堕ちる犬

四ノ瀬 了

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射精するたびにせっかくの頭が悪くなってるんじゃないですか。そうやって、本当の獣になっていくんだね。

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「僕には弟と妹がいるって話を前にしましたよね。」

霧野は居心地悪げに身体をシートに擦るように軽く動かした。三島に下半身を舐められている間、不快感をまぎらわせようと霧野は頭の中で妄想を膨らませ、その中に美里の姿が数度あらわれ消えるのだった。

「どうして今、そんな話を俺にするんだ?」
「どうしてでしょう。ああ、そうだ。目的のためです。」
「目的?」
「俺が何を目的にしてここに居るかという話をしてみたくなったのです。養わなければいけないですからね、家族を。特に妹はまだ小さくて。可愛いものですよ。」
「お前だったら別の方法でも何とかなっただろ。」
三島は自嘲的な笑みを見せて、窓の外を見た。

「そうはならないんだな。霧野さんが考えていることはわかりますよ。俺が賭け事やなんやでもっとやれたんじゃないかと思ってるんでしょう。その点であれば、俺でもアンタにも勝てることもあるからな。もしくは、もっとマトモな手段で働くべきとでも思っているのでしょう。まあ、そんなことはどうでもいいんすよ。俺自身の薄汚い生命を賭けて、やっていたこともある。その時はね、金を稼ぐということよりも、命を賭けている感覚が良かったんだ。わかるでしょう。この感じが。口では妹妹と言いながら、それを言い訳に、俺はただ愉しんでいたのさ。その報いとでもいうんですかね。ある日ついにへまをしたんですよ。まあ、ハメられたんですね。ああ、死ぬんだなって、ふわふわとした、雲の上を歩いているような感覚の後に、急に妹のことを思い出した、今まで押しやって言い訳にしていた妹のことが現実の問題になって、だって俺がいなくなれば、もう妹を助けられる人間はいないわけですからね。絶望しても後の祭りです。俺のことは良いんです別に。その時ですよ、ここの人達が声を掛けてきたのは。」

「命を救われたっていうのか?」

「別に、そんな風には思ってませんよ。前から目をつけられていたようですから。俺なんかにね。彼らは、俺を救ってくれました。それで見返りは特に求めないって言うんです。ただ、繋がりが、コネクションができただけです。」

「選ばされたんじゃないのか。奴に。」

「陰で操作され、選ばされてここにいるとしても、別にどうだっていいんです、そんなことは。問題は俺が、俺自身がどう思っているかということだから。」

霧野は自分の身体が冷めてきたのを感じて、無意識に手首を動かしていた。三島の視線が、霧野の背後に回された手首の辺りに向いた。それで、申し訳なさそうにわざとらしく眉を下げるのだった。

「痛いんですか?」
「そう思うなら解いてくれ。」
「そうしてさしあげたいのはやまやまなんですが、そうしたら、霧野さんは俺なんかぶちのめしてどこかに行こうとするんじゃないですか。別に、いいですけど下手に生き残ると俺がいたぶられることになる。まあ、流石に霧野さん達のようにはならないとしても。」
「お前にそんなことしないよ。どこにも行かない。」
「どうして嘘をつくんですか。俺の前でくらい、気を抜いてくれたっていいじゃないですか。」

霧野の身体が、ガクンと勢いよく後ろに倒れた。

三島が座席のレバーに指をかけ、シートを横に押し倒したのだった。三島は隣のシートに座ったまま、拘束され仰向けに寝かせられた霧野を見下していた。三島は川名が霧野を料理に例えていたことを思い出していた。三島に見られて霧野が居心地悪そうに身体を動かすのだが、逃げることはできず、無防備に身体を三島の前に晒し続けている。

何で帰ってきたんだろう、この人は。三島は霧野を見て思った。帰ってくる方に賭けはしたものの、逃げて欲しかったと思わないでもなかった。相反する思いが同時に存在する。身体を寝かせられたことで、霧野は座らせていた時よりも、妙に色つやが出ているように思える。呼吸のたびに厚い胸元が上下している。

「なんだか、呼吸が上がってますよ。ねぇ、どういう気分です?」
「何してる!元に戻さないかっ」

目の前で虚勢を張って怒鳴っている男を見ると、恐怖と同時に、やはり、三島の中にも嗜虐の小さな芽が育つのだった。この人は、自分で息が上がってしまってるのをわかっているのに、認めたくないのだ。それで人のせいにして怒りで紛らわして。

