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第二章 巨星堕つ
44 父と子
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この国では春分を過ぎると新しい年となる。
その年が明けて、王国歴三三五年となった。
うんざりするほど谷を吹き荒れていた強風も三日に一度は止み、身体の芯から凍えるような強烈な冷気も少しずつ緩んできていた。あと半月ほどすれば、風を気にすることなく外を出歩ける様になってくるだろう。
トゥーレはザオラルと並んで、赤々と燃える暖炉を囲むように配置された二脚のロッキングチェアにそれぞれ腰を下ろしていた。
丁度二人の間に置かれた猫脚のサイドテーブルには、酒が注がれた杯がふたつとボトルが置かれ、簡単に豆を炒っただけのつまみが盛られた皿が載っていた。
部屋は人払いして父と子の二人だけだった。
「それで、出発はいつ頃になりそうですか?」
「天候にもよるが早ければ十日後、遅くても春の市までには発てるだろう」
年に三回開催される市のうち、春に開催される春の市は年明けからおよそ一ヵ月後に開催される。冬の間屋内に閉じ込められるこのカモフでは、春分以上に待ち望む者が多いイベントだ。
市にはこのカモフのみならず、ウンダルや遠くアルテからも商品を満載した船団が訪れ、開催期間中は辺境の街とは思えぬほどの活気に包まれる。カモフに暮らす者にとって何よりも楽しみにしているイベントだった。
「今年の春の市はお前に任せる」
ザオラルがグビリと杯を煽りながら告げる。
領主が主催する市は、準備に奔走する商人や遠くからサザンにやって来る人への労いの言葉から始まる。領主が中央広場に誂えられた壇上から高らかに開催の宣言を行うのが通例だった。
今回はザオラルがフォレスに発った後の開催となるため、その代理をトゥーレに依頼したのだ。
「任されました。あれは一度やってみたかったんです」
空になった父の杯に酒を注ぎながらトゥーレが嬉しそうに笑う。
まだトゥーレの存在が公になっていなかった頃、物陰に隠れるようにして仰ぎ見た開催宣言をおこなう父の凜々しい姿は忘れられない。幼い心に『いつか自分も』という気持ちが芽生えたものだ。
「ふふっ、だろうな。あれは領主として最も晴れやかな場だからな。それに小さい頃からお前が熱い視線を壇上の私に向けていたのを知っている」
注いで貰った杯に口を付けながらザオラルは苦笑した。だが直ぐに表情を険しいものに変える。
「恐らく春だけでなく、夏と秋の市も任せることになるだろう」
「やはりそうなりますか?」
「十中八九そうなるだろうな。戻れなければ後の事はお前に任せる」
「そんな事仰らないでください。まだ我々には父上の力が必要です」
父の発言を咎めるように、身を乗り出して強い口調でトゥーレが諫める。
ウンダルでエリアスの行方に神経を尖らせているのと同様に、カモフではドーグラスの動向に注目していた。早ければこの夏にでもドーグラス自らカモフへと乗り込んでくる可能性がある中での領主の不在は彼らにとって大きな痛手となる。
「私の移動はできるだけ伏せるが、それほど効果はないだろう。時を待たずドーグラス公に伝わる筈だ。最悪の場合ドーグラス公とエリアス殿の同時挙兵もあり得る。そうなればカモフだけでなくウンダルも危うくなる。覚悟はしておいた方がいいだろう」
今最もドーグラスが欲しい情報は、軍事拠点化したサトルトの情報だ。毎日のように不審者の情報が上がってくることがその証拠だろう。
そのサトルトは村の周りを柵と堀でぐるりと囲って砦のように防御を固め、許可のない者の入村を禁止するなど厳重に警戒している。
村の外からでもある程度の情報を掴むことはできるだろうが、村の中に一歩入れば秘匿してる武器や開発中の新兵器の情報が満載なのだ。出入口は厳重に人の出入りを監視し、港口も許可の得た者しか入港を禁じている。さらに村の中では猟犬を連れた衛兵が目を光らせ、不審者の警戒に当たらせていた。
