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120.憂いを消す為に
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ここのところ毎晩のように、偉明たちは兄弟で話し合っていた。
全てリューイと共に憂いなく生きていく為である。
もちろん短時間に止め、すぐにそのうちの二人はリューイの元に戻るのだが、情報共有はとても大事なことだった。
「……無意識だろうが、例の者を気にしているな」
偉明の眉間に皺が寄った。
「……しかたありますまい。そなに長い間隣家にいたというのですから。しかも、元の夫だとかいう者がわざわざ呼んで見せつけるような真似をしていたというではありませんか」
明輝がため息交じりに言う。
トラッシュのことを元夫というのも嫌だが、名前を言うのはもっと嫌なようである。
「全く……どこまでも祟りますな」
浩明が忌々しそうに呟いた。
「リューイをそうして苦しめた者など万死に値しますが、今はどうしているのでしょう?」
清明はそこが気になった。
「田舎の領地に引きこもっているようだ。だからといって乳母を雇ってもいない」
「では産まれた赤子の世話などはどうなっているのですか?」
報告書を見ながら伝えた偉明に、明輝が尋ねる。
「……聞きたいか?」
「赤子に罪はありますまい」
「そうだな。例の者の話によると、リューイの元夫は小さい頃はその田舎の領地で暮らしていたそうだ。使用人はほとんど変わっておらず、その領地ではとてもかわいがられて暮らしていたと」
「偉明哥、前置きはけっこうです」
「まぁ聞け。そこの使用人たちは老いも若きもその天真爛漫さとかわいらしさに骨抜きになっていた。例の者を連れて行った時敵意を向けるほどに」
「まさか……」
浩明は軽く口元を押さえた。
「そのまさかだ。リューイの元夫が例の者の子を成したこと。例の者がリューイと元夫の子を連れ出したこと。……使用人たちは我慢ができなくなったのであろうな」
偉明は口角を上げた。
「使用人たちはリューイの元夫を愛しすぎていた。つまりはそういうことだ」
「では例の者と元夫との間に生まれた子は……」
「跡取りということもあるし、愛している者の子供だ。大事に育てられるであろうよ」
「それならばいいでしょう」
明輝は満足そうにうなずいた。
偉明たちはもう想像もする気はなかった。リューイがいた国からはもうリューイを脅かす者は現れない。もしリューイの心身を傷つけようとする者が現れれば全力で排除する。そう偉明たちは決めていた。
そして、リューイの憂いを消す為にリューイと話さなければならないことも偉明たちはわかっていた。
―トラッシュはその後一生田舎の領地から出ることはなかった。
跡取りには、トラッシュとアローの間に生まれた子が指名された。
* *
夫たちに愛されながらイトに授乳するのは至福のひと時だ。
けれどアローの視線を感じるとどうしてももやもやしてしまう。僕は何も悪いことをしていないのに、どうもすっきりしないのだ。
そうしてアローとイトがこちらに来てから約二週間が過ぎた。
「旦那様、お願いがございます」
夕食の席で、イトの食事の世話をしていたアローが意を決したように声を発した。
「何か」
それに答えたのは、僕を膝に載せていた浩明だった。
「無理を承知でお願いします。リューイ様が旦那様方に抱かれている様子を、どうか私めに見せていただけないでしょうか」
「……えっ……」
僕はアローのお願いに耳を疑った。
「……授乳の際に見ているだろう」
浩明が怪訝そうに言う。確かに、授乳の際は見られている。授乳の時はイトにお乳をあげることに忙しいから、それほど気にはならない。
「授乳をしているリューイ様もとても幸せそうなのですが、授乳の後旦那様方に甘えて抱かれているリューイ様が見たいのです」
「……えっ……」
頬が一気に熱くなった。
「その理由は?」
「リューイ様が旦那様方に抱かれて、蕩けている姿が見たいのです。私では……リューイ様を幸せにすることはできませんでしたから……」
「ふむ……見てなんとする」
「できれば……自慰をさせていただきたいと」
自慰!? だって?
僕は耳を疑った。
聞いたことはある。恋する相手が他の者に抱かれている際に自慰をするのは、恋する相手へのアピールだと。それで恋する相手を抱くことができるのかと疑問に思ったことはあるのだけれど、それをアローがするって……。
「……そなにリューイがほしいか」
「……もし、その機会があるのでしたら」
浩明は笑った。そして明輝の方を見やる。明輝は頷いた。どういうことなのかと、僕は浩明を見つめた。浩明が僕の髪に口づける。
「面白い。せいぜい見せつけてやるとしよう」
「ええっ?」
どういうわけか、夫たちは僕が抱かれている姿をアローに見せることにしたようだった。
僕としては授乳の時だって見られるのはもやもやしているのに、もし抱かれているところを見られたりしたらどうすればいいのだろうと思ってしまう。でも僕は夫たちの決定に逆らうことはできないし……。
でも、それが嫌だと伝えることぐらいはしてもいいのだろうか?
