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エンタイア
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アリシアはアリアの部屋のベッドに横たわっていた。
荒い呼吸をするアリアが落ち着きを取り戻すように深呼吸をすると、その間にアリシアは彼女の下から這い出る。
「え? 今めっちゃ途中だよ」
「他の人の所に行くわ」
「今度は誰」
と聞かれて、アリシアは「さあ」と答えた。
アリシアは自分の部屋へ一度戻り、シャワーを浴び、服を着替える。
しばらくして、アリシアは地下室の扉の前に立っていた。
ゼジはおらず、灰色の髪のゼラと言う少年がゼノを監視しているようだった。
ゼノはあの日から全く外に出ていないようだ。
アリシアは暗証番号のキーボードに緊急コードを入力し、扉を開く。
そうしてから、いつも通りゼノの隣に座る。
アリシアは彼に何か食べさせようと、仕事の後ご褒美に貰える菓子類を持ってきたが、ゼノはそれらを食べる様子がなかった。
袋を開けて中身を口元に近づけると、ゼノに「食べなくても死なない」と言われ、「そう」と答える。アリシアは菓子を全部一人で食べた。ゼノはそれを見て真顔になる。
「美味しそうって思ってるんでしょ」
「別に」
「そう」
そう言うと、それっきり何も言わず、アリシアはただ隣に座って同じ時を過ごす。
やっと距離の取り方を覚えたか、とゼノは思って笑みをこぼした。
真っ暗な部屋の中、ゼノは隣に誰かがいる気配にどこか安心感を覚えていった。
自分以外の何かがいるだけで落ち着かなかったのに……。
……彼女の存在が、嫌ではなかった。
◇◇◇
ゼノは拘束され、地下室の冷たい地面に倒れ伏していた。打撲痕が真っ白な肌の上に植え付けられ、身体中にある蚯蚓腫れは痛々しかった。
彼の前で仁王立ちし、鞭と鉄の棒を何度も持ち替え、それを振るう男が言った。
「シティアに近付くな!!」
ヒグナルは鉄の棒でゼノの腹や背中をタコ殴りにし、怒鳴り続けた。
その後ろにはアリシアもいて、ずっと戸惑ったような顔をしている。それを見たヒグナルはさらに激昂し、ゼノに掴みかかった。
「何故お前ばかりに――何故お前なんかに――シティアの主人は私だ!! ――――ッ……」
ゼノの無表情を見て、ヒグナルは手を止める。
ゼノを地面へ投げ捨てると、下狩を呼び付け、彼の持ってきたアタッシュケースから注射器を取り出させる。ヒグナルに注射器を渡した下狩は部屋の外へ出る。
緑色に光る注射器を満たすのは不気味な青緑色の液体だった。
「お前のためにわざわざ取り寄せたんだ」
ゼノはそれを見た瞬間――本能的に暴れ回り、逃げ惑う。
ヒグナルはゼノの顔面に鉄の棒を喰らわせる。ゼノがぼうっと天井を見上げている隙に、ヒグナルは彼の腕を取り、白い肌に注射針を刺し込んだ。
ピストンが押し込まれ、青緑色の液体がゼノの中へ注入されていく。
暴れ回るゼノの腕から注射針が離れ、青い雫が先端から地面へ向かって落ちていった。
それが地面へ振れたとたん、雫は液体へ変化し、波のように広がって地面を抉り飲み込み、ヒグナルをも呑み込もうとする。
ヒグナルはギリギリのところで避けたが、鞭や鉄の棒、床や壁のほとんどが飲み込まれ消失していく。
慌てているヒグナルを見て、ゼノは口元に嘲笑を浮かべる。
しかし、青緑色の液体がアリシアを飲み込もうとするのを見て、彼は自らの手首に歯を立て、傷をつける。
青緑色の液体はゼノの傷口へ向かって流れるように吸い込まれていく。
一滴も残さず吸い込まれると、ゼノの付けた傷口も、ヒグナルに与えられた傷もみるみるうちに治っていった。
「今の……何なの」
アリシアが呆けた様子で言うと、ゼノは無表情で答え、問いかける。
「シギュルージュだ。知らないのか?」
「余計なことを言うな」
「オトウサマ」
「来いシティア」
アリシアの髪を引っ張り、ヒグナルは去っていく。
彼女の抜けた髪だけが残り、それを憎々しく睨みつけて手に掴み、口に含んで咀嚼する。
「……いっそすべてを呑み込ませれば良かったか」
その数日後、アリシアは部屋にやって来て言った。
「もう来ないわ」
「この間のヒグナルのことか?」
「貴方の言うことを聞くべきだったわ。……でも私は貴方と一緒にいたい。もっと一緒にいたいのに……」
「……なら、オレが会いに行く」
「は?」
ゼノはそう言うと、アリシアの背を押して扉の外へ出した。
「…………」
「…………」
ゼノは勇気を出して一歩踏み出し、扉を跨ぎ、地下室の外へ出る。