サトルトを厳戒態勢でシャットアウトしている分、それ以外の情報はあえて流すようにしているくらいだ。ザオラルのフォレス行きは秘匿される予定だが、領内に多数の間者が入っている現状では遅かれ早かれドーグラスの耳に届くことだろう。
「戦火が広がるとして母上はどうされるのです。今回は連れて行かれるのでしょう?」
「ああ、どうしてもと聞かなかったため連れて行くが、本当であれば残しておきたかったのだ」
苦笑を浮かべながら杯に口をつける。
テオドーラには状況を含め戦火に巻き込まれる可能性などを説明し、サザンに残るよう説得を重ねたが頑として聞き入れなかった。
「普段ならばともかくこの状況で父上が折れるなんて珍しいですね。何か考えが?」
「うむ、万が一の際、リーディアの助けになればと思ってな」
「リーディアの?」
杯を傾けながら怪訝な表情を浮かべるトゥーレに、ザオラルはひとつ頷くと質問を投げかける。
「内乱が勃った場合、リーディアは大人しくフォレスを離れると思うか?」
「・・・・離れないでしょうね。彼女の場合は逆に戦場に向かうかも知れません」
少し考えたが、トゥーレは澱みなくそう答える。
オリヤンや騎士への憧れが強い彼女のことだ。そんな彼女が大人しくサザンへ脱出するとは思えない。彼女の足が戦場へと向くのは自然な流れのように思えた。
「その際に私ではなくテオドーラがいれば、姫を助ける手がかりになれるかも知れぬからな」
「そこまで考えておいででしたか」
内乱の危険性が高まり、彼らが最も心配していることがリーディアの去就だった。騎士としての訓練を積んでいるリーディアだが、エステルが訪れた時には女性同士でお茶会を開くなど、女性としての嗜みも弁えてもいる。
ザオラルだけなら一緒に戦場に立つかも知れないが、テオドーラがいれば義母の護衛という名目も立ち、彼女が後方に残る理由付けにもなる。
「とはいえ私が指揮を執るわけではないからな。期待はしないでくれ」
「わかってます。リーディアへの心遣い感謝します」
そう言って軽く頭を下げる。トゥーレ自身何も語ろうとしないが心配なことは事実なようで、馬場でフォレスの方角である北を見上げ思案に耽る姿も目撃されていた。本音ではザオラルに代わりフォレスに向かいたいと思っているに違いなかった。
「でだ、私がフォレスに発った後は、お前がこのカモフの采配を振るうのだ。この谷を頼むぞ」
「よろしいので? 俺が指揮を執る事に難色を示す者もおりますが?」
トゥーレが街のごろつきをやっていたユーリ達を側近として迎え入れ、彼らを重用し重要な任務に就かせている事に眉を顰めている者は未だに存在していた。それだけではなくカモフ全体のギルド廃止を目指す彼は、ギルド派からすれば煙たい存在だった。
ザオラルを支持する中にもギルド派は一定数存在しているが、特に反発しているのは、未だにギルドとの関係を断ち切れない者たちだ。その中でも特に不満が高いのは古くからの騎士たちだった。
彼らはかつてはギルドの手足として率先して利益を享受してきた者が多い。
ギルド解体後は甘い汁を吸えなくなった不満を抱えながらも、立場の変化を受け入れることが出来ず、古いプライドだけを振りかざす老害と成り果てていることにも気付かない者たちだった。
「心配するな。お前の邪魔をしそうな者共は根こそぎ連れて行く。だからお前はお前の好きにできるだろう」
「なぜそこまでしてくださるのです? 死ぬ気ですか?」
「ふっ、まさか! 覚悟はしてフォレスには行くが、死ぬつもりはない。ただ・・・・」
そう言うとトゥーレの顔をじっと見る。
「お前の邪魔はしたくないと考えている。私がいればお前が好きなように動けないだろう?」
「・・・・」
「お前の野心の邪魔はしたくないのだ」
「父上・・・・」
驚くトゥーレを尻目にザオラルが向き直った。
「トゥーレ、お前の発想は私には思い浮かばぬものだ。恐らくこれからはお前のような者がこの国を動かして行くのだろう。そのときに私がいれば、お前の発想にブレーキを掛けてしまうかも知れぬ」
