上 下
200 / 208
パラサイト

記憶

しおりを挟む
  「私は引きこもりではないわ。」
レイは憎々しそうに北川を見た。
  が、北川は気にせずにレイに向かって歩いて行く。
  私は深夜の睡魔との戦いに辛うじて勝利した。
  と、言うか、臭くて寝てられない…が、正解だと思う。

  「確かに、こうして、甲虫として遺伝情報を揃えるには、時間がかかったろうね。
  目覚めてから、人の意識を覚醒し、一気に近代化へと導くところは、感動すら覚えるよ。」
北川がレイに近づく…

  殴ったりはしないんだろうな…(-_-;)

  私はダルい体をなんとか中腰まで持ち上げた。

  五十代(このとし)で、深夜のタックルとか…自分の体の方が心配だが仕方ない。

  あと、この二人が幻覚の可能性もあるが、今は考えない。

  レイは、2人の男を前に怯むことは無かった。
  それどころか、上品に微笑んで北川を挑発する。
  
  「ありがとう。そう、私は人の脳に寄生する。
  そして、知識の流れを操れる。」
「ああ…シュメールを滅ぼし、エジプト、ローマの文明を閉ざした。」
北川の言葉に、レイはため息をついて言い訳をする。
「仕方ないわ。ここの生物は滅びたがるのだから。
  でも、私は地球と滅びるなんて真っ平なのよ。
  火星を目指すわ。
  そして、更に遠くに…
  その為には、ここで絶滅させるわけにはいかないの。
  だから、なんどもリセットが必要になったわ。

  あともう少しなのに…

  うまく行かないものね。」

  草柳レイは、目に見えない何かを見つめながら、独り言のように呟いた。

  それは、三千年で集めた遺伝情報を精査しているように私には見えた。

  濃密に集まるウイルスを吸い込みながら、私もまた、知らない世界を見つめていた。

  まるで、パソコンのインストールのように、一瞬で大量の情報がうごきだしている。

  私は眩しい光に包まれた感覚で動けなかった。
  鼻血をたらし、涙を流しながら、口で説明できないすごい情報が、巨大な蛇のように空を泳ぐのを見つめていた。

  それは、長い人類の営みのなかで、親から子へとウイルスと共に受け継がれた記憶。

  
  日頃は、それらの記憶は思い出せないように回路は繋がれない。

  まあ…こんな記憶…思い出していたら、生きて行けないと、言うのもあるのだろうが。


  我々は、何度か大気圏外を目指していた…

  昔は月…

  しかし、その行為は、様々な問題を引き起こした。
  人は、寄生虫が思うままに動かすには強欲で、複雑だった。
  そして、知識を手にすると、社会が機能停止に陥るまで破滅の道を突き進むのだ。
しおりを挟む

処理中です...