リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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イルヴルヴ

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 アシャはゼルベイユの言葉を聞いて叫んだ。
「聖茄は一人ではない!!」
 アシャは息を荒げながらも彼の背に蹴りを繰り出す。しかし。
「未完成体の分際で聖茄くんと一緒にいるだなんて……身の程をわきまえろ」
 ゼルベイユの身体はびくともしないどころか、アシャの左足の骨を折った。
「…………ぐああああっ!!」
「アシャ!!」
 聖茄は力を振り絞りゼルベイユの腕を振り払う。
 アシャに駆け寄り、彼女を背に隠した。
「君たちはどうしてそこまでしてユヤに帰りたくないんだ……」
「君は今実験されていないから分からないだろうが……生命を生み出すと言うことには相応の罰が――」
「――そんなモノはない。僕の身体の一部は実験に提供されている。生命を生み出すことに罰や罪などと言うモノはない」
「何故そう思うんだ!!」
「生命には出会いがある、誰かと出会うことで幸せになれる。この世界に生まれ落ちることで大切な人と出会い、生涯一緒にいられる」
「生涯なんてなかった……!! 私たちはいつも引き離される!!」
「だが出会った。引き離されると言うことは出会ったと言うことだ」
「…………っ」
 出会わなければ良かったこともある、そう口に出そうとしても、どうしても言葉にならなかった。

 どんな結果が待っていようとも、出会えて幸せだった。

「うあああああああああああああああああ!!」 
 アシャは自棄になり黄金のオオカミ・イルヴルヴに変身する。ゼルベイユはその姿に大きく目を見開いて、口角を上げる。
「イグ・ニシヴル……」
 アシャはそんなゼルベイユに前足を叩き込んだ。彼は地面にめり込んだが、やはり無傷である。しかしアシャの体重に押し潰され、身動きが取れない。
 聖茄が彼の元へ近づこうとした時だった。幾多の緑色の光線が放たれ、アシャの身体が破壊されていく。ユヤからの援護だ。
 アシャはやむを得ず変身を解き、見越したゼルベイユの力に押し負け、地面に押し倒される。
「君は僕の一部を食べることで完成体に近づく」
 そう言って、ゼルベイユはアシャの口の中に二本の指を突っ込んだ。アシャは涙が頬を伝う感覚を覚えた。もう、食べる訳にはいかない。生命を喰らうことをしてはならない。
 アシャは空腹を覚えるが、必死に耐え続けた。息が上がり、下ろしそうになる歯を、上げそうになる顎を、めいっぱい口を開き耐えた。
 ――その時だった。
 ゼルベイユの右首と右頬に、黒いブーツを履いた右足が叩き付けられる。
 聖茄の足だ。
 ゼルベイユは横方向に薙ぎ倒され、起き上がったアシャは首を押さえ、息を整える。聖茄はアシャに手を差し出した。アシャはそれに答える。
 身体を起こしたゼルベイユはそれをいっとき羨ましそうに眺めた。
 そして、立ち上がり、服についた汚れを手で払い、アシャと聖茄に近づいた。
「君たちは他人なのにどうしてそんなに仲良しでいられるんだ?」
「私たちは家族だ」
 アシャの言葉に驚いたのは聖茄だった。
 ゼルベイユは気に食わないと言いたげに顔を顰める。
「家族なんてモノで絆を表すなんて愚かだね」
 アシャはゼルベイユの言葉にハッとする。脳裏に浮かぶのは、真っ白な雪の上に倒れる、白い髪の青年の姿だ。
「君はルイスと家族だった筈だ!! 何故、あの時殺した!!」
 怒声ともとれる悲鳴だった。
 ゼルベイユは長い睫毛を伏せ、しばらく考えごとをしてから瞳を露わにする。
「家族とはそれほど浅い絆だ」
「――――ッ!!」
 アシャは激昂し、ゼルベイユに飛び掛かる。爪で引っ掻くように手刀で攻撃を仕掛けるが、ゼルベイユは難なく交わしていく。空気を裂く爪は、大地にも大きな傷跡を残したが、ゼルベイユには恐れを与えなかった。
 聖茄はアシャに同調するように怒りを露わにし、ゼルベイユに攻撃を仕掛けるが、ゼルベイユはそれをも避け、聖茄の首を掴んだ。
「息さえ止めれば君は止まる」
 ゼルベイユは聖茄の首を掴む手に力を籠める。締め付けられる度に聖茄の苦しそうな息が漏れた。
「このまま聖茄くんを傷つけられたくなかったら……一緒にユヤへ行くと言ってくれ」
 アシャはゼルベイユに傷一つ付けられない、聖茄のように助け出す力を持っていなかった。
ゼルベイユは聖茄に手首を折られようと痛みに顔を歪めることはなく、直ぐ様再生する緑龍子の力で聖茄を苦しめ続けた。
「…………ユヤへ行こう。代わりに聖茄にだけは手を出さないでくれ」
「いいよ。聖茄くんもユヤへは行くが、実験はさせないと誓おう」
 アシャは納得しきれずにいたが、仕方なく、頷いた。
 聖茄は首を振る。
 潤んだ瞳が、「もう離れ離れは嫌だ」と告げていた。
 夜の冷たい風に白い息が乗る。
 聖茄はゼルベイユに連れられ、アシャは自らの意思でユヤへ乗った。
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