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45.線引きはあるべきだと思う
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私はよくわかっていなかったが、私に被せられている薄絹には不可視の魔法が掛けられていたらしく、私からうっすらと見ることはできても外側から私の顔を見ることはできないようにしてあったようだ。
そうとは知らない私は、薄絹越しに上気した顔が見られていなかったか心配であった。
その後は剣での訓練などを見たりした。訓練場の隅に卓と椅子が運ばれてきて、そこにお茶の用意までされてしまった。そこで薄絹を取らないようにしながらゆったりとお茶を飲み、訓練の様子を見せてもらった。
智良(ジーリャン)と武官の木刀での訓練もかっこよくて、思わず声を上げてしまったりした。
「すごい……」
なんて、私の夫たちは素敵なのだろうか。
ゴーンゴーンと昼を告げる鐘が鳴ったことで、私はやっとそれほどの時間が経っていたことに気づいた。
「昼だな。智良哥を待って戻ろう」
「はい」
改めて彼らは整列をし、挨拶をしてから思い思いに散って行った。これから昼休憩なのだろう。智良が成全と話しているのを見ていたら衛兵たちが近づいてきた。
「智明(ジーミン)様」
「なんだ、お前たち」
「奥さまを紹介してくださいませんか?」
「……何故そのようなことをせねばならん」
彼らの軽い口調とは裏腹に、智明が低い声を発したことに私は驚いた。
「智明?」
そっと声をかければ、衛兵たちがヒューと音を出した。何事だろうか。
「奥さまの声は鈴を転がしたようだ。そんな華奢な腰で智明様たちを満足させられるんですかねー?」
衛兵の一人が茶化すように言う。
「……貴様らぁ……」
智明がいら立っているのがわかる。私もさすがにこれには腹が立った。
「貴様ら……訓練が足りないようだな?」
彼らの背後から地を這うような恐ろしい声が届いた。智良と共にこちらへ歩いてきた成全だった。智良の顔もかなり厳しいそれになっている。
「も、ももも申し訳ありませんっっ!!」
衛兵たちがババッ! と智明と私に向かって頭を下げた。謝る相手をわかっているというのはいいことだ。だが私も彼らの言動は許しがたいと思ったのだ。
「……そなたたちは王(ワン)の家に仕えているのではないのか?」
「……は、はい……」
声をかけると彼らはピン、と背筋を伸ばした。
「王家の主人とその妻がどれほど重要な存在なのか、そなたたちはわかっておらぬのか?」
彼らと、何故か成全までもが青ざめた。
「……智明様、奥さま、たいへん申し訳ありません。私の監督不行き届きです。再度訓練をし直し、衛兵としてしっかり育てます故どうか……!」
私は近づいてきた智良に無言で手を伸ばした。智良が私の手を取る。
「……我が妻の恩情に感謝するがよい。……次はないぞ」
「尊命(はい)!」
衛兵たちと成全はその場で傅いた。
「智明、戻るぞ」
「はい」
智明が踵を返す。私は智明の腕の中だったが、智良に片手を取られたまま館に戻った。
ひどく緊張していたらしく、一旦部屋に戻されてからはーっとため息をついた。
「取るぞ」
「……はい」
長椅子に下ろされて、智良に薄絹をそっと取られた。そして、智良と智明は私の前に傅いた。
「……え?」
「勇志(ヨンジー)、不快な思いをさせてすまなかった……」
智良が本当に申し訳なさそうに言い、私は彼らが先ほどの件を悔いていることに気づいた。
確かに私は一介の衛兵などにあのような言葉をかけられたのは初めてだった。ただ、宮中というのは更に口さがない連中がいるものだ。私が憤ったのは、衛兵が主人を馬鹿にするような言動をしたことについてである。
「私は、特に何を言われてもかまわぬが……私を揶揄するということは主人を揶揄することも同じだろう。それが嫌だったのだ」
王家を継いでいるのは智軒たち四兄弟である。彼らが馬鹿にされるのは嫌だった。
「勇志!」
智良が立ち上がったかと思うと、私を抱き上げた。いきなりのことに目を白黒させてしまう。
いったいどうしたというのだろうか。
「……貴方が愛おしくてたまらぬ」
「あ……」
智良の目が欲望でギラギラしているのを見て、私は震えた。
