堕ちる犬

四ノ瀬 了

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そのくらいの体力、あるんだろ?実験体君。耐久試験をさせてくれよ。

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横でビニールのきゅうきゅうとのびる音がした。姫宮の手に白い薄ビニール手袋がはまり、彼が手を開き閉じする度に音を鳴らした。

しわが伸ばされ、しなびた白いビニールが手の形になっていく。音を聴きながら眺めていると霧野の身体に何かぞわぞわした恐怖と期待の入り交じった感じが走るのだった。何のために嵌めたのかと想像が一人膨らんでいく。姫宮がどうした?とでも言うように天井からの照明の光を背負ったまま微笑んでまた手をきゅっと鳴らした。

川名と二条は、そろそろ次があるからと言って出ていこうとする。霧野は安心感と恐怖感と両方を覚えた。これ以上彼らに何かをされることは無いという安心、何かを行おうとしている姫宮とふたりきにされる恐怖。霧野を見た二条が顔に笑みを浮かべていた。  

「なんだ?随分寂しそうな顔をするじゃねぇか。一緒に帰りたいのか?」

イエスともノーとも言えず黙っていた。背筋にぞくぞくとした感じがする。彼に上から覆い被さられる感覚が体に蘇って黒い炎に焼かれるような感覚をジリジリと感じた。

「お前がどうしても頼むなら、また車に乗せてやって、俺の家まで連れて帰ってやったっていいが。どーする?三日三晩かけてじっくりとお前を抱いてやろう。」

とてもじゃないがどうしても一緒に帰りたいと頼み込むことはできなかった。言葉に迷っていると二条とは対照的に表情の無い川名が言った。

「自分が愉しいからと言って、あんまり、甘やかすようなことを言うなよ。」
表情とは反対に少し強い口調だった。
「別に……」

二条は横目で川名を見て、何か言い淀んでから「すみません。」と付け加えるように白々しく言って霧野に背を向けた。名残惜しそうに口の中で小さく舌打ちしているのが霧野にだけ見えていた。不思議な感じだった。

川名はそれ以上霧野の方を見ることも声を掛けることもなかった。二条を伴って去っていき、ぴったりと嵌められた首輪だけが残った。溢れた唾を飲み込むと喉を擦れる。川名の名残を感じると、彼からの仕打ちを思い出す。屈辱だけの思い出のはずが、どうしてか身体がうずいて下半身を中心に甘美な感覚があらわれそうになり、霧野は思いを断ち切るように、眼を閉じ頭をふった。カチリカチリと鍵のかかった金具が擦れて音を立てた。彼が去っても首を掴まれているような錯覚を覚えた。

「お父さんとお母さんが帰っちゃって心細い?」

姫宮がうすら笑いを浮かべながら丸椅子の上でゆっくりと身体を左右に揺らしていた。一瞬意味が分からなかったが、川名と二条のことをさしていると理解して苦笑いした。久しぶりに笑った気がした。どっちがどっちと言えるだろうか。

「心配しなくてもいい子にしていればもうすぐ帰れるよ。こんないいもの買ってもらって、」

姫宮が首輪を見ていた。よくできた首輪だった。小さな南京錠がまたカチと音を立てた。

「愛情たっぷり育てられている証じゃないか。君はとても恵まれている。」

姫宮の視線が霧野の顔と首輪を舐めるように往復していた。

「……気持ち悪いたとえしないでくださいよ、恵まれている?どこが。」
霧野が吐き捨てるように言うのを姫宮は面白そうに見、首をかしげた。
「気持ち悪いかな?言い得て妙だと思わない?」

姫宮は何か手元で細い小さな凹凸のある銀色の細い棒を弄んでいた。霧野は知らないが尿道ブジーという尿道責め拡張するための道具であった。持ち手の側に円がついていて、棒はぬらぬらと濡れ、粘液が、おそらくローションがしたたっていた。

