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第四幕〈クラウド〉
宿主と龍の御徴 2
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夕刻を待たずトロワは帰っていった。
レスタは自室での夕食をすませると、小さな木彫りの盆を片手に浴室へ向かった。
楕円の湯舟は離宮の石風呂に較べればごくごく小さい。
もっとも向こうは地の利を活かした温泉なので、広いだけでなくいつでも使えたし、それ以外でも温室栽培などの役に立っていた。
一般的な浴室事情でいえば、現在は基本的に理学の応用を活用している。
理学を用いた人工石は熱伝導と放熱性に優れ、また水を注ぐことで温度を上げる。その性質を活かして作られた湯舟だが、さすがにあまり大きくはなかった。
熱伝導だの放熱性だの言ったところで、大量の水を温めるにはそれなりの時間がかかるのだ。浴室や湯舟が広く大きくなればなるほどに。
なので一般的な湯舟はもっと小さい。多くの貴族の屋敷にあるものも、せいぜいが汎用の倍程度といったところだろう。
それでも短い時間で湯が沸くのなら、誰だってそのほうがいいのだ。
「……」
レスタはずるずる寝そべるように湯に浸かると、視線の先のモザイク天井を眺めながら溜息をついた。
持ち込んだ盆を水面に浮かべ、その上に動かない小蛇を乗せて、ゆらゆら揺れる温かな水面はゆりかごのように小蛇を揺らす。
―― 明日になってもこの調子なら勝手にしよう。
夏の湯浴みは低めの温度だというのに、レスタの頭の中はこう見えてしっかり熱暴走気味だった。
というより湯に浸かるまえからそうだ。
「…最悪の場合ユアルはトロワに押しつけるとして…」
「なおさら面倒くさくなるようなことを言うとる場合か」
すっぱり一刀両断したのは城代だった。
「まったく。やたら局地的に人望のある嫌われ者だな」
城代はモザイク張りの浴室に遠慮なく踏み込むなり、水避けの紗幕を開けて湯舟に沈むレスタへ封書を差し出た。
個人所有の封筒ではなく、内裏府仕様の公用封筒だ。おかげでぱっと見の差出人が誰なのか分からない。
「…誰からだ」
「トロワ殿下だ。お帰りの足でそのまま王陛下に謁見を申し出られて、くだんの議会のぐだぐだを直接ご注進なさったらしい」
「お・う・へ・い・か !」
盆を手に、レスタは勢いよく湯の中から立ち上がった。
「感謝しづらい最後の手札だなまったく! 狙ってたっちゃ狙ってたけども!」
勢いあまって跳ねた飛沫が城代の服まで水浸しにしたが、そんなことはどちらも構っていない。
フロスト公爵でここまで時間がかかるなら、最後はユアルに頼んで王の鶴の一声でも引き出そうとは考えていた。
ただしものすごく使いたくなかった最後の手だ。
正直あれに頼むぐらいならごにょごにょ…、と頭の隅で少々過激なことを考えたほどには使いたくなかった手なのだが。
きっとトロワは、レスタが本気で強行お忍び行脚を考えていると思ったんだろう。それはあながち外れでもない。
そしてこの強行手段を選択した場合、まず間違いなく宮廷でのレスタの立場は微妙になる。
「それだけは断固阻止せねばと思われたそうだ」
浴室を出たレスタに湯上がり用のローブを着せかけ、冷たい果実水を飲ませて、城代は淀みなくレスタの面倒をみながら書簡の中身を読んで聞かせた。
「――『取り急ぎ、陛下が宮廷議会を黙らせた旨、伝えておく。君のことだからこんな時間でも即行動に移しそうだけど、たとえ君の近衛が準備万端だとしても、出発は明日の朝を待つように』……よくよく分かっておいでだな」
「篤い友情に感謝する…」
思わずレスタも苦笑がもれた。
何しろあのエレナが、まさか恋かしらと疑ったほどだ。現状トロワのレスタ大好きはとどまるところを知らない。
これは出発まえに手紙のひとつも返しておかないと、のちのちレスタは恩知らずだと詰られそうだ。
それはそうと、王のお墨付きなら大手を振って出て行ける。
この国を。
(…いやいや、まだ早い)
小蛇は生きている。
生きているだけでは少しも安心できないが、少なくともクラウドの命に別状はないと思われる。―― ない、はずだ。
事情が分からないので常に不安を煽られるし、やたら心臓に悪い状況ではあるが。
だからこそ、この状況そのものにレスタは呼ばれている気がするのだ。
呼んでいるのが龍神であれ、クラウドであれ、早くたどり着かなければ。
慌ただしく自室に戻ったレスタは、再び小蛇を手のひらに包み込んだ。
脈打つ鼓動はクラウドの無事を伝えている。
(…うん、大丈夫。とにかくこれで自由に動ける)
一度目を閉じて、ふうっと大きく息を吸って、吐いて。
鏡越し、手ずから髪を乾かしてくれる城代に視線を合わせて、短く問うた。
「近衛は」
「万端整っておる。…いつでも動かせるが、ここは殿下の言いつけをおとなしく聞き入れてくれるな?」
「……」
「レスタ」
「…城代、」
「この三日、充分な睡眠をとっていたと言えるか? 一日二日の距離ならいざ知らず、夜間の移動など心身に負荷を掛けるだけで自己満足の行動に過ぎん」
「………」
当然の正論だった。
だからレスタも、当然ここは頷かなければならない。
急がば回れともいう。それ以前にこんなことは今さら言われるまでもない。
ただ、だからといって、ここまで日が経てば三日も四日も同じだろう、ということではないのだ。
もしいまクラウドが何らかの苦境にあるとして、それをもう一日多く苦しんでおけ、なんて誰が言える?