「…………。戻してください、じゃないですか?」
「お前まで調子にのるなよ、さっきから、」

霧野の噛みつくように威嚇する調子に、一瞬たじろいだが、三島は霧野が自分の思った通りの憤った反応をしたのを喜ばしく思った。

「誰に影響を受けたか知らないが、よくもお前が、俺に対してそんなことを言えるよな。え?」

霧野は息を荒げながら笑っていた。
三島は霧野のためにも自分のためにも一瞬身を引こうか考えたが、止まらなかった。

「霧野さんこそ、よくもまあ、俺にしゃぶられて簡単に射精しておいて、そんな元気でいれますね。」

「……うるさいな、大体お前、俺のなんか嬉々として咥えて、一体どういうつもりなんだ。前からそうしたかったのか?気が付かなくて悪かったよ。俺は、自分が如何に鈍感だったのかと最近多少は反省するようになったからな。俺がもう少しでも人の気持ち、お前らのような者どもの気持ちの機微に気が付ければ、もっと早くここから逃げようという気になってたかもしれないのに。その点だけは愚かだったと思うな。」

霧野が皮肉めいた調子で言うのを見ていると、三島は、自分の頭の回転がみるみる速くなる感じがして、口が勝手に動いた。

「そうだ、霧野さん、俺とゲームしましょうよ。それで霧野さんが勝ったらその手首のを切ってあげます。それから俺をどうしようとかまわない。逃げようとするなら、職務上一応全力で止めはしますが、俺があなたに敵うと思わないし。まあ、どうです。ちょっと息抜きに俺と遊びましょうよ。ね。」

三島はそう言って霧野の反応を悪戯っぽく、嬉々とした目で伺っていた。暗闇の中で目が猫のように光っていた。賭け事となると自信なさげな雰囲気は三島から消え、誰が相手でも若干の揶揄う調子になるのだった。霧野は彼の悪癖を治させようと何度か注意したこともあったが、その場でしょぼくれて反省しても、いざとなるとこの調子だ。

「やります?」
「お前が勝ったらどうなるんだ。」
「そうでした。じゃあ、一つ俺の些細なお願いを聞いてくださいよ。もちろん死ねなんて言いませんし、暴力だってしません。するわけないんだ、俺は澤野さんが好きだし、こんなふうに貶められても。ゲームの内容は簡単シンプル。これから10分間、何されても声を出さないでください。それだけ。どうです?」

霧野にとって怪しい誘いであったが、やらないでいるより、やって失敗する方がマシに思われた。同時に相手が三島であることが霧野を油断させる。断って逃げと思われるのも嫌であった。ぼんやりとした頭のまま、やる、と、頷きかけて、声を出させるために、三島は一体何をする気なのだろうと思った。身体を苛まれるイメージが浮かぶ。二条に身体を無理やり開かされるのと三島に開かされるのでは訳が違うのだ。霧野は苦笑いして三島を見上げた。

「やらないんですか?俺なんかに触られたくらいで喘いでしまう淫乱であることを、戦わずして認めるんですか?」
「妙な言い方はよせよ!それに、やっぱり触る気だったんだな。変態が、何故お前まで」
「妙?妙だって?何を言ってんです。妙で尚且つ変態なのは霧野さんでしょう……俺が今までアンタの何を見せられてきたと思ってんです。最悪ですよ。情けがねぇですよ。俺がドン引きしてんのを見て、皆さんは愉しんでたようですが。あんな情けねぇ姿を晒しておいて、よくまだ俺の前で平気でえらそうにしてられますよね。ほんと、そういうところも凄いですよ。はは。」
「お前、」
三島の手が霧野の太ももを触り、最初はこわごわ触っていたのが大段になって、指を食い込ませた。
「う……、」
「俺なんかに出されて、見られて、遊ばれて、よがっていたくせに。……今だって、」
霧野の顔がみるみる羞恥で薄暗闇の中でもわかるほどに紅く染まるのだった。
「それは」
「それは……?」
「お前も俺の立場になれば、」
「絶対になりませんし、たとえ、なったとしても、貴方のようにはなりません。いや、なれませんね。ははは。俺は常々貴方のようになりたいなと思ったことがありましたが、なれないんだ。今回の件も同じです。ただ、尊敬か幻滅かベクトルが逆というだけでね。」
「……。」
「貴方の見たくもねぇ痴態を散々見せつけられて幻滅を通り越して尊敬の域に達しているんですよ。……そう、じゃ、やらないでいいんすね。負け犬。貴方としたことが、最初から敗北を認めると、そういうわけですね。まったく幻滅。見たくありません、そんな澤野さんなんか、さっさと落ちぶれてしまったらいいんです。」
「お前……っ。……やらないなんて言ってない、わかった、やるよ、やるっ」
「そうでなくては。そう言ってくれると思っていましたよ。」
「お前まで……毒されたか、奴らに。」