それをどうする気なんだろうか。また頭が勝手な推測を始め、冷や汗をかきはじめていた。身体が震えだす前に、姫宮との会話に意識を戻した。

「気持ち悪いですよ、先生だって、おかしいこと言ってるのわかってるから、アイツらが居なくなって俺と二人になった途端言うんでしょう。」

「別に、いる前で言ったって良かったけど。霧野君とふたりで話したかったから。君達を見ていると人間の群れというより狼の群れのようなものを彷彿とさせられる。狼の群れは二頭の夫婦のリーダーの元に集っているんだ。往々にしてどちらかが知性、どちらかが獣性を元に群れを統率する。雄が知性、雌が獣性の場合もあれば逆もある。時にマージナルに混ざりあいながら群れを運営する。」

姫宮の手がいつの間にか霧野の雄を優しく包んでいた。ぬるぬるとしたゴム越しに彼の手のぬくもりを感じる。

「多くの人間は愚かだが、自分の性質にあう群れの中で、自分の性質にあった役割ができれば、愚かさを忘れることが出来る。生きがいとして一所懸命頑張ったり、自分の思っている以上の力を発揮できるものだ。しかし、それはきわめて稀なことだ。誰も自分に何ができて、何で力を発揮できるかなど知覚できない。多くの人間は成長の過程で自分がなんにでもなれると思っていた神経を焼かれ、壊されていくから。選んでいたと思っても選ばされているだけと気がつく。ふと我に返り、結局何がしたいのか自分で自分がよくわからなくなる。支配者が迷える者を救うのさ。君は良い支配者に恵まれている。そういう意味で言ったんだよ。」

「アンタは群れてないように見えるけど。」
「おお、まだちゃんとしゃべれるな。俺か?」

姫宮の手が、霧野を濡れた手袋越しに撫で上げるように掴み触り始め、ぬちゃにゅちゃとスライムを混ぜるような音が響き渡り始める。

「誰の支配も受けたくないというなら群れないのも手だ。」

彼の視線は霧野の方を向き続けていた。

霧野が「あ」と声をあげそうになるのをこらえているのをじっと見ながら絶妙な、卵でも扱うような優しい強さで手の中で陰茎を転がすのだった。冷えたビニールにぬるい体温がつたわっていき、手の中で硬くなっていく。優しく扱われた雄は、いつものように緊張することも無く、蕾が春の木漏れ日を受けて膨らむかのようにほのかに赤みを伴って姫宮の手の中で大きく育っていった。先端がひくひくと口を開き、求めるように濡れた。

「く、……、ぅ」
「君の、今の役割は何だと思う?クイズだ。」

姫宮はまるで変わらぬ調子で会話を続けた。それがいやに身体をリラックスさせた。親指の先を先端の穴に優しく押し当てていた。ぬち、と濡れた音が親指の腹と肉厚なぷにぷにとした亀頭の間で立ち、糸を引く。霧野は自身の股間から姫宮の方に強いが、しかしどこか揺れた視線を向けクイズに答えようとした。

「……今の、話から、すれば、正解のありもしないクイズですね。ふ、実験体とかですか?アンタの。」
「ははは、なるほど、実験体。それが君の望む役割か。」
「そんなこといってな……っ!?ぐ…ぁ、!」

ペニスの先端に細い銀の棒があてがわれ、ずぶりと1センチほど挿し込まれていた。くりくりとこねるように動かされると亀頭の中から刺激された神経がくすぐったい。

「わ…ぁ゛…っ、!ぁぁ、ぁぁ…」
「そんな怯えなくても大丈夫。少しは信頼しろよ。」

姫宮の人差し指が尿道ブジーの持ち手側をゆっくりと押し、棒はゆるゆると中に吸い込まれていく、痙攣するように小さな肉穴がパクパクとひくついて迎合する。敏感な細い肉穴にぬぷんぬぷんと銀棒が収まり、肉繊維を拡張する痛みを走らせる。ぷつ、ぷつ、と凹凸が入ってくる感じを強調させる。