あの朝、押っ取り刀で飛び出さなかったのは小蛇が生きていたからで、ここまで焦燥を抑えきれたのも少なくとも状況は悪化していない、つまり現在まで小康状態が続いているからだ。
そうだと思わなければ三日もやり過ごせるわけがなかった。
だってそうだろう。
あの蛇はクラウドが成人を迎えた日にレスタの窓辺にやってきた。鈍色の鋼のような鱗に包まれた、金眼の蛇だ。
それが何の予兆もなく突然動かなくなって、レスタの問いかけに一度だけ答えたのが「くるしい」のひと言で、だけどここまで我慢して、――クラウドがいまどんな状態なのか本当は何ひとつ分かっていないのに。
「…レスタ」
髪を梳いていた手が肩を撫でた。
ちゃんと分かっていても、それが正論でも、レスタは頷くことが出来なかった。
「無理だ。…せめて今日中に洛外までは出たい」
確かにレスタはよく無茶を言う。
ただし反対を押し切ってまで我儘を言うのはごく稀だ。
そしてどちらのときであれ、そうすべき確固たる理由を持っているのがレスタだ。
皮肉なことに誰よりもそれを知っている城代は、これ以上の説得が結果的にレスタの益にならないだろうことも、また充分に理解していた。
レスタがどうしても譲らないというなら、きっとそうすることが物事の最後では正しいのだと。
+ + +
西の辺境でシドが立ち寄ったのは、レスタの離宮ではなく領都のノエル本邸だった。
ひとしきり領内と王都それぞれの近況を家令たちと報告しあい、シドがこのまますぐに川を渡ることを伝えると、古参の侍従がああカムリか、と訳知り顔で頷いた。
「詳しいことは分からんが、何やら慶事らしいな。夏まえからちょいちょい賑やかだ」
「慶事?」
怪訝そうなシドの返しが予想外だったのか、侍従のほうも首を傾げる。
「なんだ違うのか? てっきりカムリ宛てに祝辞か何かを届けるんだと思ったんだが」
「聞いてない。…ていうか、たぶん違う」
さすがに神懸かり(かもしれない)黒蛇が動かなくなったことと、カムリ領の慶事に接点があるとは思えなかった。
もちろん蝶の羽ばたきで竜巻が起こらないとは言えないし、風が吹いて桶屋が繁盛することもなくはないので、直線的な結びつきだけで不確かな物事は測りきれないが。
ただ今回は印象が真逆だ。あの朝のレスタとカムリの慶事では、どうしたって印象がちぐはぐすぎる。
「…そういや慶事ってあれだろ。カムリの総領が今年成人だっていう」
シドはいつだったかレスタが話していたことを告げた。
「ああ、春にレスタ様の療養をお見舞いされていた…」
「そういえばまだ歳若いご当主という話だったな」
「そうそう、お若いが精悍で雄々しい方だと」
「エレナ様と玄関先で口論されて…」
話し声が頭に入ってこない。
それもこれもレスタが動揺していたからだ。なのにカムリは慶事で賑やかだという。
(ちぐはぐだけど関係あり、か?)