「そのような事は・・・・」
「怖いのだよ」
「怖い!?」
「ああそうだ、怖いのだ。私はこの小さなカモフの谷を維持することで精一杯だった。ドーグラス公を撃退する事が前提となるが、お前はその先を考えている」
「・・・・」
「私では例え退ける事ができたとしても、お前のような発想は持てない。私がいれば無意識にお前の野心に蓋をしてしまうかも知れぬ。それが怖いのだ」
そう言うと杯の酒を一気に飲み干した。酒のせいかも知れないが、めったに零すことのないザオラルの本音だった。
「少し飲み過ぎではないですか。父上は俺を買いかぶりすぎです。俺にそこまでの考えはありませんよ。・・・・まぁ悪い気分はしませんがね」
照れたようにはにかんだトゥーレが自分の杯を飲み干して、父と自分の杯に酒を継ぎ足しおもむろに表情を引き締める。
「サザンを発つ前にひとつだけお願いがあります・・・・」
「二人で酒盛りなんてずるいですわ。わたくしも混ぜてくださいませ」
そう言ってテオドーラが入室してきたのは、夜も更けそろそろお開きにしようとしていた時だった。ちゃっかりと自分用の杯と酒のボトルを持参していた。
「あら? トゥーレはもう帰るのですか?」
「二人にあてられそうなので俺はもう寝ます。後は二人でどうぞ」
「そのようなつれない事を言わず、一杯だけ付き合いなさいな」
立ち上がったトゥーレにしがみつくようにして有無を言わせず引き止められると、そのままトゥーレの隣に椅子を持ってきて腰を下ろす。
「母上の言う一杯って、そのボトル一本の事でしょう」
うんざりした様子でトゥーレが諦めたように首を振る。
テオドーラは普段は嗜む程度の酒量だったが、実はザオラルやクラウスでも勝てないほどの酒豪だった。その母に捕まってしまったなら流石にトゥーレでもどうしようもない。
「テオドーラに捕まったのなら仕方がない。諦めて付き合え」
ザオラルが笑ってトゥーレに杯を差し出すと、『やれやれ』と首を振り、諦めたように杯を受け取るのだった。
その年が明けて、王国歴三三五年となった。
うんざりするほど谷を吹き荒れていた強風も三日に一度は止み、身体の芯から凍えるような強烈な冷気も少しずつ緩んできていた。あと半月ほどすれば、風を気にすることなく外を出歩ける様になってくるだろう。
トゥーレはザオラルと並んで、赤々と燃える暖炉を囲むように配置された二脚のロッキングチェアにそれぞれ腰を下ろしていた。
丁度二人の間に置かれた猫脚のサイドテーブルには、酒が注がれた杯がふたつとボトルが置かれ、簡単に豆を炒っただけのつまみが盛られた皿が載っていた。
部屋は人払いして父と子の二人だけだった。
「それで、出発はいつ頃になりそうですか?」
「天候にもよるが早ければ十日後、遅くても春の市までには発てるだろう」
年に三回開催される市のうち、春に開催される春の市は年明けからおよそ一ヵ月後に開催される。冬の間屋内に閉じ込められるこのカモフでは、春分以上に待ち望む者が多いイベントだ。
市にはこのカモフのみならず、ウンダルや遠くアルテからも商品を満載した船団が訪れ、開催期間中は辺境の街とは思えぬほどの活気に包まれる。カモフに暮らす者にとって何よりも楽しみにしているイベントだった。
「今年の春の市はお前に任せる」
ザオラルがグビリと杯を煽りながら告げる。
領主が主催する市は、準備に奔走する商人や遠くからサザンにやって来る人への労いの言葉から始まる。領主が中央広場に誂えられた壇上から高らかに開催の宣言を行うのが通例だった。
今回はザオラルがフォレスに発った後の開催となるため、その代理をトゥーレに依頼したのだ。
「任されました。あれは一度やってみたかったんです」
空になった父の杯に酒を注ぎながらトゥーレが嬉しそうに笑う。
まだトゥーレの存在が公になっていなかった頃、物陰に隠れるようにして仰ぎ見た開催宣言をおこなう父の凜々しい姿は忘れられない。幼い心に『いつか自分も』という気持ちが芽生えたものだ。