見ていられなくなってきて、じょじょに視線が姫宮に、それから上へ上へとあがっていく。

「はぁ…‥っ、は、んあ゛…ぁ…、っ、ぎ、気持゛ち悪、゛っ、」 

股の間の浮くような未知の感覚に霧野の筋張った内腿の筋が強張り、弓を引いたようにフルフルと震えていた。震える筋を姫宮のぬるぬるとした指が這いまわって霧野の体を苛む。いつのまにかどろどろとてかった尻の表面が震えてゼリーのようだ。

「ぁ…あ…!」
「大丈夫大丈夫……、」
姫宮の囁くような声が耳のすぐ近くで聴こえた。
「これから気持ちよくなるんだから……。ここだってそうだったんだろ?初めは手酷く犯されたそうだね。痛かったろう。かわいそうに。」

何の抵抗もなく彼の指が豊満な尻肉の間に吸い込まれていった。
「んん……」
体内でうねうねと固く細い指が動く感じがあり、適度に熟れた肉壁を刺激するのだった。思わず目が細まり、眉の端が下がってくる。

「何本入ってるかわかるか?」
「う、……ぁ」
吐息が熱く蒸気のようだった。
「う、じゃないだろう。」
奥で指が折れ曲がり、喉の奥から気管が狭まった時に出る潰れたような声が出ていった。
「んふふ、」
「に゛、ほん゛、…」

尿道ブジーを押し進められながら、深い肉溝の奥を執拗に触れられ続ける。肉が柔軟に動いて、引きつりながら姫宮の指を温めていた。また後孔に入ってくる感じがあり、周囲の筋肉が伸びる。しかし、抵抗なく受け入れてしまい、きゅう…きゅう…と周囲から指を締め上げた。

「はぁ……、はぁ……ぅ」
「縦に三本入っているんだよ。わかるかな?ねぇ、ほんとうにいやらしいねぇ君は。なんでそんなにやらしいのかな?突貫で開発されたとは思えないやらしい穴してるよ、澤野。ほら、ぬちぬち言ってるのが聞こえるか?俺と二人になってから余計に熱くなってるじゃないかよ。またヤられたいって期待してるのか?かわいいね。いろんな奴の下半身を見てきたが、君のは奇麗な上に見かけだけではなく、実にいやらしい感度をしているようだ。素晴らしい。誇りに思っていい。君みたいになりたくてなれない子もいるのだから。恵まれている。才能がある。」
「なに、ばかな」

三本の指が開かれるようにして、ぎりぎりと孔が上下に開いていった。
「ああ゛!」
「4本もいけるんじゃなあい?」
ぱっくりと開かれた中は熱く仕上がって、冷えた外気があたっただけで求めるかのように勝手に脈打ち卑猥な音を立てた。姫宮が鼻で笑うと余計羞恥でたまらなくなり、体が強張った。

「ぁ゛…、あう‥っ、ぬ、゛……っ、」
「本当に抜いていいのか~?こっちだけで頑張れるの?君の気がまぎれるよう、サービスでやってあげてるんだぜ。」

指が閉じられ後ろへの刺激が止んだかと思うと、ゴリ、とまた目の前で棒が中に消えていった。
「や゛……っ、」
身もだえると身体に力が入って余計に異物を感じる。力を抜いて受け入れろというのか。

尻の穴の快感に集中している間に、随分と中にはいっていったようで、棒の半分近くが肉の中に埋まってしまっていた。息が上がり、目の前がチカチカし始めた。諦めと快感の混ざり合った吐息が喉の奥からあふれ出ていく。

「ぐぁ…、…っ、ぁ、」
「頑張れそうも無いね。俺も手が疲れてきたなぁ。」

霧野が口で何も言えない間に後孔にずっぽりと収まっていた指が引き抜かれていく。
雄肉が名残惜しそうに姫宮をギリギリと締め上げてとどめようとしていた。姫宮の顔から作り笑いではなく、本当の笑いがこぼれた。

「くく、なんだこりゃ。すげぇ圧、肛門は人体のどこの筋肉より複雑に強く発達する箇所だからな、君の身体じゃ、こういう動きするわけだ。ふーん、面白いねぇ。面白がらせてくれたお礼をあげるよ。ほら。好きだろ。ここも。」

