リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

文字の大きさ
上 下
19 / 299
カナキリ

19

しおりを挟む
 天地が目を覚ました時には、幡多も天地も能力協会のベッドに寝かされていた。
『『母さんッ!!』』
「うッ!!」
「!?」
 すぐ傍で小さな悲鳴と血飛沫が上がり、天地は動揺する。
 ベッドの傍で天地が目を覚ますのを待っていたラ矢は血液が流れる腕を手で押さえる。
「天地。叫ぶな!! 能力協会が崩れる!!」
「は、はい……」
 天地は精神状態が不安定で、イダのコントロールできなくなっている。
 天地が不安がっていると、聖唖と病み上がりの幡多が天地の寝かされる部屋へ入ってくる。
「大丈夫だ」
 聖唖がそう言って頭をなでると、天地は安心したように目を瞑り、眠りについた。疲れがあったのだろう。
「ラ矢、緑龍子だ」
 幡多がそう言ってラ矢の傷ついた腕にクリーム状の緑龍子を塗る。
 幡多の顔面にラ矢の肘がめり込んだ。
「触るな」
「酷い」
 二人の様子を見て微笑んでいた聖唖が「そういえば……」と顔を顰める。
「天地が叫ぶ時、魔法陣の出現がなかったな」
「魔法陣?」
「普通カナキリは叫ぶ時にイダをコントロールできる魔法陣が地面に現れるんだが……」
「そんなのあるか?」
 その質問にはラ矢が答える。
「ディーヴァにも出現する。でも光の粒が集まってできる魔法陣だから昼間は分かりづらい」
「へえ……聖唖には昼間でも見えてるってことか?」
「うん。ちなみにハインやシインは赤色だ」
「うお、さすがに街を破壊するだけある」
 でもなぜ天地にはそれがないのかと疑問に思っていた時だった。
「大変だ聖唖!!」
 ジェキシインが扉を開け放ち、部屋に飛び込んでくる。
「何事ですか」
 幡多が問えば、ジェキシインが息を荒げながら言った。
「ヒグナルから宣戦布告だ。能力協会とヒグナル……戦争になるぞ」



        ◇◇◇



 閻夏供家は来聖学園の南側、超高層ビルの中にある。
 ビルの中に屋敷が建っており、ビルの壁はなく、上のビルは合計四本の柱で支えられる屋敷の外に出たら直接外を眺めることもできる。これも緑龍子のなせる業だ。
 風は酷く吹き付けられている。
 成はそんな風を浴びながら、ビルの床に植え付けられる芝生に正座していた。
 屋敷の前に立つ、一人のお婆さんが言った。
「ヒグナルと能力協会は近々戦争になるだろう、カナキリを大量に殺せるチャンスだ。今度こそ失敗は許されんぞ」
「はい。かならず使命を果たして見せます」
「國哦伐の者にも協力を願っておいた。仲良くしなさい」
「はい……」
 真黒との一件を知っているのか、そんな忠告をされる。
 お婆さんがいなくなると、真黒が屋敷の中から団子を咥えながらやってくる。
「俺は客だってのにこんなしけた菓子だしやがって。なあなああありいい。お前が何か用意しろよ」
 肩を抱いてくる真黒に、何もせず黙ってされるがままになる成。
 真黒はにやりと口角を上げて、団子を芝生に捨てて、寂しくなった口のために成の唇に噛みついた。
 吸い付かれ、しゃぶられるが成は抵抗しない。
「つまんねえ女だな。お前」
「…………っ」
 真黒は去り、成は涙目になる。
 カナキリは敵だ。成の両親を殺した、憎むべき相手だ。
 成は歯を食いしばる。
 たとえ知り合いでも友人でも殺してきた。今更後悔してはいない。
 だが……天地の言葉が今更胸に来る。
 私は人殺しなのだ、と。



