堕ちる犬

四ノ瀬 了

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あなたが、とんでもない淫乱だから俺の視線にまで感じるんです。

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霧野の背後には八代が立っていた。その佇まいに嫌な感じがして、彼を振り切るように化粧室へ入った。化粧室には霧野八代の他には誰もおらず、静まり返り清潔だった。

八代がいることは、霧野にとって不本意であり、遅れて強い羞恥と苛立ちを覚えた。八代は以前、ハクの役目として北条と共に、事務所にやってきた。彼は、霧野の調教中に事務所を訪れ、霧野の折檻の原因の一つを作った上、二条に殺害されかけながら犯されている霧野を見殺しにして帰った男である。霧野が度重なる折檻の中心の中で、幾らか罵った男の一人であった。凌辱の中で、一つの現実からの逃げ、救いとして、許せない人間の、いつか復讐するに決めた人間のリストを作った時にその末端に名前をのせかけることもあったが、自分より経験も浅いような彼を目の敵にしてもしかたがない、と忘れかけていた男だった。今は冷静さを欠いてはいけない、大人げないと、己を奮い立たせて、霧野は八代に向き直った。八代から目の前に手帳が差し出され、次のように書かれていた。

『裏に車を用意しています。あまり長く居ても怪しまれますから外に出ましょう。説明している時間はない。』

思ってもいない文言であった。霧野は黙ったままいぶかし気に八代を見た。八代は手帳を自分の方へ戻すと書き込みを加え霧野に手帳を向けた。

『貴方の関係者は皆避難、監視させていますから心配ありません。』

霧野は、手帳の向こう側の八代の顔の上に、あからさまな憐憫と正義感が溢れているのを読み取った。それで、まず最初に、助かったというより、収めたはずの苛立ちが再び膨れ上がって、皮膚の表面をぴりぴりとさせた。とはいえ、顔には出さず、冷めた表情のまま霧野は八代の手帳に静かに手を伸ばした。かせ、と声を出さないまま口だけ動かした。手帳を受け取ってから、ようやく、もしかしたら助かるのかもという、甘い期待が心のうちに沸きあがってきたのだった。

しかし、手帳にはつい、『この前のことは?』と書いてしまうのだった。時間が無いとわかっており、それ自体霧野自身を動揺させることであるにも関わらず。蘇りかける景色と二条からくわえられた屈辱と恐怖と痛み、その中に八代の姿があった。全てはお前のせいだと、言いたくもなったし、忘れかけていた疑念が一気に様々蘇ってきた。

八代は霧野を一瞬面倒くさげに見たのだった。それから、付け加えた。『別に、自分は、何も思ってませんから。しょせん、仕事なので。今は神崎さんが川名を足止めしています。彼の元居た場所を覗いてみて下さい。いませんから。あまりもたもたしている時間はない。』と書いて見せた。

さりげなくネクタイピンを外して、また廊下に出た。廊下の角から神崎のいた場所を覗くと、八代の言った通り、そこは空席になっていた。

「貴方がどうしても私を信用できないといったって、無理にでも連れて行くつもりです。そういう命令ですからね。」

いつの間にかすぐ背後に立っていた八代が囁き、無遠慮に霧野の腕をとるのだった。霧野は、一瞬そこに違和感を感じず受け入れてしまったが、それは、無遠慮に肉体に触られるのに慣れ始めていたからであり、一呼吸間をおいて、凄まじい嫌悪感、なれなれしさに憤り、八代の腕を振り払って睨んでしまった。目が合うと、何故か八代の目の中に微かな優越感があるのを見てとり、それが忘れかけようとしていた記憶をよみがえらせる。
「そんなに怯えなくたって誰にも、言ってませんから。ね。」
うるさいと怒鳴りつけたくなるのを無理やり抑えて、歪な笑みを浮かべながら、再び化粧室の方へ足を向けた。後ろからはぴったりと八代がついてきて、廊下が狭いせいなのか、異様に気配が近く感じられて気持ちが悪かった。振り返ってみても一切表情を変えないどころか、涼しい顔で「ほら、早く行かないと。急いで。」と、今度はさっきより強く掴みかかる様な仕草で、腕を掴んで有無も言わさず裏口の方へ引っ張っていくのだ。曇りガラスの向こうにぼやけた車の影が確かに見えたが、霧野は無理やり足を止めた。

