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第一章
3話 ①
しおりを挟む「なんで俺呼び出されたの?」
職員室の隣、生徒指導室にせんやと二人きりで、せんやは仁王立ちで俺を見下ろし、俺は朝早くから呼び出されてなぜか床に正座させられている。
「君はどうして邪魔ばかりするんだ……。ガトーショコラと言い、ジュレアやルシフェル……それに、あの二人まで! うっかりだったとしてもやりすぎだ!」
「あの二人?」
「とぼけるつもりか! メールのやり取りしてたのにぱたりと返事が返ってこなくなって……自撮りも贈られてこなくなった……」
せんやの持っているスマホを覗き込むと、そこにはあの白いふわふわの髪の男子生徒と、もう一人紫に白のメッシュが入った髪の男子生徒がいた。
どっちも制服を見るにSSクラスだな。
「あー……この左の人になら会ったし、触ったかも……。って生徒同士だろ? 触らないって方が無理じゃね?」
「開き直るな! 次邪魔したら絶対許さないからな!!」
「って言うかジュレアが推しだったんじゃなかったのか?」
「最推しはキリクゥだよおおおおお」
「きりくー?」
せんやがシロくんを指して言った。
「キリクゥ・ザ・ジィド。2部から追加された攻略キャラ。隣のオロク・セン・デン・ポルもそう」
空中画面を表示すると、プロフィールに追加されていた。せんやが覗き込んでくる。
キリクゥ・ザ・ジィド
誕生日10/29 年齢16歳 趣味??? 魔法??? 寮???
親密度 5%
好感度 0%
オロク・セン・デン・ポル
誕生日8/3 年齢16歳 趣味??? 魔法??? 寮???
親密度 1%
好感度 0%
「このオロクってやつには会ってないんだけど……」
「キリクゥは全魔法が使えるんだ……。もしかしたらキリクゥが解いたのかも……ってことは俺がキリクゥ達に魔法掛けたこともバレてる……!」
某絵画のように両手を顔の横にやり、さらに青ざめた顔をするせんやを見て、同情する。
「何他人事のように見てるんだ、君のせいだろ」
「悪かったよ」
「って言うか君、このゲームに詳しくないだろ? ゲームはやってたの?」
「ああ。お前に勧められたんだし」
「え……」
「ん?」
せんやが呆けた顔をして俺のことを眺める。
「え、え!? 姫野恋⁉」
「え」
な、なんで気づかれたああああああ!?
「その名で呼ぶな!」
「なんで、可愛い名前なのに……」
「だから嫌なんだろ!!」
この名前が嫌でぐれて不良になったと言っても過言ではない。
「でもなんで今のでバレたんだ?」
「ほ、本当に姫野くんなの?」
なんだこのせんやのうるうるした目は。またぶりっ子か?
思わず鼻を摘まめば、変な声を上げた。
「姫野って呼ぶな。せめてレンと呼べ」
「れ、レン……」
ぽうっとした顔で見つめられて思わず後ずさる。なんか様子がおかしいが気のせいか?
「れ、レンにしか教えてないんだこのゲームのこと」
「マジか。どうして俺に教えようと思ったのかも不思議だったけど」
「仲良くなりたくて……ほら、俺が不良に絡まれて助けてくれたことあっただろ?」
「そのせいで死んだんだけどな」
「え、そうなの?」
「ああ。別の日に大勢連れてきやがって、後頭部に鈍器喰らって、死ぬ寸前のところに頭突きされて死んだ。お前は?」
「…………」
せんやは真っ青な顔をして俺のことを眺めている。両頬を摘まもうと手を伸ばすと、ぽろぽろとせんやの両目から光の粒が落ち始めた。
「…………」
なんか両頬に手を添えてるみたいになっちゃった。
「ご、ごめん俺……俺のせいで」
「いや。まあ、いいけど……」
最初は一発殴ろうと思ってたんだけどな。
「って言うかお前は何で死んでんの?」
「別の日に倒れてる君を見つけて……呼びかけてたら、後ろから誰かに殴られて……」
「それこそ俺のせいじゃね?」
そう言えば意識亡くなる寸前に誰かの声が聞こえてきたな。こいつだったのか。
「君のせいじゃない、俺が不注意だったから!!」
「落ち着けって……こんくらいのことで泣くなよ。今は二人とも生きてるんだし」
摘まみ損ねた両手で涙を拭っていれば、せんやは顔を赤くしながら呟く。
「前世よりかっこよくなりすぎじゃない?」
「悪かったな前世はかっこ悪くて」
「いだだだだだだ、いだいいだいいだい!」
生意気なことを言うせんやの頬を今度こそ摘まんで横に引っ張りまわす。
「そ、そんなこと言っへない! 前世もかっこひょか……いひゃい!」
「はいはい、逃れたいからって嘘言わない」
「ほ、ほんひょにそうほもってうのに~!」
思われてても複雑なんだよ。お前がちゃんと女子なヒロインだったら運命だって喜ぶところだけど。
パッと手を離すと、せんやは両頬を両手で押さえた。
「もう帰っていいか?」
「だめ」
「いやもう話し終わっただろ。邪魔しないように気を付けるから」
「だめ」
「そ、そんなに邪魔したこと怒ってるのか?」
せんやがじりじりと近づいてきて、後退していけば背中にとんと壁が当たる。いきどまりだ。
「もう攻略キャラとかどうでもいいから」
にっこりと笑うせんやの目は笑っていない。
「え? そんなに怒ってるの?」
「もう一人しか目に入らないから」
「は、はあ」
「絶対攻略するから」
「邪魔しないように気を付けます」
「なんで? 協力してよ」
「協力!?」
「俺の言うこと絶対服従、OK?」
「…………O……K」
せんやの笑顔ってこんなに圧が強かったのか? サイフェンよりおっかないぞ。
「じゃあ俺を抱きしめて」
「なんで?」
「絶対服従」
「…………」
軽々しくOKなんてするんじゃなかった。
なんかよく分かんないけど、ヴォンヴァートも攻略キャラの一人だし、抱きしめられて落ち着くなら……やっておこう。
ぎゅっと抱きしめると、胸に擦り寄られる。うぎゃあああああああああ、鳥肌が立った。
「じゃあ次はキスしようか」
「は?」
体を離して顔を見れば、そんなことを言われる。潤んだ瞳で見つめられ、目を瞑られる。すぐ近くで唇が伸ばされ、かかとを上げて精一杯背伸びをする。
「……………………」
「レン……」
ぞわり。
と背筋に悪寒が走り、せんやを突き飛ばして指導室を飛び出していった。
「ふふふふ、姫野くん……君を絶対に攻略してみせるよ」
机の上にあおむけに倒れたせんやの呟きなど、疾走していた俺の耳に届くはずもなかった。
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