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9.夏休みになりまして
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「茶々さん」
「なんだ?」
現在私の部屋のソファでくつろぎ中である。もう夏になっていた。
「私、8月は少し実家に帰るんですけど、その間はどうしたらいいですか?」
一日一回は顔を出すってルールがあったことを思い出した。まぁ朝早く出て行って、次の日の夜に戻ってくれば大丈夫だろうけどそんな強行軍が必要かどうかというお伺いである。帰ったら帰ったで弟妹の遊んでーあれ買ってー攻撃が待っているからもちろん長居をするつもりはない。遊ぶぐらいならかまわないが、あれ買って攻撃はかなりつらかったりする。だって私、自分の生活費もバイトで賄ってるから!(猫が家賃の半額を入れてくれるようになった。嬉しい)
「そうか。ならばわしも参ろう」
「……は?」
私は耳を疑った。今猫さん、何を言いました?
「やはりご挨拶にはスーツがいいだろうか。同僚に聞かなければな」
「……待ってください。挨拶ってなんのことですか?」
猫はきょとんとした顔をした。
「帰省するのだろう? 結婚を前提としてお付き合いしているわけだから挨拶ぐらいは……」
「だめです!」
そう言ってもらえるのは嬉しいが今の猫ではだめだ。一緒に暮らしてるなんて言ったら父に連れ戻されかねない。やっと自由を手に入れたのだ。それだけは避けたかった。
「何故だ」
「茶々さんは嘘がつけないでしょう」
「うむ。つけぬな。何故嘘をつかねばならぬ」
「茶々さんと同居しているなんて親に知られたら大反対に遭いますし、最悪大学を止めさせられて地元に連れ戻されるかもしれません。だから、私が四年生になるまではだめです」
「だが、さやとわしは結婚するのだぞ?」
「少なくとも大学を卒業できなかったら結婚はしません」
「学生結婚はだめなのか」
その手があったかとは思ったけど口には出さなかった。学生結婚てなんかよさげな響きを感じたけどそうじゃなくて!
「とにかく、今回はだめです!」
「そうか……わかった」
「一晩で帰ってきますから」
「うむ……」
猫はしょんぼりしたけどそのまま引き下がってくれた。
この話はそれで済んだと思っていたのだけど、そうは問屋が卸さなかった。
「えええ?」
夏休みに入り、予定通り実家へ一泊することにしたらとんでもないことが起こった。
「国からわが社に出向してくれている茶白君だ。とてもいい青年だぞ! 茶白君、うちの娘はどうかね?」
父は明らかに酔っていた。同僚を連れて帰ってくると連絡はあったけど、まさかうちの猫を連れて帰ってくるとは思わなかった。私は猫を睨んだ。くそう、この美形のイケメンめ。スーツ姿が超かっこいいじゃないか。なんてことをするんだ。
「羽村部長の娘さんですか。とてもかわいいですね」
「そうだろうそうだろう! まだ娘は18歳だが……20歳になったら嫁にもらってくれないかな?」
「喜んでいただきます!」
猫は終始笑顔だった。家に帰ったらその機嫌よさそうな顔からヒゲを全部むしり取ってやろうかと思った。
「……はー……」
猫が帰っていった後、私はため息をついた。
猫め、とんでもないことをしてくれおって……。さすが神様、手段は選ばないようだ。
「さや」
「?」
父を寝せて戻ってきた母に手招きされたから側に寄ったら。
「ねえ、私の思い違いならいいんだけど……今日お父さんが連れてきた茶白さんて、さやのこと知ってるんじゃないの?」
母が鋭すぎて怖い。
「な、ななな何を言って……」
そして私も隠し事ができない娘だった。なんてこった。
「やっぱり」
母が嘆息した。
「な、なんで……」
「だって、茶白さん、この家に着いてからずーっと貴方のことだけ見ているのだもの。最初はそんなに気に入ったのかしらって思ったけど、貴方も茶白さんのこと睨んでるし。どう見たって知り合いにしか見えなかったわ。それに貴方、茶白さんに言い寄られてるんじゃなくて?」
言い寄られているどころか恋人同士です。結婚の約束もさせられていますし一緒に住んでます。毎日同衾してます。(もふらせてもらっている)
「うん、まぁ……」
私は照れた。こんなに早くバレるなんて、やっぱりあの猫はだめだめだと思ったけどそんな猫が好きだと思う。手段を選ばないなんて強引なところもあるけど、それはそれで神様っぽくて嫌いではなかった。
母はにっこりした。
「お互いに好き合っているならかまわないわ。もしも来年まで付き合っていられるなら、学生結婚もいいんじゃないかしら?」
「お、お母さん!」
それはさすがに気が早すぎると思う。
「冗談よ。付き合っているのならちゃんと相手を見極めなさい。顔とかに誤魔化されないようにね? あちらの実家に同居するなんてことはお母さんは認めませんからね?」
母は結婚してすぐ父の実家で同居をしてたいへんな目に遭ったというから、自分の子どもに同居は許さないというスタンスだ。そういえば神様の実家ってどういうところなんだろう? そもそも舅とか姑は存在するんだろうか。
「うん……まだそんな段階じゃないけど、ちゃんと話し合ってみるわ」
「そうしてちょうだい。茶白さん、お父さんには好感触だからお父さんは反対しないと思うわよ」
「あはは……まだ私は学生だよー……」
なし崩し的に親公認みたいな形になってしまったが、帰ったら絶対猫をいじめようと思った。それはそれ、これはこれなのである。
ーーーーー
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「なんだ?」
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私は耳を疑った。今猫さん、何を言いました?