「いや、俺は乗らない」
霧野が吠えると同時に、八代の腕から力が抜けて、振り向いた。そこには表情が無かった。霧野は自分の口からそのような言葉が出るのを意外に感じたが、追って理由がわかってきた。直観的に気に喰わない男、電話番号をみすみす間宮如きに見破られるような位置に敢えて置いておくような男だぞ。
「……。なにを言ってるんです。」
「どうにも奇妙だから。」
「奇妙?」
八代の言葉の端に若干の動揺があった。今度が霧野が八代に対して憐れみの瞳を向けるのだった。八代は微かに表情を崩した。
「どうしたんです?……何が奇妙だというんです。冷静さを欠いていますよ。……あなたの立場では、それも仕方がないことかもしれませんけど。」
八代が何か皮肉を込めた調子で言って歪な笑みを浮かべた。
「あんな風にまでしないと、やっていけないんですか。」

この男と川名こそ繋がっているのではないかという疑念が渦巻いてきていた。
川名のことだ。警察官を何人とも言わず抱き込んでいておかしくないのだ。

それで、一つここで演劇をしようとしているのではないか。希望という名の餌をチラつかせ、飛びつかせ、その後、徹底的に絶望させる。そういった遊びである。川名は、再びの忠誠を試す意味を込めてここに、霧野を派遣しているのだ。だからこそ、約束をあからさまに破らせてみて新たな罪を作るという愉しみがここにある。

もし愉しみの通りにならなかったとしても、結局川名の手の内に、今度は霧野は自らの足で、もしかしたらあったかもしれない希望を感じながら戻ることになって、川名への忠誠を示すことになるのだ。つまり、どちらにしても川名には美味しいのであり、霧野にとってはどちらも最悪だが、この読みが当たっていた場合、この誘惑に乗らないほうが、まだマシな最悪に、たどり着く。

しかし、もし、八代の救いの手がホンモノだったら?考えずにはいられない。たしかに八代の言う通り、神崎も離席しており、車の影もある。霧野はもう一度八代を見た。
「誰かの命令と言っていたが、一体誰の命令なんだ。」
八代は一呼吸おいてから「神崎さん以外誰がいるのです」と驚いた調子でいうのだ。それから、また正義感と憐れみのこもった表情を作った。決めた。もし本当だったとしても、こんな男には救われたくない。

霧野は八代を置いてそのまま元の席に勇み足に戻ることにした。八代は背後で何か言いかけたが、黙った。

テーブルの下でコリコリとネクタイピンを弄りながら、示しあわせた通りの報告をする。頭に入れたことをそのまま吐き続けることで、もやもやとした気持ち、一瞬抱いた希望をごまかし、報告を終え、逃げるように席を立つのだった。視界の端で八代が霧野を見ていた。

店を出、待ち合わせの場所まで一人、歩いていく。これでよかったはずだ。夕焼けに空がくすんでいた。若者が、霧野の横をふざけあいながら、通り過ぎて行き、ベビーカーを押した母親が横断歩道をわたっていくのだった。駐車場に約束の、迎えの車が見えてきた。自分の脚でまたあの人の元へ向かっていくのだ。自由を感じながらも、常に、彼に見られているのを感じたし、実際、どこかで誰かが見ているのは間違いないだろう。一挙手一投足が監視されているのだ。

