじわりと赤みがのる。
 カレの端麗な顔立ちが迫ってきて、唇に熱い吐息が触れる。口付けされそうになり、慌てて顔を逸らした。カレの肩を掴んで引かせる。
「一体何をしているんだオマエは……狂ったのか?」
「美味しく食べてやるんだ。お前が言ったんじゃないか……」
 掌をするりとシャツの中へ忍ばせ、上半身のあらゆるところを撫で始める。荒い息遣いに興奮の色を浮かべていた。ベッドに手を付いて、更に顔を近付けてくるカレは、冷静な判断が出来なくなっているようだ。喫食時に感じなくてはならない性欲を何故今感じているのだ。
「やめろ。ふざけるな」
 狙ってくるカレの口元を塞いで押し退ければ、カレの双眸が曇りを帯びて、鋭く尖る。口から手を離してやれば、「ふざけてなんかない。何で止めるんだ」と強い口調で攻め立ててくる。
「食べる時に性欲を感じろ。ボクの身体に性欲を感じてどうする」
 それを聞いた咲路の顔が、一瞬にして赤く染まった。
「──な……っ!? ち、ちが──ッ!?」
「何だ、違うとでも言いたいのか? 瞳の奥をギラギラさせて舐めるような目付きで見てきた癖に」
「み、見てねえッ!?」
「ふん。文句を言うならその手を退けろ」
「さ、触らせてきたのはお前──……っ!」
「別にそう言うつもりで触らせたつもりじゃない」
「なら、どう言うつもりで……っ!」
「はぁ? ボクを捌くんだろ?」
「た、他人の身体なんて見た事ないし、触った事もないから興奮しただけで……! ――あ……」
「認めたな?」
 する……と冷たい手が胸を撫でて、ぞくりと背中に悪寒が走る。
「──何処にどんな風に刃を入れるか考えるとゾクゾクするんだ」
 カレは人差し指を出して、ヘソの横に爪を軽く押し当てる。それを皮膚の上で滑らせて口角を上げた。
「……分かるよ」
「え……」
 嬉しそうな顔をするカレに同感し、歓喜の視線を向ける。
「何処にどんな風に刃を入れるか、何処にどんな風に針を刺すか、どうやって血を抜くか、どんな風に血が溢れ出てくるのか、オマエを見ているとゾクゾクする」
「え……?」
 起き上がり、カレの肩を掴んで離さない。相手と焦点をがっちりと重ねながら自分(ジブン)が久しぶりに興奮しているのだと気付いた。
「捌く事は出来ないが解剖ならしてやれるぞ」
「え、待って……?」
「脱げ」
「ま、待て!? お、俺は今お前を食べようとしていてだな……!?」
 凄い、凄い、凄い。
 こんなに人を知りたいと思うのは初めてだ。何故コイツがボクを食べようとしたのか調べたい。コイツの頭が可笑しくなったのは胃が空っぽだからか? なら、どれほど空いているんだ? 完全に〝空っぽ〟なのか、胃液の中に何らかの食物の破片が残ってはいないだろうか。
 咲路は、服を脱がしていくと「お、おいおい……!?」とわたわた手を振っているだけで、抵抗をするのを忘れている。病的に白い肌が闇に映えて浮かび上がる。それに手を伸ばし、掌を這わせると「ひゃっ……!?」とカレは間抜けな声をあげてビクンと震えた。
「血管が丸見えだな……。針を刺したらどうなるんだろう」
 透明な肌に青緑の血管がうっすらと見える。それに沿ってなぞっていく。擽ったいらしく、「ひっ、ひゃ、ぶ、っはは!」と肩を揺らして笑っている。やっぱりこの人頭可笑しいんじゃないだろうか。
「……〝異常者〟ってあながち間違ってないのかもな……」
「あのジジイがそう言ったのか?」
「父親に向かってジジイはないんじゃないか?」
 肌から手を引くと、咲路はホッと息を吐く。もう一回ちょんっと触ってみると、咲路は「ひぎゃっ!?」と肩を上げて固まってしまった。……面白いなコイツ。
「解剖なんて冗談だ。変態にやり返してやっただけだよ。――死にたくないんだろ? 飯なら明日持って来てやる」
「な、何言ってるんだよ。そんな事許される訳が……」
「そうか? 馬肉なら貰って来れるぞ。子馬の柔らかい肉だ」
 子馬の柔らかい肉と聞いた瞬間、カレの瞳が輝いた。
「……な、何でそう言い切れるんだ?」
「オマエの存在を知ったのは使用人達が噂していたからだ。馬一匹いなくなったって誰も気付かないとも言っていた」
 それを聞いたとたん、ぱぁぁっと表情が明るくなった。
「大好きっ!!」
 咲路はそんな事を言って、突然抱き付いてくる。……餌付けしているみたいだ。単純な奴だな。
「──ボクではなくて使用人達に抱き付いてやれ」
「無理だ。俺は2度とあんなところに戻るつもりはない」
「何だと? 本気か?」
「元から父とはそう言う約束だった。生きる代わりに死んだフリをしろと」
「ボクはオマエが存在していた事すら知らなかった。〝死んだフリ〟なんて言葉じゃ不釣り合いだ」
「まあ俺も、弟がいるなんて思わなかったけどな」
ニーさんがいるなんて嬉しい。と言うか、咲路がニーさんなのが嬉しいよ。無駄に色男だし」
「まだ俺9歳なんだけど?」
「それにしては若く見えるね」
「あれ、俺今色男って言われたよな?」
「きっと幻聴だよ」
「い、いや……無理があるだろ」
 充分に栄養摂取出来ていないせいで成長が遅れているのだろう。咲路とは歳が4つ離れている筈なのに、差と言えば背が少し高いくらいだ。背以外を比較しても大体同じに見える。
 それにしても──カレは雪のように肌が白い。闇の中では蒼白く発光しているようにも見えるし、とても綺麗だと思うけれど、何だか少し不気味だ。
 もう一度、掌をカレの胸に置く。一見寒々しいのに、触れた肌の温もりは暖かい。少し熱すぎるくらいだ。
 撫でながら胸の中心に移動させ、伝わってくる振動に夢中になっていた。脈の打たれる感触が掌に感じられる。徐々にカレの鼓動が速くなっている。興奮で喉が絞まり、息がしにくい。この時、ボクの口角は無意識の内に上がっていた。目を輝かせて、息を荒くして、歓喜に震慄していた。
「──お前、名前は?」
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