姫宮の指が第一関節から先を残して外に出て、指の先端で感度の高い入口の辺りを開くようにして丁寧に擦り上げ始めた。
くちくちとリズミカルな音がなり、合わせるように霧野の喉の奥から断続的に小さな甲高い声が漏れ出、同時にブジーが、すとん、取っ手の位置まですっかり入って、つっかえるようにして止まった。わぁ…ぁ…と甲高い小さな声が響いていた。

「よしよし、入口、気持ちよかったんでちゅねぇ。よかったでちゅねぇ。」

指が抜け出、ぱちゅん!と淫靡な音を立て粘液を滴らせながら肉穴は閉じた。穴は名残惜しそうに二度三度と口を開き、閉じを繰り替えして口元を震わせていた。反対に上の口は、だらしなく小さくひらきっぱなしになって、はぁはぁ言いながら、口の端から一筋涎が零れ落ちる。

「んん、まだ欲しいのかな……?ふふ、欲しい欲しいって言ってるな。実にわかりやすい。」

姫宮は霧野の顔ではなく、霧野の股座の間に向かって話しかけていたが、視線を霧野の目の方に向けた。嗜虐的な輝きをした目が馬鹿にするように霧野を見上げていた。

「しょがないなぁ。霧野君~、君の下の口はちゃんとしているのに、なんだい上の口はさっきから俺の言葉にひとつもこたえねぇで涎ばっか垂らしてよ。本当に犬になってしまったようだな!使えねぇだらしない口だよ!」

体内に入っていた指が霧野の口の中に侵入して頬壁を擦り舌をいじくり指で歯を磨くようにして口内を擦り上げた。自身の体液の香りに塗れて呼吸し口の神経を弄られた霧野が何か言おうとすると指が容赦なく喉奥をついた。

「ま、どうでもいいけどな。君はもう頭を使う必要なんかないんだ。鳴きたいときに好きに鳴いて甘えていいよ。俺の前で意地張らなくてもいいだろう。部外者なんだから。」
 
姫宮は指を抜き取ると、傍らからすらりとした美しい形状のバイブ、玩具を取り出した。彼はまた霧野の股に向かって話しかけた。
「あら、そんなに欲しいの?」
何の抵抗も無い裂け目にいっきにバイブが突き立てられた。
「う゛うっ……」

準備されて、待ち構えていた肉穴は挿入物のためにぱっくりと道を開けて根元まで傭洒な玩具を咥え込み締め付ける。

玩具は動かされることなく重みを持って熟れた体内に鎮座して、周囲の肉が求めるように蠢くのに合わせて、肛門から突き出た持ち手が動いてた。微かな刺激が、逆にもどかしさに繋がり、小さな快楽の波が少しずつ溜まっていく。

「はぁ……はぁ……、」

それから、呼吸するたびに肉棒の中に串をさされたような違和感が立ち登る。後ろを犯されて勃起しているのとまた違い、ペニスそのものも犯されているように二つの穴がじんじんと脈打ち続けて変だった。

「前も後ろもちゃんと入っただろう。こういうのは最初が肝心だからな。俺以外の人間が触っても大丈夫なように本当の使い方を身体に教えておいてやらなければ。前の穴は女性器のそれと同様に繊細だ。君のここは生殖のためでなく遊ばれる為に存在するらしいから、これこそ本当の使い方と言える。」

姫宮の指が霧野の尿道から飛び出た持ち手を二三、でこぴんすると、霧野の身体は悶絶するように震え、軽く腰を浮かせていた。姫宮の指がもち手に引っかかり軽くくにくにと揺らすだけで、性器がドクドクと脈打って、霧野は椅子の上で背を軽く浮かせ、革拘束を食い込ませる。出口を失った快感が下半身に溜まり、たまらない。

