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第一章

3話 ②

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 あー……走ってたら、相変わらずお腹は空かないけど喉乾いてきた……。
 校舎の食堂にあるドリンクバーでコップにジュースを注ぎ、口に含む。
「うっぷ」
 おえええええええええええええ。何だこの不味い飲み物吐きそう。
 近くにあった洗面台に吐き出して、口の中を水で灌ぐが妙なぼわあっとした感覚が抜けない。別のジュースを口直しに次いで飲んでみたがクソ不味くて洗面台に吐き出した。不味いと言うより味を感じない?
「ま、まさか飲み物もダメ……?」
 ああああ、なんか喉が渇いて渇いて仕方がないんだけど……吸血衝動ってやつか? そう言う時は学園の研究室から支給された薬を飲めばいいんだけど、フツーにめんどくさいと思って研究室に貰いにいかなかったんだよなぁ。
「こんなにつらいとは思わなかった……」
 誰かいないか? もう誰でもいいから血を吸わせてくれ。
 この時間帯じゃ食堂には誰もいない、外へ出てみて、辺りを見渡すと、ベンチに見覚えのある姿を発見した。
「シロくん……!」
 手を伸ばし、声を枯らし、喉を押さえながら近づいていく。
 滝のような汗が流れ始め、体は熱を持ち始める。
「やあ、ヴォンヴァートくん。ここで待っていたらまた会えると思って、来ていたんだよ」
「そ、そうか」
 こんな朝早くから何してるのかと思ったら、俺を待ってたのか。え、来なかったらどうしてたの?
「体調が悪いのかい? 君に会いたいって言う友達も来る予定なんだけど……今日はいいや。それより保健室に行った方がいい」
「シロくん、血……」
「ち?」
「血、くれ」
「ん?」
 白い首筋に手を伸ばし、撫で上げると、キリクゥの眉がぴくりと動いた。
「触られるのはあんまり好きじゃな――」
 首筋に青く浮かぶ血管から目が離せない。
「――わりい」
 そう言って、底辺中の底辺の理性を何とか保ち、襲い掛からないように気を付けながら、相手と距離を詰めて背中に腕を回す。
「!?」
 キリクゥの体がビクついた時だった、寸秒間もなく白い首筋に歯を立て、血を吸い上げる。
「――ッ!?」
 キリクゥが胸を押しのけようとするが、それ以上に強い力で押さえ込み、満足いくまで吸い上げた。
「ああ、うんまあ!」
 いやあ、今世にきてから血ぃ吸うのって抵抗あって吸血鬼になるんじゃなかったって思ってたけど、吸血鬼にとって血ってこんなにうまいのかあ! 今度からは隠さず吸血鬼ですって言って血飲ませてもらおっかな。せんや以外の。
「ってやべ。シロくんのこと忘れてた」
「……僕を忘れてたって?」
 どす黒いオーラを纏ったさわやかな声音が聞こえてくる。
「あ、あはは……」
 振り返ると、笑顔に青筋を浮かべたキリクゥが首を押さえながら立っていた。
「説明してもらおうか、ヴォンヴァートくん」
「はい……」

