堕ちる犬

四ノ瀬 了

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お前のような出来損ないの奴隷は古今東西探したって1頭たりとも存在しねぇ。

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白いタイル張りの玄関、壁に備え付けられた大鏡に写った自分の姿を間宮は眺めていた。肉体は、後ろから激しく侵食されて、ぬるぬるとした雄をたっぷり出された余韻で温かく、下半身の奥の方で音を立てた。肉が余韻を持って熱い。淫靡な汁を垂らしながら、奥の方にいるだろう二条の気配を伺った。間宮の肉門は、冷たいタイルの上で、赤子が指を親の指でも握るような優しさで、白蜜を滴らせた花びらを閉じたり開いたりを繰り返した。

再び鏡を見て、想像の中で、自分の肉体を生まれたままの姿に補正してみようとするができない。完全に彼の嗜好に合わせた肉体とこの魂。肉の引き締められて脂肪ものって艶やかな皮膚。白い部分と染色されて黒い部分の双方が革細工のような艶を持っていた。痴呆のように開きかけた唇をきゅ、と結びなおした。官能の余韻の残る垂れた瞳に、霧野のような攻撃的な煌めきは皆無だ。完全に降伏し目尻が下がり恍惚としてねっとりとした泥のようである。

玄関と部屋の境い目に指先で触れた。飛び越えて行けば嬲られる。いつからか、嬲られる理由を作るようになって君を求めたが、そうするほどに君は遠くへ行った。
一線を越えず、二条の気に入る様な姿形をとり、いつまでもここに這っているのも良い、踏み越えて叱られるのも良い。あるべき姿は前者であり、それでも十分満たされる。それに、どのように待っていたとしても、何かしらよくない部分を探り当てられ、褒められるよりも先に、打擲を受けるのである。いや、褒められることさえ、無い。当たり前のことを誉める人間などどこにもいないのだから。

間宮は二条の書斎の本棚を思い出した。外向性と暴力嗜好の鬼畜。それでいて、読書家であることが意外で愛らしく思えた。プロレス観戦に連れていかれた時の方が、納得感は強かった。間宮は元よりスポーツにあまり興味がなく、特にプロレスなど単なる野蛮ごと、と思っていたが、美しさや技巧があること、作為的であることの良さに気が付いた。

通常のスポーツとは異なり、試合を盛り上げるための大まかな流れがあらかじめ決まっている。スポーツかつショーであり、真剣勝負かつ演技である。また観に行きたいと思うが、自分の口から行きたいですと言ったら絶対に連れ行ってくれない。ともすれば永遠に連れて行かないと彼の中で勝手に決定される可能性もある。だから、言えない。

ある日、書斎机の向こう側の、豪奢な椅子に深く腰掛けた彼は、本を読み終えて机の上に置き、間宮を見下げた。間宮はその日、書斎机のすぐ近くの絨毯の上に寝ていた。身体がもう、うまく動かないのだった。病気というわけでもなく安静にする以外直す手立てもない。二条の気配を感じて、軽く身を起こした。呼吸するだけで辛い。

「お前には読書する習慣はあまりなさそうだな。」

はい、その通りでございます、という代わりに、頷いた。話ができなかった。昨日までの一週間で調教は激烈を極めた。自分のみすぼらしい寝床で寝るはずだったが、二条がめずらしく「居ても良い」と言うから、そこにいた。苛烈な調教に耐えた褒美のように思われた。

「気になるものがあれば一冊だけ持っていくと良い。」

そう言われてもなぁ、と、もじもじと絨毯の上で周囲を伺っていた。技術的な知識を得るために本を読むことはあったと記臆するが、二条の部屋に並ぶ本は法律関係と文学作品が多く、手にとる手立てがなかった。

「ま、無理か、」

彼が立ち上がった。彼が直ぐ近くに立てば、空気が独特の重さをもって、間宮の上にしなだれかかってため息が漏れた。衣服の下の肉体が透けて見えるほ。布の下の山なりと窪みとがくっきりとわかった。生物として強い身体だ。今すぐ膝立ちして、彼の下半身に抱き着いて顔を埋めたい。彼は、間宮を上限の三日月形の目で見下げていた。じっと見つめられて、間宮は昨日までのことを思い出し恐怖で喉が掴まれたようになって、視線を逸らしかけたが、揺れる瞳で彼を見上げていた。二条は、同情的な笑みを口元に浮かべて間宮の横を通り抜け、壁一面を本棚に囲まれた書斎の中心に移動した。二条はスラックスのポケットに手をいれ本棚を眺め始めた。

