堕ちる犬

四ノ瀬 了

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俺がお前を使役する時、課題を与える時、それはいつだって賞罰の対象になる。

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 木製の階段を下りた先の地下室で、霧野は石畳の床の上で裸体を軽く身震いさせた。
 霧野は何度か畜舎や隣のコテージを訪れたことがあったが、この場所に足を踏み入れるのは、初めてのことで、まず存在を知らなかった。畜舎の暗がりの床に備え付けられた扉に気が付いたとしても、物置と思って疑わない。

 地下室は事務所の地下の半分ほどの広さだった。もとは物置かワインセラーにでも使われていたか、左側の壁際に棚がそえつけられ、反対側の壁には棚を剥がした後が残り、代わりに大きなテーブルと椅子が三脚置かれていた。古い赤煉瓦を詰まれた壁が四方を囲み、正面の壁の隅に、小さな暖炉が備え付けられていた。

 少し異様なのは、天井に五つの横並びに滑車がとりつけられ、鉄製の頑強なロープが垂れ、ロープの先には釣り針のようなフックが垂れ下がっていた。壁の空いている部分にも何かを吊り下げるためのフックが突き出ていた。床にもいくつか、滑車と対応するように鉄製のリングがとりつけられていて、霧野は生唾を飲み込んだ。

 薄闇の奥に光るものがある。ノアの瞳だ。ノアはリードで地下室の隅に繋がれていたが、霧野と川名が降りて来たのに気が付いて、丸くなっていた身体を起こし、頭を上げて口を左右に大きく裂けるほど開いて舌を出した。彼の息遣いだけがしんとした地下室に響いていた。

 ここはなにか、と思っていると、上の方から「お前が疑問を抱く必要はないんだ。」と心を読むように平坦な声が降ってきた。

「お前のような出来損ないの獣はまず、思考せず人間に従うことだけに集中するんだな。一体何のために俺が時間を割いて調教してやってると思ってんだ、霧野。」
鞭の先が真っ赤に腫れあがった霧野のハムスターをこつこつと優しく叩いた。
「……、……。」
霧野は痛みと悔しさに頭を下げていた。
「さ、こっちに来い。」
今度は川名が霧野を引っ張るようにして進むので、彼の横にぴったり離れず並ぶようにしてどしどしと床を這う。

 彼が椅子に座るので、足元に座った。白ハンカチと馬鹿げた帽子を取り上げられ、手錠を投げ渡される。股間の間から荷物をとる代わりに、手首に手錠をかけるように指示された。嵌め終わると、荷物と下着がとりはらわれた。まだ荷物のけん引の余韻で股間が熱く痛む。視線を下げると、遊ばれ飾り付けられた桃色の雄が、今にも湯気立ちそうな陰茎が、目につくのだった。それは、生殖器として用なさず、使うことを許されず、遊ばれるための存在。雄としてどうなんだよ?と澤野が傍らから語りかけてくる。うるさかった。

 霧野の視界の外から「服従の姿勢をとれ」といつでも頭に響く真っすぐな指示声が届いた。ノアは居るとしても、他に人がいない分、厭には違いないがまだマシだろうと、床に転がって股を開いた。息が上がってしまう。体感時間にして少なくとも3分以上そのままにされ、見降ろされ続け、股関節と背骨が痛み始めた。

 川名は椅子から立ちあがり、視界の外に消えた。足音がこつこつと地下室に響き、物音、それから、金属のこすれ合う音がしていた。
 
 足音が戻ってくるまでの間、冷えた床の上で、川名のことを考えていた。いつだって澤野であるときは、彼を満足させることに神経を傾けた。霧野は他人に媚びることを忌み嫌ったが、川名の刺激的で残酷な命令に彼の腹心として尽くす時はその通りでは無かった。警察組織に居た時やそれ以前の生活の中では、眉をひそめられた行動の全てを、川名は好意的に受け入れるのだから。一警察官、いや、1人の人間として、何度も葛藤をしたものの、自分の否定され続けた部分を、川名は抱くように受け止めるのだ。それが彼の手口だとわかっていても、心が全く揺らがない程、霧野の精神はまだ成熟はしていなかった。