三島は笑みを浮かべていた顔に急に羞恥に溢れさせ、顔を伏せた。五月蠅いなぁ……と小さく呟くのが霧野にも聞こえた。誤魔化すように三島がスマホの画面にタイマーを表示させセットし、二人から見える位置に置いた。

「じゃあ、今からです。」
言うや否や、三島は車のシートの下からアタッシュケースを取り出し、霧野の方に向けて開いた。
「道中で、使われなくてよかったですね。」

霧野は、どうしてお前らは、という言葉を飲み込んだ。どうしてとか、何故とか、考えるだけ無駄だった。考えるほどに、奴らの思うつぼになるからである。身体が、自分の意思から離れた物になって、その意志さえいつか……。一層のこと、同じになれたらと思うことがある。普通ではなく、異常の方に振り切って、身も心も異常の世界での普通になってしまえるなら、と。100回に1回くらい、考えてみる。美里や三島などと何かしていると、時々彼らが何故ここに居るのかわかならくなることがある。

しかし、今まで世話になったか数少ない人々、それでも自分のことを思ってくれた人間に、それから自分自身に、まだ、申し分が立たない。時々、穢いことを、考える。木崎ではなく俺が殺されていればと。残された木崎がもし自分と同じ目に遭ったとして、それを自分が見ることは無いし、木崎の方が自分よりは強いからきっとうまいこと自決の道を見つけるのだ。

三島はアタッシュケースを開いたままシートの上に静かに置き、霧野のシャツを脱がせ、脇腹や腹部を指先で、円を描きくすぐるようにフェザータッチを始めた。
三島の指が、霧野の滑らかな皮膚の上をすべる。くすぐったさに霧野の目が細まり、思考が徐々に薄れていって、口角が不自然に上がるのだった。くすぐったい苦しさ、霧野は目を閉じ耐え、息を突きながら、ちら、と三島を上目づかった。肺から乾いた空気が、震えながら出ていった。声が出せない代わりの激しい息遣いであった。

すぐ近くに三島の顔があった。薄くそばかすが浮き、シャープな輪郭に小さな頭だった。小さな頭が傾いて、耳が霧野の口元の方に傾けられた。霧野の吐いた息が、三島の耳元をくすぐった。ムスクの香りがする。髪の隙間から耳元のピアスの輝きが見えた。今まで近くでよく見たことが無かったが、片耳の中に8個ほど煌めきがある。特徴的なのはインダストリアルピアス、それから、髑髏がひとつ、骨が一つ、骨は犬のイラストで犬が咥えているような骨の形のものだ。いつ買ったのだろう。三島のまだ幼さの残る顔がまた霧野の方を向いて、微笑みながら口を開いた。

「はあはあしちゃって、ほんと犬ですね。組長に犬扱いされるのがお似合いなんだ。そうして犬になってもずーっといつまでも、ここに、居らっしゃたらいいんです。温かい目でいつまでも見守って居てあげますよ。そうして、たまに俺達下っ端にもおこぼれを下さいよ。いいですね。」

おこぼれ、と言いながら、三島は霧野に覆いかぶさったまま膝を霧野の股座の辺りにぐりぐりと押し当てるのだった。
「!」
霧野の肉の奥の芯が、ゆさぶられ、息をつく。膝は会陰と肉門の辺りを優しく抉るように押したて、囁いた。

「わかりますか?おこぼれの意味が。」

閉じかける足の間にぐりぐりと執拗に膝が打ち付けられ、秘所と雄の部分、その間を擽った。三島のぴったりとした細身タイプの黒スーツには薄っすらとストライプ柄が入っており、三島の細身の太ももが収まって表面は光沢を帯びていた。