「ぼ、僕は見られたくないです……」
消え入りそうな声で浩明に告げる。
「何故?」
浩明は楽しそうだ。何故と聞き返されて、僕も何故だろうと思った。
「その……恥ずかしい、です……」
頬から熱が去らない。
「そうか。それが理由なら、私はリューイを抱いているところをアローに見せたいから見せよう」
「ええっ?」
浩明の言っている意味がわからなくて、僕は泣きそうになったのだった。
ーーーーー
愛し合う姿を見たがる・見せたがるのはこの世界特有の習慣です~
全てリューイと共に憂いなく生きていく為である。
もちろん短時間に止め、すぐにそのうちの二人はリューイの元に戻るのだが、情報共有はとても大事なことだった。
「……無意識だろうが、例の者を気にしているな」
偉明の眉間に皺が寄った。
「……しかたありますまい。そなに長い間隣家にいたというのですから。しかも、元の夫だとかいう者がわざわざ呼んで見せつけるような真似をしていたというではありませんか」
明輝がため息交じりに言う。
トラッシュのことを元夫というのも嫌だが、名前を言うのはもっと嫌なようである。
「全く……どこまでも祟りますな」
浩明が忌々しそうに呟いた。
「リューイをそうして苦しめた者など万死に値しますが、今はどうしているのでしょう?」
清明はそこが気になった。
「田舎の領地に引きこもっているようだ。だからといって乳母を雇ってもいない」
「では産まれた赤子の世話などはどうなっているのですか?」
報告書を見ながら伝えた偉明に、明輝が尋ねる。
「……聞きたいか?」
「赤子に罪はありますまい」
「そうだな。例の者の話によると、リューイの元夫は小さい頃はその田舎の領地で暮らしていたそうだ。使用人はほとんど変わっておらず、その領地ではとてもかわいがられて暮らしていたと」
「偉明哥、前置きはけっこうです」
「まぁ聞け。そこの使用人たちは老いも若きもその天真爛漫さとかわいらしさに骨抜きになっていた。例の者を連れて行った時敵意を向けるほどに」
「まさか……」
浩明は軽く口元を押さえた。
「そのまさかだ。リューイの元夫が例の者の子を成したこと。例の者がリューイと元夫の子を連れ出したこと。……使用人たちは我慢ができなくなったのであろうな」
偉明は口角を上げた。
「使用人たちはリューイの元夫を愛しすぎていた。つまりはそういうことだ」
「では例の者と元夫との間に生まれた子は……」
「跡取りということもあるし、愛している者の子供だ。大事に育てられるであろうよ」
「それならばいいでしょう」
明輝は満足そうにうなずいた。
偉明たちはもう想像もする気はなかった。リューイがいた国からはもうリューイを脅かす者は現れない。もしリューイの心身を傷つけようとする者が現れれば全力で排除する。そう偉明たちは決めていた。
そして、リューイの憂いを消す為にリューイと話さなければならないことも偉明たちはわかっていた。
―トラッシュはその後一生田舎の領地から出ることはなかった。
跡取りには、トラッシュとアローの間に生まれた子が指名された。
* *
夫たちに愛されながらイトに授乳するのは至福のひと時だ。
けれどアローの視線を感じるとどうしてももやもやしてしまう。僕は何も悪いことをしていないのに、どうもすっきりしないのだ。
そうしてアローとイトがこちらに来てから約二週間が過ぎた。
「旦那様、お願いがございます」
夕食の席で、イトの食事の世話をしていたアローが意を決したように声を発した。
「何か」
それに答えたのは、僕を膝に載せていた浩明だった。
「無理を承知でお願いします。リューイ様が旦那様方に抱かれている様子を、どうか私めに見せていただけないでしょうか」
「……えっ……」
僕はアローのお願いに耳を疑った。
「……授乳の際に見ているだろう」
浩明が怪訝そうに言う。確かに、授乳の際は見られている。授乳の時はイトにお乳をあげることに忙しいから、それほど気にはならない。
「授乳をしているリューイ様もとても幸せそうなのですが、授乳の後旦那様方に甘えて抱かれているリューイ様が見たいのです」
「……えっ……」
頬が一気に熱くなった。
「その理由は?」
「リューイ様が旦那様方に抱かれて、蕩けている姿が見たいのです。私では……リューイ様を幸せにすることはできませんでしたから……」
「ふむ……見てなんとする」
「できれば……自慰をさせていただきたいと」
自慰!? だって?
僕は耳を疑った。
聞いたことはある。恋する相手が他の者に抱かれている際に自慰をするのは、恋する相手へのアピールだと。それで恋する相手を抱くことができるのかと疑問に思ったことはあるのだけれど、それをアローがするって……。
「……そなにリューイがほしいか」
「……もし、その機会があるのでしたら」
浩明は笑った。そして明輝の方を見やる。明輝は頷いた。どういうことなのかと、僕は浩明を見つめた。浩明が僕の髪に口づける。
「面白い。せいぜい見せつけてやるとしよう」
「ええっ?」
どういうわけか、夫たちは僕が抱かれている姿をアローに見せることにしたようだった。
僕としては授乳の時だって見られるのはもやもやしているのに、もし抱かれているところを見られたりしたらどうすればいいのだろうと思ってしまう。でも僕は夫たちの決定に逆らうことはできないし……。
でも、それが嫌だと伝えることぐらいはしてもいいのだろうか?
「ぼ、僕は見られたくないです……」
消え入りそうな声で浩明に告げる。
「何故?」
浩明は楽しそうだ。何故と聞き返されて、僕も何故だろうと思った。
「その……恥ずかしい、です……」
頬から熱が去らない。
「そうか。それが理由なら、私はリューイを抱いているところをアローに見せたいから見せよう」
「ええっ?」
浩明の言っている意味がわからなくて、僕は泣きそうになったのだった。
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愛し合う姿を見たがる・見せたがるのはこの世界特有の習慣です~
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