 事務所に居る時の川名は多く倦怠の中に沈み、時に怒りを露にし、時には全てを諦めたようなまったくの無の表情を見せていた。実年齢に比べ若々しい横顔、苛立たし気に伏せられた瞼の下の倦怠の瞳。引き締められた薄い唇が、時折薄っすら開いて、聞こえない程度に小さく舌打ちしてから、微笑み作られる。印象として、よく見れば見る程、人間というより獣の顔であった。獣が人間の中に混ざって、必死に人間のふりをしている。それで口から突飛な、しかし、理にかなった指示を出し、人を怯えさせた。時折、働きの良い者の前では、表情を緩めるのだが、作り物じみて畏怖を抱かせる。対外交渉でただ単に威圧するだけでなく、顔を使い分ける彼は、人を魅了する。
 
 時々霧野は、川名に対して、俺だけがお前を理解してやれるのだと尊大な気持ちを抱くことがあった。彼の秘密に近づいて、屋上で彼の上に立ちながら、街を眺めて高まる鼓動を抑える。彼のことを知る程に、恐怖が霧野をゾクゾクと昂らせた。危険な任務を負わされたことで警察組織を恨んではいたが、自分だけが彼に近づけるのだと自らを奮い立たせ、川名を追い続けた。今だって。

 足音が戻ってくる。川名の手元には鋭く長い針が摘ままれていた。霧野は思考を中断せざるをえなくなり、全身に鳥肌だつのを感じ、床がぐらつくのを背中で感じた。逃げ出したいと思うが、そのまま身を床に横たえたまま、姿勢を続け、懇願するように川名を見上げた。

「なんだ?怖いか。何されるのか大方想像がついているから怖いんだろ。震えてるぜ。」

 川名はわざとらしく微笑んだかと思うと、手の中に握っていた物を、指の間に挟み、光にかざした。小さな銀色の飾りが仄暗い地下室の中、川名の革手袋の上で、一滴の涙のようにきらめいてた。ノアが興奮して一度二度と吠えた。霧野から湧き出した汗の臭いに反応したのだ。

 ノアは川名に一瞥されると鳴くのを止め、鼻先を腕の中に埋めながら、大人しく地に伏せ上目遣いに霧野の方を見ていた。川名は飾りを再び手の中に握りなおし、霧野の頭のすぐ横に立って、手を軍人のように後ろに回し、無防備な姿の霧野を覗き込むのだった。カチ、カチ、と川名の背後で金属のこすれ合う音がする。

「お前の、今日の外での仕事ぶりを採点してやろうな。」

はぁはぁと霧野の半開きの口から吐息が漏れ続けていた。

「そろそろお前を外に出してやってもいいかと思って試しに働かせてみたが、全然まるで駄目じゃないか。え?まず屋敷ではあんな雑魚になど手こずって、恥ずかしかったぞ、俺は。お前は俺の前で戦わせれば、いつだって圧倒的な一番だったじゃないか。それで、今度は昔の職場の犬仲間に会わせてみれば俺の預けたモノを無くしたと平然と言い張る。……。……無くしたんじゃない、置いて来たんだろ?本当のことを言ってみろよ。」

 川名は後ろに回していた手を再び前に出した。キラキラと懲罰のために用意された装飾が輝いている。光が滲んで二重三重の話を描いて、光の輪の向こう側に川名の顔が見えた。滲んだ彼の顔は、水のような冷ややかな表情の中に、ほんの微かに、一瞬だけ、悦楽を漂わせているかのように見えた。霧野はほんの小さく声を上げた。

「……。」
「……。言わないのか……。」

彼は優し気にそう言った。かざされた手の中に飾りの数がいつの間にかもう一つ増えていた。

「今の態度を含めても-200点相当だぞ、”澤野”。今ここで精算させてやるよ。」

……。

……。

 ご飯の時間になった。二頭分の餌が、目の前に、川名の足元に用意されて、よし、と言われて何も考えず反射的に口づける。自らの顔からあふれ出る体液のせいで、苦く塩辛いドッグフードだった。

 霧野の股の間の飾り物に、光る星が二つ増えていた。生理のように、涙のように、血が、細い線を描いて流れ続けていた。爆発したような痛みが続き、嚥下しながら喘ぐ。

 ピアスの懲罰は、服従の姿勢を保ちながら行われた。一つ目を着けられた後、霧野が脱力して、耐え切れず服従の姿勢を崩しかけた時、霧野の股の間に屈みこんだ川名の指が手袋越しに、霧野の孔に触れたのだった。

