おれはお前なんかになりたくなかった

倉入ミキサ

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第十四章:風太6歳 美晴4歳

『美晴』&『風太』 vs 雷鳥

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 ファミリーレストラン「ゆったりハンバーグ」。 
 その18番テーブルにて、ふてぶてしく足を組みながら席に座る大男こそ、“雷鳥”という異名を持つ高校生、風太の兄・雷太ライタである。ちなみにその隣には、メガネをかけた女子高生・マネージャーの真音マネもいる。
 
 待つこと数分。突然わたわたと慌ただしく来店し、二人の前に現れたのは、口を真一文字に結んでキリリとした眼差しを向ける少年・『風太』と、こちらもまたふてぶてしく腕を組んで睨みを利かせる少女・『美晴』だった。
 運命の再会。そして、空気はピリッと張り詰めた。

 「で?」

 雷太が問う。

 「俺の一秒は、お前の百年にあたいする。お前ごときが、数百年も俺を待たせた理由はなんだ? 愚弟ぐていよ」

 問われたのは『風太』。
 しかし、真音が先に口を挟んだ。

 「もうっ、いきなりそんな高圧的な態度とって! どうして『こんばんは』の一言くらい言えないかなぁ、雷太くんは! 私はバスケ部のマネージャーとして恥ずかし」
 「雑魚ざこは黙っていろ」
 「ざっ、雑魚ぉ!? 私のことっ!?」
 
 真音は文句を投げ続けたが、雷太は受け取ろうとしなかった。すでにお前は眼中がんちゅうにない、というような態度。
 結局、真音は発言権を失った自分の立場を理解したのか、しばらく黙っているという選択をせざるを得なかった。
 
 「二度と、俺の前にその無様ぶざまな姿を晒すなと言ったハズだ。……改めて聞くぞ。なぜ、俺の前に現れた? 答えろ」
 
 雷太が問う。さっきとは違い、口を挟む者はいない。
 『美晴』と『風太』は互いに顔を見合わせ、一度だけうなずくと、指名された通り愚かな弟・『風太』が一歩前に出て、その問いに答えた。

 「お前を倒すためだ。二瀬雷太」

 宣戦布告。
 本来なら風太が言うべきセリフを、事前に打ち合わせた通りに、『風太』が言った。

 「俺を倒す、だと?」
 「そうだ。そのために、二人でここに来た」
 「冗談なら付き合う気はないが」
 「冗談じゃないっ! 本気だっ! 今日この場所で、お前は、二瀬雷太はっ、わたした……おれたちに、無様ぶざまに負けるんだよっ!!」
 「……!」

 一瞬、雷太は目を丸くした。どうやら、愚弟の意気込みは本物らしい。
 しかし、雷太はすぐに冷静になり、フッと鼻で笑った。

 「勝負しろ、と言っているのか? 俺に?」
 「さっきからそう言ってるっ!」
 「哀れな浅学せんがく非才ひさいよ。ついに気でも狂ったか? 俺とお前の間にある、決して埋まらない絶望的な差くらいは、流石に理解していると思っていたんだがな。脳みそすら、矮小わいしょうだったか」
 「一人じゃ勝てないことくらいは、分かってる。でも、二人なら、お前にだって勝てる!」
 「二人?」
 「こっちの美晴も、お前を倒すつもりでここに来た! おれたち二人と勝負してもらうよ! 二瀬雷太っ!」
 「……」

 雷太は、弟の隣に立つ少女に視線を向けた。
 髪の長い女の子。陰気なオーラが、こちらにも漂ってくる。運動能力があるわけでもなさそうだし、特に頭が良さそうにも見えない。スカートから伸びる華奢きゃしゃな脚は見るからに弱々しく、かすかに震えてさえいた。

 「誰だ」
 「……! ……!!」

 雷太は少女の声を聞こうとしたが、少女は口をパクパクとさせるだけで、声を発さなかった。対話する意思は見られるが、どうにも言葉を話すことができないらしい。
 見かねた『風太』が、すぐに助け舟を出した。

