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パラサイト
金言
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北宮家の書斎で、静かな夜がふけて行く…
私は二者択一を迫られていた。
USBに記録されたデータには隠しファイルがあったのだ。
題名は『金言に耳をかたむけよ』
なんとも、西洋の宗教風味の題材だ。
このファイルに何が隠されているのかを知るには、パスワードが必要になる。
しかも、一度しか入力は許されない。
ヒントは平机にある2枚の1ドル札。
雅徳さんの持ち物であろう黒革の二つ折りの財布だ。
あまり使われていない、傷のない、新しいものだった。
と、言っても、雅徳さんは1995年に亡くなっているので、既に、20年以上の年月は流れている。
そして、もうひとつは、雅徳さんが、学生時代、1970年に留学先から送られたらしいカードに挟まれていた。
二つの1ドル札の裏側には、手書きのメッセージが入っている。
ギリシアの詩人ウェルギウスの一説か、
フランスの詩人ノストラダムスの一説か、
どちらかが、パスワードだと思われた。
「よく分からないが、素直に考えるなら、レイがくれたヒントの財布を選ぶところだよ。」
私は夕方の、怪しげな体験を思い出す。
現在、一階で撮影をしている草柳レイという、女性型ロボットが、唐突に私に教えてくれた。
1ドル札は財布にあって、机の引き出しに入っていると。
「よく分からないな、レイは、1ドル札の話をしただけで、パスワードとは言ってないのだろ?
ただの偶然ではないか?」
北城は、財布を手にしながら質問する。
「確かに、そうかもしれないが、失踪が計画的なもので、誰かに謎を残したとしたら、ヒントをどこかに仕込むだろ?
レイさんの学習を雅苗さんが担当していたらしいし。」
私は漠然とした気持ちで答えた。
確かに、変と言われれば、そうだが、ゲームなら、このタイミングでアイテムが飛び出してきたら、それを信じるところだろう。
「池上、お前は間違っている。かなちゃんは1号の学習を担当していた。
現在の2号は、それをベースに長山くんが世話をしていたものだ。」
北城は、上の空の状態でそう言った。
に、2号(-_-;)……
現実離れする話に、頭がついて行かない。
私はコーヒーを入れた。
北城にも一応、聞いてみたが、ホットコーヒーはいらないと言われた。
「それにしても……雅苗さんは、誰に、何の目的でファイルを残したのだろう?
北城、まさか、シケイダ3301に向けた謎とか、言い出さないよな?」
私はコーヒーの香りに慰められて、少し冗談めかしていった。
北城は、私を見る。
「2019年にここに来る『誰か』にだろうな。
何となく、今までの問題は、ボット廃除に使われる質問みたいな気がするな。」
北城は、少し考えて、パソコンのWi-Fiをオフにする。
「ハッカー対策?なのか…
確かに、しおりや本は、屋敷に居なければ見ることはできないけれど。
そんな、大がかりな事をしてまで、何を隠していたんだろう?」
私はコーヒーを飲み干した。
外は暑いが、クーラーは効いていて、コーヒーの甘い苦味が、イライラとした気持ちをなだめてくれる。
「隠す…と言うより、相手を選別していたのかもしれないな。
こんな、面倒な謎解きをしてまで必要な情報か否かを、我々に問うているのかもしれない。」
北城は、雅徳さんのカードを手にした。
それは、年代によるくすみがあり、1970年という…半世紀の時の長さを感じさせた。
「相手の選別……。それにしても……ノストラダムスは無いだろ?
ファーブルと虫で謎を作ってくれたらいいじゃないか。
ノストラダムスとファーブル、西条八十…とか、大正時代の詩人なんかに詳しい人物なんて、そうそういないだろ?」
私は何かに文句が言いたくなってつい、声が大きくなる。
北城は、そんな私を静かに見つめて笑っていった。
「確かに、池上、お前に探してもらうために作られたような問題だよな。」
「それなら、お前の方が当てはまるだろ?親族だし、こう言った、おかしな謎とか、好きじゃないか。」
私は変人に変人扱いされて少しムッとした。
大体、今日、ここに私が来るなんて、誰が予想できるというのだ?
雅苗さんと私には面識はないのだ。
この怪しげな謎は、従兄妹の北城の方が解くにふさわしい。
私はそう思いながら、カードを見た。
古いカードに、綺麗な文字で書かれた夏のクリスマスメッセージ。
1970年…大阪万博の年にアメリカ送られたエアメール。
「この1ドル札、やっぱり、留学の記念にとっておいたのかな?