「お前は自分で物事を選択することが難しいからな。別にできるようにならなくていい。俺がわざわざお前のような頭の弱い文盲にでも読めそうなのを選んでやるんだ。」

彼は何度か首をかしげるような仕草をして本の壁を眺め、決めたというように本棚の一角に迷いなく向かった。本棚は其々の棚に傾向があり、似たような本が並んでいたが、二条の向かった一角は特に古く繰り返し読まれたらしく黄ばんだ本が詰まっていた。豪奢な書斎の中で、その一角だけは少しだけ場違いであった。愛着のある本をそこに集めているとして、それを貸し出してくれるというなら、嬉しいことはない。しかし、彼は読書家らしからぬ粗雑な動作で、手に取った一冊を間宮の方に投げつけるのだった。撃たれた鳥のように、本が、ページをひらいたまま紅い絨毯の上にばさり、と落ちた。古びた文庫文、古書の香りが漂った。

「やるよ。俺はもう読まねぇから。」
メアリーシェリーのフランケンシュタインだった。
「それを持ってもう下がれよ。」
二条は窓際の方へ歩いて行って間宮に背を向けた。外を眺めていた。二条に合わせるようにして、間宮も初めて外を見た。もう夕暮れだった。夕暮れに照らされた彼の横顔を眺めていた。
「寝室の掃除をしておけよ。」
はい、と心の中で返事をして頭を下げて、本を抱くようにして彼の書斎から出た。

そういえば、あの本は今どこいったのか、間宮は思い出せなかった。暗がりの中で、読んだ内容をおぼろげに思い出し始めていた。読んで、もし彼に何か聞かれたら感想の一つでも言えるようにしなければと思ったこと、彼のこと彼の一部分に近づきたいと思ったこと、その気持ちで文字を追ったのだ。何故、今思い出したかといえば、自らの爛れた姿を鏡で改めて見たことによって、断片的にその時の記憶と気持ちを思い出したからだった。

フランケンシュタインのあらすじ。ヴィクター・フランケンシュタイン博士が、人口生命体の研究の末、死体を繋ぎ合わせて一つの生命を作り出すことから話は始まる。人口生命体に名前はなく作中では最後まで誰からも名付けられず「怪物」と言われ続ける。怪物は、博士によってこの世界に生み出されたものの、醜悪な容姿を理由に捨てられて、世界を放浪する。放浪の中で怪物の中に知的で美しい人間性が芽生えるのだが、外見が醜い怪物であるが故に誰からも恐れられ迫害され、孤独を極めるのだった。どうして私をつくったのかと、怪物は博士を恨む。

おや、それから、どうなったんだっけ。間宮は自らの身体に手を這わせながら継ぎはぎだらけの鏡の中の己に問いかけた。真っ赤な唇の隙間らちろちろと舌が出た。身体が奥底からまた飢えて、音叉のように打ち震え始めていた。もう、いい。どうでもいいい。考えるだけ時間の無駄だった。間宮は線を踏み越え、二条の姿を探した。

「誰が勝手に中に入って良いと言った。」

地の底から響くような声が背後から追ってきて身体がみるみる熱くなった。吐息が漏れた。重い足音がすぐ後ろまでやってきて頭を掴んだ。嗚呼。そうだ。はやく、後ろから打って!間宮の表情はみるみる崩れていった。緩んだ口元から、喘ぎ声が漏れた。

振り向く前に首を腕でヘッドロックされるようにして固められてずるずるとリビングの方へと連れていかれる。どさり、と投げ出された床、目の前に、少し大きめの黒いローターが一つおちていた。黒の中に銀色の線が四本ほどデザインされている。

「んふ……」

間宮の薄く紅い唇の端が歪んだ。なんだ、こんなもの。可愛いものだった。まるでゴスロリ嬢の小さなポシェットにでも入ってそうな玩具じゃないか。身体を起こし、彼の足元に太もも同士の感覚を開けて正しく正座した。身体のよく見えるように、見て欲しい。

