堕ちる犬

四ノ瀬 了

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遠慮せず、本当のお前の姿を見せろ。

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「聞こえてないのか?こっちへ来いよ。」

川名の手が霧野の襟首を掴み引き寄せた。赤子が床を這うようなぎこちない仕草で、進み、導かれるようにして霧野は椅子に腰かけた川名の膝の上に手を乗せた。まるで犬が主人の脚にじゃれつくような姿勢であった。

「ここにうつ伏せになれ。」

こことは川名の太ももの上であった。そこに霧野の大きな身体をうつ伏せに横たえよと言い、川名は自身の膝を叩いた。まるで、大きな犬が甘えるのをあやし撫でる時のような、母親が小さな子どもに罰を施すような姿勢だと霧野はぼんやりと思っていた。何か異常で何が正常なのかよくわからず、ただ、じくじくと身体と目の奥の方が熱く痛み、自身の心音が良くきこえ、穴という穴がじんじんと潤った。

「あとからこの服は捨てさせるから気にしなくていい。早く、登っておいで。」

川名の膝の上に霧野はどっしりと体を横たえた。さながら大型の犬がじゃれるような姿勢で、霧野は何か一瞬だけ落ち着くような錯覚を覚えた。むき出しのままの豊かな臀の上を川名の、いつの間にか革手袋を嵌めた手が這い回る。
「良い色だ。」
期待するように霧野の呼吸が早くなっていく。川名の指が唐突に痣を指でつねりあげた。白かった弾力のある餅のような肉が川名の指の間で弄ばれる。

「ああ゛っ!!、ぅぁぅぅ!」
「……こんなのが痛いか。指先でひねられているだけだぞ。情けがない。お前は見た目だけで中身はどうしようも無い頭の弱いガキだ。だからこんなことになるんだよ。わかってんのか?」

ギリギリとさらに肉に爪が立てられ、引きちぎりでもするように摘みあげられた。思わず身体が川名の身体の上で引き攣るように動き、足がバタついた。

「ああ゛ぁ゛!」
「じっとしていろ。」

肉を打つ音が響き、抓られた位置を正確に弾いた。あまりの痛みに悶絶し、また川名の膝の上でもじもじと動く霧野の肉にもう一度平手が飛び良い音が響き、きゃんきゃんと悲鳴が上がった。叩かれて腫れた上をまた優しく川名の手が撫で上げ、霧野の悲鳴が落ち着いた喘ぐような調子になった。仄かに紅色のつき、幾らか傷を負った大福餅のような二つの膨らみの上に指がくに、くに、と触れると、ふんふんと鼻を鳴らして、さらに甘えた調子で喘ぐ。

川名は犬の様子を観察し、再びその尻を鷲掴み、犬を啼かせた。また大きく身体が動き、空を彷徨った足が行き場を失って、膝が川名の座る椅子の足を蹴った。犬は再び軽く尻を数度叩かれ、ぐったりと大人しくなるが、呼吸が乱れて背中が大きく上下していた。

「じっとしてろと言ってるのに。反省の意思が足りないから出来ないんだ。意思の弱い、いつまでも世話のかかる。俺に甘えてるつもりか?」
「ぁ……ぁ……」
川名の手が霧野の首筋を撫であげ、髪を掴み、顔を覗き込んだ。川名の手と霧野の首の間で、凄まじい速さで血が脈打っていた。彼の赤らんだ眼からはらはらと静かに涙が流れていた。
「はは……泣いてやがるな。泣けば許されると思ってるのかお前。で?何回臀を打たれたい。」
「……、」
川名の手の中で霧野の首が横に揺れて身体がブルブルと震えた。
「俺に決めさせるのか?じゃあ百だな。」

霧野が何か言う前に容赦なく手が振り下ろされ、一発目が振り下ろされた。霧野の身体がまた大きく身じろいで、悲鳴を上げる。

「おい!今また動いたな。ただでさえ重いのにお前のためにわざわざこうして抱えて手まで使ってヤキをいれてやってるんだ。いい加減にしろよお前。ノーカンだよ、ノーカン。」