「あ゛……ぅ゛ぅ…‥‥ぐぅ」

 媚びるように肉穴が川名の指先に吸い付いて収縮し、淫靡な音を地下室に響き立たせていた。川名の指先が、ふわふわと膨らんだ霧野の立て割れに触れる。霧野から流れ出た血が潤滑油となって裂け目が赤く染まり、口を開く。

「ん、んん……」

 痛みで朦朧とした霧野の口から甘美な声が漏れ出し、半開きになった口から涎が漏れていた。ぷつ、肉の中に指が解けるように侵入してきた。温かく蜜のようになった霧野の淫門の間で、細い指は簡単に咥え込まれ、異物感さえ最早感じない程であった。

「あ゛あっ!」

川名の中指と薬指がすっかり根元まで霧野の中に入り込み裂け目を押し開いた。

「上の口で文句たれない代わりに、ここで主張するようになって。少し見ない間に大したビッチになったもんだな。ええ?」
「ぐ……、ちがぁ……」
「おい、許可なく勝手に人語を話すなと言っただろ。犬。」
「……ん、く」
「お前の声帯を焼き潰してもいいんだ。別に性処理だけしている分には”管”は必要だが声は不要だからな。それとも、舌を切り絵のように奇麗な形に切り取ってやるのがいいか。どっちがいい?ハル。」

 人差し指、それから小指までもが肉の中に差し込まれ、中で四本の指がばらばらとピアノでも弾くように折り曲げられ、霧野の肉奥で鳴りを潜めていた淫乱の獣が再び大きくなり始め、痛みと共に螺旋を描くように高まって、肉が、ぐん!と、ゴムのように引き締まる。
 
 肉の中の神経が一本一本さざ波だち始め、川名の常に機械的で一定の手つきに腰が浮き、くねるが、追尾するように、いつまでも同じ調子で中を屠られ、拒絶することもできずに、呻く。呻くと身体の中の波が大きなり、肉奥の音叉を揺らされたように、震えて、一擦りごとに、さざ波が大きくなる。霧野の反応がどれほど大きくなっても、逆にどれほどこらえても、川名の手つきは一切変わらず同じ場所同じ速さでこすり続ける。気が狂いそうになる。

「ぁぁ……っぁ、ん、あ」

 川名は何も言わない。
 霧野は、朦朧としながら、川名が愛人にする時はきっとうまく紳士的だろうと思った。霧野自身の盛り、女を叩きつけるような女性との性交渉とは違うはずだった。実際、川名がコトに及び始めるところまで隠れて聴いていたこともあるが、今の愛人である蓉子についても、霧野に対する鬼畜が信じられないほどに紳士的な態度である。
 
 それなのに、何故俺は、と思いかけた霧野だったが、愛人と己を重ね合わせていることに気が付き絶望し、頭を振った。また、機械的な指の動きが、霧野を内側から滾らせ、声をあげさせる。堪えようとすればするほどに、遅れて大きな波がやってきて耐えられない。目をきつく閉じて川名のことを感じないようにしようとすればするほど、脳裏に焼き付いた彼の、獣のような何を考えているかわからない、水のような冷めた目つきがまばたきし、心を騒がせる。また奥を突かれる。ほんの軽く。

「あ゛あ!…‥っぁ…‥‥ぉっ、うぅぅ」

 喘ぎ、薄っすらと瞼を開く。霧野の浅く呼吸する唇が震えて、言葉を発せない代わりに悔し泣き喘いだ。川名は若干憐れみを込めたような表情で霧野を見下げ、作り笑いをした。

「なんだよ。犬のくせに。俺とコミュニケーションをはかりたいのか?じゃあ、さっきのように、ここの部分」
機械的に動かされていた指が止まり、コツコツと罪の場所をノックするようにた叩かれ、霧野の身体は跳ねた。
「ここの部分を使ってだったら会話していいぞ。YESだったら1回、NOだったら2回ここをしっかり締めろ。わかったな、雌犬。」

パン!と尻を平手打たれ、霧野の肉体は震えながらのけ反って川名の指を勢い3回ほど締め付けた。

「こら!YESは1、NOは2だと言ったろ。この!物覚えの悪いな!お前は!」
川名の指がピアスにひっかかり、勢い上に引き上げられる。
「きゃひぃ!」

声を荒げ、噛みつくような川名の口元が見える。反対に霧野の口はだらしなく弛緩し舌がチラチラと飛び出ていた。幾度も平手を食らう頃にはピアスを施され勢いを失っていた雄が、マグナムのように立ち上がる兆しを見せた。