「そいつを口に咥えてみな。舌の上に置いて口を閉じろ。」

口に?何故だろうか。意気揚々とした調子でいた間宮だったが、一転して恐る恐る黒と銀の塊を唇にはさみ、それから蕩けて熱い舌の上に置いて口を閉じた。機械の飴玉を舌の上でころがした。何も味もせず冷たい。黒い部分はゴムでできて、銀のラインは上から描かれた線ではなと冷たい金属だった。

黒いゴムの線が上に伸びてリモコンが二条の大きな手の中に消えていた。彼はソファにどさりと腰かけて、手の中のリモコンをいじくった。まだスイッチも入っていないのに、身体がぶるぶる震えた。こり、こり、と、自分の身体から延びた小さなものの一部が弄ばれている。ぞわぞわと身体が鳥肌立つ。口を閉じているから、鼻から、ふんふんと犬のような喘ぐ呼吸が漏れ出た。
目の前に二条のにこやかな顔があった。カチ、と無機質な音と、一瞬遅れて、口の中に、舌を根元から切られでもしたような痛みが走り、目を見開いて、頭を伏せた。膝の上に載せていた手が、拳になってまるまった。

「んぐ……っ!ぎ!」

舌が引きつって、余程口の中の物を出したかったが、歯をくいしばった。すると余計に刺激が広がる。切断なら、終わりがあるのにこれには終わりない。電流が粘膜の上を直接流れて、喉の奥にまで広がりつつあった。喉の奥のゴムのような筋肉が激しく収縮していた。カチ、と音がして、止まる。震える上半身を起こす拍子に歪んだ唇の間から、涎がだらだら零れた。黒い線が、口から伸び濡れていた。かひゅぅ…と唇の隙間から息が漏れ出ていった。

涙が、双眸から同じ量、はらはらと静かにこぼれた。したたかに開いている方の手で顔を打たれ、よろめくようにして床に手を突き、また顔を元の位置に戻した。

「なんだ、また泣いたりして。すぐにこれだから。泣くのを止めねぇか。情けがねぇ。お前はすぐにこうだから、いびりがいがねぇんだよっ、わかってんのか?」

同じ個所を同じ強さで打たれ赤くなる。閉じたままの口から、ん、ん、っと、声が漏れた。余計に泣けてきて、嗚咽していた。それなのに、みるみる内に、正座した太ももの間で巨大な肉が持ち上がりかけて、打擲を繰り返す彼の方に、そぞろ、太いアナコンダの、威嚇でもするように、首をもたげ始めていた。抑えなければと、間宮は一瞬二条から自身の蛇に目を堕としそこに今度は拳がとんできて、床に突っ伏した。

堪えきれぬ涙の粒が真珠のようになって床の上に飛び散った。もごもごと口を動かしていると、また、今度はさっきよりも強い電流で口の中を痛めつけられ、ぎゃっ、と、ついに黒い飴玉を床の上に吐いてしまって顔を覆った。
「あっ……ああ、!ああ」
濡れた黒い楕円の塊。震えながら、なんとか彼を見上げて肩頬を打たれた痕で赤く染めたまま、繕うように歪に微笑むと、彼もまた微笑んだ。
「……。それをケツの、なるべく、奥の方にいれろよ。はやく。」
「……。」
姿勢を崩して、後ろに手を突き、彼の方によく見えるように、足を開いた、それで、自らの唾液で濡らした電撃飴をなるべく奥、指のギリギリ届く深くまで、ぐぷぐぷと飲み込んでみせた。それだけでもう気持ちがよく、今度は歓喜の嗚咽がでていって、嗚咽するほど身体が勝手に高まって震え、ひくひくと、コードを咥えた溝が痙攣するようにしてひくついて、二条の方を物欲しげに眺めていた。こんな小さなものでも出来上がった子宮のような腸管では、きもちがいいのだ。期待に震える。
「よく見えんな。」
彼の方にもっと身体を開いて、門の辺りを指で押し開いて見せた。やはり二人きりが良い。