パン!パン!と立て続けにむき出しの尻を打たれ、思わずバタつきそうになる足を必死でこらえ代わりに、うめき声が上がった。

「あぁぁ、あ゛っ」
「五月蠅い。」
止まぬ打擲が続き、時折堪えたような悲鳴や高い悲鳴が上がり、尻が一層彩られて、熱を持っていった。

「ふぐっ……ぅ゛、」
「そんなに吠えたいなら、以前のように俺を悦ばせるようなことの一つでも言ってみないか、駄目犬。」
川名の手が霧野の顔を下から掬う様にして掴み、二度三度左右に揺らした。
「あ……っ、ぁ゛、」
食いしばっていた歯の間から垂れた涎が、川名の手と床を濡らした。
「ありがとう、ございます、」
川名に顔を掴まれているせいで、どこか幼稚な響きのある声だった。

「へぇ、なにが?一体なにがありがとうございますなんだ?」
「し……私のようなものを、躾けていだたき……」
「ふふふ。そうだな、そう思うならば、もっと鳴いてみろ。俺を満足させられたら、百より早めに止めてやってもいいぞ。」

打擲の音が鳴り響き、その度、感謝の吠え声が部屋に響きわたり、その吠えは襖をへだてだ廊下の奥にまで響き渡るほどだった。叫ぶ度、霧野の中で理性の箍のようなものが音を立てて外れていき、痛めつけられているというのに、頭の中に光の散るような気持ちよさが現われては霧散する。抱えられ尻を叩かれているというのに。

「あ゛……、ぅ…ぅ…」

数十を超える幾度目かの叫びの後、ようやく川名の手が止まり、川名の膝の上で霧野の身体ががくがくと震えていた。ヒュっ!と川名が手を上げると、振り下ろされずとも霧野の身体が身構えて小さく跳ねるのだった。挙げられた手は再び、しかしゆっくりと霧野の仙骨の辺りから豊かな、しかし生々しい傷のよく残る双肉の方へ伸びていった。手袋越しでもその肉の熱さは十分に伝わるのだった。

幾度叩いたか解らぬ臀の上を再び川名の手が撫で上げ、撫でた先からぷつぷつと斑模様のある尻が鳥肌立つ。無遠慮に、しかし優しい手つきで川名の親指が秘所に押し当てられた。
「んっ……?!」
ネチネチと音を立て擦り挙げられたかと思うと、つぷッと第2関節の見えなくなるまで一気に中に咥えこまされた。
「おぁ゛ぁっ……!」
濡れ、伏せられていた霧野の瞼が再び見開かれて。何かを探すように視線が彷徨った。川名の指は熱い肉の中に根元まで埋まりきった。

「簡単に奥まで入る。俺の膝の上でケツをぶっ叩かれて、こんなに濡らして。はしたないなぁ、お前は。」

中で指がゲームのスティックコントローラーを動かすかのような調子で陰湿に動き、中を掻き回した。

「んん…ん゛…ぅ」

感じ入るように、淫らな肉がゆっくりと指を味わうかのように優しく閉じては弛緩するを繰り返し、川名が指を止めるとより、もっと揉めるように指に絡み吸い付き、熱く濡れた。きゅぷきゅぷと音を立てて、もっともっとと欲しがるようであった。

「んぁ、ぁ……、あっ、」
「しっかり吸い付いて離さないじゃないか。そんなに俺のことが好きか。立派になったものだ、雌犬。これじゃどこに売り飛ばしたってたっぷりと可愛がってもらえるな。そうやって俺に貢献してくれてもいいんだ。」 

きゅぷ、と親指が抜かれ、さっきのまで指に絡みついていた締まりの感じとは打って変わって、だらしなく開いたままの孔を、川名の指が左右から中指と薬指が開くようにして固定した。

そのまま何秒何十秒と過ぎる打ち、傷痕と刺青がじっとりと咲くように紅を増し、川名の太ももの上に、まるで擦り付けられるようにして当たっていた霧野の肉棒の脈打ちが早くなる。ふぅふぅと荒い呼吸が湧きたって、また霧野の身体がもぞもぞと動きかけるが、先ほどの殺気の籠った打擲があったばかりで、動くのをこらえ、代わりに小刻みに、川名の上で仔犬のように震えていた。

「俺に見られてるだけというのに、どうした。さっきまで散々人様に見せびらかして遊んでもらってたくせに。」
「ぅ……」
くぷ…くぷ…と卑猥な音を立て、汁の漲った桃色の穴が、痙攣するような痺れる動きをしながら、締まろうとするが、粘着質な音を立ててその淫らさを、川名の目下に晒すだけであった。

