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パラサイト

7番目のつき

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  北城が打ち込みを始めている横で、私はその金の価値のある1ドル札を見つめていた。

  なんで、ノストラダムスの詩を使ったのだろう?

  私は怪しげな詩の1節を眺めながらぼんやりと考えていた。

  確かに、ノストラダムスの予言は1970年代に流行したが、万博の頃より後だった気がする。

  なぜ、1970年のカードにこんなものを挟んだのだろうか?

  書かれた文字を見ながら、私はある事に気がついてギョッとした。

  7番目の月…

  LuneになってるじゃないかっΣ( ̄□ ̄)!

  ここで、私は自分の壮大な勘違いに気がついた。

  そう、フランス語では、
  一ヶ月など、ときをあらわす場合の月は、mois
  惑星をあらわす場合はluneだ。

  お札にはluneの方で書いてある。
  これだと意味が全く変わってくるのだ。

  「北城!お前、これ、惑星の月じゃないか。それだと、ノストラダムスの予言は関係ないぞ、この詩の意味はっ、」
私は北城に叫んだ。が、その時には既に、北城はパスワードを打ち込み、エンターを押していた。

「それがどうした?確か、私は読み聞かせたはずだぞ。」
北城は、私をにらんだ。
睨まれて、思い起こす。
確かに、読んでいた。フランス語で読んでくれていたよ………。

  「そうだったな、悪かったよ。」
私は不服だったが謝った。
あんな、キザな読み方でペラベラッとボヤかれても、普通の日本人は分からないと、言ったところでしたかない。

  「で、何か出てきたのか?」 
私は話題を変えたくて聞いてみた。
  1970年から、7番目の月…それは、多分、今年の話だと思う。1970年に尊徳先生が貰ったショクダイオオコンニャクの7番目の開花の月……。

「トリノの聖ヨハネ大聖堂の写真だ。」
北城の言葉に、私はゾクリとした。

  月が…惑星をあらわすとしたら……聖ヨハネには別の意味がかかってくるからだ。

  私は閉じられていた温室のモニターを開いた。

  そこには、身の毛もよだつような美しさで、ショクダイオオコンニャクが、咲き誇っていた。

  そして、その後ろでは、ガラスの壁が部屋の明かりを反射しながらゆらゆらと揺れていた。

  揺れる?

  その不自然な動きが気になる。

  そして、次の瞬間、それが複数の虫の集まりであることに気がついた。

  花の香りに誘われたのだろうか?
  さすがにモニター越しではわからなかったが、虫の特定の前に、揺れるガラスの壁に虫で作られた人の顔を見た。

  それは、年配の髭を蓄えた男性で、聖骸布を思い起こさせた。

  「聖ヨハネの意味がわかったよ……。北城、今日は大潮だ…そして、明日は夏至になる。
  聖ヨハネの日は、6月24日だが、これは夏至祭りの意味合いもある。」
私は立ち上がり、外に出掛ける準備を始めた。

  そして、長山に電話をする。
  大量の虫の発生を知らせなければいけない。
  そして、場合によっては駆除をしなくてはいけないだろう。

  7年前、雅苗さんはこの光景を見たのだろうか?
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