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アノン
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しおりを挟む次の日の朝、シェルビーは気まずそうにしていたが、アライアは何ごともなかったかのように振る舞っていた。いや、彼には何ごともなかったのだろう。寝ぼけていたようだし。
数日間、みんなで作戦を練る。水路からの侵入は変わらないが、それぞれで動くパートナーを決めたり、どのようなルートで行くかなどを決めたりした。
――そうしてついに、作戦決行の日がやってきた。
シェルビー達は昨晩泊まったアライアの家から地図や設計図を持って出た。そして近くの水路に下り、上層の町を歩かずに通り抜けることが出来た。中央施設の水門に辿り着き、全員で中へ入って行く。
水路の床から施設の倉庫に侵入する。
次に侵入するのは電気室の予定だ。ブレーカーを落としてから監視カメラが再起動するまでに約10分間かかる。
監視カメラは廊下や倉庫にはないが、各部屋に設置されている。しかし、ほとんど大人が出入りする研究施設では、監視カメラに子供の映らない死角が存在した。シェルビー達はそれを設計図で確認し、映る範囲や角度なども描かれていたため死角を知ることが出来た。
一番華奢で背の小さなエリティと、次に小さい向が侵入する。
配電盤の扉を開け、全てのスイッチをオフにする。ここで線を外して切ってしまいたいところだが、侵入がバレてしまうと厄介だし、そんな技術持ち合わせていないし道具もないしそもそも思いつかないのでエリティ達はアライア達の元に戻った。
エリティを抱えて走れる一番力持ちの麗土と、自立して動いても問題ない向とラヴィラが一緒に行動した。アライアとシェルビーは地図も設計図も覚えているので、他の二組にそれぞれ一枚ずつ渡してある。
目指すのは施設の中央にある、地上へと続くエレベーターだ。
「シェルビー前から警備員が……!」
「後ろからも来てる……っ」
「どうする、倉庫まではいけない」
「…………俺達のせいで終わりか。ここまでなのか!」
「諦めるな! みんなで地上に逃げるんだ!」
アライアはシェルビーの手を引き、角へと走る。ギリギリのところで大人達の視界から逃げられたが、角を曲がってすぐの廊下の奥からも話し声が聞こえてくる。
アライアとシェルビーが壁に手を触れ、手前と奥のちょうど中間を通り過ぎようとした時に、触れていた壁が自動扉のように開かれる。シェルビーとアライアは驚いたが、顔を見合わせ、一時的にそこへ身を隠すことに決めた。
シェルビーはこんなところに部屋なんてあったか? と考える。
電気が付き、暗かった部屋が明るくなる。アライアは監視カメラがないことを確認する。
「通り過ぎていった」
とシェルビーが扉に耳を付けながら言うが、アライアからの返事はなかった。
不思議に思い振り返って、シェルビーは絶句した。
視界の内側にいるアライアの背中はその緑色の光に馴染んでおり、ぼうっとそれを見上げる姿は酷く似合わなかった。
アライアとシェルビーの視線の先には、大きな筒状のカプセルがあった。
その中に、人の姿があった。
高校生くらいの女性がぷかぷかと緑色の液体の中に大量の管に繋がれ浮かんでいる。
白に近い金の髪の、この世のものとは思えない美しい顔立ち。
長い睫毛が伏せられ、死んでいるのか眠っているのか分からない。
豊満な胸と細い腰、大きいお尻、それらを含む全ての肌が露わになっていたが、シェルビー達は不思議と目を逸らさなかった。
「何だこれ……」
シェルビーはそう言いながらも、カプセルの中の女性に見惚れていた。
アライアは弾かれたように動き、カプセルの横にある机の上の資料や、引き出しの中のファイルなどを見ていく。
シェルビーもその動きに合わせるように引き出しの中から取り出したファイルを見ようとするが、それは力を込めても開かなかった。