夫に求められるのが嬉しくてたまらない。でも今の時間流されるわけにはいかなくて、内心身もだえたのだった。
本当は……今すぐにだって抱いてほしいのに。
そうとは知らない私は、薄絹越しに上気した顔が見られていなかったか心配であった。
その後は剣での訓練などを見たりした。訓練場の隅に卓と椅子が運ばれてきて、そこにお茶の用意までされてしまった。そこで薄絹を取らないようにしながらゆったりとお茶を飲み、訓練の様子を見せてもらった。
智良(ジーリャン)と武官の木刀での訓練もかっこよくて、思わず声を上げてしまったりした。
「すごい……」
なんて、私の夫たちは素敵なのだろうか。
ゴーンゴーンと昼を告げる鐘が鳴ったことで、私はやっとそれほどの時間が経っていたことに気づいた。
「昼だな。智良哥を待って戻ろう」
「はい」
改めて彼らは整列をし、挨拶をしてから思い思いに散って行った。これから昼休憩なのだろう。智良が成全と話しているのを見ていたら衛兵たちが近づいてきた。
「智明(ジーミン)様」
「なんだ、お前たち」
「奥さまを紹介してくださいませんか?」
「……何故そのようなことをせねばならん」
彼らの軽い口調とは裏腹に、智明が低い声を発したことに私は驚いた。
「智明?」
そっと声をかければ、衛兵たちがヒューと音を出した。何事だろうか。
「奥さまの声は鈴を転がしたようだ。そんな華奢な腰で智明様たちを満足させられるんですかねー?」
衛兵の一人が茶化すように言う。
「……貴様らぁ……」
智明がいら立っているのがわかる。私もさすがにこれには腹が立った。
「貴様ら……訓練が足りないようだな?」
彼らの背後から地を這うような恐ろしい声が届いた。智良と共にこちらへ歩いてきた成全だった。智良の顔もかなり厳しいそれになっている。
「も、ももも申し訳ありませんっっ!!」
衛兵たちがババッ! と智明と私に向かって頭を下げた。謝る相手をわかっているというのはいいことだ。だが私も彼らの言動は許しがたいと思ったのだ。
「……そなたたちは王(ワン)の家に仕えているのではないのか?」
「……は、はい……」
声をかけると彼らはピン、と背筋を伸ばした。
「王家の主人とその妻がどれほど重要な存在なのか、そなたたちはわかっておらぬのか?」
彼らと、何故か成全までもが青ざめた。
「……智明様、奥さま、たいへん申し訳ありません。私の監督不行き届きです。再度訓練をし直し、衛兵としてしっかり育てます故どうか……!」
私は近づいてきた智良に無言で手を伸ばした。智良が私の手を取る。
「……我が妻の恩情に感謝するがよい。……次はないぞ」
「尊命(はい)!」
衛兵たちと成全はその場で傅いた。
「智明、戻るぞ」
「はい」
智明が踵を返す。私は智明の腕の中だったが、智良に片手を取られたまま館に戻った。
ひどく緊張していたらしく、一旦部屋に戻されてからはーっとため息をついた。
「取るぞ」
「……はい」
長椅子に下ろされて、智良に薄絹をそっと取られた。そして、智良と智明は私の前に傅いた。
「……え?」
「勇志(ヨンジー)、不快な思いをさせてすまなかった……」
智良が本当に申し訳なさそうに言い、私は彼らが先ほどの件を悔いていることに気づいた。
確かに私は一介の衛兵などにあのような言葉をかけられたのは初めてだった。ただ、宮中というのは更に口さがない連中がいるものだ。私が憤ったのは、衛兵が主人を馬鹿にするような言動をしたことについてである。
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王家を継いでいるのは智軒たち四兄弟である。彼らが馬鹿にされるのは嫌だった。
「勇志!」
智良が立ち上がったかと思うと、私を抱き上げた。いきなりのことに目を白黒させてしまう。
いったいどうしたというのだろうか。
「……貴方が愛おしくてたまらぬ」
「あ……」
智良の目が欲望でギラギラしているのを見て、私は震えた。
夫に求められるのが嬉しくてたまらない。でも今の時間流されるわけにはいかなくて、内心身もだえたのだった。
本当は……今すぐにだって抱いてほしいのに。
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