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46.昼食の後は

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 昼食の時間である。
 智軒(ジージエン)と智倫(ジーリン)に訓練の様子を聞かれたので、素直に格好良かったと答えた。武官と衛兵の整然とした訓練などそう見られるものではないと思う。新年や行事の際も私が見ることができたのはせいぜい数人で行う剣舞ぐらいだった。

「そうか……勇志(ヨンジー)は確か逞しい身体に憧れていたのだったな」

 智軒に改めて確認され、頬が熱くなるのを感じた。

「……はい……」
「私と智倫も筋肉がつきづらくてな。勇志の気持ちはわかる。だが、そのように目を輝かせているのを見ると妬けてしまうな」

 頬の熱が去らなくて困ってしまった。
 ここで申し訳ないと思うのは違うだろう。

「智軒哥、勇志を困らせないでください」

 智倫が笑った。

「勇志があまりにもかわいいのでつい、な」
「……困ります」
「そうだな。気を付けよう」

 そう言われてしまえば咎めることもできない。午後は智軒と共に領地関係の書類等を確認することにした。その間に智倫と智良(ジーリャン)は領地の視察に向かうという。王(ワン)家は名門だからいろいろなところに領地を持っているのだった。

「どのようなところなのか」
「いろいろですよ。帰ってきたら話を聞いていただけますか? それでもし、勇志に興味がありましたら次は一緒に参りましょう」

 智倫に言われて嬉しくなった。

「私も、行ってもいいのか?」
「もちろんだ。領民は領主と妻の仲睦まじいところを見たいらしいからな」

 智良がさらりと答える。仲睦まじい姿って……と頬が熱くなった。

「そ、その時は連れていってほしい……」

 うまく応えることができなくて、私は目を逸らし、そう言うことしかできなかった。一月前と何も変わらなくて困ってしまう。

「ああ、その時は共に参ろう」
「智良はそうやって人の科白を取らないでください」
「智倫哥、申し訳ありません」

 お互いに軽口を叩き合いながら、智倫と智良は出かけて行った。智明(ジーミン)は午後また訓練場に向かうらしい。一人で大丈夫だろうかと少し心配になった。

「勇志に心配をかけてはいけないな。大丈夫だ」

 智明はにっこり笑むと、着替えに向かった。午前中智良がしていたような恰好をして訓練に参加するのだろう。
 私の夫を衛兵風情がからかうなどあってはならないと思った。

「では、私たちも参りましょうか」

 智軒の腕に抱かれ、執務室へ移動した。兄たちの館から連れ戻されてから、こうして執務室へ移動する時も夫に抱き上げられて移動するようになった。
 あまり歩かないでいたら歩き方を忘れてしまうのではないかと心配になって言ったら、夫たちが常に足になるから問題ないと言う。開いた口が塞がらなかったが、それについては侍従長にも言われてしまった。

「私は……常々奥さまがお一人で歩いているところを見て悲しく思っておりました。奥さまは旦那様方を足とするのが当然です。ご自身の足で歩かれるなどとんでもない話でございます!」
「そ、そういうもの、なのか?」

 私は助けを求めようとして周りを見たが、侍従たちもうんうんと頷いているばかりで途方に暮れてしまった。
 確かに母皇は常に抱き上げられて移動していたことは知っているが、それは母皇だからなのではないかと思っていたのだ。なのに夫に抱き上げられて移動するのが当たり前だと教えられて、私はどれだけ非常識な行いをしていたのかと頭を抱えた。

「よろしいのです。これから奥さまが旦那様方にそうしてもらえればいいのですから」
「や、館の中だけでもだめなのか?」
「奥さま?」
「は、はい……」

 夫が常に抱き上げて移動させるというのは、妻を一人にさせない為だという。確かに夫が側にいなければ移動ができないのだからそれは間違っていない。けれど、それにはなかなか慣れそうもなかった。
 執務室である。二人で書類を見ながらああでもないこうでもないと話し合うのも楽しかった。
 書類上とはいえ、智軒は本当に全ての領地の特色を理解していて、話を聞くだけでも面白い。決裁をしながら瞬く間に時間が過ぎた。

「智軒様、奥さま、休憩のお時間です」
「わかった」
「はい」

 侍従長に声をかけられて、私は智軒に抱かれて楼台に出た。すぐにふんわりとした風が吹いてきて、私は目を細めた。

「気持ちいい風だな」
「そうですね」

 智軒に同意されて嬉しくなってしまう。
 楼台の長椅子に、智軒に抱かれたまま腰掛ければ、そのままそっと唇を寄せられた。
 胸がどきどきする。
 こんな風に求められるのも嫌いではなかった。
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