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5章【突発的に輝かれても、静観的に】
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しおりを挟む矢車が、ヒート抑制剤を飲む、理由。
(――俺の、ため?)
ここ一年間。松葉瀬と矢車はかなりの時間を共有していた。
その間……確かに、ただの一度も。矢車はヒートしていなかった。
それは、きちんと抑制剤を服用していたから。
――アルファである松葉瀬の理性を、崩壊させないために。
そこまで考えた松葉瀬は、自分の考えを即刻振り払った。
「ヒートが理由で番になったら、テメェにとっては面白くねェ結末だろうからな」
「さっすがセンパイ! ボクのこと分かってますねぇ? 気持ち悪いですっ!」
「ヤッパリお前も焼いてやるから、サッサと手を出せ」
矢車は、自己犠牲による絶望感で興奮する変態だ。
その事実を思い出した松葉瀬は、淡々と肉を焼き続けた。
(そうだ、コイツはそういう奴だったな……)
最近……実は優しい奴だったんじゃないか、と。
そう気付いて、松葉瀬は妙に落ち着かない日々を過ごしていた。
(なにを意識してたんだろうな、俺は。……相手はこのド腐れクソビッチだってのに)
焼けた肉を、何度も矢車の皿に盛りつける。
消費する速度が追い付かない矢車は、慌てた様子で松葉瀬に声をかけた。
「センパイ、ちょっと、ストップです! 自分の分、取ってないじゃないですかぁ!」
「あぁ、そうだな」
「……センパイ、どうしちゃったんですかぁ? 今日のセンパイからは脈しか見受けられなくて、正直キモイです」
「テメェの目玉は飾りか。その発想の方が気色悪いっつの」
そんな雑談を交わしつつも、松葉瀬は肉を焼く手を止めない。
「お前、なにか酒飲むか?」
「え、お酒飲ませてナニする気ですか……? 余裕で引きました、責任取って美味しそうなお酒選んでください」
「素直に酒の種類がよく分からねェって言えよ、ブス」
店員を呼び、松葉瀬はスラスラとオーダーをする。当然、肉も追加で。
「人の奢りで食べるお肉に、お酒……ふふっ、贅沢ですねぇ?」
「誰が奢るっつったっけか」
「えぇ? 人類史上最も下等でド底辺ザコペテン師なセンパイのくせして、後輩相手にご飯も奢ってくれないんですかぁ? 控えめに言って、センパイのいいところってないですよね、カワイソウですぅ、くすんっ」
「うるせェ、イカれビッチ。他の奴にでも同じように媚びてろ」
追加で届いた肉を、淡々と焼き始める。
そして焼けたら、すぐに矢車の皿へ。
「……あの、センパイ? これは新手の嫌がらせですかぁ?」
「どこがだよ。マジで目玉腐ってんじゃねェのか」
「だってセンパイ、本気で自分の分……全然、取ってないじゃないですか」
オズオズと、矢車は松葉瀬を見つめる。
その視線に気付かず、松葉瀬は更に肉を焼く。
「お前が肉食いてェって言ったんだろ。気色悪い遠慮なんてしてねェで、死ぬほど食え。んで、ちっとは太れ。細すぎんだよ、ボケ。いつか抱いてるときに折るぞ」
「……ふぅん」
用意された肉を、矢車はチビチビと食べ進める。
「……あ? お前、顔赤くねェか? 暑いなら上着脱げ。見てて不快だ」
「はぁい」
普段ならスケベだなんだと喚くくせに、矢車は大人しく言うことを聞いた。
その様子が、何だか慣れない。
現実から目を背けるように、松葉瀬はまたもやせっせと肉を焼き進めた。
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