「はへ‥‥…」
「今のは1回目だから許してやろう。もう一度だ。わかったな、雌犬。次間違えたら、お前のマンコ肉にもピアスを開けて、よく身体にわからせてやるのがいいだろう。お前は実に頭が弱いからな。お前がそうされたいなら、好きにしろよ。皆は悦ぶだろうが、俺は別にどっちだってかまわない。お前がどんな姿になったって別にいい。」
「う゛……ぐぅ……」

 ひんやりとした地下の中で淫らな雄膣を有した肉塊の周囲だけがサウナのようにむんむんと熱を放っていた。肉は川名の指を離し、再び小刻みに締めつけはしたが、大きくわかりやすく締め付けることはしないように耐えているようだった。川名の指はそのまま霧野の中を再び擦り、霧野は意識的にNOと2回大きく川名を締めた。しかし、止めてもらえるわけもなく、また、2度締めては弛緩させ、2度締めては弛緩させを己の意思で、何度も繰り返しNOの合図を送り続ける。その内、霧野は自分で川名を締め付け続けたせいで、だんだんと己も高まってしまい、うまくYES/NOを使い分けることができなくなり、判断力もなくなっていった。身体が力み、腕に力が入ると手錠が音を立てて、それから、首輪の存在を感じた。

 首輪から延びたリードがたわみながら、川名の手首に繋がっていた。一本のリードを見ていると、頭の奥の方が、なぜだかぼんやりとしてくる。

 はひはひと、物言えない口から呼吸を漏らしながら、川名の指の動きに合わせて熱源を痙攣させるように締めたてて喘ぐ肉となり、痙攣するように頭の中のNOとは反対にYESYESと雄膣がうねり止まらなくなり、頭の中に、汁がじくじくと、拡がったようになり、周囲がチカチカときらめいて、ここがどこなのかも忘れかけていた。それほど川名の責めは責めというより愛撫と言え、今日一日の鬼畜行為と、それなのにまだ一度も肉棒を咥え込んでおらず、焦らされた肉にとっては、本人の気持ちとは別に、たまらない物になっていたのだ。ピアスの超絶な生殖器への痛みが、快楽のエッセンスとなって高みに昇っていく。

「あ゛……!…お゛…っ!!ぉっ!、‥ん…ふ、」
い、いってしまう。と霧野が一段と身体に力をいれたところで、指がするすると抜かれた。ぷちゅ、と汁が飛び散って床を汚していた。
「ぉ゛ひ……っ!」
霧野の身体はすっかり弛緩して、だらしなく服従の姿勢をとり続けていた。弛緩した肉の周囲は濡れていた。川名は手を虫でも振り払うように振って手に着いた霧野の大量の汁を散らし、霧野の太ももの辺りに残りを拭うようにして擦りつけて立ち上がった。

「今のそのだらしない姿勢が淫乱雌犬のお前によく似あう正しい服従の姿勢だ。わかったか。」

霧野の意志と別に肉体が、弄られた肉をしっかり一度締めたてて、主に見せつけるのだった。

「うぅ゛…ん…ふぅ……」

理性の部分で情けなさに涙が出るのだが、焦らされた快楽が身体の中に渦巻いて、身体の中に穴を開けられたようでたまらない。身体の奥底から無際限に涎がじくじくと膿んだ汁がにじみ出るようだ。口を開けば勝手に喘ぎ声が小さく漏れた。口を閉じて目を閉じれば、しとどに涙が流れるので、どうしようもなく虚ろに視線を彷徨わせ、何も考えないようにしていた。そう、獣は人間の言うことをただ聞いていればいいのだ。

「霧野、お前は今後その姿勢をとる度、今俺にされたことを身体で思い出すんだよ。」

主の言葉が犬の脳を犯す。

「そうすれば俺の前で自然と正しく股が開くよな。……どうした?お前の犬としての正しい行為のあり方を教えてやったんだぜ。お前は俺に感謝すべきじゃないのか?ほら、”YES”はどうしたんだ。それともやっぱり、そこにも飾りが欲しいのか?どうなんだ?よく見えるようにして、しっかりやれよ。」

霧野は頭を左右に震わせ、下半身でYESのシグナルを送るものの、羞恥に顔を赤くさせた。
-200点分のピアスは2つ並んで雄の部分にとり付けられて、裂け目は無事そのままにされたのだった。