「ふふっ、だろうな。あれは領主として最も晴れやかな場だからな。それに小さい頃からお前が熱い視線を壇上の私に向けていたのを知っている」
注いで貰った杯に口を付けながらザオラルは苦笑した。だが直ぐに表情を険しいものに変える。
「恐らく春だけでなく、夏と秋の市も任せることになるだろう」
「やはりそうなりますか?」
「十中八九そうなるだろうな。戻れなければ後の事はお前に任せる」
「そんな事仰らないでください。まだ我々には父上の力が必要です」
父の発言を咎めるように、身を乗り出して強い口調でトゥーレが諫める。
ウンダルでエリアスの行方に神経を尖らせているのと同様に、カモフではドーグラスの動向に注目していた。早ければこの夏にでもドーグラス自らカモフへと乗り込んでくる可能性がある中での領主の不在は彼らにとって大きな痛手となる。
「私の移動はできるだけ伏せるが、それほど効果はないだろう。時を待たずドーグラス公に伝わる筈だ。最悪の場合ドーグラス公とエリアス殿の同時挙兵もあり得る。そうなればカモフだけでなくウンダルも危うくなる。覚悟はしておいた方がいいだろう」
今最もドーグラスが欲しい情報は、軍事拠点化したサトルトの情報だ。毎日のように不審者の情報が上がってくることがその証拠だろう。
そのサトルトは村の周りを柵と堀でぐるりと囲って砦のように防御を固め、許可のない者の入村を禁止するなど厳重に警戒している。
村の外からでもある程度の情報を掴むことはできるだろうが、村の中に一歩入れば秘匿してる武器や開発中の新兵器の情報が満載なのだ。出入口は厳重に人の出入りを監視し、港口も許可の得た者しか入港を禁じている。さらに村の中では猟犬を連れた衛兵が目を光らせ、不審者の警戒に当たらせていた。
サトルトを厳戒態勢でシャットアウトしている分、それ以外の情報はあえて流すようにしているくらいだ。ザオラルのフォレス行きは秘匿される予定だが、領内に多数の間者が入っている現状では遅かれ早かれドーグラスの耳に届くことだろう。
「戦火が広がるとして母上はどうされるのです。今回は連れて行かれるのでしょう?」
「ああ、どうしてもと聞かなかったため連れて行くが、本当であれば残しておきたかったのだ」
苦笑を浮かべながら杯に口をつける。
テオドーラには状況を含め戦火に巻き込まれる可能性などを説明し、サザンに残るよう説得を重ねたが頑として聞き入れなかった。
「普段ならばともかくこの状況で父上が折れるなんて珍しいですね。何か考えが?」
「うむ、万が一の際、リーディアの助けになればと思ってな」
「リーディアの?」
杯を傾けながら怪訝な表情を浮かべるトゥーレに、ザオラルはひとつ頷くと質問を投げかける。
「内乱が勃った場合、リーディアは大人しくフォレスを離れると思うか?」
「・・・・離れないでしょうね。彼女の場合は逆に戦場に向かうかも知れません」
少し考えたが、トゥーレは澱みなくそう答える。
オリヤンや騎士への憧れが強い彼女のことだ。そんな彼女が大人しくサザンへ脱出するとは思えない。彼女の足が戦場へと向くのは自然な流れのように思えた。
「その際に私ではなくテオドーラがいれば、姫を助ける手がかりになれるかも知れぬからな」
「そこまで考えておいででしたか」
内乱の危険性が高まり、彼らが最も心配していることがリーディアの去就だった。騎士としての訓練を積んでいるリーディアだが、エステルが訪れた時には女性同士でお茶会を開くなど、女性としての嗜みも弁えてもいる。
ザオラルだけなら一緒に戦場に立つかも知れないが、テオドーラがいれば義母の護衛という名目も立ち、彼女が後方に残る理由付けにもなる。
「とはいえ私が指揮を執るわけではないからな。期待はしないでくれ」
「わかってます。リーディアへの心遣い感謝します」
そう言って軽く頭を下げる。トゥーレ自身何も語ろうとしないが心配なことは事実なようで、馬場でフォレスの方角である北を見上げ思案に耽る姿も目撃されていた。本音ではザオラルに代わりフォレスに向かいたいと思っているに違いなかった。
