リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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カナキリ

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 と天地は思ったが、今は亡き研究者の記したものらしかった。
 講演が終わり、天地は幡多と共にまた訓練へと戻った。
 そうして、ちょっと物を壊したりしてしまうものの、緑龍子が溢れる部屋にて訓練をするカナキリ達と一緒に修行できるようになる。
 能力協会とは協力関係であると言う来聖学園は、緑龍子を手に入れやすく、見事復旧し、天地も普通の学校生活に戻ることとなった。休校となっていた分、夏休みが減るだろうが、復旧が早かった為減る日数も少ないだろう。
 天地が学校から家に帰りついた時だった。
 どこからともなく女性の金切り声が聞こえてきて、ハインほどではないものの周辺の地面が縦に揺れ天地の家が崩壊寸前になる。
 天地は切羽詰まったような顔で幡多の前を駆け出した。
「母さん!」
「天地、気をつけろ!」
 今日は金曜日だが、天地の母親も仕事が休みで、家にいたのだ。
 崩壊寸前の建物でも、天地なら大丈夫だが、母親は大丈夫ではないだろう。
 ヒグナルも、天地が標的のカナキリであると特定したらしかった。だから、彼の配下にあるカナキリを送り込んで来たのだ。
 天地が母親を家の裏庭へ避難させていた頃、幡多はハインと対峙していた。
「ハイン……! 聞いたぞ、君の名前は野口波燐、天地と幼馴染だったんだろ!?」
「君様の命令に従うだけだ」
「くそっ、お前も洗脳されてるのかよ……!」
 天地が戻ってきて、
「俺も闘います! 母さんを守る為に」
 と幡多に向かって言った時だった。
 ハインの隣に、すとん、と一人の少女が降りてきたのだ。
 その可愛らしさに、幡多はぽけ、とする。
 全身真っ黒なワンピースを着た少女だ。
 天地は一瞬、意識が飛ばされていた。
「し、し……りん? お前こんなところで何してるんだ……」
「…………」
 天地は大きく口を開け、叫ぶ。
「はやくここから逃げろ子林!」
「君様の命令に従うだけよ」
 天地はゾッとする。
 あの子林が、ハインと同じことを言ったのだ。
 幡多は彼女をじっと見てから、眉を歪に曲げてから言った。
「あ、天地、そのお嬢さんは資料で見たことがある」
 天地は歯を食いしばって俯いた。
「ヒグナルの配下のカナキリ。シインだ」
 天地は叫び出しそうになるのを耐えた。問い詰めて、問い詰めて、問い詰めてやりたかった。
 シインはずっと無表情だった。ハインもそうだ。
 洗脳されているのだ、ヒグナルと言う男に。裏社会の豪商に。
「天地、よく耐えた、さっきもコントロールできてたぞ」
「はい……」
 スマホの『ドスコイドスコイぃ!』と言う音が鳴り、シインが着信に出る。
『シイン。刺激は与えられたかな。彼の様子はどうだ』
「いいえ。私が敵でも力をコントロールできているようです」
『そうなのか。残念だね。じゃあ、家族ならどうかな?』
「はい」
 幡多は指輪に触れ、天地の背を支えながら問いかける。
「今の電話は、ヒグナルからだな? 何を言われた?」
「ハイン、君様から命令よ」
 シインは幡多を無視してハインに向き直る。
「なんと?」
「家族を攫えと」
 幡多が口を開け放つ。
「そうはさせるか!」
「子林!!」
 シインが天地の母親の元へ行こうとする。幡多がそれを止めようと走れば、ハインがその前に立ちはだかった。天地はシインを追いかける。
 天地は叫び声を上げるが、シインも同じように声を上げかき消される。天地のコントロールで抑えた声では、シインを撃退することができないのだ。
 コントロールせず、思い切り叫んだら彼女を止めることができるのだろうが、また大きな被害が出るだろう。
 そう考えて立ち尽くしていると、天地の後方から前方へ、ハインに殴られた幡多が吹っ飛ばされていく。彼は家にめり込み、家を崩壊させた。
「幡多さん!」
 天地が駆け寄ると、女性の悲鳴が聞こえてくる。
「子林ちゃん、どうしたの! は、離して、お願い!」
「…………」

『『子林ッ!!』』

 天地の叫び声に、シインが吹き飛ばされ、塀に背を打ち付ける。
「子林、お前も洗脳されてるんだろ、能力協会に来れば洗脳を解いてもらえる。保護してもらうんだ! 普通の生活に戻れる!」
 シインはゆっくりと立ち上がり、柔らかく微笑んでいった。
「何を言っているの?」
 天地はその声の低さに怯む。
「今の生活が一番幸せなの。君様がいて、ハインがいて、他にもたくさん家族がいるわ。叫ばないようにって我慢する必要もない。いっちばん幸せな状態よ」
「人を傷つけて何が幸せなんだ!!」
「コントロールできてるじゃない。コウシ。でも貴方は我慢しているんでしょう。本当はもっと思い切り叫びたい筈よ」
「な、何言って」
「分かるの。私もそうだった。こっちにいらっしゃい。幸せよ」
「お、俺は――……」
 天地が目の色を変えた時だった。
「――――ダメ!! コウシ、あなたは人を傷つけちゃダメよ!!」
 天地はハッとして元の目つきに戻る。
 怯えることはあっても決して燃え尽きることのない闘志を持った目つきだ。
「か、母さん」
「邪魔だわ……」
 シインが天地の母親を蹴り倒す。

『『『やめろ!!』』』

 子林の腕に二つの傷がつく。母親から血しぶきが上がり、天地は思わず口を押さえた。
「いいわ。いい感じに刺激されてきたじゃない。コウシ」
「…………っ」
 天地はこれ以上叫ぶことを躊躇した。人間である母親が傷ついてしまうからだ。
 幡多も無事かどうか分からない今、天地はこの状況を自分でどうにかする方法が分からなかった。
 でも、今何かしないと母親が攫われてしまう。
 そう思った時だった。
 後頭部に、衝撃が走り、鈍く激痛が生じて、脳が揺さぶられ、ゆっくりと視界が霞んでいく。
 天地は前方へ倒れ、気を失った。
 ハインが天地の後頭部を瓦礫で殴ったのだ。
「コウシ!!」
「黙ってくれる?」
 シインは母親に手刀でみねうちし、気を失わせる。
「コウシも連れて行く?」
「そうしよう」
 天地と母親が連れていかれそうになった時だった、シインの腕に、鉛玉が命中する。
 ハインが振り返った瞬間、真っ白な肘が彼の頬に直撃した。
 天地をその白い腕に奪い取られる。
「くっ」
 ハインは後方に吹っ飛ばされながら、体勢を立て直す。
「人間最強……」
 聖唖は天地を担ぎ。ラ矢はその隣で銀色の銃を構えた。
「連絡遅いぞ、幡多の奴……」
「そういう奴だから。幡多には早くとか無理」
 ハインが叫び声をあげ、ラ矢は身体に傷を負う。
 ラ矢の安否を聖唖が気にした時だった。叫び声がやみ、振り返る。
 既にハインもシインも姿を消しており、天地の母親は連れ攫われてしまった。
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