リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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エンタイア

8 ※BL?あり

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 次の日も、その数日後も、その次の日も、アリシアは怒り気味だった。
 ゼジが隣にいたのを見た日なんか、特に酷かった。
 ゼノとアリシアは喧嘩ばかりしていた。それでも居場所を求めてやってくる彼女は相当な頑固者だと思った。
 ゼジと入れ替わりでアリシアが入ってきて、いつも通り喧嘩をする。
「やっぱり面食いなんじゃない」
「は?」
「私が来る前に、あんなことやこんなことを彼としているんでしょ」
 ゼノはかっと顔を熱くし、アリシアに掴みかかる。
「オレをそんな風に見ていたのか!!」
「――そうよ!! だって貴方の主人とはそう言う関係だったんでしょ!!」
「お前だって毎日親と兄弟と交尾してるんだろ!! この――淫乱女!!」
 アリシアが黙り込むと、ゼノは頭に血が上ったせいで自分が間違ったことを言ってしまったことに気が付く。
「そう、知ってたの。引きこもっているから知らないと思っていたわ」
 アリシアはゼノの手を取り、自分の控えめな胸を触らせる。
 ゼノはぽかんと口を開け放つ。
「ゼノ……」
 アリシアは誘惑するようにゼノに手を触れ、ゼノに身体を触れさせる。
 アリシアの頭が揺れ、ゼノの唇と、彼女の唇が重なりそうになった時、ゼノは思い切り、彼女を突き飛ばして拒絶していた。
 アリシアは泣きながら部屋を出て行き、いつも通りゼジが中へ入って来る。
 俯くゼノの頭を撫でて、そっと腕の中に抱き込む。
 もぞもぞと頭を動かし、見上げてくるゼノの唇に、ゼジの唇が重ねられた。
 ゼノは目を見開き、そして、目を瞑ってそれを受け入れた。
 ゼノはゼジの身体に触れ、ゼジはゼノの身体に触れる。
「ゼノア」
「…………ゼジ」
 彼らは互いを受け入れた。
 拒絶と言う選択肢はなかった。
 アリシアは地下室へ来なくなった。



        ◇◇◇



 ゼジと言う見張りがいたが、ゼノは脱出の訓練を続けていた。ゼジは基本的にゼノのすることに口出しはしてこないし、それを報告することもなかった。
 ゼノは身体の形を変えるどころか、壁をすり抜けて移動することまで出来るようになっていた。
 訓練を兼ねて分厚い壁の中を移動していると、ある話し声が耳に入って来る。全て子供の声だ。
『アリシアまたお父様を怒らせたんだって』
『今も呼び出されてるって聞いたよ』
『今頃拷問で儲けてるんじゃないの?』
『交尾だったりして……』
『それじゃご褒美になるわよ』
『え~私は嫌だよ。お父様と仕事なんて』
『あ、でも仕事は増やされたって聞いたよ』
『じゃあ今仕事の紹介かも』
『もう仕事中かもね』
 仕事……?
 増やされた?
 確か彼ら彼女らの仕事は交尾――…………
 ゼノは噂話を聞いてアリシアを心配し彼女に会いに行こうとしたが、先にゼジへ言いに行くことにした。
 地下室へ戻ると、窓の向こう側からこちらを眺めるゼジと、三人の少年と、ゼノの主人であった青年がいた。今来たところらしく、こちらは暗闇なので、今までいなかったことはバレていないだろう。
 青年は少年二人を連れて、部屋の中へ入ってくる。
 ゼノの前に二人を立たせる。
 二人とも、どこか《聖唖くん》を思わせる容姿をしていた。白い髪と、灰色の髪の少年が、ゼノを無表情で見つめていた。
「ゼジが毎日監視するのは可哀想だから、監視は交代制にしたんだ。明日からはこの子たちも監視に加わるよ」
 白い髪の少年が、「ゼア・キャリルだ」と名乗り、灰色の髪の少年は「ゼラ・マージ」と名乗った。二人はゼノより年下の5歳と4歳だが、監視役を任されるほど聡明だった。彼らは青年の実験体だったが、失敗作らしく、ヒグナルに提供されたのだと言う。
 また、ゼノのことはゼジ、ゼア、ゼラの順番で見張ることになったらしい。
「あの外にいるのは……」
 窓の向こうにいるもう一人の少年に目を向けると、青年は笑って言った。
「見学だよ。私はこれからヒグナルにこの子達を引き渡しに行く、彼のことはゼジに任せるよ」
「……そうか」
 やはりどこか《聖唖くん》の雰囲気を持った青い髪、青い瞳の少年が、外に出た青年の話に耳を傾け頷く。
 青年と少年二人がいなくなると、ゼノはゼジを手招きし、アリシアに会いに行くと話した。
「俺とのことは遊びだったのかよ。なんてな」
「お前だって気まぐれだろう」
「お前俺のことボスの代わりにしただろ」
「…………代わりにしたわけじゃない。抵抗できなかっただけだ」
「俺は仕事をしただけだよ」
「何?」
「報告はしないけど、お前をここに引き留めるために俺が送られてきたようなものだからな」
「あいつに顔が似ているからか」
「ショックか?」
「……別に」
「それを聞いて安心したよ」
 ゼジはにこにこと笑ってそう言う。
 ゼジはそうやって笑って無理やり話を完結させる自己中な奴だった。ゼノも完結させようと話すから文句は言えないのだが、苛立ちはする。ゼジはそんなゼノを分かっていながら、スルーして言う。
「下狩さんが後で来る予定なんだ」
「じゃあまたの機会の方がいいのか?」
「俺の番に回ってくるまでアリシアに会いに行けなくなるけどいいのか?」
「……出来るだけ早く行きたい」
「うんうん。提案なんだけど。こいつ、身代わりにしたらどうかな。お前の部屋はいつも暗いし、こいつ似てるだろ、お前と」
 ゼジが〝こいつ〟と呼び、腕を引き、両肩を握ってゼノへ突き出してきた相手は、あの青い髪の少年だった。
「今の話聞いてたんじゃないか……?」
「だからこそだよ。お前ご主人様嫌いだろ?」
 ゼジの言う〝お前〟は青い髪の少年のことだろう、顔を覗き込んで確認している。
「意地悪に協力してくれよ」
 ゼジの言葉に少年は頷き、「身代わりになればいいんだよね」と胡散臭い微笑を浮かべた。まだ幼いのに聡明さが滲み出ている。
「頼む」
 ゼノがそう言うと、二人は楽しみと言いたげに笑った。
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