リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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リョウゲ

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 シャワー室へ青海を押し込む。それにしたって何故全面ガラスなんだ。
 私がシャワーを浴びている間中余裕の表情でじっくり見るわ。ガラス越しに睨めば微笑むばかりで腹立たしい限りだ。いっそのこと白馬ばりに動揺するか怒鳴るか位してくれればいいのに、青海は微笑むばかりで全く真意が見えない。見えない処か下半身も全くと言っていいほど無反応だ。何の為に付いているんだそれは。
 ソファに座り、青海のほど良く筋肉の付いたスレンダーボディを眺めながらそんなことを考えていたら姉が隣にやってきてどっかりと座った。
 左手で瓶に入ったジュースを差し出してくる。右手には自分の分。それを口に付けた儘無言で渡されたが飲んでもいいのだろう。気が利く姉だ。
 受け取って蓋を開ける。
「隣じゃなくて向かいの方に座ってくれないか」
「いいじゃぁん。私にも眺めさせてくれよぉ」
「いいから行け」
「はいはい~。黄泉ちゃんは素直じゃないねぇ。二人して裸を眺め合うってやっぱりデキてるでしょ~」
 机を飛び越えて向かいに座る姉。行儀が悪い。
「デキてはいない」
 ジュースを口に含む。妙な味だが意外とイケるな。
「成ほどぉ。デキてはいないけどってことかぁ。それって青海が原因?」
「そうだな。私にもあるが」
「その割にはお互い想いが強いようで~?」
「姉さんは青海のことが好きなんだろう」
「……え?」
 始終ニヤニヤしていた姉さんの表情が固まる。
「青海がいるだけでいつも以上にテンションが高いし饒舌だ」
「このビッチJKが」
 態度が急変し過ぎじゃないか。しかめっ面でどうにも憎たらしそうに歯軋りをしている。
「何がビッチJKだ。私のクラスメイトもほとんどヤリまくりだ」
「や、ヤリまくってンのぉ!?」
「何動揺してるんだ。私だってやりたくてやってる訳じゃ……」
「何の噺かな?」
 だから何故裸なんだ。
 いつの間にか出てきていた青海が隣にドカッと腰掛ける。今度は貴様か。
「とっとと服を着ろ。砂金姉さんはじっくり見過ぎだ」
「ケチ」
「キョウダイだし私は気にしないよ。……黄泉は見てもいいの?」
「今更だろう」
「ふふ。素直じゃないなぁ」
 濡れた儘くっ付いてくるのを肘で離す。
「黄泉ちゃんばっかり知ってるのはズルくなぁい? 好きな奴はいないのかよぉ教えてよぉ」
「私だよね」
「白馬? 真黒?」
「何故私を抜かすのかな姉さん?」
「まさか茶王?」
「私だよね黄泉」
「あのな」
 お前等が組むとさらに面倒だ。取り敢えず青海に服を投げつけて置いた。
 青海が服を着ている間に姉にメンテナンスをして貰う。最近は来ていなかったから随分と時間が掛かった。
「どうだった?」
「相変わらずグロイ」
「姉さんが作ったんだろう」
 姉さんの作った義手は直接骨に固定する形式の兵器だ。物体を殴ることでイダと呼ばれる力がチャージされ、つよつよモード(砂金命名)に入れる。つよつよは腕力も握力も倍以上上がるし、充電しておけばビームを出すことも電気ショックを与えることも出来る。まあ使用したこともないし、使用する機会もないんだが。兵器の要素はいらなかったか? 結局一度も使わず仕舞いで私は腕を失っただけの状態と変わらない……。
 右腕は幼い頃、タフィリィから逃れる為に自ら切り落とした。そこへ奴等を撲滅したいと姉に頼んで付けて貰ったのがシギュルージュと言う名の物質を用いた金属の義手だ。姉曰く國哦伐家の敷地内に存在する液体状の得体の知れない物質らしい。そのシギュルージュは皮膚を溶かし腐らせていく。真っ青に腐った皮膚を取り除き、そこへ緑龍子と呼ばれる宇宙上のあらゆる物質を構成すると言われる粒子を注入する。するとあっという間に腐った細胞は元通りになる。
 特殊な金属で出来た兵器はゴムのように伸びるが取り外すことは出来ない為、通常のメンテナンスでも短くて3時間は掛かる。
「よく痛みに耐えられるよねぇ。黄泉ちゃんはドMなのぉ?」
「よく私と青海を前にしてニコニコしていられるな。ド変態だな姉さん」
 そう言うと、姉さんは涙目になる。嫌味を言うことには慣れていても言われることには慣れていないのだ。
「バカっあほぉっ! 黄泉ちゃんのいじわる! ずるい! アタシだって青海に相手されたいのにぃ!」
「好きでもない相手とさせられる身にもなってみろ。最悪だぞ。あいつは特に最悪だ」
「特に……ってことはもしかして比べる相手がいるの黄泉ちゃん。ほほぅ、誰かなぁ白馬ぁ? 真黒ぉ? まさかまさかのせ・き・う?」
 涙目でニヤニヤされても胸が痛むだけだ。
「青海以外に許した覚えはない」
「……やっぱ両想いじゃんかぁ」
 落ち込むな。
「あいつは圧が凄いんだ」
「圧? 爽やかじゃん?」
「マジか姉さん」
 あの青海を爽やかだと言う人物がいるとは。
 まあ我々高校生組が通う学園には青海を王子様扱いする一派まで存在するが。身内に奴の恐ろしさを理解出来ない者が未だに存在するとは思わなかった。
「そもそも何でアタシの部屋に来たんだよぉ? 何かあったの?」
「監視カメラで見ていたんじゃないのか?」
「ぎく。い、いやぁ~み、見てたよ、でもほらぁ、あり過ぎてぇ、後からシアターで確認する時間とかあるからぁ。見過ごしたと言うかぁ」
「ヘエ。タイヘンソウダナ」
「そぅそぅぅー」
 テーブルに置かれた儘のリモコンを操作する。
「あああっ!」

