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イルヴルヴ
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轡はオロ族の族長・聖茄と別れ、族長の代理として動いていた。彼は聖茄の腹心だった。会ったばかりでも、彼を深く理解し、彼の心に寄り添える者だった。そしてその逆もしかりだった。この出会いは運命だったのかもしれない。
轡はオロ族と共に獲物を狙って悠然と森の中を歩いていた。
突如遠くの森から爆発音と地響きが起こり、轡たちの周りに大量の木々が降り注いできた。轡は飛んできたその方向の空を眺め、息を呑み驚駭すると供に、黒い目を大きく見開き魂が抜けていくような感動の息を洩らした。
轡の内臓共――身体の内側に熱いものがこみ上げる。
なんて美しい化け物だろう。
黄金の毛が良夜に浮かび上がる。
それは風に靡き月光で白く映え、神々しく、ひれ伏さんばかりに圧倒的にオロ族の心を追い詰める。
全長90米の、七色の瞳のオオカミ。
「イグニシヴル……」
この世界でオオカミの神と呼ばれるイグニシヴル。彼女の姿は、正しくそれだった。
イグニシヴルはオロ族を敵と狙いを定め、迫ってきて、大地を叩く度に地面を抉り、木々を押しのけ、縦揺れの凄まじい地震を起こした。
オロ族たちが逃げ惑う中、轡だけはその姿を見ながらそこで待った。
イグニシヴルは地面に顔を横に押し付け、口を大きく広げて、巨大な牙と巨大な舌を迫らせる。怪物的な大きさの涎が地面と共に辺り一面に吹き上がる。
イグニシヴルの叫びは大地を喰らい、生命を喰らい、轡に迫る。
それでも轡は動かなかった。
片手を前に出し、イグニシヴルの心臓を掴み取ろうとする。
轡に舌を巻き付かせる。
轡を取り囲んだ牙が交差する。
丸のみにされ。腹の中に入ると、彼は心臓目掛けて鋭利な爪でイグニシヴルの体内を掘り進めた。全長11米のオオカミに変身し、イグニシヴルの体内を喰らう。
彼は自分が喰らう者だと思っていた。
やがて気が付く。
彼の身体に纏わり付く青緑と多少赤色の混ざった血液の存在に。
彼はイグニシヴルの血液に飲み込まれ、世界から消滅した。
◆◆◆
アシャは目についたヴァイアヴォルフを喰らっていき、やがて聖茄の居場所を聞く方が先だと考えを改め。姿を人に変える。
ボロボロでもはや逃げ腰になっている一匹のオロ族に聞く。
「聖茄はどこへ行った」
「………………」
「答えれば見逃してやろう」
「…………我々は地下の施設を発見したと伝えた。族長は何も言わず、旅立たれた」
「…………ッ!!」
あの子は、私を助けようと施設に向かったのか。
ダメだ。あんなところにいっては、君が研究されてしまう。
生んではならない生命を生み出してしまう。
アシャはオオカミの姿へ変身し、オロ族の最後の一匹を食ってから、地下の施設へと走った。
巨大となったアシャの足15歩分の場所にその場所はあった。穴に入るにはアシャは大きすぎた。身体より穴の方が大きいので入ることは可能だが、地下の施設内には聖茄がいる。アシャがそのまま入れば、潰してしまうかもしれなかった。
穴の手前で人の姿に戻り、地下へ飛び降りる。
半球状の地下には、中央の地下施設で働く研究者や警備員、スタッフたちの住む建物がその外側に存在し、地下は地下都市となっていた。
アシャは、地下都市の姿を見て、目をひん剥いて膝を震わせた。へなへなと、階段へ崩れるように座る。
「…………君がやったのか。聖茄」
マグマエネルギーを蓄えた施設を中心といた研究施設も、住宅も、半壊・全壊していた。
崩壊した辺り一面の建物群から赤い煙が上がっている。アシャにはそれが人であることが理解できた。
地下都市は滅んでいた。
アシャは聖茄を探して走った。走っている間、誰一人としていなかった。否、空気中に舞っているモノが人だった。
中央のマグマエネルギーを蓄えている施設の中で、聖茄を発見した。死体は砕け散っているものの肉片は形を残していた。
聖茄はうずぐまって、何かを口元に運んでいく。
アシャは駆け寄って、それが肉片であることを確認した。
「聖茄。よせ」
アシャは聖茄の肩を掴みやめさせる。
振り向く聖茄の口回りは真っ赤に染まっていた。
「アシャ……」
聖茄はアシャの口を拭いてやる。いつか買ってやった服も赤く染め上げられていた。
「アシャ……会いたかった」
「私も会いたかった」
「待っていて。もう少しでなれると思うんだ。君と同じように」
聖茄は人の肉を口に含み、咀嚼して飲み込む。
「よせ聖茄。もうやめるんだ」
「ダメだよ。アシャ。止めないで。私はなりたいんだ……」
「聖茄、いったい何になると言うんだ!! 化け物になんかなるな!!」
聖茄は人の肉を食べるのをやめて、アシャの胸に弱弱しく縋りつく。
「……になりたい」
聖茄の美しい声は涙で掠れて聞こえにくかった。しかし、聖茄は涙いっぱいにして震える声を絞り出した。
「人間になりたい」
アシャはそれを聞いて、目を大きく見開き、身体を硬直させる。
ぽろぽろと溢れ出す涙を、震えながら懸命に拭った。
しばらくして、ふぅ……と息を吐くと、安心させるように……微笑みを浮かべ、聖茄を抱き締める。