淫靡な穴の上に、透明な冷たい粘液が流れた。川名がその熱い秘所に、上から吐き捨てるように唾液を落としてさらに濡らしたのだった。霧野は小さく声を上げた。そこに再び、親指が突っ込まれ、今度は中で折れ、鉤爪のように中を抉った。応えるように鳴き、またイソギンチャクの吸い付くように熱く穴が指を必死に締め上げて歓喜した。

「はぁ…っ、はぁ…ぅ…ああ……」
霧野の手は、行き場を失ってぶらぶらとしていたが、無意識に川名の太ももを探るように触りまくり、爪を立てるようにして掴み、力んでいた。
「んん……」
「熱い。俺の膝から降りろ。」
「んぁ……」
「早くしろ。」

降りろという言葉と逆に、川名の鉤爪のような親指は食い込んだまま抜かれない。霧野が自ら動いて身体から鉤爪を引き抜かなければならなかった。煽るように中で親指がゆっくりねちねちと動き始める。霧野が腰を引き降りようとするが、動けば余計に穴が締まって感じて声をあげてしまい、降りられず、そうしているうちに、一瞬指が抜かれて、また二度三度と平手が飛んだ。

「嗚呼!あああ゛!」
「この淫乱が。俺の命令より下半身優先か??いよいよ最悪だな。熱いと言ってるだろ薄ノロが。重いんだよ。」

苛々と霧野の下で川名の足が動いているというのに、霧野の身体は再びの平手による打擲で余計に肉が絞まり、罵倒で余計に身体全身が締まって仕方がなく、川名を余計に感じてしまうのであった。

「や゛、やめ……っ、」
「やめろ?人のせいにするんじゃない。俺は何もしていないだろ。お前が淫乱だからいつまでも俺の上から降りずにヘコヘコと腰ふって発情してとまらないんじゃないか。そうだろうが。」

パンっ!とまた肉がはたかれ「そうです!そうです!」と鳴き声があがった。また指が挿しこまれて、ぐにぐにと中の肉を抉り始める。
「ほら、早く降りてみろ。」
「くぅ……、」
霧野は無理に身をよじるようにして、快楽を貪る下半身から力を抜くように励み、上半身の力を無理やり使って転がり落ちるように、川名の足元に降りた。
「はぁ……はぁ……っ」
床に手を付き、自然とまた頭を下げるような姿勢となるが、真っ赤な下半身をむき出しにしているところが通常の謝罪とは異なった。川名の足が霧野の顔の下に差し込まれいつもの如く上にあげられた。

「ふん、まるで馬鹿みたいな顔だぞ。知性も品性もない。何故お前みたいな発情するしか脳のない白痴を囲ってやってたのか謎だ。」

川名の足が顔の下からどき、代わりに霧野の頭と肩を踏みつけた。重みで頭が下がり、霧野が微かに身じろぎするたびに、少しの反抗も許さぬというように押さえつけるように強い力で踏みつけられ、ぐりぐりと踏みしだかれた。伏せられた霧野の顔にはっきりと苛立ちの表情が浮かび、どんどんと息が荒くなっていった。

「……、……。」
「おお、発情して、今すぐにでも俺にケツを犯されたいのに必死で何も言えないか。ん?」
「…はぁ……っ、はぁ……、ちが、」
「ちがう?じゃあこれはなんだ。」

川名の靴の片方が肩から退き、ふてぶてしく根元から勃起した霧野の太い肉の先端をこずいた。そうされることで、そこは強かに濡れ始めた。正座の下で霧野の秘所はひそやかにきゅうと締まって先ほどの川名の鉤爪の感じを思い出していた。

「汁まで垂らして。……びしゃびしゃにして、止まらんじゃないか。はしたない犬だ。一体何が違うんだよ。お前は刺激に飢えている。だから、侮辱され痛ぶられ、腹が立つほどに高まってたまらんのだ。ちがうか。……立て。」

川名が立ち上がり、霧野の首根を掴む。

「早く立たないか!お前の望み通り犯してやる、売女。」

霧野は床に手を突き、命令通り立とうとするのだが、足腰が自分の物でないように感じられるほどに足腰がたたず、川名に引きずられるようにして這って部屋の中心へ移動させられた。

