リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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ディーヴァ

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 助けを求める相手が間違っていると分かっている。
 命を狙われている相手に助けを求めるなんて、自分はなんてバカなんだろうと。
 奏は胸が引き裂かれるような思いで声を絞り出した。
「かな、た」
「どうして俺じゃなくてカナタなの? 酷いよ奏!」
「ば、かみどの」
「あはははははは! 奏は相変わらず可愛いなぁ」
 ミドノは数発弾を撃ち放ち、奏の背中に座り、空いた穴に親指を突っ込んだ。ぐちぐちと、かき混ぜて肉を抉り爪で引っ掻く。
「うっ、ぐっ……」
 親指に押される度に血液が噴き溢れ、奏が小さく悲鳴を上げる。
 また、親指は奏の背中に埋もれた鉛玉を肉と共に抉り出していく。
「あれ、声出ないの?」
「だれが、あんたのために苦しんでたまるもんですか」
 親指を抜けば、奏の背中は元通り白い肌へと変貌する。
 ミドノはその肌に滴る血液を舌で舐め取った。
「ひえっ!」
「奏はさ。俺たちのどっちが好きなの? どっちに殺されたい?」
「どっちにも殺されたくないわよ!」
 奏が叫ぶように言った後、嗚咽を漏らすと、ミドノは眉を寄せてから、笑って言った。
「泣いてるの? 大丈夫だから、安心して。俺がすぐに幸せに殺してあげるから」
「バカミドノおおお!」
 なんで笑顔でいられるのよ、なんで私の知ってる笑顔なのよ。もっと病んでる顔とか殺人鬼みたいな顔してなさいよ。こんなの、残酷よ。
 いつものミドノみたいに心配顔をしないでよ、いつものあなたみたいに笑わないでよ。凶悪な顔されるより、ずっとずっと残酷だわ。
 奏が涙を押し殺して耐えていると、頭上からヘリの羽音が聞こえてきて、頭上を見上げる。
 ミドノの優しい笑顔の向こう側に、《姫存軍》と書かれたヘリが現れた。
ヘリの中から縄梯子が降り、縄梯子の端を掴み、赤銅色の髪に青と白のメッシュの入った頭の男が滑り降りてくる。
 奏はその特徴的な頭を見て、今までの痛みも苦しみも全て消し去るような感覚に陥った。
「お兄ちゃん……!」
 ミドノに髪を引っ張られながら、唯一信頼できる存在となった人物の名前を呼ぶ。
「助けて、助けてお兄ちゃん!」
 お願いします、貴方だけは変わらないでいて。
 奏は祈りながら、駆け寄ってくるその姿に手を伸ばす。
 相手は銃を構え、近づいて来た。
 奏は絶望の淵へ落とされるような感覚にあった。
 自分より高い位置にある銃口、ミドノを狙っているのだ。
「ミドノ!」
 銃声の鳴る直前に、奏がミドノに覆い被さり、銃弾を避け切ることが出来た。
「な、何してるんだ奏!」
 動揺したようなお兄ちゃん――楽ドらどの声が聞こえてくる。
 ミドノは銃を投げ出し、奏の背に手を回した。
「ミドノ?」
「奏から抱きついて来るなんて初めてだね」
「ハア!? バカなんじゃないの!?」
 バチイイインッとミドノの頬を叩き、奏はその上から退き、ミドノが気絶している間に、ラドの元へ走った。
 その前に銃口を向けて来るカナタが立ちはだかる。
「お前の銃とこっちの最新兵器の差は歴然だ。引き金引く前に頭を吹っ飛ばすからな」
 ラドがそう言って、最新兵器だと言う銃に似た兵器を遠くからカナタに突きつける。少しずつ距離を縮めてくるラドを見て焦りを覚え、奏は言った。
「こ、殺して。お願い、カナタ」
「は?」
 カナタが呆ける。
 それでも奏は必至だった。
「私、ミドノだけには殺されたくない」
 その言葉を聞き、カナタは納得したようで。
「俺もそう思う」
「お願い」
「分かった。あいつよりも先に殺してやる」
 ――引き金を引こうとする。
「あ、ちょっと待って。ミドノに伝えたいことがあるの」
 奏がそう言えば、カナタは最期だからとその頼みを承諾した。
「……じゃあ、これに言え」
 ミドノは気絶している、カナタは録音機を差し出し、録音ボタンを押した。
 奏が録音機に声を吹き込むと、カナタは驚いた顔をして、泣きそうな顔になって引き金を引こうとする。
 奏は目を瞑ったが、安らかな顔をしていた。
 頭の中にあるのはミドノとカナタと過ごした日々だ。
 奏はとてつもなく死にたかった。
 親友二人に殺されそうになるのは怖い、でも殺したいと思われてずっと追い続けられることも怖かった。
 死んだ方がマシだと思った。
 しかし。それは叶わず。
 カナタの手首を、ラドが掴み――――一瞬で、真上へと向けられる。
 銃弾は空中に放たれ、銃声が町中に響き渡った。
「くそっ」
 カナタはラドの手を振り払おうとしたが、その前にラドが兵器の柄でカナタは気絶させられる。
 ラドは奏に向き直る。
「お兄ちゃん!」
「奏!」
 互いに抱きしめ合い、ラドはよしよしと奏の頭を撫でる。
 スーツにいつもの香水の匂いがして、奏は安心した。
 安心はしたが、死にたかったのでラドを責めもした。
 どうして邪魔するのよ。
 ――心の中でだが。
「大丈夫だったか? イケメンのお兄ちゃんが助けに来てやったぞ」
「イケメンは余計だけどありがとうお兄ちゃん」
 そう。この近所のお兄ちゃんもKUSOGAO共の仲間なのよ。まあ助けに来てくれたから許してあげるしかないわね。
 にしても長い。もういいんですけど。
「どうしてお兄ちゃんがヘリから登場するの?」
「話は後だ。とにかく掴まれ」
 ラドは縄梯子に腕を回し捕まり、奏に反対側の手を差し出す。
 奏はその手を取る前に迷った。
 気絶から逃れたらしいカナタの向けてくる銃口と、ラドの回された手にあるカナタに向けられる銃口に。
 奏は決心し、ラドの手を掴んだ。
 親友二人に殺されそうになるのは怖い、でも殺したいと思われてずっと追い続けられることも怖い。
 親友二人に殺されたらと思うと、もっともっと怖い。
 すべてが同じ結果であることに気が付いて、奏は死ぬより生きる選択をした。
「や、やっぱり私は自分で死ぬから!」
 奏はそう言って、ヘリと共にその場から逃げたのだった。
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