少し、古い感じはするけれど…50年まえの1ドル札だとしたら、ずいぶんと価値は安くなってしまったな。
今じゃ、約100円だからな。」
私は、遠い時代の空気を1ドル札に感じる。
あの当時の千円札も高価な感じがしたものだが、全体的に紙幣の価値が軽くなった気がする…いや、いまは、もう、電子マネー、紙幣の時代は終わりかもしれない………
「それだ!」
と、北城が叫び、私は危うくコップをひっくり返しそうになる。
「なんだよ。」
「金言だよ。金の価値がある言葉、
1971年、アメリカドルは金本位制(きんほんいせい)から方向転換するんだ。
1970年の1ドル札は、確かに、金の価値があったのだよ。」
北城は、そう言って、カードに挟まれた1ドル札の言葉を打ち込み始めた。
私は二者択一を迫られていた。
USBに記録されたデータには隠しファイルがあったのだ。
題名は『金言に耳をかたむけよ』
なんとも、西洋の宗教風味の題材だ。
このファイルに何が隠されているのかを知るには、パスワードが必要になる。
しかも、一度しか入力は許されない。
ヒントは平机にある2枚の1ドル札。
雅徳さんの持ち物であろう黒革の二つ折りの財布だ。
あまり使われていない、傷のない、新しいものだった。
と、言っても、雅徳さんは1995年に亡くなっているので、既に、20年以上の年月は流れている。
そして、もうひとつは、雅徳さんが、学生時代、1970年に留学先から送られたらしいカードに挟まれていた。
二つの1ドル札の裏側には、手書きのメッセージが入っている。
ギリシアの詩人ウェルギウスの一説か、
フランスの詩人ノストラダムスの一説か、
どちらかが、パスワードだと思われた。
「よく分からないが、素直に考えるなら、レイがくれたヒントの財布を選ぶところだよ。」
私は夕方の、怪しげな体験を思い出す。
現在、一階で撮影をしている草柳レイという、女性型ロボットが、唐突に私に教えてくれた。
1ドル札は財布にあって、机の引き出しに入っていると。
「よく分からないな、レイは、1ドル札の話をしただけで、パスワードとは言ってないのだろ?
ただの偶然ではないか?」
北城は、財布を手にしながら質問する。
「確かに、そうかもしれないが、失踪が計画的なもので、誰かに謎を残したとしたら、ヒントをどこかに仕込むだろ?
レイさんの学習を雅苗さんが担当していたらしいし。」
私は漠然とした気持ちで答えた。
確かに、変と言われれば、そうだが、ゲームなら、このタイミングでアイテムが飛び出してきたら、それを信じるところだろう。
「池上、お前は間違っている。かなちゃんは1号の学習を担当していた。
現在の2号は、それをベースに長山くんが世話をしていたものだ。」
北城は、上の空の状態でそう言った。
に、2号(-_-;)……
現実離れする話に、頭がついて行かない。
私はコーヒーを入れた。
北城にも一応、聞いてみたが、ホットコーヒーはいらないと言われた。
「それにしても……雅苗さんは、誰に、何の目的でファイルを残したのだろう?
北城、まさか、シケイダ3301に向けた謎とか、言い出さないよな?」
私はコーヒーの香りに慰められて、少し冗談めかしていった。
北城は、私を見る。
「2019年にここに来る『誰か』にだろうな。
何となく、今までの問題は、ボット廃除に使われる質問みたいな気がするな。」
北城は、少し考えて、パソコンのWi-Fiをオフにする。
「ハッカー対策?なのか…
確かに、しおりや本は、屋敷に居なければ見ることはできないけれど。
そんな、大がかりな事をしてまで、何を隠していたんだろう?」
私はコーヒーを飲み干した。
外は暑いが、クーラーは効いていて、コーヒーの甘い苦味が、イライラとした気持ちをなだめてくれる。
「隠す…と言うより、相手を選別していたのかもしれないな。
こんな、面倒な謎解きをしてまで必要な情報か否かを、我々に問うているのかもしれない。」
北城は、雅徳さんのカードを手にした。
それは、年代によるくすみがあり、1970年という…半世紀の時の長さを感じさせた。
「相手の選別……。それにしても……ノストラダムスは無いだろ?
ファーブルと虫で謎を作ってくれたらいいじゃないか。
ノストラダムスとファーブル、西条八十…とか、大正時代の詩人なんかに詳しい人物なんて、そうそういないだろ?」
私は何かに文句が言いたくなってつい、声が大きくなる。
北城は、そんな私を静かに見つめて笑っていった。
「確かに、池上、お前に探してもらうために作られたような問題だよな。」
「それなら、お前の方が当てはまるだろ?親族だし、こう言った、おかしな謎とか、好きじゃないか。」
私は変人に変人扱いされて少しムッとした。
大体、今日、ここに私が来るなんて、誰が予想できるというのだ?
雅苗さんと私には面識はないのだ。
この怪しげな謎は、従兄妹の北城の方が解くにふさわしい。
私はそう思いながら、カードを見た。
古いカードに、綺麗な文字で書かれた夏のクリスマスメッセージ。
1970年…大阪万博の年にアメリカ送られたエアメール。
「この1ドル札、やっぱり、留学の記念にとっておいたのかな?
少し、古い感じはするけれど…50年まえの1ドル札だとしたら、ずいぶんと価値は安くなってしまったな。
今じゃ、約100円だからな。」
私は、遠い時代の空気を1ドル札に感じる。
あの当時の千円札も高価な感じがしたものだが、全体的に紙幣の価値が軽くなった気がする…いや、いまは、もう、電子マネー、紙幣の時代は終わりかもしれない………
「それだ!」
と、北城が叫び、私は危うくコップをひっくり返しそうになる。
「なんだよ。」
「金言だよ。金の価値がある言葉、
1971年、アメリカドルは金本位制(きんほんいせい)から方向転換するんだ。
1970年の1ドル札は、確かに、金の価値があったのだよ。」
北城は、そう言って、カードに挟まれた1ドル札の言葉を打ち込み始めた。
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