 「この子は美晴。戸木田美晴だよ」
 「美晴?」
 「話すのはあまり得意じゃないの。特に、初対面の男性が相手だと、緊張して声が出なくなる。この子が慣れるまで、待って」
 「なるほど。よぉく分かった」

 呆れの果て。雷太は落胆らくたんのため息をつき、席を立とうとした。
 想定外の行動に、『風太』と『美晴』は慌てて雷太の前に立ち塞がった。

 「ま、待てっ!! 逃げるつもりっ!!?」
 「つまり、小学生のくだらないお遊戯ゆうぎ会に付き合わされる、ということだろう? 俺は帰る。ガキと遊んでるほどヒマじゃない」
 「遊びじゃないっ! こっちは真剣に……!」
 「『程度が低い』と言っているんだ。くだらない、くだらない。無駄な時間なんだよ。俺の前からさっさと消えろ。出来損ないのゴミが」

 雷太は帰ろうとしている。『風太』と『美晴』は、必死になって止めようとした。しかし、小学生の二人の力では、男子高校生は止められない。強い言葉で威圧され、次第に押され気味になり……。
 そこに待ったをかけたのは、先ほどから問答もんどうを黙って聞いていた女子高生だった。

 「ふぅ~ん。雷太くん、逃げるんだぁ~?」
 「……!」
 
 ピクリと、雷太の耳が動いた。
 真音は、猫撫ねこなで声で話を続ける。

 「あれだけの天才が、まさか小学生二人にビビっちゃうなんてねぇ~?」
 「あ?」
 「怖いもんねぇ。もし負けたら、みんなにごめんなさいしなきゃいけないからねぇ~?」
 「おいお前、黙れ」
 「黙らなぁ~いよ。私の正論は、痛いところを突いちゃったかな~?」
 「そのしゃべり方と、安い挑発をやめろ。くだらん」
 「ん? イライラしてる? そっかそっか。じゃあ逃げてもいいよ。ほら、ここから逃げ出しなよ。弟くんと美晴ちゃんの不戦勝ね」
 「ぐぬぬっ……!」

 雷太は眉間みけんにシワをたくさん寄せながら、仕方なく、しょうがなく、席に戻った。真音の方をギリリと睨みつけたりもしたが、真音は一向に涼しい顔を続けていた。

 「よーしよしよし。雷太くんは良い子ねー」
 「うるさい。黙れ」
 「もし雷太くんが勝ったら、数学の宿題の答え、教えてあげるね」
 「約束だぞ。数学と世界史の宿題を、貴様にやってもらうからな」
 「あ、あれ? なんか、教科が増えてない?」
 「勝てばいいんだろう。勝てば。何の勝負だろうと、俺がこいつらごときに負けるハズがないんだ。全てにおいて、俺は優れている」
 「じゃあ、勝負を受けるってことでいいんだね?」
 「まとめてかかってこい。ひねつぶしてやる……!!」

 雷太はイスに座り直し、闘志を燃やした。改めて、敵として立ちはだかってくれるようだ。『風太ミハル』は、雷太の挑発に乗りやすさを見て、「やっぱりこの人は風太くんのお兄ちゃんなんだ」、と思った。
 事前の打ち合わせ通り、コトが運んだ。勝負の立会人たちあいにんとして、この場に呼ばれた真音が、開戦の言葉を述べる。
 
 「始めるよ。風太&美晴vs二瀬雷太の……パフェ早食い対決……!!!」

 *

 ジャイアント・チョモランマ。
 高さは約40cm。名前の通り、チョモランマ(エベレスト山の別名)のように雄大ゆうだいなパフェが、18番テーブルに二つ、運ばれてきた。
 上層にはウエハースとソフトクリームなどのふわふわホイップゾーンが、中層にはフレークなどのサクサクお菓子ゾーンが、最下層にはバナナやイチゴ、メロンやキウイなどのフレッシュ果実ゾーンが待ち受けている。