 ◇◇◇

「じゃあ君は闇魔術組織で生まれた吸血鬼って生物なのかい?」
「ああ。そうなんだ。いつも研究室から薬を貰ってたんだけど、めんどくさくて取りに行かなかったら……飲みたくなっちゃって」
「めんどくさいって……」
「シロくんがいなかったらどうなってたことか、助かったぜありがとな!」
「無理やりだったけどね」
 ずっと笑顔なのが怖い。せんややサイフェンの笑顔といい、どうして笑顔ってこんなに怖いんだ。
「でもめっちゃおいしかったし、もうみんなに吸血鬼だって打ち明けて飲ませて貰おうかなって思ってるんだ」
「それはどうかと思うよ、君が闇魔術組織の実験体だったってことも秘密にしておいた方がいい。この学園は闇魔術組織から君を隠しているんだし、敵に知られたら大変だからね」
「敵がいるのか? 魔法学園内部に?」
「スパイがいるって言う噂だけどね、用心していた方がいいよ」
「そうなのか……」
 それより、ずっとキリクゥの首から血が流れてるんだよな。罪悪感……。
「カットバン持ってるけど、いるか?」
「なんでそんなにかわいいカットバンを持ってるの?」
 うん、自分でもどうしてって聞きてえ。この間ガトーショコラ切ってる時に怪我した時のためってサイフェンから貰った。
「付けてやるからこっち向け」
「…………」
 さっきキリクゥの右側の首を噛んで、今はベンチに二人で座っているのだが、キリクゥが俺の左に座っているので届かない。
「自分でつけるよ」
「見えねえだろ」
「……分かった。お願いするよ」
 こっち側に体を向けるキリクゥの首に、傷口に2枚——八重歯で噛んだから2箇所に傷がある——カットバンを付けてやると、目が合う。
「…………」
「……………………?」
 なんでこんなに見つめられてんだ?
 目を逸らせずにいると、ピコンと通知の音が鳴った。今は開けないな。
 そう思っていたら、左の頬にキリクゥの黒い手袋をつけた右手が伸びてきて、頬を撫でてくる。瞬間、目を逸らし距離を取った。そして通知を確認する。
「…………」
「………………」
 思わず顔背けちゃったけど何今の気まずううううう!
 ん?

 《おめでとうございます! ルシフェル・ギーウェンとの親密度が10%になりました!》
 《おめでとうございます! キリクゥ・ザ・ジィドとの親密度が10%になりました!》
 《おめでとうございます! キリクゥ・ザ・ジィドとの親密度が20%になりました!》
 《おめでとうございます! キリクゥ・ザ・ジィドとの親密度が30%になりました!》
 《おめでとうございます! キリクゥ・ザ・ジィドとの親密度が40%になりました!》
 《おめでとうございます! キリクゥ・ザ・ジィドとの好感度が10%になりました!》
 【おめでとうございます! キリクゥ・ザ・ジィドとの親密度が50%になりました!】

 なんだこの赤文字の……50%になった時の通知オフにし忘れてたのか。それでピコンってなったのか。
 ってそうじゃなくてこの怒涛の通知が怖いんですけど。え? なんでこんなに親密度上がってんの?
 吸血鬼のことについて話したからか? そう言えば他の誰にも話したことなかったかも。
 ついでにプロフィールも確認する。

キリクゥ・ザ・ジィド
 誕生日10/29 年齢16歳 趣味??? 魔法全魔法 寮???
親密度 52%
好感度 14%

 あともう少しで好意を持たれてしまう!! 好感度ってどうやって下げるんだ。
「し、シロくんさっきの……」
「ん?」
「頬撫でる奴、気持ち悪かった」
 こんなに正直に伝えられたら、嫌いになるはず。
 ちらっ。

キリクゥ・ザ・ジィド
 誕生日10/29 年齢16歳 趣味??? 魔法全魔法 寮???
 ヴォンヴァート・リリア・インシュベルンに好意を持つ(好感度15%以上)。
親密度 52%
好感度 16%

 あれ?

「そんなに気持ち悪かった?」
 手を取られ、ちゅっと目の前で音が鳴る。
 手の甲に湿った感触が乗って、ぞわわわわわわわわっとそこから鳥肌が立つ。
「ぎゃあああああああああ、やめろ気色悪い」
 手をバッと取り上げて距離を取れば、詰め寄られる。

 《おめでとうございます! キリクゥ・ザ・ジィドとの好感度が20%になりました!》

 え?

キリクゥ・ザ・ジィド
 誕生日10/29 年齢16歳 趣味??? 魔法全魔法 寮???
 ヴォンヴァート・リリア・インシュベルンに好意を持つ(好感度15%以上)。
親密度 52%
好感度 20%

 だからどうして上がるうううううう!!
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