「やはりご挨拶にはスーツがいいだろうか。同僚に聞かなければな」
「……待ってください。挨拶ってなんのことですか?」
猫はきょとんとした顔をした。
「帰省するのだろう? 結婚を前提としてお付き合いしているわけだから挨拶ぐらいは……」
「だめです!」
そう言ってもらえるのは嬉しいが今の猫ではだめだ。一緒に暮らしてるなんて言ったら父に連れ戻されかねない。やっと自由を手に入れたのだ。それだけは避けたかった。
「何故だ」
「茶々さんは嘘がつけないでしょう」
「うむ。つけぬな。何故嘘をつかねばならぬ」
「茶々さんと同居しているなんて親に知られたら大反対に遭いますし、最悪大学を止めさせられて地元に連れ戻されるかもしれません。だから、私が四年生になるまではだめです」
「だが、さやとわしは結婚するのだぞ?」
「少なくとも大学を卒業できなかったら結婚はしません」
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「うむ……」
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父は明らかに酔っていた。同僚を連れて帰ってくると連絡はあったけど、まさかうちの猫を連れて帰ってくるとは思わなかった。私は猫を睨んだ。くそう、この美形のイケメンめ。スーツ姿が超かっこいいじゃないか。なんてことをするんだ。
「羽村部長の娘さんですか。とてもかわいいですね」
「そうだろうそうだろう! まだ娘は18歳だが……20歳になったら嫁にもらってくれないかな?」
「喜んでいただきます!」
猫は終始笑顔だった。家に帰ったらその機嫌よさそうな顔からヒゲを全部むしり取ってやろうかと思った。
「……はー……」
猫が帰っていった後、私はため息をついた。
猫め、とんでもないことをしてくれおって……。さすが神様、手段は選ばないようだ。
「さや」
「?」
父を寝せて戻ってきた母に手招きされたから側に寄ったら。
「ねえ、私の思い違いならいいんだけど……今日お父さんが連れてきた茶白さんて、さやのこと知ってるんじゃないの?」
母が鋭すぎて怖い。
「な、ななな何を言って……」
そして私も隠し事ができない娘だった。なんてこった。
「やっぱり」
母が嘆息した。
「な、なんで……」
「だって、茶白さん、この家に着いてからずーっと貴方のことだけ見ているのだもの。最初はそんなに気に入ったのかしらって思ったけど、貴方も茶白さんのこと睨んでるし。どう見たって知り合いにしか見えなかったわ。それに貴方、茶白さんに言い寄られてるんじゃなくて?」
言い寄られているどころか恋人同士です。結婚の約束もさせられていますし一緒に住んでます。毎日同衾してます。(もふらせてもらっている)
「うん、まぁ……」
私は照れた。こんなに早くバレるなんて、やっぱりあの猫はだめだめだと思ったけどそんな猫が好きだと思う。手段を選ばないなんて強引なところもあるけど、それはそれで神様っぽくて嫌いではなかった。
母はにっこりした。
「お互いに好き合っているならかまわないわ。もしも来年まで付き合っていられるなら、学生結婚もいいんじゃないかしら?」
「お、お母さん!」
それはさすがに気が早すぎると思う。
「冗談よ。付き合っているのならちゃんと相手を見極めなさい。顔とかに誤魔化されないようにね? あちらの実家に同居するなんてことはお母さんは認めませんからね?」
母は結婚してすぐ父の実家で同居をしてたいへんな目に遭ったというから、自分の子どもに同居は許さないというスタンスだ。そういえば神様の実家ってどういうところなんだろう? そもそも舅とか姑は存在するんだろうか。
「うん……まだそんな段階じゃないけど、ちゃんと話し合ってみるわ」
「そうしてちょうだい。茶白さん、お父さんには好感触だからお父さんは反対しないと思うわよ」
「あはは……まだ私は学生だよー……」
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