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後日談【一般的とはほど遠い享楽的な休日】
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しおりを挟むそれから、おおよそ二時間後。
「センパイ、センパイ。可愛い恋人が美味しいご飯を作りましたよぉ?」
松葉瀬を起こすのは、矢車の声。
「センパイ、セ~ンパイっ。ほら、早くしないと冷めちゃいますよぉ? なにがって、ボクとセンパイの関係がですよぉ? いいんですかぁ?」
それと、激しい揺れだった。
文字通り揺すり起こされた松葉瀬は、眉間に深い皺を刻む。
「……ウルせェな、テメェは……ッ。どうせ、俺から離れる気なんざ毛頭ねェくせに、ウゼェ小芝居すんなっつの、阿呆が……ッ」
「うっわ、寝起きでも饒舌ですねぇ? もしかして、ボクに起こされたくて寝たフリをしていたんですかぁ? 甘えたでちゅねぇ、おっぱいでも飲みまちゅかぁ?」
「腹の底からウゼェ……ッ」
心底不愉快そうな顔をしながら、松葉瀬は起き上がる。
閉ざしていた目をなんとか開けて、松葉瀬は声がする方に視線を向けた。
そこで松葉瀬は、またしても目を丸くする。
「……なんだよ、テメェ。その、心底趣味のわりィ恰好は」
数時間前。矢車はどことなく可愛らしい私服に身を包んでいた。
しかし、今の矢車は違う。
「【男の子の夢】ってやつですよぉ? 男の人って、こういうの好きですよねぇ?」
……なぜか。
──矢車は今【裸にプラス、エプロン】という、松葉瀬にとって面妖極まりない恰好をしているのだ。
衛生的にそれは、果たしてどうなのか。松葉瀬は目を丸くした後、どことなく『興醒めだ』と言いたげな目を向ける。
「せっかく張り切って用意した手前言いづれェんだが、俺の性癖には刺さんねェんだわ」
「それって、センパイの性別が【男】じゃなくて【アルファ】だからですかぁ?」
「殺すぞクソオメガ」
矢車はニッコリと笑みを浮かべて、その場でくるりと回る。
「どうですぅ? 可愛いでしょう? 愛らしい年下の後輩が裸エプロンでお料理を作ってくれたんですよぉ? 睡眠欲よりも食欲と性欲が増大して、寝ている場合じゃなくなりますよねぇ?」
「あァ? なんだよ、俺がテメェをほったらかして寝たから拗ねてんのか?」
「残念ポンコツミラクル回路なセンパイ、ホントに可哀想です……」
「金太郎みたいな恰好した成人男子には言われたくねェんだわ」
男にしては華奢な体躯に、布が一枚。
……冗談を抜きにして、こういった露骨すぎる恰好は松葉瀬の性癖には一ミクロンも刺さらない。
だが、仮にこの恰好に至った経緯に『寝てばかりで構ってくれないのは寂しいです』といういじらしい理由があったとして。
「……駄目だな、全然刺さんねェ」
やはり、松葉瀬の性癖には刺さらなかった。
心底興味がなさそうな松葉瀬に気付いた矢車は、わざとらしく頬を膨らませる。
「えぇっ? センパイ、本気でこういうの好きじゃないんですかぁ? それでも元ヤリチンですかぁ? 裸エプロンとスク水とメイド服は基本として押さえて、そこから派生して巫女服やナース服。からの原点回帰で高校の制服。これが男として生まれたからには常備しておく必須性癖ですよぉ?」
「逆に訊くが、テメェはその中だと刺さるモンがあんのかよ」
「ボクですかぁ? うぅん……? ……センパイが顔だけ出ている着ぐるみを着るのは、酷く滑稽でキュンですねぇ?」
「テメェにも刺さんねェモンを強要すんなっての」
たかが、布一枚。そこにどうロマンを見出せば良いのか。……本気で、松葉瀬には分からなかった。
……だが、ひとつだけ。
──寝覚めに、矢車の顔を見るのは悪くない。
……それだけは、口が裂けても言えなかった。
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