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パラサイト

覚醒

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  部屋の中で、私は雅苗をジッと見つめていた。
  長い歴史と登場人物に混乱する。

  北宮の主要人物だけで4人。
  そして、森鴎外とか、有名人が数人…
  謎の男、太田なる人物まで登場してきて、なんだか、記憶ゲームでもしている気分になる。

  「とにかく、皆、プロバンスに行った…と、言うことですね?」
私は、膨らむキャラクターを記憶のプロバンスに押し込んだ。

  今、優先事項はなんだろう?
  北宮の歴史を聞くことでは無い気がする。

  虫の駆除……
  そして、秋吉達を病院へ…
  警察や保健所に連絡した方が良い気がする。

  正気に戻った…気がした。

  「雅苗さん、先ずは、119番に……溶生さん達を病院に連れて行きましょう。」
私は、焦るように立ち上がった。
  そんな私を雅苗は悲しそうに微笑んだ。
  そして、残酷なくらいキッパリとこう言い放った。
  「無理です。」

  Σ( ̄□ ̄)!


「じ、じゃあ、温室に…虫を…駆除しに行きましょう。」  
私は、おろおろしながら、2番目の優先事項を話す。  が、雅苗は眉を寄せながら首をふる。

  「このまま、何もせずに部屋を出たら、餌食になるだけです。」
「餌食……(°∇°;)」
「ハリガネムシに操られたカマキリのように…池にのまれてしまいます。」


  ハリガネムシ………。

  恐怖が背中を激痛のように走る。
  ハリガネムシは、細い糸のような姿の寄生虫である。
  類線形動物に属し、昆虫に寄生する。
  寄生されたカマキリは、やがて、時が来るとフラフラと水辺に誘われるのだ。
  そして、ハリガネムシに操られるままに、水の中へと自ら飛び込んで行くのだ。

  ハリガネムシが、繁殖相手を池で見つけられるように。

  そして、哀れなカマキリは、川の生物に美味しく食べられて、ハリガネムシの子供達の豊かな寄生の為に、川の生物の栄養源として最後まで貢献するのだ。


  ここに来て、池の伝説の恐ろしさが、骨身に染みてきた。

  いるのだ…

  人を補食する謎の生物が。
  既に、私の体にも潜伏しているのかもしれない。

  軽いめまいがした。
  と、同時に、深い好奇心にもかられる。

  「私は、殺虫剤の研究はしてきましたが、虫下しなどの人体に作用する薬は管轄外です。
  それでも、お役にたてるのでしょうか?」
激しい動機にさいなまれながら、それでも、意識はシャキッとするのを感じた。
  敵が……これから先の展望が、少しだけ見えてきたからだ。
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