しかし、一つだけ。川名に貰ったネクタイピンは置いて来たのだった。座っていたソファの隙間にねじ込むようにして。これだけが唯一の川名に対する反抗だった。

前面以外の全ての窓を黒のシートで外から見えなくした黒塗りのバンの後部座席のドアが開いた。後部座席に男が四人座っていた。四人とも、霧野か、霧野には劣るものの、しっかりとした体つきをして、四対一で手を合わせるには、それも狭い空間では、相当に骨が折れそうであった。中に、川名が居るものだと思い、あっけにとられているうちに、バンの向こうから手が伸びてきて、中に連れ込まれるのだった。すぐに車は動き出す。
「手を。」
一人の男が霧野の腕をとって、手早く結束バンドで手首をで拘束した。その瞬間、やはり自らの足で戻ってきたことを激しく後悔するのだが、どうにもならない。男に挟まれ、座席の真ん中に座らされた。

腕は、後ろにまわされヘッドレストにつながれた。視界の中で運転手の他に、助手席に三島が座っているのに気が付いて声を掛けようかと、バックミラー越しに目が合った、なにやら心配げな顔をしおり、彼はしまったというように目を逸らし、申し訳なさげに俯いた。その態度は余計に霧野の心を乱し、何かを言う気力をそいだ。

乱された心に触れるように、両脇の男達の手が霧野の身体に触れ、指を食い込ませていた。

「不本意ですが、目的地につくまでに、身体を温めておいてやれと言われてるので。」

何を言ってるのだろう。衣服が半ば脱がされ始めた。急に、さっきまでの、かりそめの自由が、夢のように思われてくる。また厳しい現実の中に還っていくのだが、これ自体もまた夢のようであり、現実感が無い。

「別にやりたくてやるわけじゃないんだから、仕事ってそういうものだろ?」
丁寧な口調の中に嘲笑が混ざっていた。
「騒ぎ立てるようなら、車を脇にとめて、もっと暴力的な手段に出ることもできますからね。」
「……」

左右から、左脚、右脚に左右の男の脚が絡み、霧野の脚を大きく開かせ、弄び始めるのだった。それでいて、二人の会話も顔も、霧野の方に向くでもなく、雑談、世間話、上司の文句、下ネタに及ぶ。手は道具の整備でもするように、粛々と霧野を性的にいたぶって、下卑た手つきで秘所まで無遠慮にまさぐるのだった。開かされた股の間に手が伸びて、当たり前のように、指が太ももをはいまわっていたかと思うと、熱い裂け目に無遠慮に触れた。
「う……っ」
今日も今日とて、性的な責め苦を受けた箇所とはいえ、誰の肉棒もまだ咥え込んでいない裂け目は、迎合するように簡単に男の太い指でも飲み込んで悦んでしまうのだった。
「ぁ……く…‥ぅ」
声をあげては、歯を食いしばって俯き、また激しい後悔の念にかられた。俯くと視界に男達の手が見えるので目を閉じるのだが、目を閉じたら閉じたで、予期せぬ触りかたに、身体が跳ね反応してしまい、では、と、前を向けば、今度は三島か、それ以上に、窓の外の何も変わらぬ日常世界が見えて、息が上がるのだった。
「ううう……」
最近、マトモな車移動をしていない。ついさっきまで川名とふたりだけで居た時間、それだけがまだマトモな車移動の時間と言えた。それから、川名が来なかったことに少なからずショックを受けた自分に気が付き、厭な気持ちになるのだった。川名がいることを期待していたなんてことは許せなかった。もし川名が待っていたとして、それでまさか悦んだりする自分のことを考えてしまい、不愉快を極めた。
「ふー……っ、ふー‥‥…っ」
霧野の口から、威嚇する猫のような唸り声が小さく上がり続けていた。強く反応したら、負けなのだ。一番最悪なのは、霧野が激しく反応することで奴らが調子にのることだった。バンの後部座席の椅子をすべて倒してしまえば、そこに一つ、人を横たえられるらいの小さな空間ができる。”車を脇に停めて、もっと暴力的な手段に”とは、それから、何のためにあと二人控えさせているのか考える。今座っている座席をすべて倒されて、四人の男に押し倒され、代わる代わるハメ倒されること、それが一番避けたいことだ。