「一人前に犬性器だけは期待にギンギンに勃てておいて、もうマトモに2足で立てんじゃないか。犬畜生が。」

2人の上には黒い漆塗りの梁が一本通っていた。霧野が見上げるとそこに、今まで気が付かなかったが、ロープが括られて垂れ落ち、銀色のカラビナが垂れ下がっていた。

「犬のお前を人のように立たせてやろう。これを嵌めろ。」

霧野の目の前に見慣れた錠、手錠が落とされた。一瞬のためらいの後、霧野は錠を手に取って、カチカチと音をいわせながら自らの手首にそれを嵌めてみせた。川名の手によって手錠にロープが通され結ばれた。
川名がロープの端を持って、二度三度軽く引き霧野を見下げた。先に霧野が気まずげに目を伏せた。

「こっちを見ろ。」
ロープがひかれ、再び霧野が上目遣いに川名を見上げた。敵意と期待と淫靡さの混ざった眼をして。
「たまらないな。お前のその顔。早く犯されたくて仕方がないって顔だ。抵抗もせず自らこんなものを嵌めたのが良い証拠だ。」

川名は言いながら携帯を取り出し、電話を掛け一言二言話すと、黒服の男が二人部屋に入ってきた。
ロープの末端が男に受け渡された。霧野は男達に抱えられるようにして、立たされ、手錠から伸びたロープが梁から釣り下がったカラビナに固定された。

男達の支えがなくなると、力のあまり入らない霧野の身体は手首、両腕、両肩が自身の重みで軋み痛み始めた。なんとか立とうと足を踏ん張らせるが、やはり足腰がおぼつかず、床を足が滑り、尻を軽く突きだしたような姿勢でがくがくと震えた。

そのような状況というのに、霧野の股座の間で、収まらぬ一頭の雄が身体の震えにあわせて上下に揺れ、隠そうにも、下に身に着けていた物はすっかり床に落ちて、男の手で横によけられた。彼らはそこまですると、川名を見、目礼して部屋から出ていった。

川名は霧野の背後に立ち、美術品でも鑑賞するようにしばらくそうして様子を見ていた。対する霧野は俯いて、何も考えることができず、いや、考えたくなく、身体を支えることに意識を置きつつ、光の無い目で床をボーっと眺めていた。今、何かを考え始めると、狂いそうで、何かの一線を越えそうなのだ。ただでさえ正常な判断ができない状態だ。

視界は歪んで二重三重になって見えていたが、川名の気配と視線だけは自身の視界よりも何故か明確に肌で感じ取れた。見られる先からぞくぞくと鳥肌たち、汗か涎か雫がぽたぽたと視界の内に落下していく。霧野自身が自覚できるほどに切羽詰まったような息が漏れていた。しっかりしろ、と、ぐ、と腕を強くひくと、手首がよく痛む。

「さっきから誘うように開いたり閉じたりしているが、欲しいのか?」
川名の声が霧野の脳に直接刺さるようによく響き渡った。
「……、……」

言葉で応える代わりに、霧野の脚が微かに開いたように川名には見えた。川名のケインの先が熱を帯び傷を負った刺青の上をつたい、尻から膝の裏までの筋を、つつ‥…、となぞった。
「ん……」
肉の奥底からくる壮絶な疼きに同調するように、触られた端から霧野のピンと張った足の筋がぴくぴく、と動いていた。

「尻から、ここまで、一面何か飾ってやってもいいな。お前の下半身はどこまでも性器なのだから。お前の代わりに、ここが欲しい欲しいと蠢いているよ。嘘つきのお前がもっと素直に俺にもの言えるよう、追々彫ってやるから覚悟しておけよ。いや、楽しみにしておけよ、が正しいかな?」

再びケインの先が既に彫られた刺青の上をなぞり、アヌスの周辺の肉を撫でまわす。厚い背中の向こう側で息があがり、ため息と深呼吸が混ざる様な深い息遣いが渦巻いた。

「欲しいんだろう。俺しかいないのだから、意地を張らずに素直に言ってみたらいいんだ。久しぶりに使ってやるっていうのに。お前が使える人間だということを俺に見せてくれないか。以前のように。な、澤野。」
「…………その名前で……俺を呼ぶな、」