……。

……。

 霧野の餌はノアに用意されているものより豪華に装飾されで量も多い。一体毎度どこからこんなに男の身体から分泌される液体を集めてくるのだろう。川名一人で出せる量でもなく、わざわざこのために己の物を絞り出しているとも思えず、買い取っているのか、組の中でボランティアでも募っているのか。普段自分達に利益が無いと動かない連中だというのに。こんなしょうもないいじめのために精液を嬉々として提供するというのか。子どもじゃないんだ、もっとあるだろう、頭が悪すぎる。咀嚼するたびに霧野の脳裏に苛立ちと共に次々知っている顔が浮かび消え、苛立ちに脈拍が上がると膨らんだ雄が躾の痛みに苛まれ、悲鳴を上げた。まるで、心の中で罵ったことを皆から責められているようだった。それで最悪な淫靡な気分が出てくるのだから、奴らの全く思うつぼだった。

「うぅ‥…くふぅ゛……」

 ドッグフード自体は人間が食べるには味気が無さすぎるが。精液が個別にコンドームの中に入ったまま十数個と混ぜられている場合、それぞれの味に違いがあるのが霧野の舌にはわかるようになっていた。味の違いなど考えたくも無いはずだが、普段の霧野の馬鹿舌、美味いか不味いかくらいでしか知覚できなかった霧野の味覚は、娯楽要素の無い栄養のみの空疎な餌(与える側にとっての娯楽はあろうが)と過剰ともいえる精液摂取の繰り返しによって、鋭敏化されて、精液の若干の味の違いを感じられるようになってしまっていた。無味乾燥とした食事の中での最悪の娯楽要素と言えた。

 霧野は懲罰の痛みと精神的苦しみの中で、涙を溢れさせながら、別のことを考える努力をした。気を紛らわせるために、この牧場と地下室のことを考え始めた。この牧場の家畜や備品等の売買の明細にも何度か目を通したり、作成させられたりしたことがあった。明細上は牛を五頭売却したとあるが、実際に牛が消えていなかったり、寧ろ増えていたりということがある。品目上「牛」としているが、実際に取引されているものが違法な物品、例えば日本では認可が下りない銃であったり、資金の洗浄のための明細であったりするのだ。

 考えながらも、咀嚼と共に、頭の中を獣臭い匂いと生臭い匂いが通過し続ける。すっかり汚れた口の周りをノアがぺろぺろと舐めまわす。吐き気を堪えた。

 食事がすむと、部屋の中心へ移動を指示され、4つ足の姿勢から、ようやく立つことを許された。5つあるうちの真ん中の滑車の下に壁の方を向いて立つように指示された。フックが降ろされて手錠に引っ掛けられた。首輪にリードの代わりにもっと長い鎖を取り付けられ、こちらは床に向けて、おじぎでもするように引っ張られて、鎖の末端は床に据え付けられた鉄製のリングに連結されるのだった。ようやくリングの使い道が分かった。それでいて、手錠の方は上の滑車から降りたフックに繋がっているので、滑車を回され上に引き上げられると、頭の後ろで手を組む姿勢になる。身体を折り、地下室の入口にむけて思い切り、その巨満な尻を突きだすような姿勢になり、霧野は地下室に下るまでに通ってきた道に居た馬達を思い出していた。

 霧野の頭はちょうど川名の太ももの辺り、咥えやすい場所に、位置していた。
「……、……。」
 顔を掴まれ、黒い犬を模したマスクを上から被せられた。口を開かされ、マスクの中に備え付けられたゴム製の陰茎が霧野の口内から喉までを真っすぐに塞いだ。
「んぐ‥…っ、」
「お前は退屈が嫌いだろうから、おしゃぶりさせて学習の時間を設けてやろう。」

川名の手がぐいぐいと犬の頭を無遠慮に撫でまわす。頭が動くと喉が突かれた。偽の男根は、川名の形に近いことが咥えてすぐにわかった。

「お前の口淫は悪くないが、皆の話を聞くにまだ歯をたてることがあるようだ。今お前の口、喉にいれたのは、強く噛みつけば歯型が残る素材のペニスだ。俺が何を望み、何を望まないか、お前ならわかるな。俺がお前を使役する時、課題を与える時、それはいつだって賞罰の対象になる。」
 