「俺の知らぬところでまた男を咥えこんで遊んだのだろう。どうだ?誰が最近では一番いい。」
「あ、それだったら海、」
また鉄拳が飛んできてついに口の中に血の味がし始めた。ほぉ、と間抜けな息が出た。鼻血が一筋垂れた。顔を抑えながら涙ながらに二条を見上げた。
「だってぇ……二条さんがぁ、」
また殴打の上、腹に一撃蹴りを食らって中にいれたローターが卵でも産むようにびゅ!と抜け出ていった。ビチビチ音を立てて、陰部が痙攣して間宮はのけ反って悶えた。
「おい!わざわざ奥の方にいれろといってやったろ!汚ぇな!!これだからてめぇは……」
「あ゛、あぐぁ……はぁ、」

床を這いつくばるようにしながら、飛び出ていったローターを拾い、ついでに中からでた汁で穢した床を丁寧に舐めていた。上から視線を感じた。頭をあげながら、ゆさゆさと腰を震わすようにしながら二条を横目で見上げた。

再び彼の前に身体を開く時には、目の前に二条のと同じくらいのサイズの、間宮自身がかつてよりよく使い込んだ慣れ親しみのある闇と同化しそうなほど黒いディルドが一本と、革製のバイブ固定ホルダーが投げ置かれていた。何も言われなくても、何をすべきかは分かったが、一応二条をにやにやと伺い見た。

「お前には本当に呆れたな。お前のような出来損ないの奴隷は古今東西探したって1頭たりとも存在しねぇ。今まで飼育した中でもトップクラスの最悪さだぜ。いつまでも恥ずかしい野郎だ。俺がお前の他に本物の猛獣の1頭でも飼っていたら餌にして食わせているくらいだ。そのくらいしかてめぇには人様を愉しませる価値が無いということだ。一体何年同じことをしているよ。たかが軽めの蹴りで中の物を、しかも、デカくもねぇ、こぉんな小さなもんを、勝手に出し勃起してはしゃいでにやつきやがる。恥ずかしくねぇのか?いい年こいて、こんなオムツみたいな物用意されてよ。いいから黙ってそいつを奥までいれて、はけ。それができたら、また点検してやる。」
「は……もうしわけ、ございません……できのわるく……」

声が裏返っていた。恥辱で頭が熱いまま、作業する。先代の、歴代の奴隷たちと比較され、心が沈んだ。電気ローターをいれ、ディルドを咥え込ませ、奥までいれてからホルダーできつく固定した。それから尻を彼の方に向けて這った。
「どうぞ……お願いします……」
身体が勝手に興奮して跳ねていた。ディルドの底を二条の膝が強く蹴り上げ、悶えながらまた地にふし、悶え、床にペニスをこすりつけながら、二条の方に頭をむけていた。ディルドの底と肉の隙間から、どろどろと白い液体が漏れていた。彼は間宮の全身を舐めるように見ていた。間宮はもっと見て欲しい、と最初のように二条の前に正座して座り、顔を上げた。

「その傷は、海堂がやったもんじゃねぇな。アイツは俺に気を遣うからそんな風にはしねぇ。別にやっていいって言ってるのにな。ははは。」
「………。」
「ふふふ、珍しく黙ったな。俺に秘密でも持ったつもりか。」
「いえ……」

霧野だけでなく、最近はついに美里をいびり苦しめることに愉しみと愉悦を覚えたこと。これは秘密なのだろうか。お高くとまった二人まとめて踏みつけてやりたいと貴方も思うでしょう、どうです?と言ってみようかと思ったが、面倒なことになりそうで止めた。そもそも、霧野をオナホにして勝手に遊んでいることでも調子に乗るなと怒られたじゃないか。こっそりやれ。万が一直球で聞かれたら素直に答えればいい。美里もそうしてますと言って、変に怒られて最悪組長のところまで話が行っても面倒だ。しかし、二条が組長に話すだろうか。彼だって以前から美里のことをよく見ていない。

「まあ別にいい。お前がどこでだれとどうやって戯れていようがどうだっていいんだよ。興味も無いな。」

胸の奥に針を刺されたような痛みが走り、間宮は目を細めて卑屈な笑みを浮かべて、二条を上目づかった。

「……でも、俺は、いつも二条さんとしてると思って、してるんだぜ。」

わかってるだろ、と彼を見続けたが、彼はいつも通り笑ったままだ。怒った顔も見せてくれていいのに。貫かれたままになった淫門に偽の彼を感じた。

「そう、そいつは良かったな。俺はお前以外の人間とお前抜きでしている時にお前のことなど一切考えない。邪魔なくらいだ。まさか、お前は俺に、お前と同じであることを望むのか?」

