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王都治安維持部隊

機密情報

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「魔王、ですか?」

レインの言葉にクガンは困惑していた。魔界を統一した魔族の王様。伝説では人界に進出し破壊と殺戮、略奪の限りを尽くしたとされる悪魔。

「驚いたかな?……とゆうかあんまり身近に感じられないよね」

「まあ、はい……」

「一年前、ガシス帝国からとある情報がもたらされた、現在確認されている魔界三大勢力の一角、黒姫が闇王に降ったと、更に闇王は魔王と名乗り最後の一角、破公に猛攻を仕掛けている……魔界が統一されるのは時間の問題だと」

クガンは正直、その話に現実感を持てないでいた。確かに魔界は存在するしその中で覇権を争っているという事も知識として知ってはいた。しかし、魔物も魔人も見た事がないクガンには何処か遠い世界の話の様な感じがして身近に感じられなかった。

「そしてガシス帝国は周辺諸国に対して対魔大同盟の締結を呼びかけている」

「なっ……奴らが、ですか?」

ガシス帝国。パール王国西方に位置する強国だ。人界で唯一魔界に面しており魔物の素材を利用した道具や物の唯一の生産国。
そして六年前この国に侵略戦争を起こし、西方地区を壊滅させた敵国。ガシス帝国は他の諸国にも度々戦争を仕掛けており現在パール王国は北のカムイ国、南のナルタ王国と共にガシス包囲網を形成している。

「虫の良い話だよね」

「情報の信憑性はあるんですか?奴ら包囲網を解く為の嘘なんじゃ」

「いや、残念ながら本当らしい、各国のスパイ達からのお墨付きだ」

話を聞く限り信憑性は高いのだろうとクガンは思った。しかし国の上層部はどうするつもりなのだろうか。

「この話、受けるんですか?」

「それはわからない、今ガシス包囲網の国でお偉いさん達が話し合いを時ているらしいよ……けど、多分、やるんじゃないかな、君はどう思う?」

散々侵攻しておいて巨大な敵が出てきたら手を貸してくれ。都合が良い奴らだとクガンは思った。しかし、もし、同盟に参加しなかったらガシス帝国は魔族によって滅ぼされるだろう。そうなった場合、次の標的はこの国となる。最悪、同盟とまでは行かなくともガシス包囲網を解きなんらかの支援をする必要はある。
しかしそれはこの国では一筋縄では行かない。六年前のガシス帝国との戦争。参加した兵士やその家族。そして西方地区の人間や関係者は黙って居られないだろう。

君は西方地区に関わりがあるかい?
クガンは先程のレインの言葉を思い出した。
そして一つの結論を導き出した。王都治安維持部隊の仕事、それは対魔大同盟に反対する組織を潰す事。こんな情報が隠し通せるとは思えない。ならばそういった組織は必ず現れる。そして反ガシス帝国勢力や西方地区の人間を取り込み巨大化するのだ。

「俺は参加するべきだと思います、ガシスは嫌いですが、奴らが負ければ次はこの国です」

「そうだね、君の言う事はもっともだ……けどそうスムーズには行かない、特にこの国ではね……既にこの王都では反ガシス帝国勢力や西方有力者が暗躍を始めている」

「そして、こんな情報は隠しきれない、いつかは公表する時がやってくる……必ずね」

そうなった時は国が揺れる。最悪内戦になりかねない。西方出身者の帝国に対する憎悪はそれを簡単に予想できるぐらい強い。
しかし彼らの気持ちもわからないわけでないとクガンは思った。あの戦争に無関係ではないパール国民は居ないのだ。戦争ではたくさんの男が国中から集められ死んでいった。労働力は減り食糧は戦場へ流れ経済は停滞した。クガンの父親もそれで破産し蒸発した。

「そうなれば国は大混乱さ、最悪国が割れる」

「それを止めるのが俺達の仕事、ですよね」

「まあ、王都の中だけだけどね」

レインは優しく微笑んだ。
その後部屋に戻ったクガンは胸の高鳴りを感じて居た。王直轄地とは言え地方の犯罪者をしていた自分が王都で王都治安維持部隊という大層な肩書きの職を得た。
もし、活躍出来れば更に上に行くのも夢ではない。そう考えればやる気も出てくる。
クガンは部屋を出た。行き先は地下の修練場だ。

「はあっ」

「ふんっ」

木剣のぶつかる音が部屋に響いている。音の元はクガンとガーナ。
しかしクガンの木剣が宙を舞い勝負が付いた。

「すごいやる気だね、どうしたの?」

いつもよりアグレッシブなクガンにガーナはは質問をした。待ってましたと言わんばかりの顔でクガンは答えた。

「遂に決まったんだよ、正式入隊が」

「へぇー、ラフィアさんからは何も聞いてないけど……ああ、聞いたんだ、魔王の事」

「ああ、正直、現実感はないけどな」

「そんなの当たり前でしょ、私だって見た事もない魔界の話なんてどうでもいい」

そう切り捨てるガーナにクガンはある疑問を抱いた。ガーナは何故治安維持部隊にいるのか。

「ガーナは何のためにここに居るんだ?」

それを聞いたガーナはムカついた様な表情をしてクガンに食ってかかった。

「何でそんな事貴方に言わなきゃいけないわけ?自分は?」

「俺は、チャンスだからだ、底辺から成り上がってやるな」

クガンは正直に答えた。目の前のガーナが国の為に、人類の為に、などの純粋な理由とは思えない。大方成り行きで入り機密を知り今更抜けられないか自分と同じで上を目指しているか。
しかしその言葉を聞いたガーナは意外な反応を見せた。蔑む様な、下らないといっている様な表情。だが、言葉は違った。

「同じよ、私も、貴方と一緒」

鋭い眼光に見つめられたクガンはそれ以上は聞けなかった。何かあるのだろう、何か。
クガンを見つめた目には怒りと憎しみの感情が渦巻いていた。

一週間後、クガンはラフィアに正式に治安維持部隊の入隊がなされた事と早速明日任務に着いてもらうと通告された。





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