また、指が敏感な、立ち上がり震える肉を摘まみ、擦る。それにしても、最悪だった。くだらない、知性の低そうな、女とヤッた話やセックスの具合を聞かされながら、淡々と身体を触られ続ける。さっきまでの一捜査員としての人間的な、知的な振る舞いはすべて否定されて、自分が何者であるか、いや、"者"ですらない"モノ"であるということを、思い出せと言われているようであった。たった一度だけ、そうそう、こんな具合にな!とどうやら女にやったらしい、指の動かし方を再現されるのに身体を使われて、屈辱に身を震わせていると、三島と目が合って、殺意が沸いた。

それでいて……、道具のように扱われているのに、感じるのである。じっとりと身体中に、さっきまでの会合とは違った汗が流れ始め、はあはあと一人だけ、息が上がってくるのを本人が気が付かない。脚が、ふいに刺激に耐え切れず、閉じかけ動きかけると、男達は表面上特段気に留める様子が見せず会話を続けるが、さらに強く足を外の方へ開かせて嗜めるようにし、手つきが乱暴になるのだった。
「ぁ゛……や、」
霧野が拒絶の言葉を口に出そうとした瞬間に手つきが止まり車内の空気が鋭いものに変わった。続きを言う前に視線を左右に泳がし、喉を鳴らし、唾と一緒に言葉を飲み込み、大人しくした。また車内の空気が弛緩し、手つきも、元のように戻っていくのだった。緊張が、余計に身体を高まらせる。
「はぁ……はぁ……」
話はギャンブル論の話へと移り変わる。車内に、馬鹿げた話と、霧野の呻きを噛み殺し、身をよじらせてシートが擦れる音と、肉の音とがし、時間経過につれてだんだんと精のにおいが立ち込めていくのだったが、誰も、まるでそうされるのが当たり前の存在であるかのように、霧野について何かを言うことは無いのだ。以前に、揶揄されながら二条の上に跨っていた時の方がまだ、よくさえ思われた。三島が窓を開けた。そして、後部座席に身を乗り出すようにして、振り返るのだった。

その頃には霧野の身体は男の言う通りにだいぶ温まっていた。顔を赤くし目を伏せて耐えていた霧野は、犬のくしゃみするように、食いしばった歯の間から、断続的に鋭い息をも漏らしていたが、三島へ目を向けた。三島の顔からは、最初見せていたはずの戸惑いや申し訳の表情なさなど一切消えて、幾分スッキリとした顔をしていた。
「う……」
三島の瞳が霧野の顔から下半身の方へ下がり、また、顔の方に戻って、細くなった。
「……。霧野さん、気持ちが良くなってきたのはわかりましたが、これは組の車なんですから、勝手に射精なんかして汚さないでくださいよね。着くまでは我慢して下さい。」
霧野が何か言うのを制するように、強引に指が、局部の奥に入り込んで、曲がり、引き延ばされ、開いていった。言葉ではなく、獣の呻き声が漏れて、身体が軽くのけぞった。三島の瞳がまた興味深げに霧野の熱地帯に向かったかと思うと、彼は身を乗り出して、霧野の秘所を熱い視線で眺めるのだった。霧野は刺激から逃れるように、必死になって人間の言葉を探した。
「どこに、行くんだ……?」
せめて、三島の視線を恥ずかしい場所からばらけさせようとしたのだった。三島はまた霧野の顔の方を向いて以前のような、可愛らしい微笑みをみせた。

「どこって……、そりゃあ、いいところですよ。霧野さん……俺と組長は、貴方が素直に戻ってくる方に賭けていましたからね。」

疑念が確信に変わりつつあった。そして、またこいつらは人の、生死を賭けた行動を賭けの題材にして遊んでいたのだ。いいところ、もし、八代に誘われるままに車に乗り込んでいたならば、一体どこへ向かっていたのだろう。日は暮れていた。車は街から抜け出て、山の方へ向かっていた。コンクリート打ちの車道から脇にそれて、林の中をバンがつっきっていく。暗いせいで核心は無いが、見覚えがある道、それから動物の形を象った、看板が見えた。