心臓に刺された針が、肉を抉るように上を向いて、痛い。痛い。喉がつっかえたようになり、ぎりぎりと強く歯を食いしばる。しかし、それさえも……。間宮は目を伏せ、その下で瞳があらぬ方向を向きかえるのを堪えた。本当に、辛いのに、よくなってしまい、さらに辛い。

「……、そういう意味で、言ったわけでは、」

なんとかそう吐いて、もう、次の言葉を思いつけない。じゃ、霧野は?と間宮は一瞬思ったが、聞いてどうなるというのだろう。どだい、こんな時にさえ思い出してしまうのが不愉快だ。怒りで微かに震える唇が、「き」という形をつくりかけていた。

「遥のことか?奴のことはよく考えているよ。狂いそうなほど。興味深い存在だから、な。」

間宮は頭がどうにかなる前に冷静になれと自分に言い聞かせ、目の前で二条の目の奥が嬉々としていくのを見て、一つ悟った。彼は、絶望する人間を見て愉しんでいる。二条が霧野を追うのも霧野を思うのも、彼の楽しみだが、それにより間宮が絶望するのもまた、きっと愉しみの一つとなりえるのだ。

その意味では、お役にたてていることと惨めさに勃起が促進されるが、悲しみと憎しみとで狂いそうで、はらわた煮えくりかえるのも確かで、今霧野が目の前に突如あらわれたら、動けぬように部分的に破壊し、犯し殺したいと思う。で、それを二条に見ていただく。生命のなくなった肉を、献上差し上げる。きっと彼は怒るだろうが。しかし、最後に結局残るのは、霧野では無く自分なのだと思うと、心がまた安定してくる。

「またお前と一緒に調教してやるのも一興だが、そんなにお前も、奴のことが気になるというのなら、奴にお前を、犯させてやろうか。突っ込む場所を一つも用意されず、溜まってるだろうしな。お前の肉袋を貸してやれ。何かのご褒美にでも、お前の中に出させてやるくらいなら、ま、いいだろ。口でしたのと同じことだ。仮にそれで、遥とお前を逆に交尾させて眺めたことで、組長の機嫌を損ねたとしても、具体的な罰を被るのは俺ではなく、お前達だろうしな。それを眺めるのもまた良い。もちろん俺がやれと言ったからには射精するところまでやるんだ。どれほど時間がかかろうと。それまで終わらせるつもりもない。」

間宮は陶然として話を聞いていた。二条とそれからこの場に存在しない男のことについて考えた。間宮自身よりもさらに下の下層奴隷、組織の中で、特異な地位から一夜にして最下層の、人間でさえない家畜に成り果てたはずの一頭の雄のことを考えた。

苛立ち、さっきまで殺意さえ怒りさえ覚えて今もそれはありありと残っているというのに、微かに邪な欲望が芽生えていた。澤野は、最早霧野であり、二条の真実の残酷な面を身をもって体験しただろう。男の味も覚えたし、覚えさせた。二条と共に霧野を地獄の底まで責め苛むのが最もいいが、劣情と共に見目麗しい二条と霧野の下につき、演じてみるのも、激しい屈辱怒り死にたさを覚えるに違いないが肉体が悦ぶだろう。現に、事務所で意図せずに、霧野の一物をしゃぶらされ、重なり合った時、全く欲望を覚えないと言えばそんなことはなく、二条に、二人して勃起していることを指摘されたではないか。

背後から二条に鶏姦されつつ、下から、霧野の何とも言えない視線を、興奮の材料としていたではないか。霧野のあの瞳の中に、自分と同じものが無かったか、いや、あった。同種の獣!しかし、それにしてもやはり、胸が引き裂かれそうだ。苦しくて仕方がない。なのに下半身は。二条がこれくらいのことをわかっていないことはない。つまり、やはり一番に可愛がりたいのは、この俺に違いない。

二条は、間宮が眉間にしわを寄せて、しかし口元ではにやけながら、陶然と責め言葉から妄想と思考を無限に巡らせている間に、手の中でリモコンを弄んで、スイッチの上に指をかけた。