「ぁぁ……っ、やめ゛っ、」
「ふふふ、やめてほしいのか?」
霧野は重い頭をなんとか姫宮の方に向けた。やめてほしい!と言って辞めるタイプの人間か?
「動かしてやる。」
「ひ、」

ブジーに引っかかった指がゆっくりうごき、それなら、後ろのバイブが微弱な振動をはじめた。

「う゛ぁぁ………」

ぬこぬことペニスの中の凹凸も動かされ始める。まるで小さな火がカーテンの隅に引火し燃え広がるよう。刺激のたびに、大きな衝動が下半身に蓄えられて、霧野の力み浮いていた腰まで揺れ始めていた。全身に汗が浮き、ローションと混ざり合って余計にてらてらと光り始めた。

「あ゛!?‥‥…あ、よ゛せよ…っ、…きもち、わる゛って、……っい゛、って、ぇ……!、」
「ああ、そう?気持ち悪いならこのまま続けよう、君が気持ちよくなるまで。」
摘ままれたブジーがぷつぷつと外に抜けていく。
「そうい゛う、ことじゃ、、な……ぅああ…っ!!…ぁ゛!ん、」

背後を犯された時の肉の裏返る感じとまた違う、ペニスそのものが裏返る様な感覚に、頭の奥がぼーっとして自分の声も姫宮の声も遠く響いて聞えるようになり、視界がかすみ始めた。呼吸音が激しく、誰か違う人間が呼吸しているよう。

「うふふ、妊婦さんみたいな息遣い。気持ちよくなるまでやらなきゃ意味ないだろ。誰でもお前のここを扱えるようにしなきゃいけないんだから。ふふ、そのうち指まで入るようにされちゃうかもしれないね。まずは小指が?気持ちよくなれれば君にとっては良いことでしかないね。んっ、ほら、抜けたよ、ぬらぬらだね。おや?抜いちゃいやだって今度はこっちの穴が喋るようになったね。中の物勝手に出しちまう前にすぐ塞いでやるからな。気持ちよくないらしいから何回やったっていいよな?」
「あ゛…っ…、‥‥ぁぁ…、」

……。

気が付くと、姫宮の手の中に、黄色い管のようなものが収められており、銀棒の代わりに管、カテーテルが霧野のペニスの中に入り込んでいた。彼は小さな黄ばんだホースを手遊びし、ゴム同士が擦れてきゅきゅとまた音を鳴らす。その振動で中がコリコリといじられて、またムズムズした快楽が立ち上る。
「もう……やめ、」
「ん?」
また、くちくちとローションが手の中でこねくり回され始めていた。カテーテルの末端まで視線をやると、透明な液体が入ったパックのようなものが接続されていた。

とろんとした目つきのまま霧野は無気力にそれを見据えていた。ひゅうひゅうと薄い呼吸が漏れ出た。歪んだ視界の中で、雄はべちゃべちゃに濡れ、したたり、滴った汁で腹から股まで汚れ、へその中まで湿っていた。むちむちとした弾力ある筋肉が、もだえにあわせて、鱗のたつように蠢く。
「……、……。」
よくわからない粘液にまみれてはいたが、雄まだ元気に勃起していた。コリと奥をまた管がつき、身体が震えた。

「んふふ。怖いか?そうだよ、この中身を今から君の中にいれるんだ。君の前の穴のさらに奥を犯してやる。」

霧野が息も絶え絶え何か言う前に、ぎゅ、とパックがにぎられて中身がホースの中を流れながら霧野の中に注がれいった。強烈な尿意が膨れ上がり、きゅうきゅうと尿道の先端が後孔と同じように収縮をくりかえし、より中にいれられた管の存在を意識させられる。どくどくと肉棒と肉道が脈打ち、視界がかすむ。歯を食いしばって耐えても、身体に上手く力が入らず、代わりにビクンビクンと動かしたくない感じに身体が痙攣するように跳ねてしまう。

「くひ…、っ、……ぐ、くそ……」
「まだまだ入る。身体が大きいから膀胱もデカイな。勝手に逆流させたらもう1パック追加しようかな?……やっぱり怖い?怖かったらさっきのように、お尻の気持ちよさに集中していろよ。そうすればまぎれる。痛みと快楽は紙一重だからね。」