「アンタのここの部分を……俺達にも分配してくださいよ……。ずるいじゃないですか。結局上の人間達で独占するなんて、そんなのって駄目ですよ。」

口をきけずに、屈辱感に身もだえるすると笑い声が降ってきた。

「感じたんでしょう。俺達のような下っ端に遊ばれることを想像した?ほんともう、しょうがない人だなぁ、もう……」

霧野の口の中に指が挿し入れられた。涎が出る。三島の空いている左手は相変わらず、霧野のわきや脇腹、肋骨の際を滑り続ける。優しく触られつづけ、くすぐられることで、笑いだしそうになり、痒さに頭が狂いそうになり、股の奥の方が疼くのだった。つい、弱いところを擽られ、ひ、と笑い声がでそうなる。歯を食いしばって耐えたいが、三島の指に当たり反射的に噛むのを止め、いつの間にか泣き笑いのようになって、はあはあと顔を真っ赤にして三島を見上げていた。

乾いた呼吸が喉の奥で音を立てる。脇腹の辺りを激しく擽られて、身体がぶるぶる震え逃げ場所を探してのたうつ。まるで調理される前のまな板の上の生物のように、倒された座席の上で激しく身体をくゆらしのけぞらせた。手が止まって、ようやく、まともな息をつけるようなる。たったいま100メートル走ってきたような激しい呼吸が出ていった。

「苦しいです?……なんです?物欲しそうな顔をして。俺に向かってそんな顔をするんですか。」

言われた霧野の瞳は自然と三島を避け行き場所を失い、アタッシュケースの辺りを通過した。
三島は目ざとく霧野をとがめた。

「はぁ、使って欲しいんですか?ほんとに仕方ない人だな。」

三島の指をくわえたまま霧野は首を左右に振ったが、ゾーンに入った三島を面白がらせるだけであった。三島は霧野を見ながら手探りでアタッシュケースの中を漁り、適当なものを取り出した。

「何が良いですかね?これとか?」

三島の手の中に真っ黒い手ごろなサイズの、まさに、ちょうどいいくらいの、バイブが握られており、霧野がいやともいいとも首を動かさない内に、股の間に陣取っていた三島の膝がどけられた。衣を剥かれ開かされた股の間に、棒は思い切り突き立てられ、抵抗なく音を立てながら肉の溝に、食い込んでいくのだった。三島の手の下で、一気に皮膚が鳥肌立ち、ペニスが勢い怒張しはじめた。隠すものもなく、晒される。

「あーあー、随分ほしかったようですね。可哀そうなくらいです。」

くぷ、くぷ、と周辺の肉を優しく収縮させながら、熟れた部分はすっかり硬いバイブを咥え込んで収縮した。

霧野が呻く代わりに身体を震わせている中、バイブはらくらく奥まで入っていったが、すっかり興奮した霧野の膣の強い内圧でゆるゆると外に出ようとする。それを三島が黙って膝で奥に押し込め、また突き出、押し込めを機械的に繰り返すのだった。脚で奥に突きいれるたび、いつの間にか必死になって霧野の上に抱き着くように覆いかぶさっていた三島の手の下で、霧野の大きな身体が上下に揺れ、呻きかける。身体がシートに擦れて音を立てていた。

「こんなことは、生産性もない、全く意味のない行為なんですよ、霧野さん。それで、感じてしまって。」

三島も肉体を直接使用したわけでもないのに身体に汗をかき始めた。

「すぐ出てくる。なんて具合の悪い馬鹿マンコなんでしょう……ええ?俺が下っ端だからってこんな馬鹿げたオナニーの手伝いをさせていいと思ってるんですか。一体どこの世界に自分のガバついた穢いマンコを後輩にほじくらせる先輩がいるんでしょうかねぇ。はぁ、くだらねぇ、冗談じゃねぇですよ、ちぇっ、くだねぇ仕事を何でも下の人間に押し付けてないで、たまには自分でなさったらどうです?」

三島は体を勢いよく起こして、霧野の左脚を持ち、折り曲げ、霧野のかかとの部分をバイブの底に押し当てて強く押し付けた。バイブの持ち手の部分まで霧野の肉筒の中に勢い滑り込んで、のけぞった喉が蠢いた。暴れないように、足首を持ってな足をバイブに押し付けるようにして躾けるのだった。

「暴れないでください。いいですか、こうやって、自分で出ないように押さえてください。しょうがねぇから、あなたのために、スイッチは俺が入れてやりますから。わかりましたね。ほら。」