「これは10段階式、さっきお前の口に流したのは1だ。」
「ア!アハ!……ま、またまたごじょうだん」

を゛!っ、おお!肉の中を電流が突き抜け、周囲の肉を激しく震わせた。のけぞった身体から、言葉にならない叫びが喘ぎ出ていき、たった数刻前放出された白濁液が中をゼリーのように多潤に湿らせていたため、液体の中を余計に激しく通電し、湿った穴蔵の中で肉がびちびちと魚の群れのように痙攣し、自然と背筋が伸び、身体がガクンガクンと大きく縦に震えた。

「ぉぉ゛…‥っ、あ!、!!!」

青臭く焦げ臭いにおいが漂う。刺激に慣れてきてはあはあと息づきながら、二条を仰ぎ見た。

「ん?余裕そうだな。」

電気が一段階大きくなって喘いだ。刺激によって、さっきまで負の感情で霧野のことを思っていたことなど、どうでもよくなった。ともかく今、痛みを彼から授かり遊んでもらっているのは自分であり、ここにいない霧野が可哀そうである。

「腹が減ったな!」

間宮は歓喜に声をあげたくなりながら、お尻からディルドの底、そして黒いコードの悪魔のような尻尾を垂らしたまま、電気刺激を食らいながらキッチンの方へ尻を振り立てるようにして這って行った。二条の手から堕ちたリモコンがフローリングの上でかたかた音を立てていた。

「あい変わらずマヌケな姿だ。いつもと大差ない。」

歩く度、ぬちぬち、ぱこぱことディルドが中で微かに動いて、電気刺激で内側から肉の湿り膨らんだ個所を音を立てて抉るのだった。無機物に犯され続け、足をとめそうになるが給士をしなければいけない。手足を前に進める毎、泡のぱちぱち跳ねる刺激と小さな突きで、そのたび小さくイキそうになる。

「んん……っ」

舌が出て、涎が出るのを拭って、巨大な冷蔵庫を見上げ、下から順に中を探る。膝立ちで確認できるところまで行って、まるで飛び込みでもする前のように、幾らか深呼吸をしてから、何とか立ち上がった。大きさに対して、中あまり物はない。パーティなどを開き料理人を呼ぶときには、いろとりどりの食材でいっぱいになる。冷凍庫に冷凍のローストビーフが置かれていた。

ローストビーフを手に取り、解凍、ナイフで裂き、皿に盛りつけ、ワインを開けた。その間も電流は肉門の内側を屠り続け、最高潮の熱を感じた。あふ、あ、と情けない声が幾らか漏れ、ときおり、キッチンの壁や、調理台に手や肘をついて、休んだ。二条の視線を感じ伏せた頭の下でにやけた。
「……、…‥。」
ああ、このままでは、腸壁が温められすぎ、内を走る血管が燃え裂けて死に至るのではないだろうか、ああ、と思う程の熱さ。その破けそうな部分を、つ、つ、と優しく二条の形のディルドで嬲られる絶頂寸前の感覚。

二条のために食事の準備を続ける。いや、させていただいている。熱は内側から皮膚を通して外へ出ていく。じわじわと裸の全身は湿り果てていた。食事の準備と共に己を捧げる準備だ。身体の内側が、心地よく、もっと激しい電気を求める。願いが通じたのが、灼ける感じが強くなり、中を厳しく躾けられ、痛みながら悦んだ。

「お待たせいたしましたぁ。」

ソファ横のサイドテーブルの上に静かに軽食を置いた。彼はまた何か読んでいた。表紙を伺う前に踵で床を叩かれ、了解して、そこに四つ這いに這った。上にどさどさと脚が乗ったかと思うと、いつのまにか握られていたリモコンで、電気の強度をあげられ、電流が肛門から頭までを激しく貫いていくのだった。

「あああっ、あああっ、」
「うるせぇぞ。」

二条をのせた身体を、床の上に落とし崩してのたうち回り、さらに奇声をあげそうなほどだったが、上に乗った足がそんなことは許さないというように強めに2度3度と、間宮の背中をたたいて、意識をはっきりとさせた。

意識を、集中させた。自分が感覚などないモノと思う。そうしている内に電流が止み、足がどいて、目の前に同じローターがさらに3つ降ってきた。それから、二条の無邪気な、しかし瞳の曇った笑顔が間宮を覗き込んだ。間宮は、ひ、と声を上げ、しかし、笑顔を見せた。可愛らしい笑顔である。