霧野が息も絶え絶えに言って、身体を軋ませる。すぐ背後に川名が立ち、抱くようにして霧野のシャツのまだ留まっていたボタンを外し始めた。
「ぁぁ……」
川名の腕の中で霧野の身体が悶えた。
「なんだ?こうして背後から外されると気分がのってくるのか?俺の愛人と変わらんな。」

川名の指先が軽く霧野の胸の突起に掠れた。いきなりのことに驚いた霧野の身体がびくんと震え、霧野は自らの反応に恥じるように身もだえ、その身体に川名が爪を立て、引っ掻いた。

「ぐ……」
「軽く擦れるだけで発情する。次からブラジャーでも身につけさせてやろうか、雌犬。」

霧野の身体が軽く川名に抱えられるようになり、腰を引こうとするが代わりに押し当てられ、彼の冷たい手が熱い霧野の胸板から凹凸ある腹部に触れて、また上に這い上ってきたかと思うと、再び銀で貫かれた胸の突起を指で二度三度とピンピンと弾く。

「ぁあっ……」

身体の力が一段と抜けて、霧野の姿勢はまるで川名に自ら腰を擦り付けるような姿勢となり、陰部が、川名の衣服に擦れ、解けるような気持ちよさが霧野の中に溢れた。
それから、また軽く身をよじらせ、ギシギシとロープをしならせる。
身体を這っていた川名の手の内、片方が、するり、するり、と脇腹、それから太もも、尻の上をすべっていたかと思うと、中指と薬指とが秘所に勢いよく潜り込み、勢いよく中を責め立て始めた。

「んああ…っ…ぉ、ぅぅぅ……」
「良い声出すようになったじゃないか。お前が。もっと本当のお前を見せてみろ。」

さっきまでの焦らすような動きではなく、勢いよくずぷずぷと指が入ったり出たりを繰り返し大きく、熟れた果実に悪戯に指を突っ込んだ時のような淫靡な、水をしたたらせるような音を立たせはじめた。はひはひと堪えるような息の間に、くぐもった声が続き、良いところをえぐられると、堪えきれず声が出る。

陰部から湧きたつ淫らな音を掻き消すように、見境の無い太い声が霧野の喉元から上がり、身体にはいよいよ力が入らなくなっていった。腰が意志と離れて、勝手に求めるように上下に揺れ、川名の指が霧野の左側の乳首を弾くと、霧野の俯いていた頭が、のけぞるようにして上がり、赤らんだ眼球は天井を見据えたが、そこには何も映っていない。

「ああ……っ、あ゛……!」
「気持ちがいいんだろう。」

霧野の乳首をまさぐっていた川名の手が、ゆっくりと腹部の溝をなぞり、その下にある、大きな肉欲の象徴を掴み上げる。初めて触れられたというのに既にぬるぬるにたっぷりと温かな汁で濡らし、潤滑油のようにして、川名の手と肉の間でくちゅ、くちゅ、と音を立てた。

川名はそれを勢いよくしごきたてた。悲鳴とも悦楽ともいえる叫び声が上がる。しばらくそうしてしごいていると、首筋を真っ赤にさせてぶるぶると霧野が震えだした。それから、一段と潤滑油の量が増え溢れた汁の一部が川名の手からさえ溢れて手首まで汚して、凄まじい精の臭いをはなった。緩やかに射精していた。

「んん…ふ…ぅ……」
「……」

川名はまるで蛇が身をひるがえすように、陰茎からその手を離し、じっと粘ついた自身の手を見下げ、それから霧野をじっと見た。霧野は余韻で気持ちよさげに身体を軽く揺らして、気持ちよさげに呼吸をしていた。霧野の尻で手の穢れを、まるでタオルでするようにぬぐい取ると、そこを勢い良く叩いた。

「ああ……!!」

大きく陰茎が揺れ、また射精しそうな勢いを帯びたが、せず、代わりに穴が、川名の指を中でへし折りそうな程に強く、一度二度と大きく締まった。ゆっくりと霧野の身体から指が抜かれ、密着していた川名の身が離れたかと思うと、今度は再び尻と太ももに対して背後から打擲が始まった。

「あ゛あああ!ぁぁぁっ!!!」
「出すなら出すと言え。さっき散々漏らすなとわざわざ人前で躾けてやったのに、何聞いてたんだお前。」

一撃、二撃目は驚きと痛みで大きな声を上げた霧野だが、じょじょに耐え忍ぶように口を閉じる。噛み染みられた歯の間からふうふうと、興奮した獣のような音が漏れ続け、時折身体がビクンビクンと揺れて、ロープが彼の重さに耐えきれぬようにギシギシと音を立てた。