 「な、なんだこれは……!」

 雷太は動揺した。初見では、そのインパクトに圧倒されるのも無理はない。
 しかし、『風太』と『美晴』と真音は、この大きさも想定内だ。

 「ルールは簡単。先に、これを食べ終わった方が勝ちね。OK?」
 「おい真音、どういうことだ。これを食べ切るだと? それで勝負だと言えるのか? もっと、真面目な戦いを……!」
 「あら? 弟くんと美晴ちゃんは、大真面目だけど? この勝負なら、雷太くんにも勝てるんだってさ」
 「ふ、ふざけるなっ」
 「とにかく位置について。よーい、スタート!」

 真音の掛け声と共に、勝負は始まった。
 『風太』と『美晴』はスプーンを右手に持ち、果敢にチョモランマへと入山を始めた。まずはクリームをすくい、口の中へと放り込む。こちらは二人なので、口も二人分のうえに胃袋も二人分だ。
 一方、雷太は未だ状況を飲み込めず、目の前にそびえ立つチョモランマに手を付けられずにいた。

 「本気なのか……? 真音も、この勝負の内容を知っていたのか?」
 「もちろん。このパフェ対決を提案したのは、私だしね。『どうしても雷鳥を倒したい』って、あの子たちが真剣に言うものだから、手を貸してあげたくなっちゃって」
 「ガキの遊びだぞ。こんなの。まともに取り合う方がどうかしてる」
 「そう? あの子たちは、本気で雷太くんに勝つつもりだよ?」
 「だいたい、俺に勝ってどうする? こいつらの目的は何だ? 見返りに、何を求めてるんだ?」
 「さあね。兄弟の間で、何かあったんじゃないの?」
 「……」

 ヒョイ、パクッ。ヒョイ、パクッ。
 快調に食べ進める『風太』&『美晴』チーム。かなりのハイペースで進んだため、そろそろホイップゾーンが終わろうとしている。
 その様子を、雷太は隣の席で見ていた。表情に一切の冗談がない『風太』と『美晴』を、まじまじと見つめていた。真剣な空気が、だんだんテーブル全体を覆い始めている。

 「くっ……!」

 雷太は居心地いごこちが悪くなり、思わず席を立とうとした。しかし……。

 「ふぇうなっ……!!! 勝負ひろっ……!!!」

 ビシッ。
 人差し指の代わりに、スプーンで指を差す。口の周りを、真っ白なクリームだらけにした少女。
 言葉を話すことすらできず弱々しかったあの少女は、もう一端いっぱしの戦士としての顔に覚醒していた。 

 「う……!」

 雷太は、もう逃げられない。

 *

 「フッ、はは……。こいつら、マジで俺に勝つ気か……」

 『風太』&『美晴』がサクサクゾーンに差し掛かるころ、雷太の様子にも変化があった。
 何やらうすら笑いながら、ブツブツと言葉をつぶやいている。その笑いは、小学生二人組に対してではなく、真音に向けてでもなく、おそらく自分に向けて。

 「これ以上……恥をかくのは、俺の方だというわけか。確かに、今の俺はダサいな……。じゃあ、どうする? どうすればカッコいい俺になる? 本物の天才として、この劣等れっとうどもを叩き潰すには、どうすればいい……?」
 
 自問じもん。これは、雷太がバスケットの試合中などによくやる、集中力を高めるための行為だ。
 風太はプライドが高くてカッコつけだが、雷太はその上をいくほどのカッコつけ。そして、自信家でもある。普段から周りの人間を見下みくだすクセは、おのれが積み上げてきた物に、揺るぎない信頼を置いているため。

 ガシャンッ!!!