「まだまだイケるな。そうだ、お前に改造させた電気首輪も持ってこいよ。クローゼットの中に置いてあるから。」

いくら恐怖しても拒否する権利も、気持ちもない。恐怖していても身を捧ぐ。クローゼットから指示されたものをもってくる。二条はその間、キッチンの床にこぼれた間宮の汁の一滴を発見していた。二条は間宮を伴ってその汁の前に立たせ、どうしてそのままにしておくのかを執拗に問い立て、間宮が額に汗を浮かべながら、いやらしく苦笑いして、答えられないのを見ると徐に、いつまでも怒られてさえ勃起をおさえきれぬ化け物を掴み上げるのだった。間宮の顔が羞恥と歓喜に紅潮していた。ペニスを、家畜の連れられるように引っ張られながら元いたソファに場所に戻された。ガラステーブルの上にローターと別の機械が一つ用意されていた。

二条の親指が尿道口を抉りぽっかりと開かせ、そこに、鉄製の尿道プラグを挿しこんだ。それには銀の模様がはいって、コードが伸びており、機械が繋がっている。間宮は、嫌な予感に身体を震わせ恐怖で既に腰が砕けかけていた。頬をあかくしたまま涙をしとどに流しながら、いや、とは言えぬので、「ぁぁ、いぁぁ」と懇願するような声を上げたのが、余計に二条を刺激したらしく、ガラステーブルの上にあおむけに押し倒された。「ぁ」と今度は口角を上げ期待するような色めいた高い声を上げたのも束の間、首元を押さえつけられ、ガラスにメリメリ音がするほど頭を押さえつけられた。

「泣くのを止めろといったろ。」

世界が暗転した。床で、身体を蹴り上げられ目覚めて、器具のとりつけられた三か所、首、尿道、肛門の三点に通電されながら、二条の足元で啼き、その度嬲られ、悶え耐えた。

そうして、陰部の前後、首輪より、全身に激しい通電を受けている内に、また脳が損傷した感じがして、ことが最高潮を極め、気が付くと意識がなくなっていた。電気が明滅するように、記憶が飛び飛びになる。死体のようになった肉体をガラステーブルの天板に押し付けられて、後孔の装置を外された代わりに、また二条の雄が出入りしているのを感じた。一突きごとに、死を感じた。ガラステーブルの下でカメラが回っている。

確かに今この身体は死体だが、繰り返された通電と躾の結果出来上がった燃えるように熱い死体であった。今度はもっと深い意識の底へ堕ちていく。

……。

「かお……」
目が覚めたと同時に、彼の名前を呼ぶ自分が居て深く絶望したと同時に自分のことが可愛くなった。間宮は涎を拭いながら、体を起こした。二条は居なかった。

またしても、霧野のところに行ったか。身体が異常に重くて時間感覚がなくなっていた。裸のまま誰もいなくなった部屋の冷たい床に寝ていた。痛みがあった。彼が目の前に居なくてもこの痛みが彼が存在した証だった。

ぽつ、床に大粒の雫が落ちた。
「あ?」
一回出ると止まらなかった。憎らしい、寂しい、哀しい。
「あううう゛ー……」
さっきまでの大きな熱が身体の中に残っているのが情緒を余計に狂わせる。泣くんじゃねぇ!と二条の叱責する声が頭に響くと余計に泣けてきた。空になった皿とワイングラスを見つけ、キッチンで丁寧に洗った。

『いつまでも情けがねぇ……てめぇのその面を見てると苛々するんだよ。』

洗い物を終えると、間宮は顔を拭い身体を引きずるようにしながら、誰もいないマンションの中を裸のまま、股間を覆わず、顔を覆いながら、彷徨って気が付けば裸のままロビーに出ていた。衣服も荷物も見当たらない。ああ!大変だ、このままでは警察を呼ばれてしまう。霧野巡査が来て逮捕されるかもしれないじゃないか。ははは。間宮は嗚咽しながら管理人室の扉を遮二無二ノックしていた。