梁がたまに、みし……と音をたてる。川名が霧野の健気な耐えに気が付かぬわけもなく、数度同じような打ち込みをして甲斐甲斐しく耐える反応を愉しんだのち、打ち方を変え、大きく振りかぶるようにして特に痛みの感じやすい痣の上に思い切り振り下ろした。再び、声が上がり、鞭痕が良い具合に青黄色い痣を霧野の尻の上に舞わせた。

そうしてまた痛みに慣れるまで打ち、慣れたところで反応を愉しみ、別の個所を別の打ち方で愉しみ、反応を見続けた。いつの間にか珍しく川名の手が軽く汗ばみ、背に汗が流れた。

川名が鞭打つ手を止めると、霧野の身体から鞭打ちに対抗しようと自然と強張っていた力が抜け、脱力し、以前よりもさらに力が抜けて、肩が壊れるのもかまわず、少しの間ぶらぶらと梁にぶら下がるようになっていた。

しかし、腕が耐え切れないので、また震える脚が、必死に地面に根を張ろうと、あがく。川名は少し下がった位置でしばらくそのもがきを眺めていた。煙草に火をつけ、一本吸い終わるまでそうして快楽の余韻と打たれた痛みに悶えている元配下の様子を見据えた。

川名は、煙草をもみ消して、再びふらふらになった霧野の方へ近づいていった。川名の気配に気が付いて、霧野の身が強張るのを、再び背後から抱くようにして触った。

川名は、霧野がもはや、いつものはっきりとした拒絶の言葉さえ言えず、らしくなく、か細く仔犬のように唸るのを聞きながら、唸り声とは裏腹に、さらにもとめるようにぷっくりと浮いた乳首と、再びまるで鋼鉄のように固く、打ちたての鉄のように熱くなった陰茎に触れ、手の中でこね回し始めた。途端にまた、弱弱しく唸っていたはずの霧野は猛獣のような元気を取り戻し喘ぎ始め、一度目よりもさらに身をそらせて、汗の飛沫を飛ばし、高まっていく。

「ああっ……ん゛っ…!!!…んんん……」
「どうだろう、そろそろ降参か。」
霧野の尻に川名の固く熱い物が押し当てられ、入口の辺りをくぷくぷと刺激し始めた。

「あう゛うう……っ、うううう!!」

霧野は抱かれながら、頭を左右に触りながらも、その腰を、尻を、ごしごしとまるで犬のマーキングでもするように川名の雄に擦りつけていた。肉と肉の交わった交差点からは卑猥な音が立ちはじめ、まるでその場に熱い霧が立ち込めたような、異様な熱と雄の臭気を帯び始めた。霧野の吊られた腕も、拒否してか興奮してか一段と力が入り青筋たち、握られた拳の中がじっとりと汗ばみ、あまりの力みに、爪が皮膚をついて血が出そうなほどであった。

「ついにろくにしゃべれなくなったか。」
「あ゛っ……くぅ…ふ…ぅぅ」

まるで、逆に霧野から川名を犯そうとでもするように、霧野の尻が濡れ、ゆさゆさと揺れて、獣の交尾のように求めた。表面の肉が吸い付いて来ようとするたびに、川名が腰を軽く引き、霧野が一層荒い息を立てて涎を垂らしながら見境なく身体を強く揺らした。
「ほら、これが欲しいんだろう、澤野。」
川名が霧野の尻を掴み導くようにして肉棒をあてがった。
「ああ゛っ……ぅあああ……」
上半身を拒絶するように悶えさせながら、下半身はしっかりと体重をかけるようにして、肉を貪ろうとする。

「本当にどうしようもない奴だなお前は。わかったよ、ほら、くれてやる。俺も自分の持ち物には甘すぎるな。……そう思うだろう?」

川名の肉棒が鈴口の辺りまでずっぷりと挿しこまれ、しかし焦らすように入り口付近でとどまった。喘ぎと共に求めるようにすさまじい圧で肉が締まり、中が滾るが、川名は無理に腰を引いて、ぐちぐちと入口を弄び、無理やり引き抜き、尻を一発叩いた。