だとしたらそれぞれ元を辿っていけば、最後は同じ始点にたどり着くんだろうか。
ノエルの屋敷をあとにしたシドは、先を急ぎながらそんな事を考えた。
分からないことをいくら考えても仕方がないが、たとえば物事の表と裏のように、ふたつの事柄はどこかで繋がっているのかもしれない。
少なくとも、どちらの件にもカムリ・クラウドが関係している。それだけは確かだ。
レスタは封書をナーガの帝都に届けろと言った。
だからカムリ領は素通りするつもりでいたのだが、シドは少しだけ道を変え、カムリの本邸を目指して馬を走らせることにした。
レスタは自室での夕食をすませると、小さな木彫りの盆を片手に浴室へ向かった。
楕円の湯舟は離宮の石風呂に較べればごくごく小さい。
もっとも向こうは地の利を活かした温泉なので、広いだけでなくいつでも使えたし、それ以外でも温室栽培などの役に立っていた。
一般的な浴室事情でいえば、現在は基本的に理学の応用を活用している。
理学を用いた人工石は熱伝導と放熱性に優れ、また水を注ぐことで温度を上げる。その性質を活かして作られた湯舟だが、さすがにあまり大きくはなかった。
熱伝導だの放熱性だの言ったところで、大量の水を温めるにはそれなりの時間がかかるのだ。浴室や湯舟が広く大きくなればなるほどに。
なので一般的な湯舟はもっと小さい。多くの貴族の屋敷にあるものも、せいぜいが汎用の倍程度といったところだろう。
それでも短い時間で湯が沸くのなら、誰だってそのほうがいいのだ。
「……」
レスタはずるずる寝そべるように湯に浸かると、視線の先のモザイク天井を眺めながら溜息をついた。
持ち込んだ盆を水面に浮かべ、その上に動かない小蛇を乗せて、ゆらゆら揺れる温かな水面はゆりかごのように小蛇を揺らす。
―― 明日になってもこの調子なら勝手にしよう。
夏の湯浴みは低めの温度だというのに、レスタの頭の中はこう見えてしっかり熱暴走気味だった。
というより湯に浸かるまえからそうだ。
「…最悪の場合ユアルはトロワに押しつけるとして…」
「なおさら面倒くさくなるようなことを言うとる場合か」
すっぱり一刀両断したのは城代だった。
「まったく。やたら局地的に人望のある嫌われ者だな」
城代はモザイク張りの浴室に遠慮なく踏み込むなり、水避けの紗幕を開けて湯舟に沈むレスタへ封書を差し出た。
個人所有の封筒ではなく、内裏府仕様の公用封筒だ。おかげでぱっと見の差出人が誰なのか分からない。
「…誰からだ」
「トロワ殿下だ。お帰りの足でそのまま王陛下に謁見を申し出られて、くだんの議会のぐだぐだを直接ご注進なさったらしい」
「お・う・へ・い・か !」
盆を手に、レスタは勢いよく湯の中から立ち上がった。
「感謝しづらい最後の手札だなまったく! 狙ってたっちゃ狙ってたけども!」
勢いあまって跳ねた飛沫が城代の服まで水浸しにしたが、そんなことはどちらも構っていない。
フロスト公爵でここまで時間がかかるなら、最後はユアルに頼んで王の鶴の一声でも引き出そうとは考えていた。
ただしものすごく使いたくなかった最後の手だ。
正直あれに頼むぐらいならごにょごにょ…、と頭の隅で少々過激なことを考えたほどには使いたくなかった手なのだが。
きっとトロワは、レスタが本気で強行お忍び行脚を考えていると思ったんだろう。それはあながち外れでもない。
そしてこの強行手段を選択した場合、まず間違いなく宮廷でのレスタの立場は微妙になる。
「それだけは断固阻止せねばと思われたそうだ」
浴室を出たレスタに湯上がり用のローブを着せかけ、冷たい果実水を飲ませて、城代は淀みなくレスタの面倒をみながら書簡の中身を読んで聞かせた。
「――『取り急ぎ、陛下が宮廷議会を黙らせた旨、伝えておく。君のことだからこんな時間でも即行動に移しそうだけど、たとえ君の近衛が準備万端だとしても、出発は明日の朝を待つように』……よくよく分かっておいでだな」
「篤い友情に感謝する…」
思わずレスタも苦笑がもれた。
何しろあのエレナが、まさか恋かしらと疑ったほどだ。現状トロワのレスタ大好きはとどまるところを知らない。
これは出発まえに手紙のひとつも返しておかないと、のちのちレスタは恩知らずだと詰られそうだ。
それはそうと、王のお墨付きなら大手を振って出て行ける。
この国を。
(…いやいや、まだ早い)
小蛇は生きている。
生きているだけでは少しも安心できないが、少なくともクラウドの命に別状はないと思われる。―― ない、はずだ。
事情が分からないので常に不安を煽られるし、やたら心臓に悪い状況ではあるが。
だからこそ、この状況そのものにレスタは呼ばれている気がするのだ。
呼んでいるのが龍神であれ、クラウドであれ、早くたどり着かなければ。
慌ただしく自室に戻ったレスタは、再び小蛇を手のひらに包み込んだ。
脈打つ鼓動はクラウドの無事を伝えている。
(…うん、大丈夫。とにかくこれで自由に動ける)
一度目を閉じて、ふうっと大きく息を吸って、吐いて。
鏡越し、手ずから髪を乾かしてくれる城代に視線を合わせて、短く問うた。
「近衛は」
「万端整っておる。…いつでも動かせるが、ここは殿下の言いつけをおとなしく聞き入れてくれるな?」
「……」
「レスタ」
「…城代、」
「この三日、充分な睡眠をとっていたと言えるか? 一日二日の距離ならいざ知らず、夜間の移動など心身に負荷を掛けるだけで自己満足の行動に過ぎん」
「………」
当然の正論だった。
だからレスタも、当然ここは頷かなければならない。
急がば回れともいう。それ以前にこんなことは今さら言われるまでもない。
ただ、だからといって、ここまで日が経てば三日も四日も同じだろう、ということではないのだ。
もしいまクラウドが何らかの苦境にあるとして、それをもう一日多く苦しんでおけ、なんて誰が言える?