 開かされた口の筋肉が震え、涎がジワリと溢れ出た。霧野の長い舌が無意識にゴム素材を下から上に舐め上げた。

 ただでさえ苦しいのに、食事をとらされたばかりで、せりあがろうとしてくる液体も、精液に近いゲロであり、まるで本物をしゃぶらされているようだった。呻き声を出そうが、高い声を出そうが、マスクの向こう側に見える川名の表情が変わることは一切なかった。まるでそこに当たり前の景色があるかのように、霧野を眺める。笑いもせず怒りもしない。そして当たり前のようにノアと同じか、もっと酷い扱いをするのだ。

 物言えぬ身体を揺らすとギシギシと音がたち、視界の先の床に、マスクの隙間からぽつぽつと涎が垂れる。マスクで顔が覆われているせいで臭いと自分の激しい呼吸の音がこもるのと、視界が狭いせいで川名の存在がしっかり感じ取れず、不安に心臓が早まった。視界の隅に黒い物があらわられた。ノアがリードを外され自由にちょろちょろと動き回っていたかと思うと、霧野を見つけて足を止め、短い尻尾を勢い良く振りながら、にこにこと見上げているのだった。心拍数が上がり、厭な汗が湧き出てくる。突然、頭を掴まれ、顔をあげさせられ、川名の顔が覗いた。

「今から人を呼びに行ってくるからな、大人しくここで待ってろよ。」

霧野は塞がれた口の奥で勢いよく唸った。やっぱりまた輪姦させるんじゃないか。こんな格好させて。
川名は霧野のマスクの中の鋭い目つきを眺めていたかと思うと、手を離し視界から消えた。

「俺がいなくなるのが寂しいようだな。しばらくの間ノアに相手をしてもらえ。」

川名の手が、霧野の身体を這う。冷たい物が敏感な場所に触れた。

「これはノアのよく反応する雌犬のホルモンの香り材だ。前にも一度試したろ。」

川名の静かな声が背後から聞こえる。霧野は情けなさを殺しながら、尻の穴で、NOの合図を何度も送ったが、一向に相手にされず、逆に乳牛の乳でもしごくように、飾られたピンク色の突起を指で無遠慮に触られホルモン液を練り込まれて、喉奥で嬌声を上げてしまう。鎖が音を立てる。ノアが姿勢を低くして唸り声をあげはじめる。

「なんだ?さっきからデカ犬マンコをひくつかせて。霧野君。こんな姿みたら、親が泣くよ。」

 後孔に硬い物があてがわれ、霧野は頭をぐっと下げ、股の間から覗くようにして、背後を確認した。川名は一度手に持ったものを霧野の尻から外し、腕をおろした。霧野の視界にも、川名が手に持つものがはっきりと映った。太いところで10cm強、長さ15cm強ほどあろうアナルプラグに、太く長い尾が半月型を描いてくるんと映えている。あっ、と声を上げる間もなく、再び肉門が痛み、一度大きくギリギリと開き、それから勢いよく、ぐぽ!と、奥まで異物が嵌り込んで膣が激しく引き締った。

「ん゛ん゛んん!!」

 川名の手によって、肉の中でそれがくるりと半周させられると、股の間にゴム製の太く黒い尻尾が垂れ下がっているのが霧野からも見えるのだった。じんじんと痛み、とろかされた奥の方が締る。川名が手がリモコンを押すような仕草をする。目の前で、激しい音と共に尻尾が左右にブンブンと揺れ、中のプラグまでぐわんぐわんと激しく左右に揺れるように連動、すっかり弱く柔い中を一定の調子で激しく掘削、攪拌して、霧野を苛むのだった。拘束具がギシギシ音を立て、川名は尻尾をぐいと掴み上げ、呻き身体をよじる霧野の尻尾の位置を、下から上に戻した。霧野の尻に突き刺さり、上にピン!と立ち上がった大きな尻尾が、ノアの尻尾と同じように激しく左右に揺れていた。

「んぐぅ…っ!!!ふっ‥ぐ‥ぅ…!!!」

尻尾を震わせながら、犬は拘束を軋ませ、吠えたが、マスクの中に掻き消きえる。川名が再び頭の方にやってきて、その周囲をノアが旋回していた。川名の手が震える霧野の頭を包むように腰下で抱くのだった。布越しに頬に川名の物があたる。彼の身体から、シナモンのような香りがした。

「尻尾を振って喜んで。良かったな。じゃあ、俺は少し外すから、愉しんで。……GO、ノア。」
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