三島は指で弾くようにして、霧野の尻肉の間から突き出たバイブの底のスイッチを押し上げ、ぼすん、と不機嫌に自分は霧野の横の座席に座った。言ってしまった後、しまったと後悔し、未だに彼に対して激しい恐怖が湧きさえするのだが、それ以上の快楽が、そのような感情を掻き消してしまった。

ブイブイと振動音が鳴り響き、三島の横で、寝かせられ、熟成された肉がうねり、弓なり、喘ぎを堪えた呼吸で車内が湿り気を帯びた。大っぴらに声を出せないことが、余計にこの犬を激しく興奮させたようだった。尻尾の代わりのバイブの底が震える。堪え声の残滓が、闇の中に淫靡に漂っていた。耐えよう耐えようと思う程、逆に感じるようである。声はなくとも、巨大な熱源がそこにあり、三島は前を向いたまま皮膚で、彼の感覚を感じた。

「ああ……」

三島は顔を覆ってしばらく、そうして気配だけを感じていた。心の中が罪悪感と満足感で満たされた。

ようやく落ち着いて、三島が霧野の方を覗き込むと、殺意と官能の渦巻いた視線がすぐさま、暗闇の中から三島を捕らえた。三島は霧野の頭から、身体、それから、最早何の生産性も許されない生殖器のほうに視線をおろしていった。生意気な顔つきをしていても、三島の言いつけ通り、躾けた通りに、自分で自分の中に玩具を押し込んで、位置に前に雄を勃てて揺らして感じているではないか。気持ち悪さと愛しさが同時に溢れた。

三島は、霧野、憧れた澤野が自分の手の元で、自分ごときに従順になっている様子に、強烈な京都愛情とのゆがんだ感情を抱いたが、これを自分の手柄とは認識せず、霧野の元々の隠された性質と、皆の調教によるもとの感慨深く思っていた。再び前を向いた。毒気が強すぎるのだ。ずっと見ていては自分には耐えられない。甘美な視線が脳裏に焼き付いて離れず、痺れさせる。もっと無様な様子を見てみたいと思うが、見たくないとも思う。

三島は肉体を使った暴力的な闘争を敢えて好まなかったが、闘争を見るのは好きだった。揉め事が起こると三島は恐怖、苛立ち、倦怠の他に、邪な期待を抱くようになった。澤野が事を片付ける様子を近くで見れるからだった。世の中の煩雑なこと、全てがこの男のするように美しく収まればいいのにと思った。何事もない平和が続くと、いっそのこと謀をして、誰かを澤野の前にやらせてみたいという欲望もわく。時に、澤野の方でも反撃を受けることがある。一方的な蹂躙とはいかないのがまた良いのだった。川名や二条のやり方では、大方蹂躙に終わる。

事務所に居る彼に殴打の痕を見て、どうしたのか声を掛けようかと思ったことがあったが、美里の方が先に、近づいて来た三島に気が付いて、話しかけてきたのだった。美里ではなく澤野と話したいのであり、偶然か、タイミングが悪い、と思ったが、今にして思えば、話しかけられたくなかったのではないだろうか。澤野がではなく、美里が。美里が、澤野が誰かに話しかけられるのが嫌だったのではないかと思われる。そう思うと、組織の中でそれなりに権力があり、常人とは違う風貌も手伝って、ある種の恐怖の対象でもあった美里が卑小な存在に思えてくる。

小さな空間の中で、自分一人でこの巨大な雄獣を手懐けていると思うと愛おしかった。三島は、霧野の方は見ずに、前を向いたまま、手だけで、霧野のぴんと立ち上がった欲望の塔を探り当てるように、掴み上げ、くりくりと、親指で亀頭の先端をいじり、全体を上下にしごき始めた。背後で、吐息が大きくなった。

「気持ちいいですか……。ほんとに、最悪ですよ……あなたって……。」

爆発の前の、堪えるような呼吸と呻き声の前兆のようなものが背後から立ち昇っていた。強烈な気配を感じるが、三島は覗き込まずに前を見ていた。少しして、顔を少し傾け、霧野の腰から下の性欲の部分だけを見た。どっしりとした下半身が、自ら快楽を咥え込んで濡れて、誘うように筋肉をうごめかしていた。本人は誘っているつもりなど無いのだろうが。

横で、腰が快楽を逃がすように、もぞもぞと動いていたが、掴み上げた雄が三島の手の中から逃げこぼれることはなく、寧ろ逃げられないことで、道々と手の中で大きくなっていく始末で、あがくこと全てが裏目に出て、何もかもが、無駄だった。タイマーはあと4分だ。三島の手の中で雄がぴくぴくと反応した。