 突如とつじょ、激しい物音と共に、テーブルが揺れた。
 真音も、『風太』も、『美晴』も驚き、そちらを見た。

 「「「か、顔からっ……!?」」」

 雷太が、パフェに顔を突っ込んでいる。スプーンさえ持たずに、山の中に直接顔面をブチ込み、もしゃもしゃとあごを動かしている。そして、雷太がゴクンと飲み込むと、そこにはもう、ソフトクリームもウエハースも跡形あとかたもなく消え去っていた。

 「んぷはっ! ゲップ……」

 顔中クリームまみれのまま、その怪物は山から出てきた。そして、隣の席にいる雑魚ざこどもの方へと、グルリと首を回した。
 バチバチと、あおい電気を宿やどした雷鳥が、ついに姿を現した。

 「俺をナメるなよ。もう、くだらない夢さえ……げぷっ、持つことは許さん」

 *

 そこからの勝負は、熾烈しれつを極めた。 
 『美晴』は少食。早くも胃袋に限界を迎えたため、しばらくは休息が必要になった。『風太』が一人で走り続けているものの、迫り来る巨大な雷鳥に、常に背中を捉えられているという状況が続いた。そして……。

 「もぐもぐ……さ、最後のゾーンっ……!」
 
 いよいよ、フレッシュ果実ゾーンに辿り着いた。ここまでは、ほぼ同着。
 『風太』は持てる力を振り絞り、意を決して果物の層に飛び込んでいった。……が、それができたのも、スプーンの三杯目まで。

 「ゲホゲホッ!! きゃっ、な、なにこれっ!? おえっ、マズいっ……!!」

 手が止まった。何かが、これ以上先へは行かせまいと、邪魔をしている。
 『風太』は異常を感じて、自分が今口に入れたスプーンの先を見た。

 「キウイ……!? うそっ、これのせい!?」

 少しかじられたキウイが、そこにあった。この果実からにじみ出る果汁が、口の中で大暴れしたらしいのだ。
 『風太』は瞬時に考えた。キウイにこれほど苦しめられたことは、今まで一度もない。思い当たるふしといえば、ただ一つ……。

 「ふ、風太くんっ!」
 「なんだ……? 美晴……、どうか……したのか……? けぷっ」
 「風太くんは、もしかしてキウイが苦手なんですか?」
 「え……? そうだけど……。なんで……美晴が……それを……知ってるんだ……? お前に……話したこと……あったっけ……?」
 「やっぱり!」
  
 舌および味覚が入れ替わっているので、嫌いな食べ物も入れ替わっている、ということだ。つまり『風太』の身体では、キウイを攻略することができない。思わぬブレーキがかかってしまった。
 しかし、立ち止まっているわけにはいかない。『風太』は『美晴』のスプーンを手に取り、そこにありったけのキウイを盛り込んだ。

 「さあ、口を開けて」
 「え……!? これを……食べろって……言うのか……!? おれ……、キウイは……嫌いだって……今言った……じゃん……!」
 「それはわたしなんですっ! 風太くんなら食べられるっ!」
 「はあ……!? どういう……意味だよ……」
 「わたしは風太くんで、風太くんはわたし。わたしの身体は、キウイが苦手じゃない。だから、あなたが食べなきゃいけないの」
 「えー……。でも、やっぱり……抵抗がある……というか……なんというか……。大丈夫だって……分かってても……勇気が……いるよ……。ちょ、ちょっと……待てってば……」
 「早くしてっ! じゃないと、風太くんのお兄ちゃんに負けちゃう……!」

 そう言いつつ、『風太』は隣の席の方へと振り返った。
 一方の雷太はというと……。

 「うえっ、おうえっ、うげええっ……!!」
 
 激しく、むせ返っていた。口元を押さえながら、パフェから顔を逸らしている。どうやら、直視することすらできない様子。
 キウイに対する苦手意識。風太が持つそれよりも遥かに高い苦手意識を、雷太は持っていたようだ。つまり、味覚さえも風太より上。
 真音は、雷太の背中をさすりながら、優しい言葉をかけた。

 「あららー、雷太くんはキウイ苦手だったね。これだけ特別に、私が食べてあげよっか?」
 「い、いらん……! お、おれが……下等な女に……手助けなど……! うええっ……!!」
 「まったく、プライドだけは高いんだから。じゃあ、頑張って食べなさい。私がそばで見ててあげる。写真も撮って、バスケ部のみんなに見せちゃおっと」
 「やめろぉ……! お、俺は一人で食えるぞ……! 何も問題なく、口に運んで……うぐぅっ! ぐうおおおおぉっ!!」