「でだ、私がフォレスに発った後は、お前がこのカモフの采配を振るうのだ。この谷を頼むぞ」
「よろしいので? 俺が指揮を執る事に難色を示す者もおりますが?」
トゥーレが街のごろつきをやっていたユーリ達を側近として迎え入れ、彼らを重用し重要な任務に就かせている事に眉を顰めている者は未だに存在していた。それだけではなくカモフ全体のギルド廃止を目指す彼は、ギルド派からすれば煙たい存在だった。
ザオラルを支持する中にもギルド派は一定数存在しているが、特に反発しているのは、未だにギルドとの関係を断ち切れない者たちだ。その中でも特に不満が高いのは古くからの騎士たちだった。
彼らはかつてはギルドの手足として率先して利益を享受してきた者が多い。
ギルド解体後は甘い汁を吸えなくなった不満を抱えながらも、立場の変化を受け入れることが出来ず、古いプライドだけを振りかざす老害と成り果てていることにも気付かない者たちだった。
「心配するな。お前の邪魔をしそうな者共は根こそぎ連れて行く。だからお前はお前の好きにできるだろう」
「なぜそこまでしてくださるのです? 死ぬ気ですか?」
「ふっ、まさか! 覚悟はしてフォレスには行くが、死ぬつもりはない。ただ・・・・」
そう言うとトゥーレの顔をじっと見る。
「お前の邪魔はしたくないと考えている。私がいればお前が好きなように動けないだろう?」
「・・・・」
「お前の野心の邪魔はしたくないのだ」
「父上・・・・」
驚くトゥーレを尻目にザオラルが向き直った。
「トゥーレ、お前の発想は私には思い浮かばぬものだ。恐らくこれからはお前のような者がこの国を動かして行くのだろう。そのときに私がいれば、お前の発想にブレーキを掛けてしまうかも知れぬ」
「そのような事は・・・・」
「怖いのだよ」
「怖い!?」
「ああそうだ、怖いのだ。私はこの小さなカモフの谷を維持することで精一杯だった。ドーグラス公を撃退する事が前提となるが、お前はその先を考えている」
「・・・・」
「私では例え退ける事ができたとしても、お前のような発想は持てない。私がいれば無意識にお前の野心に蓋をしてしまうかも知れぬ。それが怖いのだ」
そう言うと杯の酒を一気に飲み干した。酒のせいかも知れないが、めったに零すことのないザオラルの本音だった。
「少し飲み過ぎではないですか。父上は俺を買いかぶりすぎです。俺にそこまでの考えはありませんよ。・・・・まぁ悪い気分はしませんがね」
照れたようにはにかんだトゥーレが自分の杯を飲み干して、父と自分の杯に酒を継ぎ足しおもむろに表情を引き締める。
「サザンを発つ前にひとつだけお願いがあります・・・・」
「二人で酒盛りなんてずるいですわ。わたくしも混ぜてくださいませ」
そう言ってテオドーラが入室してきたのは、夜も更けそろそろお開きにしようとしていた時だった。ちゃっかりと自分用の杯と酒のボトルを持参していた。
「あら? トゥーレはもう帰るのですか?」
「二人にあてられそうなので俺はもう寝ます。後は二人でどうぞ」
「そのようなつれない事を言わず、一杯だけ付き合いなさいな」
立ち上がったトゥーレにしがみつくようにして有無を言わせず引き止められると、そのままトゥーレの隣に椅子を持ってきて腰を下ろす。
「母上の言う一杯って、そのボトル一本の事でしょう」
うんざりした様子でトゥーレが諦めたように首を振る。
テオドーラは普段は嗜む程度の酒量だったが、実はザオラルやクラウスでも勝てないほどの酒豪だった。その母に捕まってしまったなら流石にトゥーレでもどうしようもない。
「テオドーラに捕まったのなら仕方がない。諦めて付き合え」
ザオラルが笑ってトゥーレに杯を差し出すと、『やれやれ』と首を振り、諦めたように杯を受け取るのだった。
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