着いた先は、霧野も何度か訪れ、主にも会ったことがある「山神牧場」であった。微かに牧草地の香りが鼻をつく。森の中に切り開かれ、一般開放もされている。組で裏から出資、同業他社に負けないように支援しており、その代わり土地の一部を別のことに使わせてもらったり、畜牛や、馬などを一部都合の良いようにやりとりしたりと、一応はWIN-WINの関係を築いているのである。

車は開け放たれたゲートを潜り抜け、私道を進み、広々とした広場の隅にとめられた。そして、ようやく、男達の手から解放される。三島以外の男達は降りて、闇の向こう側で窓から光を漏らす大きなロッジの方へ向っていった。三島はしばらくの間、ひとり身を助手席にもたれさせながら、静かな夜の空間にまだ響き渡る獣の余韻に喘ぐ呼吸音を目を閉じて聞いていた。

呼吸が収まってきたのをみはからい、三島も車を降り、開け放たれたままになっていた後部座席の外に立ち、すっかり身体の温められて座席の上でぐったりとした霧野の方を見上げた。暗がりの中ではっきりとは見えないが、乱れた服の中で肉が発汗し上気していた。

三島は無邪気さを装って準備を整えられた肉になった霧野の方へ身を乗り出した。

「どうです?良かったですか?」

霧野は三島の方を見ようともせず押し黙って呼吸していた。三島は一度ロッジの方を見やると、誰も来ていないことを確認して、後部座席にのりこんだ。それから、霧野の上にまるで騎乗位のように、跨るようにして、どすんと座ったのだった。それだけで霧野の整えられた身体の熱がどれほど大きいのか身を通して伝わってきた。

「良かったんだろう。こんなになっちゃってさ……」

霧野のはだけたシャツの中を三島の手がまさぐり、ピアスの先を弾くのだった。霧野の顔がようやく三島を捕らえた。
「ぁ゛っ……、く、……お前、っ」

三島は、ドライブの中で、淫蕩と抵抗の狭間でめちゃくちゃになっていた霧野の精神を、鏡越しに観察しているうちにまた、思いもよらず目を離せなくなり、残虐な喜びにくすぐられる己の精神に気が付いたのだった。実際に目を合わせてみても、やはりさらに良いのだった。

三島は、またちらりと気にするようにロッジの方を振り向いて、霧野に向き直った。直接跨って座っているせいで、顔と顔の距離はほんの十数センチの近さだった。三島の皮膚は若く、まだ子供の肌がつやつやとしていた。三島の股間の辺りに硬い物が発達し始めて、霧野の、射精の気配にうずうずとした火種を抱いたままの雄の上に押し当たり重なるのだった。霧野は三島の顔も、下半身もどちらも見たくもないというように顔を斜め下の方へ背けた。

「本当はね、俺も、横か、後ろに控えていようか迷ったんです。でも、澤野さんが可哀そうになって見ていられなくなるのも嫌だと思って、自ら、触れることができない、前に座ることに自分で決めたんですよ。それが余計に貴方を傷つけることなんて予想もしてなかった。これはほんとうですよ。」
「……」
「でも、謝りません。あなたが、とんでもない淫乱だから俺の視線にまで感じるんです。それはもう十分に分かりきったことだ。否定できないでしょう。」
「……勝手に言ってろよ」
霧野は相手が三島であることもあって、せせら笑うようにして言った。三島はくすくすと笑ってから、霧野の熱く脈打つ首筋に手を当てた。無理に顔をあげさせようとはせず絞めるでもなく、ただ撫でるのだった。
「戻ってきてくれてよかった、だって、澤野さん居なくなったら寂しいですもん、俺。」
三島は空いている手で、霧野の雄を撫で、それから、確実な手つきでしごき始めた。ようやく霧野はまた三島を苦し気に見やるのだった。それを見て、三島の表情がゆっくりとほころぶ。
「おい…‥、」
「どんな形であれ、まずは生きていることが大事です。組長や二条さん、他の皆さんは、貴方の出した損害についてかれこれうるさいですが、俺は、そんなことはマジどーだっていいんですよ。それに、やっぱり俺の中では澤野さんは澤野さんなんです。だってまだ、こんな状況になっても正気なんだ。俺だったら追い詰められて狂うから。」