「桃園さん!俺だよぉ、俺ぇ!開けてよ!!」

扉がゆっくりと開いて、回収されていたらしい衣服が差し出された。

「またですか。困りますよ。」

間宮がボロボロと涙を流しながら、衣服を着替えている最中、高級マンションの雇われ管理人である桃園という中年男性が、困り顔で間宮を見上げていた。哀れにも思ったか、間宮の着替えを手伝っている。間宮は桃園とは見知った仲であった。今回のような過激なプレイは初めてのことではなかった。ここまで間宮がやってくる様子もマンション内のカメラ越しにみていたはずなのだ。

「大丈夫かね。」

桃園は、どちらかといえば小柄で、今まで誰にも怒ったことはないというような、優しく親しみやすさを覚える、悪く言えば弱弱しく野暮ったい印象を抱く男だった。もしかすると、年齢だけ言えば二条に近いか少し上くらいかもしれないが、佇まい、見た目も振る舞いも常に華やかで若々しく豪奢である二条とは気質も立場も、まったく正反対だ。着替えながら、桃園の姿を見ているとそのやぽったい佇まいに平静を取り戻してくる。涙も止まっていた。

「いやぁ、ほーんとっ、すみませんでしたぁ……」

間宮は頭を掻きながら、今度は一転してニへ二へと笑い謝った。二条の代わりに自分が管理人の彼に謝る。二条から、かなりの額の金を個人的に握らされて、今までの粗相も黙ってくれている彼である。そう言った言意味では、見かけによらず彼も単なる善人ではない食わせ物であるが、二条がどうやって彼と協定を結んだのか間宮は知らなかったし、知りたいとは思わなかった。

「あなたも嫌だったら嫌とハッキリ言った方が、」

間宮は半ば赤面した。この善良そうな男に心配されることに、どうしてこんなに羞恥を覚えるのかわからなかった。恥ずかしいことなら、他にもたくさんしているのに。

顔を衣服で隠しながら「あはは、大丈夫です、合意の上ですから。まあ、おじさんにとってみれば、そんなことどうだっていいか、いつもすみません」と即座に言ってごまかした。それから、桃園を見下ろし、微笑んだ。桃園はやはり偽らない表情で、「心配ですよ。」と呟いた。間宮は反対に偽りの笑み称えた。称えながらも、この男に抱き着いて甘えてみたいという気持ちがほんの少し沸いでたのに驚いた。二条と自分だけの世界が崩れているのか。記憶のせいだろうか。

「何か弱みでも握られているのですか?」
そこには、私のように、という言葉が含まれているように思われた。
「アハ!まさか!」

間宮はすっかり身支度を整えて、気の弱そうな男を見下ろした。桃園が一瞬だけ照れたように目を逸らしたのを間宮は見逃さない。前からその傾向があることも知っていた。

だからこそ、我々は、大目に見られているのだ。さっきまでの痴態もビデオによく収められているだろう。彼はそれを破棄する契約を二条と結んでいるが、破棄する前に自分で見たっていいし、管理人専用の個室の中でそれをオカズに愉しんだって誰も気にしない。

間宮は一寸、いたわる気持ちを少しでも見せてきたこの目の前のみすぼらしい中年男の、ペニスの出来をよく見分し、ともすれば、こっそりと、彼の秘密基地、管理人室の中で彼の股座にしゃがみこみ、しゃぶってお礼でもして、ともすれば手か尻でこいてやったもいいと思ったが、笑顔を見せ「それでは。」と爽やかに彼に背を向けた。

マンションを出て、また行く先を失った。笑顔はとっくに消えた。間宮は日のくれすっかり夜になった街を歩きだした。今身体の痛みの半分は二条から受けた物、半分は美里から受けた物。二条によって望まぬ痛みが望む痛みに上書かれたのはよかったものの、まだ美里を許したわけでもない。殺さないまでにしても……。

一度軽く犯っただけ。双方一発の射精さえしてない、あまりにもぬるすぎる肉結合。それで、あの野蛮で激しい報復の仕方。何もかもスマートじゃなかった。野蛮なstray catめ。あれでどうして偉そうにしていられるか未だに謎だ。見目だけで組長に優遇され可愛がられている頭の弱いろくでなしの愛玩動物にすぎないくせに。二条も同じようなことを言っていて嬉しかった。そう、愛情にまつわること以外なら、きっと彼と意見が合う。

「そうだ、もっとしっかり、根元から去勢手術をさせてやらないとな。」
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