「君は私と同じだったんだな。理解してやれなくてすまなかった」
それから、アシャはいつでも自然に微笑みを浮かべるようになった。
轡はオロ族と共に獲物を狙って悠然と森の中を歩いていた。
突如遠くの森から爆発音と地響きが起こり、轡たちの周りに大量の木々が降り注いできた。轡は飛んできたその方向の空を眺め、息を呑み驚駭すると供に、黒い目を大きく見開き魂が抜けていくような感動の息を洩らした。
轡の内臓共――身体の内側に熱いものがこみ上げる。
なんて美しい化け物だろう。
黄金の毛が良夜に浮かび上がる。
それは風に靡き月光で白く映え、神々しく、ひれ伏さんばかりに圧倒的にオロ族の心を追い詰める。
全長90米の、七色の瞳のオオカミ。
「イグニシヴル……」
この世界でオオカミの神と呼ばれるイグニシヴル。彼女の姿は、正しくそれだった。
イグニシヴルはオロ族を敵と狙いを定め、迫ってきて、大地を叩く度に地面を抉り、木々を押しのけ、縦揺れの凄まじい地震を起こした。
オロ族たちが逃げ惑う中、轡だけはその姿を見ながらそこで待った。
イグニシヴルは地面に顔を横に押し付け、口を大きく広げて、巨大な牙と巨大な舌を迫らせる。怪物的な大きさの涎が地面と共に辺り一面に吹き上がる。
イグニシヴルの叫びは大地を喰らい、生命を喰らい、轡に迫る。
それでも轡は動かなかった。
片手を前に出し、イグニシヴルの心臓を掴み取ろうとする。
轡に舌を巻き付かせる。
轡を取り囲んだ牙が交差する。
丸のみにされ。腹の中に入ると、彼は心臓目掛けて鋭利な爪でイグニシヴルの体内を掘り進めた。全長11米のオオカミに変身し、イグニシヴルの体内を喰らう。
彼は自分が喰らう者だと思っていた。
やがて気が付く。
彼の身体に纏わり付く青緑と多少赤色の混ざった血液の存在に。
彼はイグニシヴルの血液に飲み込まれ、世界から消滅した。
◆◆◆
アシャは目についたヴァイアヴォルフを喰らっていき、やがて聖茄の居場所を聞く方が先だと考えを改め。姿を人に変える。
ボロボロでもはや逃げ腰になっている一匹のオロ族に聞く。
「聖茄はどこへ行った」
「………………」
「答えれば見逃してやろう」
「…………我々は地下の施設を発見したと伝えた。族長は何も言わず、旅立たれた」
「…………ッ!!」
あの子は、私を助けようと施設に向かったのか。
ダメだ。あんなところにいっては、君が研究されてしまう。
生んではならない生命を生み出してしまう。
アシャはオオカミの姿へ変身し、オロ族の最後の一匹を食ってから、地下の施設へと走った。
巨大となったアシャの足15歩分の場所にその場所はあった。穴に入るにはアシャは大きすぎた。身体より穴の方が大きいので入ることは可能だが、地下の施設内には聖茄がいる。アシャがそのまま入れば、潰してしまうかもしれなかった。
穴の手前で人の姿に戻り、地下へ飛び降りる。
半球状の地下には、中央の地下施設で働く研究者や警備員、スタッフたちの住む建物がその外側に存在し、地下は地下都市となっていた。
アシャは、地下都市の姿を見て、目をひん剥いて膝を震わせた。へなへなと、階段へ崩れるように座る。
「…………君がやったのか。聖茄」
マグマエネルギーを蓄えた施設を中心といた研究施設も、住宅も、半壊・全壊していた。
崩壊した辺り一面の建物群から赤い煙が上がっている。アシャにはそれが人であることが理解できた。
地下都市は滅んでいた。
アシャは聖茄を探して走った。走っている間、誰一人としていなかった。否、空気中に舞っているモノが人だった。
中央のマグマエネルギーを蓄えている施設の中で、聖茄を発見した。死体は砕け散っているものの肉片は形を残していた。
聖茄はうずぐまって、何かを口元に運んでいく。
アシャは駆け寄って、それが肉片であることを確認した。
「聖茄。よせ」
アシャは聖茄の肩を掴みやめさせる。
振り向く聖茄の口回りは真っ赤に染まっていた。
「アシャ……」
聖茄はアシャの口を拭いてやる。いつか買ってやった服も赤く染め上げられていた。
「アシャ……会いたかった」
「私も会いたかった」
「待っていて。もう少しでなれると思うんだ。君と同じように」
聖茄は人の肉を口に含み、咀嚼して飲み込む。
「よせ聖茄。もうやめるんだ」
「ダメだよ。アシャ。止めないで。私はなりたいんだ……」
「聖茄、いったい何になると言うんだ!! 化け物になんかなるな!!」
聖茄は人の肉を食べるのをやめて、アシャの胸に弱弱しく縋りつく。
「……になりたい」
聖茄の美しい声は涙で掠れて聞こえにくかった。しかし、聖茄は涙いっぱいにして震える声を絞り出した。
「人間になりたい」
アシャはそれを聞いて、目を大きく見開き、身体を硬直させる。
ぽろぽろと溢れ出す涙を、震えながら懸命に拭った。
しばらくして、ふぅ……と息を吐くと、安心させるように……微笑みを浮かべ、聖茄を抱き締める。
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それから、アシャはいつでも自然に微笑みを浮かべるようになった。
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