「これ開けないぞ」
「ん?」
アライアが振り返り、それに手を伸ばし触れたとたん、開かなかったファイルがちょうどよく開かれる。
シェルビーはファイルを読んで、その中の内容を記憶していく。彼女が実験体であることやその実験に使われた物質についての資料だった。
「持っていこう」
とシェルビーが言うと、アライアは焦ったように言った。
「持ち出したらダメだ!」
「何でだよ」
「荷物になるし、何よりこのファイルは分厚い。持ち出し防止の為に機械が埋め込まれているかもしれない。この部屋から出すと警報が鳴るかもしれない」
「じゃあ俺が全部記憶する」
「そんなことをしている暇はない」
「この人が何なのか知りたい! せめて出す方法だけでも探す!」
「出すだって!? それこそ警報が――……いや、この壁の中に誰も入れないと言うことは……一般の施設員には隠されているということか……? ……分かった、この人を出そう、そしてこの人も一緒に地上へ逃げるんだ」
アライアの言葉にシェルビーは嬉しそうに笑い頷く。そんなシェルビーを見てアライアは容赦なく言い放つ。
「でも開け方が見つからなかったら、諦めて」
「そんなの出来ない!」
「俺達が無事に逃げられたら、地上で準備して、仲間もつくって助けに来よう。俺達の勝手な判断で、みんなを危険に晒すわけにはいかない」
シェルビーは少し考えてから、深く頷いた。
アライアとシェルビーは彼女について書かれる資料の中にカプセルの開け方が書かれていないか探した。他にも椅子でカプセルのガラスを叩いてみたり、パスワードを入力するボタンを適当に押してみたりしたが、結局、彼女のことを諦めることしかできない結果に終わった。
シェルビーとアライアはその部屋から出て、慎重に中央のエレベーターに向かった。
「なんでちゃんと見てなかったんだよ、手を引けばよかっただろ!」
「そんな歳でもないでしょ、それに施設の人が大勢いて私も焦ってたのよ!」
エレベーターに着くと、その手前で麗土とラヴィラが喧嘩をしていた。幸い大人達委の姿はなかったがいつまでも騒いでいたら見つかってしまうだろう。
「どうどう落ち着け落ち着け、何があったんだよ、お前らいつも仲良しだろ」
「ラヴィラが向とはぐれたって言うんだよ!」
「声抑えろって。……向とはぐれたのはどこでだ?」
「分からない……倉庫に入った後廊下に出て、大人達が廊下に大勢いたのよ。いなくなってから廊下を進んでここまで来たから、倉庫に戻ってるかもしれない」
「倉庫はここと近いのか?」
「うん、大人達が戻ってなかったらすぐ来れる筈よ」
「じゃあもう少し待ってみよう」
シェルビーの提案に、その場にいる全員が頷く。
「エリティ、疲れてないか?」
アライアがしゃがみこんでエリティの顔を覗き込む。
「うん、疲れてないょ」
「お人形本当に置いてきて良かったのか?」
「うん、外にもいっぱいお人形あるでしょ? いっぱい友達連れていつか帰って来るつもりだょ」
「そっか」
そんな穏やかな会話を聞いていたからか、ラヴィラと麗土はちらちらとお互いを見て、同時に頭を下げて謝り合う。
「悪かった。責めたりして、お前から離れた向が悪いのに」
「私もごめん。焦ってるからってついてきてるかどうかちゃんと確かめないなんてダメだった」
周囲に注意を払い続け、向を待つが、彼は全くと言っていいほどやってくる気配がなかった。
「まさか掴まってるんじゃ……」
麗土が青ざめながら言う。アライアが首を振った。
「もしそうなら警報が鳴ってる」
「どこで何してんだよあいつ……。あともう少しなのに……」
みんなが心配する中、アライアは考えるように視線を下へ向けた。。
「俺が一人で待つよ」
アライアが決心したような顔で言い放つ。
「え?」
そう声を上げたのはシェルビーだった。
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