『黄泉、こちらを見なさい』
『うるさいくたばれ』
『黄泉、愛し――』

「砂金貴様ああああああああああああああああッ!?」
「だってだってだってえええぇ!」
「だってじゃないなんてものを大画面で見てやがるんだ今すぐ消せ!! 全て消せ! 然もなくば貴様の作ったこの兵器で洞窟ごと粉砕――」
「うわぁ、めちゃくちゃ懐かしいね。今日も一緒に寝ようか黄泉」
「くたばれッ!!」
 だから何故平然としていられるのだ貴様は!
 落ちつけ……。ああ、久し振りに感情を剥き出しで喚いた気がする。キョウダイ喧嘩なんて何年振りだ。面倒が身体に負荷を掛けてどっと疲れがやってきた。風呂でスッキリしたと思ったらこの様だ。
「あー嫌なもの見た」
 ソファに突っ伏する私。
「羨ましい……」
 クッションを抱き締めて膨れる姉。
「砂金姉さんが興味持つなんて意外だよ。姉さんは研究にしか興奮しないと思ってた」
 頭を撫でてくる青海。
「大画面で見てるんだぞ、あいつは興味ありまくりだ」
 それを手で払いのける私。
「な、べべべ、べ、別にないしぃ~」
 ギブアップするクッション。
「白馬兄さんにでも相手して貰ったらどうかな。歳は近いだろう?」
  姉からの好意を知っていてこれだからな青海。
「お前が相手してやればいいんじゃないか」
 空飛ぶクッション。
「おおおおおお青海だけはあり得ないから! 絶対あり得ないからぁ!」
 突然横抱きにしてくる青海。
「だそうだよ。黄泉が相手してね」
「え。嘘だろ」
「何が?」
「いや、だってお前姉さんの気持ち」
「大画面で見てる人だよ? 直接見ても聞いても気にしないさ」
「ちょ、ちょっと待て本気かお前嫌だぞだってここには」
「大丈夫大丈夫。従兄弟は結婚出来るから」
「うわああああああ姉さん助けてええええええッ!」
「うわああああんこの変態どもぉぉぉぉ!」
 姉さんは泣きながら自分の個室へ去って行った。
 そこは阻止しろ我が姉よ!

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