「さっき俺に出させられたばっかなのに、また、イッちゃうんすか。今イったら車が汚れちゃうかもしれないです。そうしたら、また、一体、どんなことになっちゃうんでしょう。馬鹿の一つ覚えみたく射精ばっかりして、射精するたびにせっかくの頭が悪くなってるんじゃないですか。霧野さん。そうやって、本当の獣になっていくんだね。寂しいことです。」

ぎしぎしと三島の横で手負いの獣がのたうつ。もう、堪えきれないか、細い甘い声がで吐息と入り混じって、漏れていた。声が、啼きが、三島の耳にはっきりと聞こえていたが、敢えて指摘せず責めを続けた。三島の手の中ですっかり完全体になった霧野の雄。

三島はようやく霧野の方に向き直り、今度は雄を貫く太いピアスに指をかけ引き上げた。霧野の喉の奥から太い声が登りかけて、食いしばった歯の向こう側、喉の奥へと、ぐるぐると消えていった。痛みで半ば放心したような濡れた視線が宙をさまよい、身体が脱力したせいで、バイブの底が抑えきれずまた外へと出始めていた。

「駄目ですよ。」

三島がそう言って剥き出しの、叩いてくださいと言わんばかりのむっちりとした尻をぴしゃりと叩くと、反射的に脚が思い切りバイブの底を押しこみ、赤く腫れあがた肉穴に奥まで突っ込むのだ。素直な脚と反対に、身体は驚いたように跳ね、痛みと怒りで紅潮した端正な顔が三島の方をじっと睨んでいた。睨みは最早三島を脅かすものではなく、むしろ愉快な気分にさせた。三島はアタッシュケースに入っていたケブラー糸を取り出し手で弄んだ。

「なんです?その面は。一人気持ちよくなってデカくしていたくせに。まるで俺が悪者みたいじゃないですか。そんな顔をするなら、俺はもう何もしませんから、一人で勝手にやっててください。」

糸は、元気な雄の先端のピアスと乳首のピアスにそれぞれにくくりつけられた。夫々を引っ張ると、霧野はまた良い反応するので、それを永遠弄るのも面白いのだが、三島はこの三本の糸を指先でくるくると束ねると、霧野の喘ぎを堪えた口元に持っていき、指と一緒に口の中にいれたのだった。霧野が驚愕の表情で三島を見るのに対して、三島は空いている手で霧野の顔に触れ、口を閉じるように促すのだった。

「ほら、これをご自分で咥えてください。ん?そんな風に指を舐めて、許しを乞うたって駄目なものは駄目です。なに……いやだ?……」

三島は再び糸ごと指を霧野の口から取り出し、握りしめ、上に勢いよく、引き上げた。三点の突起が強く激しく引っ張られぎりぎりと引き延ばされて、肉が裂けそうなほど、赤くなる。それを必死にこらえる、肉。三島は、汗ばむ手を握りなおし、上にぎゅうと強く引いては、緩め、霧野の肉体が弛緩したところで再度引き上げを繰り返した。それでもまだ、霧野が大きな悲鳴を上げることはなく、寧ろ激しい敵意と侮蔑を持って三島を見上げるのだった。

「あぁ……。霧野さん、見上げた根性ですよ。そういうところですよ……。」

そうしてしばらく苛め抜き、声さえ上げないものの、ようやく霧野が脱力して三島の方を見もしなくなったのを確認して、三島は再び霧野の口の中に糸ごと指を挿し入れた。突起の周りの皮膚まで血管が拡張され白い皮膚はすっかり赤みをおびた。突起は充血し、三島は果実のようになったそれらを口に含みたくなる。

糸を手に、三島は祭でテキ屋がやっている紐くじを思い出していた。どの景品に繋がっているかわかならい紐を選んで引き、紐にくっついている景品を貰えるのだ。三島の脳裏で、肉体の隅々に針金を引っ掻けられ、それぞれの針金に紐を括りつけられた霧野が、各方向から、紐を引っ張られてバラバラになり、血の霧になって離散した。三島はその時ようやく自分自身も勃起していることに気が付いた。三島は霧野の口の中を弄りながら、囁いた。