「んぐ…ぅ…!」
「そう思うかどうか聞いてるんだよ。質問には答えろ。二度目だぞ。」
「あ゛ぁ…ぁ…思……、……。」
川名は再び肉棒を押し当て、軽くペニスをしごき立て始めた。
「ああ……ぅぅぅ…」
「どうする?ここで止めてもう帰るか?勝手なことできないように前にも後ろにも貞操帯を嵌めて放置して、俺の部屋で人でも犬でもなく、椅子にでもして使ってやるよ。」
「あ……ぁ……、」
川名の手が霧野の顔を掴み、振り向かせるようにしてじっと見据え、ペニスから手を離した。途端霧野は切なげな息を吐き、川名をじっと睨みつけ、また逃げそうになる視線を逃げぬようにこらえ、半ば開いた口から誘うように舌をのぞかせていた。
「どうするんだ?どうしたい。久しぶりにお前の意見を聞きたいなぁ、澤野。帰りたいか?」
川名の手の中で霧野が震えるようにして首を左右に振った。
「帰りたくない、そうか、で?」
「……、……て」
霧野が口の中で何か言い、眉をひそめてますます顔に赤みが増して、泣き始め、はあはあと過呼吸のように呼吸し始め、喉に何か詰まっているかのように苦しげな顔をする。川名は表情を変えずに淡々と霧野を見ていた。
「何だ、はっきりしないか。」
「………川名様の、…組長のを……」
「……」
「私に、下さい……」
「……多少はマシに鳴けるようになったな。」

川名の肉棒が飲み込まるようにして熟れた肉筒の中に押し込まれていくと、川名の手の下に感じる霧野の汗の濡れがさらにおびただしい、まるで雨に濡れたかのような湿り気を帯びてぬるぬるとし始めた。

「ん…っ……!!ぁぁ……あ、ありがとうございますっ、」

つい霧野の口から言葉が突いて出た。川名が挿れてからも、わざと意地悪く腰をひくようにすると、霧野の身体は自身の重みで上半身がきつくなるにもかかわらず、求めるように腰をくゆらせて、逃がさぬように中を締めあげ、川名の肉棒の上に腰を落とす。

「そんな風にしなくても、ちゃんと突いてやるよ。ほら。」

川名の雄が霧野の思いの外勢いよく、深く、突き入れられた。霧野の全身の神経が燃えるようにひりついて、脳を直接突かれたかのような衝撃が走る。喉の奥底、腹の内側から聞いたことの無いような声が登りあがった。

「そうだ、遠慮せず、本当のお前の姿を見せろ。俺の前では。もう何も偽らんでもいいんだ。」
「あ゛あ゛……!!あああ……っ!!」

痙攣するように雄の肉が川名の雄を強く抱き留めた。

アルコールに濡れ、打擲され、散々焦らされた身体を背後から抱かれて、勢いよくしかし丁寧に、ぬこ、ぬこ、と突かれる度に、下腹部の燃え盛るような熱はもちろん、腸、胃、食道、喉、口内、全てを熱く犯されているような感覚に溺れ沈んだ。ぎし、ぎし、と拘束をしならせながら、身体が快楽を貪るように蠢く。すべての細胞がそれを搾り取ることに集中するように、動き、とらえた。

「なかなかいい具合だな。少し教えただけで目覚ましく成長するところはお前らしいとしか言いようがないよ。」
「んん…っ…!あ、うう……!!」

穿たれた奥の肉を軽くえぐられているだけのはずというのに、そこにまるで、魂そのものがあるかのように、弾ける様な快楽が腰元に渦巻いて、弓のようにのけぞった背骨、その中の神経を通って全身に邪悪な快楽が毒のように広まって、頭を犯す。言葉は快楽に支配され、存在しない物になった。

川名の言葉の通り、霧野は白痴か獣のように、なりふり構わず唸り声をあげ、はみ出させた舌から唾液をだらだらと垂らして川名の霧野の身体を這う指先まで濡らした。かまわず川名は同じ調子で霧野の奥に突き入れ、吊るされた獣の厚く猛り漲る身体をまさぐるのだった。手の下では、滴った肉はどこか拒絶するように蠢くのだが、反対に歓喜の声を上げ、中を締めたてた。