 雷鳥の咆哮ほうこう。雷太は白目をひんむきながら、キウイへと挑んでいた。上に立つ者の意地というべきか、極限状態になりながらも、とてもゆっくりだが少しずつ口へと運んでいる。ちなみにその横で、真音はパシャパシャと写真を撮っている。
 『風太』は再び、『美晴』がいる方へと顔を戻した。

 「見ましたか? 今の」
 「見たよ……。雷太兄ちゃん……、あんな顔に……なっても……苦手なキウイを……必死に……食べようとしてる……。絶対に……おれたちには……負けたくないんだ……」
 「なんだか、天才と呼ばれる雷鳥さんの正体が分かったって感じですね」
 「美晴……。おれも……、キウイ……食べるよ……。この身体だと……あんまり……努力には……ならないかも……しれないけど……」
 「はい、どうぞ。今日はとりあえず、わたしたちの過去に決着をつけましょう。未来のことを考えるのは、それからで」
 「そうだな……。よし、食べるぞ……!」

 6歳の風太。4歳の美晴。それぞれとの出会いを胸に、『風太』&『美晴』チームは、最後の一口を同時に口へと運んだ。

 * 

 「……」

 怪鳥、つ。
 雷太は白目を剥いたまま、天を見上げていた。完全に気絶しているらしく、精巧なオブジェのように固まっている。
 彼の手前にあるテーブルには、あとほんの少しだけキウイが残った、パフェのグラスが置いてある。

 「私たちの勝利に、乾杯かんぱい♪」

 『風太』と『美晴』が食べ終わり、からになったパフェのグラス。真音はにこやかに、そのグラスに自分のオレンジジュースが入ったグラスをコツンと当てた。

 「「か、かんぱ~い……↓」」
 「あらら、お二人さんも元気ない感じ? せっかくの大勝利だよ? もっと勝利の喜びを味わわなきゃ! イェーイっ!」
 「「た、食べすぎて……お腹が痛い……」」
 「うーん、そりゃそうか。食べ終わった直後だもんね。二人とも、まずはお手洗いに行ってきなさい」
 「「はーい……」」

 『風太』は『美晴』の肩を担ぎ、席を立った。
 「やったー!」とか「うおおー!」などの言葉はなく、テンションはかなり下がり気味ぎみで、のっそりと二人でトイレに向かう。途中、二人で顔を見合わせ、パフェ早食い対決を挑んだことを、若干じゃっかん後悔した。

 「悪いな……、美晴……。うっぷ……」
 「いいえ。わたしの身体だと、キツいでしょうから。うっぷ」
 「男女兼用の……個室トイレが……一つだけ……か……。お前が……先に……入れよ……。おれは……後で……いい……」
 「いいんですか? じゃあ、お先に失礼します」

 バタン。『風太』は、扉の奥へと消えていった。
 やっと、因縁いんねんとの決着がついた。『美晴』は深いため息をつき、だらしなく床に腰をおろした。これで全ての戦いが、終わったはず……。
 
 「ん……?」

 声が聞こえる。場所は、このファミレスの26番テーブル。喫煙席きつえんせきの方だ。
 大人の男性が二人で、何やら話し込んでいる。

 「それにしても、大変な要求っすね。そりゃあ」
 「ああ、俺も困ったよ。だが、一つ思い出したんだ」 
 「思い出した? 何をっすか?」
 「7年前に別れたよめと、その娘のことをさ」
 
 一人は見知らぬ男性。体型は小太りで、後輩のようなしゃべり方をしている。
 しかし、もう一人は見知った男性。風太と美晴がよく知ってる、あの男だ。あの男が、偶然にもそのテーブルにいた。

 「あ……あれは……!!」

 『美晴』は、物陰にサッと身を隠した。

 (継本流壱……!? 美晴のお父さんだったヤツが、なんでこんなところに……!!?)
 
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