あの朝、押っ取り刀で飛び出さなかったのは小蛇が生きていたからで、ここまで焦燥を抑えきれたのも少なくとも状況は悪化していない、つまり現在まで小康状態が続いているからだ。
そうだと思わなければ三日もやり過ごせるわけがなかった。
だってそうだろう。
あの蛇はクラウドが成人を迎えた日にレスタの窓辺にやってきた。鈍色の鋼のような鱗に包まれた、金眼の蛇だ。
それが何の予兆もなく突然動かなくなって、レスタの問いかけに一度だけ答えたのが「くるしい」のひと言で、だけどここまで我慢して、――クラウドがいまどんな状態なのか本当は何ひとつ分かっていないのに。
「…レスタ」
髪を梳いていた手が肩を撫でた。
ちゃんと分かっていても、それが正論でも、レスタは頷くことが出来なかった。
「無理だ。…せめて今日中に洛外までは出たい」
確かにレスタはよく無茶を言う。
ただし反対を押し切ってまで我儘を言うのはごく稀だ。
そしてどちらのときであれ、そうすべき確固たる理由を持っているのがレスタだ。
皮肉なことに誰よりもそれを知っている城代は、これ以上の説得が結果的にレスタの益にならないだろうことも、また充分に理解していた。
レスタがどうしても譲らないというなら、きっとそうすることが物事の最後では正しいのだと。
+ + +
西の辺境でシドが立ち寄ったのは、レスタの離宮ではなく領都のノエル本邸だった。
ひとしきり領内と王都それぞれの近況を家令たちと報告しあい、シドがこのまますぐに川を渡ることを伝えると、古参の侍従がああカムリか、と訳知り顔で頷いた。
「詳しいことは分からんが、何やら慶事らしいな。夏まえからちょいちょい賑やかだ」
「慶事?」
怪訝そうなシドの返しが予想外だったのか、侍従のほうも首を傾げる。
「なんだ違うのか? てっきりカムリ宛てに祝辞か何かを届けるんだと思ったんだが」
「聞いてない。…ていうか、たぶん違う」
さすがに神懸かり(かもしれない)黒蛇が動かなくなったことと、カムリ領の慶事に接点があるとは思えなかった。
もちろん蝶の羽ばたきで竜巻が起こらないとは言えないし、風が吹いて桶屋が繁盛することもなくはないので、直線的な結びつきだけで不確かな物事は測りきれないが。
ただ今回は印象が真逆だ。あの朝のレスタとカムリの慶事では、どうしたって印象がちぐはぐすぎる。
「…そういや慶事ってあれだろ。カムリの総領が今年成人だっていう」
シドはいつだったかレスタが話していたことを告げた。
「ああ、春にレスタ様の療養をお見舞いされていた…」
「そういえばまだ歳若いご当主という話だったな」
「そうそう、お若いが精悍で雄々しい方だと」
「エレナ様と玄関先で口論されて…」
話し声が頭に入ってこない。
それもこれもレスタが動揺していたからだ。なのにカムリは慶事で賑やかだという。
(ちぐはぐだけど関係あり、か?)
だとしたらそれぞれ元を辿っていけば、最後は同じ始点にたどり着くんだろうか。
ノエルの屋敷をあとにしたシドは、先を急ぎながらそんな事を考えた。
分からないことをいくら考えても仕方がないが、たとえば物事の表と裏のように、ふたつの事柄はどこかで繋がっているのかもしれない。
少なくとも、どちらの件にもカムリ・クラウドが関係している。それだけは確かだ。
レスタは封書をナーガの帝都に届けろと言った。
だからカムリ領は素通りするつもりでいたのだが、シドは少しだけ道を変え、カムリの本邸を目指して馬を走らせることにした。
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