「別にあなたの一部分を、ちぎってしまったとて、貴方に逃げられる場合よりもおとがめは無いでしょう。寧ろ、二条さんによくやったと喜ばれるかもしれませんね。俺は度胸が無いとよく怒られていましたから。こういうものはね、一回破損すると、もう次から皆躊躇いが無くなるもんですからね。想像つくでしょう。でも、まあ、今そんなことしたら、一瞬で勝負がつくよな?つまんねぇから、やらないでやってるんじゃねぇですか、俺の譲歩ですよ。……そうそう、えらいじゃないですか。」

霧野の食いしばった歯の間から、ぴんと張られた糸が三本伸びていた。桃色の突起はそれぞれ、上を向いて引っ張られ三角に尖っていた。三島の手が霧野の頭を髪をとくようにして撫でた。頭が揺れると、たとえそれがどれだけ優しく撫でられたとしても、口に咥えた糸に振動が伝わって、さっき散々いじめられ敏感になった突起がじんじんと熱を持って痛み、苦悶の声が、薄い唇の隙間から、ううー……ううー……と吐息と一緒に漏れでてしまうのだった。三つの性感帯が、そこに心臓でもあるかのようにどくどくと激しく熱く脈打ち、身体を、脳までも痺れさせていた。

三島は霧野に舐めさせた指を、引き延ばされ紅く腫れた部分とその周囲の熱く薄い皮膚に薬を塗りたくるように這わせた。吐息の中に、仔犬のような甘い声が混じった。痛みと熱とくすぐったい甘やかな快楽が、霧野を呆けさせた。

三島は、しばらく霧野を指先で遊んだ後、再度霧野がしっかり口で糸を加えているのを確認してから、座席に腰掛けてタイマーを見た。あと1分だった。さっきから、もう霧野の小さな声は漏れ続けていたが、止める気は無かった。また、霧野を覗き込むと、自分で足でケツにバイブを突っ込み、自分で口に咥えた紐を必死に、放さぬように引っ張って、自らの口で、三点を責め苛み悶え続けていた。ともすると、口を開いて、糸をはなしてしまいそうになるが、脅しが効いたか、ぐっとこらえて、悶えている。たった一本、人差し指で、糸を撫で、弾くと、激しく悶えて泣く。悶えながら、三島に気が付くと、霧野は雄の先端からたらりと露を漏らし、鼻を鳴らした。

「ああ、ああ、1人で気持ちよくなって、良かったですねぇ。」

霧野の表情が卑屈なものになったり、また、勢いを取り戻し強い視線になったりする、少しでも身もだえすると自分で刺激される身体。

「そんな目で俺を見るなよ……」

タイマーの音が鳴った。三島はタイマー音を止めながら、霧野を見降ろし笑んだ。一瞬、安どの表情が霧野の顔の上を過ったことが、三島に底意地の悪い感情を抱かせた。

「あ、まだ駄目ですよ。俺が良いと言う前に、勝手に口から離してみろ。そうしたら、代わりにまた俺が引っ張ってあげますよ。さっきより思い切りね。ああ、もちろんこっちもですよ。」

三島の指がこつこつとバイブの底を叩き、振動させる。ゲームが終わったからか、今度はさっきより、しっかりとくぐもった悲鳴を上げた。霧野がいくら怒ろうとも、動けもしないし、自分の身体を苛むために、口も開けないのをいいことに、三島は続けた。

「ゲーム?そんなの、俺の勝ちですよ。決まってるじゃないですか。聞こえてないと思ってたんですか?馬鹿ですねぇ。五分辺りからもう、うるさくって仕方なかったですよ。自分で確認しますか?」

三島は事前にしこんでいたスマホの録音機能を止め、音量を上げて5分前の時点から再生し始めた。スマホからは明らかな犬の喘ぎ声が、呼吸の節々に立ち上って、霧野を益々羞恥と苛立ちで赤面させた。

「これだけ喘いでおいて!霧野さんの勝ちなわけが無いでしょう。馬鹿な負け犬め。美里さんだってそういうに決まってますね。途中からアンアンとご自分でご自分を責めながら、喘ぎ始めて情けがない。指摘したら可哀そうだし、頑張るのを止めてしまうかなと思って、黙っててやったんですよ。そうだ。じゃあ、俺の些細なお願いを聞いてください。そのまま自分で射精までもっていってください。そうしたら終わりにしてあげましょう。ここで、見て居てあげますから。負けの責任をとるんだよ……。ああ、もう、好きなだけ声を出して喘いだっていいです。俺に聞かしてください。我慢せず好きなだけね。」
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