彼はそう言って霧野のから手を離し、上から降り今度は霧野の足元に跪いて上目づかった。

「出したくて仕方なかったでしょう。これからどうなるかわからない。俺が直で、澤野さんのために、今のうちに出させておいてあげますよ。」

霧野が何か言う前に、三島の口内に霧野の一物がすっかり収まって、吸い立てているのだった。うなり声が上がった。もう限界まで張りつめた弦のようになっていた緊張の糸が切れる。霧野の厭だという意思は無視されて、くゆらせた下半身の奥底から間欠泉の沸き上がるようにぐつぐつと高まり、厭と思う程に激しく、簡単に、熱い濁流に押し出されるようにして精は、びゅうびゅうと勢いを持って三島のねっとりとした口内へと吐き出されてしまったのだった。三島は口にブツを含んだまま満足げに微笑みくぐもった笑い声をあげると、頭を股座からあげた。スッキリした顔をしていた。

三島はそのまま、口をもごもごと動かしていたかと思うと、霧野の左の太ももを抱え上げるようにして肩にのせ、今度は雄の反対側の、散々遊ばれた割れ目の方に頭を埋めて、右手で尻肉を強引に押し開くようにしてがっつりと指を食い込ませて、唾液と精液でドロドロになった口をつけるのだった。ちゅ、という音と共に、蕾に濡れた唇が吸い付いた。
「!!??、馬鹿…‥っ、なにを、や゛…‥って、……」
霧野の激しい不快感と動揺をよそに、じゅるじゅると音を立てながら、三島の、霧野の汁で白濁に濡れた尖った舌が裂け目に侵入し、熟れた肉壁を舐め擦り始めるのだった。霧野の武骨さと異なり、女にも劣らぬ豪奢な白い尻の間に隠された、怯え痙攣する秘所に舌が吸い付き、舌越しに可愛らしいぴくぴくとした小さな震えを感じた三島は、喜んで顔を埋め、舐め続けた。
「……、よせ……っ!、こんな……、……、ぁっ」
舌は、ほぐされて準備の整った奥まで到達して、熱の源を突いた、小さな怒りを含んだ喘ぎが三島の耳には心地よかった。そこは、さらに卑猥な音をたたせ、赤く腫れ熟れていった。完熟桃のような柔らかさと汁の滴りの中で、三島の唾液と霧野自身の出した精と淫汁が混ざり合い、溶け、香り立ち、白濁の染みが、座席に微かに漏れて染み付いた。三島の鼻先と髪とが、陰嚢と雄を擽って、霧野は、わけのわからなさ、気持ち悪さと、くすぐったさと異様な状態に狂いかけながら、震え吠えていた。霧野の自分で出した生温かい白い淫汁が三島の口を通して、霧野の淫門の奥へとぬるぬると返され、陰部から、溢れ出て、じわじわと、墨汁が半紙に染みるように汁が広がっていくのだった。今日、初めて身体の中に植え付けられた精液は、霧野自身の出した物になった。

舌が中を擽って溶け合った。内側から肉をくすぐられた腰が浮つき、三島の舌を霧野の肉がきゅうきゅうとしめつけて、交わり、抱えられた太ももが三島の背中を叩くように暴れては、感じて弛緩し、また暴れるを繰り返すのだが、その度に、三島が宥める様に霧野の雄を触り立てる。三島に優しく弄ばれることは屈辱でしかなく、優しさが余計に気持ち悪さを増した。

溢れ出る官能の泉となった下半身に意識をとられ、霧野の身体にはまた、力が入らなくなってきていた。とろとろと射精したばかりの雄から露がこぼれ始めて、霧野の代わりに泣いた。そうしてしばらくの間、舌で秘所を慰められ、にゅぷ、と音を立てながら、舌が抜けていって脚が下ろされた。一層弛緩したひとつの濡れた肉体ができあり、夜の始まりの中で、三島の前に淫靡な温かい身体を晒していた。
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