        ◇◇◇



「戦争になる前にカナキリを保護してくる。ちょうど拠点を3か所潰す任務がある。少しでも戦力を削ぐ」
「今からってえげつねぇ……」
 幡多と聖唖は慌ただしく廊下を歩いていた。
「カナキリを保護できたら彼らもいち早く修行させ、戦力にしよう」
 幡多がそれを聞いて、待てよ、と呼び止める。
「それじゃあいつ等を武器として扱う奴らと一緒じゃないか!」
 聖唖は歩みを止め、幡多に向き直る。
「彼等は私達の保護下にある、だがいつでも私達が守ってやれるわけじゃない。私達はコントロールする術を教えて人間として暮らせるようにしてやるだけなのか。戦い方も教えてやらないと、自分の身を守ると言うことを教えてやらないと生き残れないぞ」
「聖唖……」
「だがそれは一歩間違えば殺人だ。身を守るために殺すのではなく、倒す。本当にカナキリを自由にしてやるには敵を倒すしかない。自分と同じ者を助けるしかない。無理にとは言わない。協力を頼み込むだけだ。否定はしない、幡多、私達は化け物だ。人間として暮らそうとしようと、人間じゃないんだ。狙われ続けるだろう、力を過信して飲まれるかもしれない、そうしてカナキリは怯えて生きているんだ。ヒグナルはそんな奴等を増やして道具として扱っている。どちらにせよ、全面戦争となれば多くのカナキリを保護することになる。全員を保護するには同じ境遇のカナキリの数も支えられる協会員の数も足りない」
「道具としてでなく、俺達は人員として補充するって事だな」
「彼らの意思を尊重する。戦争だ、死人も出る。幡多、君も決めるんだ、この戦争に参加するかどうか」
「聖唖はどうするんだ?」
「私は助けると約束したからな」
「そうかよ。じゃあ俺もじゃん」
「バカなんじゃないのか」
「お前こそ、バカなんじゃねえの?」
町の住民を避難させ、急遽たてられた作戦が実行される。
聖唖がヒグナルの拠点からカナキリたちを奪うのだ。
その際、聖唖はハインと鉢合わせていた。
「君様が言っていた、まさか向こう側から戦争を挑まれるとは思わなかったと」
「そりゃそうだろう、君たちから仕掛けるつもりだったのだから」
「こうも言っていた」
「……?」
 聖唖は首を傾げる。

「戦争が始まる」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

愛娘(JS5)とのエッチな習慣に俺の我慢は限界

レディX
恋愛
娘の美奈は(JS5)本当に可愛い。そしてファザコンだと思う。 毎朝毎晩のトイレに一緒に入り、 お風呂の後には乾燥肌の娘の体に保湿クリームを塗ってあげる。特にお尻とお股には念入りに。ここ最近はバックからお尻の肉を鷲掴みにしてお尻の穴もオマンコの穴もオシッコ穴も丸見えにして閉じたり開いたり。 そうしてたらお股からクチュクチュ水音がするようになってきた。 お風呂上がりのいい匂いと共にさっきしたばかりのオシッコの匂い、そこに別の濃厚な匂いが漂うようになってきている。 でも俺は娘にイタズラしまくってるくせに最後の一線だけは超えない事を自分に誓っていた。 でも大丈夫かなぁ。頑張れ、俺の理性。

【R18】淫魔の道具〈開発される女子大生〉

ちゅー
ファンタジー
現代の都市部に潜み、淫魔は探していた。 餌食とするヒトを。 まず狙われたのは男性経験が無い清楚な女子大生だった。 淫魔は超常的な力を用い彼女らを堕落させていく…

【R18】騎士たちの監視対象になりました

ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。 *R18は告知無しです。 *複数プレイ有り。 *逆ハー *倫理感緩めです。 *作者の都合の良いように作っています。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)

幻田恋人
恋愛
 夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。  でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。  親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。  童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。  許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…  僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…

処理中です...