言葉に反応して背後の穴が勝手に締まり、姫宮が玩具の電源をいれてさらに中を撹拌した。気持ち悪さに耐えていると尿道を外から、逆流し、何か入ってくる異物感感が薄まり熱い感覚が通るだけになって、パックの中が空になる。しかし入った物は中から霧野の膀胱、尿道を刺激し、激しい尿意を感じさせた。
「よし、いれきった。」
パックが外れた先端に銀色の栓が嵌め込まれて肉の先端を飾った。

後孔から前孔からの螺旋のように高まる刺激を得て、尿意と射精欲の混ざった滾りに肉棒が根元からビンビンと脈打ち屹立していた。しかしそれは誰に何に挿れるでもなく、挿れられ犯されている。姫宮は椅子に座って上から面白そうに霧野を見降ろしながら指を組んでいた。

「あ゛ぅぅ……くぅ…ぅ……」
「いい心地だろ。どう?」
霧野が口で何か言う前に、激しく二つの穴が抱き留めるように異物を二度三度と締め付け、濡れた。
「出し、た‥…、ぁ、」

震え濡れた薄い唇の隙間から辛うじて出た言葉を姫宮は聞き流しながら、背後の玩具の強度を上げた。モーター音が大きく鳴り響く。

「ん!!‥‥‥ぎ……、なっ、んで、っ」

椅子が音を立て、革ベルトがしなった。手首足首に食い込むベルトが霧野を絶望的な気分にさせながら余計に感じさせた。絶望は気分を高まらせる。自分の力でどうにもならないものに立ち向かい翻弄されている感覚が下半身に響くのだった。

姫宮はじっと濡れた視線で霧野を見降ろしながら、脇腹をぬるぬると触り、敏感になった霧野の身体が逃げるように椅子の上で悶えるのを観察し、また触ることを繰り返した。

「ふふ、気持ちいいねぇ。外には全然触ってないのに。中だけで感じてるんだね?」
「ぁ……ぁ‥‥…」
「中だけで感じてるんだろ?きもちい?」
「……ぁぁ」
霧野の半ば恍惚とした目が口の代わりに姫宮に語り掛けた。
「そう。良かったね。中で感じて、たくさんエッチな汁を出すと良い。好きなだけ。同時に抜いてやろう」

栓とカテーテルが抜かれたと同時に溜まっていたものが逆流するようにして飛び出ていった。どろどろとしたゼリー状の濃度の高い粘液がいっきに尿道を駆け巡り、噴出する。魂が性器を通過してそのまま出ていくかのような勢いで液体が反り返ったペニスの中を通って腹の上にまき散らされ、姫宮の顔にまで飛沫が飛んでいった。

身体もペニスの仰け反りに負けずに仰け反った弓なりになり、手首足首を支える革ベルトの拘束が無ければそのまま椅子から転げ落ちてしまいそうな程だった。手首からくっくりと前腕まで血管が浮きたってはち切れんばかり。ぎしっぎしっと霧野の代わりに革の枷が悲鳴をあげているようだ。

どくんどくんと身体が脈うって、腰ががくがくして自分の物では無いようになり、締まった肉の勢いで収まっていたはずのバイブが勢いよく噴出し床の上をころがった。下半身がとろけるような感覚になっていく。

粘度の高い粘液にまみれ腰骨の窪みに小さな湖のように液体がたまっていた。姫宮の指が湖からローションを掬いとって、霧野の身体に擦り付けるようにして伸ばした。腹筋の溝も濡れしたたって、呼吸する度音を立て、擦られるだけで霧野はまた舌を出してあんあんと小さく悶えた。