ゼノは顔を上げ、アリシアを縋るように見る、アリシアは安心させるように笑いかけた。
荒い呼吸をするアリアが落ち着きを取り戻すように深呼吸をすると、その間にアリシアは彼女の下から這い出る。
「え? 今めっちゃ途中だよ」
「他の人の所に行くわ」
「今度は誰」
と聞かれて、アリシアは「さあ」と答えた。
アリシアは自分の部屋へ一度戻り、シャワーを浴び、服を着替える。
しばらくして、アリシアは地下室の扉の前に立っていた。
ゼジはおらず、灰色の髪のゼラと言う少年がゼノを監視しているようだった。
ゼノはあの日から全く外に出ていないようだ。
アリシアは暗証番号のキーボードに緊急コードを入力し、扉を開く。
そうしてから、いつも通りゼノの隣に座る。
アリシアは彼に何か食べさせようと、仕事の後ご褒美に貰える菓子類を持ってきたが、ゼノはそれらを食べる様子がなかった。
袋を開けて中身を口元に近づけると、ゼノに「食べなくても死なない」と言われ、「そう」と答える。アリシアは菓子を全部一人で食べた。ゼノはそれを見て真顔になる。
「美味しそうって思ってるんでしょ」
「別に」
「そう」
そう言うと、それっきり何も言わず、アリシアはただ隣に座って同じ時を過ごす。
やっと距離の取り方を覚えたか、とゼノは思って笑みをこぼした。
真っ暗な部屋の中、ゼノは隣に誰かがいる気配にどこか安心感を覚えていった。
自分以外の何かがいるだけで落ち着かなかったのに……。
……彼女の存在が、嫌ではなかった。
◇◇◇
ゼノは拘束され、地下室の冷たい地面に倒れ伏していた。打撲痕が真っ白な肌の上に植え付けられ、身体中にある蚯蚓腫れは痛々しかった。
彼の前で仁王立ちし、鞭と鉄の棒を何度も持ち替え、それを振るう男が言った。
「シティアに近付くな!!」
ヒグナルは鉄の棒でゼノの腹や背中をタコ殴りにし、怒鳴り続けた。
その後ろにはアリシアもいて、ずっと戸惑ったような顔をしている。それを見たヒグナルはさらに激昂し、ゼノに掴みかかった。
「何故お前ばかりに――何故お前なんかに――シティアの主人は私だ!! ――――ッ……」
ゼノの無表情を見て、ヒグナルは手を止める。
ゼノを地面へ投げ捨てると、下狩を呼び付け、彼の持ってきたアタッシュケースから注射器を取り出させる。ヒグナルに注射器を渡した下狩は部屋の外へ出る。
緑色に光る注射器を満たすのは不気味な青緑色の液体だった。
「お前のためにわざわざ取り寄せたんだ」
ゼノはそれを見た瞬間――本能的に暴れ回り、逃げ惑う。
ヒグナルはゼノの顔面に鉄の棒を喰らわせる。ゼノがぼうっと天井を見上げている隙に、ヒグナルは彼の腕を取り、白い肌に注射針を刺し込んだ。
ピストンが押し込まれ、青緑色の液体がゼノの中へ注入されていく。
暴れ回るゼノの腕から注射針が離れ、青い雫が先端から地面へ向かって落ちていった。
それが地面へ振れたとたん、雫は液体へ変化し、波のように広がって地面を抉り飲み込み、ヒグナルをも呑み込もうとする。
ヒグナルはギリギリのところで避けたが、鞭や鉄の棒、床や壁のほとんどが飲み込まれ消失していく。
慌てているヒグナルを見て、ゼノは口元に嘲笑を浮かべる。
しかし、青緑色の液体がアリシアを飲み込もうとするのを見て、彼は自らの手首に歯を立て、傷をつける。
青緑色の液体はゼノの傷口へ向かって流れるように吸い込まれていく。
一滴も残さず吸い込まれると、ゼノの付けた傷口も、ヒグナルに与えられた傷もみるみるうちに治っていった。
「今の……何なの」
アリシアが呆けた様子で言うと、ゼノは無表情で答え、問いかける。
「シギュルージュだ。知らないのか?」
「余計なことを言うな」
「オトウサマ」
「来いシティア」
アリシアの髪を引っ張り、ヒグナルは去っていく。
彼女の抜けた髪だけが残り、それを憎々しく睨みつけて手に掴み、口に含んで咀嚼する。
「……いっそすべてを呑み込ませれば良かったか」
その数日後、アリシアは部屋にやって来て言った。
「もう来ないわ」
「この間のヒグナルのことか?」
「貴方の言うことを聞くべきだったわ。……でも私は貴方と一緒にいたい。もっと一緒にいたいのに……」
「……なら、オレが会いに行く」
「は?」
ゼノはそう言うと、アリシアの背を押して扉の外へ出した。
「…………」
「…………」
ゼノは勇気を出して一歩踏み出し、扉を跨ぎ、地下室の外へ出る。
ゼノは顔を上げ、アリシアを縋るように見る、アリシアは安心させるように笑いかけた。
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