霧野の身体の中、雄の膣は常人では考えられない程熱く、滾り、筋繊維の一本一本で丁寧に中に侵入した雄を締め上げた。外の反抗的な肉塊とは裏腹に丁寧に絡みつき、しごき上げて、あまりにも良くさせた。上の肉菅から五月蠅い音が上がることを除けば、今までに無い名器だと川名が思うほどには、肉はその締まりを極めた。

粘着質な音と共に、勢いよく霧野の身体から飛沫が上がり、床を濡らし、川名の手指をまた濡らす。霧野の身体がもがき無駄なりに逃げようとするのを、川名はすでに通じぬ言葉で彼を罵ることもなく、後ろから抱き留め、逃げぬように更に奥に突き入れ、言葉でなく、身体に執拗に教育を施した。下半身で雄を貪り咥えること以外元気の亡くなった身体の一体どこからそんな声が出るのかという獣の猛りが響く。

川名は時折、感度のいいその尻を躾けるようにして数発叩いた。叩くと、獣は怒るどころか喜ぶような声をあげて中を締めあげ、良い具合に動くのだ。普段であればそこを指摘してもいいが、やはり既に彼はそれを指摘したところで理解できる頭ではなく、川名は霧野の身体に自身が淫乱であるという記憶を刻むように、ゆっくりと責め立てては射精をさせ、霧野がすっかり疲弊しきってから、川名自身が射精するためにさらに本格的に責めたてた。性根尽き果て、すっかり恥という概念のふっとんだ霧野は乱れ、途中から意識が飛び飛びになり、声が途絶え、時に寝言のような怪しい声を出した。

そうして、川名が数度出したところで、ゆっくりと抜いた後も、孔は淫靡に、貝のようにぷっくりと膨らんで、中をてらてらとさせて誘うようにしていた。疲弊した身体とは反対に肉は求めるようだった。

霧野は余韻からか、幾度か紅くふくらむ秘所を中心にぶるぶると身体を震わせていた。下半身とは裏腹に肉体にはもう力の入る余地が一切無く、腕は完全に伸び、全体重をかけて、梁にぶらさがり、膝が折れ、つま先が床を微かに擦って、ぎし……ぎし……と身体が揺れていた。
「ぅ……、」
吊るされていることにより、さっきまでの異常な快楽から目を覚まさせるような鈍痛が、じわじわと霧野の骨身にしみ始める。ぬるぬると汗ばんだ身体から、今度はすっかり冷めた汗が滴り始めた。

「はぁ……っ、はぁ……」

僅かによみがえった理性の中、霧野は再び身体に力を入れようとするが、全く入らず、霞んだ視界の中、目の前に川名が立っていると認識するまでに時間がかかった。どのくらい時間が経ち、いつから彼がそこに立って、見ていたのかわからない。

川名の口元が動いていた。川名と目が合った。
「目が覚めたか。」
近いのに声ははるか遠くから聞こえてくるように霧野には感じた。川名の両手にグラスが収まっていた。片方には水、もう片方にはおそらく赤ワインがたっぷりと注がれていた。彼はつづけた。

「俺の元に下ると言うなら、白い方、水をやろう。まだ気が変わらないというなら赤を選ぶんだな。」
「……」
霧野は白を見、赤を見、もう一度白を見てから、川名を上目づかいに見据えた。
「……赤、赤だよ、」

川名は霧野の目の前に立ち、霧野の頭を掴み上げるとその顔に赤ワインをぶちまけ、そのままグラスを放り投げた。グラスは壁に当たり、大きな音を立てて割れた。粉々になった破片が散乱し粉々のガラス片の煌めきの中に、二人の姿が歪に反射した。
「……、」
ワインが霧野の鋭利な輪郭に滴って、床に落ちる。その顔に川名の平手が飛び、彼の手が霧野の顔の半分を覆うようにして押し付けられ、親指が口の中に押し込まれた。ワインと霧野自身の臓器から出たと思われる生臭い液体の混ざった味が口内に充満した。呼吸をすると、フラッシュバックするようにさっきまでの記憶が瞬いて消える。霧野の目と鼻の先で川名がもう片方のグラスに入っていた水を飲み干した。

「赤が飲みたいんだろ。零すなよ。」

赤、と言ったのと反対に、霧野の舌はなつくように川名の指に絡まり、乳でも吸うように吸い、舐めていた。
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