「いれて、出して、いれて、出して。そうだな……あと三往復位してみようか?そのくらいの体力、あるんだろ?実験体君。耐久試験をさせてくれよ。」



「随分名残惜しそうにしてたな、お前。」

病院から出たところで、川名が二条を振り返り微笑んでいた。さっきまでの無表情が消えている。

「三日三晩抱く?そんなことしたらアイツがアイツじゃなくなるかもしれないじゃないか。駄目だろう。」
「……。それの、何が駄目なんです?それに、かもしれない、でしょ。ご自分でも散々いびっておいて今更なんです?」

川名は何も答えなかったが、一瞬彼の表情に悪意のような物が浮かんだのを二条は長年の付き合いから察した。

彼はさっさと自分の車に乗り込んでしまい、外で待っていた組員が急いで運転席に乗り込んだ。二条は車を見送りながら、いよいよ面倒なことになったと思った。やはり彼の気が変わる前にさっさと殺して愉しむのが良かったのだ。

「……」

何か異常にむしゃくしゃした感じが高まってくる。ふぅと息をついて気持ちを落ち着かせようとするが、川名のたまにやる、絶妙な人を食ったような、学習したような、わざとらしい微笑み方を思い出しまうと、泥沼の様にはまるように感情の制御がきかなくなってくる。

「お前の緊縛術には美しいものがあるな。随分こなれている。」

川名が縛られた霧野を目にした後日、二条にそう話しかけた。褒められて悪い気分のする話でもないので「ありがとうございます。」と応えるや否や「お前は受けたことがあるか?」と無邪気に聞いてくる。

「は?」
「ああいうものを学ぶ場合、自分も何度か受けて感覚を学習する必要があるだろう。どうなんだ?」
「………」

言い淀んだ。しかし、言い淀めば言い淀むほどに、川名をいい気分にさせるのはわかっている。

「もう……ずいぶんと昔、学生の頃、始めたての頃はありますよ。それが何か?」

嘘を言う必要も無かった。言い淀みはしたが恥じることでもない。今でさえ面白いが、元々は緊縛に大した興味があったわけでなく、最初は乞われて始めたことだった。

「ふーん、お前が。」

川名の人を見通すような瞳が今だけは人を視姦しているかのように見える。

「霧野でああなんだから、……、」

「私なんか縛ったところでですよ。何が面白いんです。こっちだって一切感じないし、俺より下手だったらそっちが気になって仕方がないです。」

「お前が面白くなくても俺が面白いからいいんだよ。俺の家に、お前以上の縄師とかいう奴を探し出して連れてくれば勉強になるんじゃないか。お前の技術向上に役に立つだろ。いいじゃないか。」

「やるわけないでしょう。何故、」

何故貴方の前で私が……、と続けようとしたが、無意味だった。どう答えても揚げ足をとられる。

無邪気に遊んでいるのだ。彼が他の人間をからかっても萎縮して応えてくれないから。これもひとつの仕事といえば仕事だ。彼なりの甘えなのだ。

二条は川名を見ながら、逆に彼を縛ったらどうだろうかと考え始めた。彼の身体のイメージがうまくまとまらず、想像の中で彼の表情が真っ黒になってわからなくなる。何も見えない。

彼の感情の底を引き出すのには緊縛などよりもっと直接的な暴力の方があっているだろう。軽い殴打くらいでは微塵も表情を変えず微笑みさえする。それはそれで見てみたいが、本当に見たいのはその先、だから、もっと、……、

「おい、大丈夫か?」

いつの間にか握りしめていた手が震えており、川名が言葉と反対にそれをさも面白そうに見下げていた。川名の手が二条の無骨な手の甲の上に乗せられた。まるで陶器かと思うほど冷たかった。

鼻の奥で焦げたような匂い、そして、血の匂いがする。何度か強くまばたきを繰り返して心を無にしていく。二条が膨らんだ邪悪な感情を鎮めていけばいくほど、川名の瞳も高揚感を失っていった。

「……」

ふと視線を感じて、診療所の横の路地の奥の方に目をやると見慣れたブーツを履いた脚が勢いよく路地の角を曲がるのが見えたような気がした。周囲をよく見れば猫のようにうろうろしたらしい、泥を踏みぬいたような濃い足跡がそこら中に残されていた。
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