スノードロップに触れられない

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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3章【大乗的にはなれない、威圧的なアルファ】

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 どこにでもあるような、ラーメン屋。

 そこで松葉瀬と矢車は、対面で座り、ラーメンを啜っている。


「そういえば、来週。健康診断ありますよねぇ」
「あァ……? 知らねェ、忘れた」


 矢車はチュルチュルと、少しずつラーメンを食べ進めていた。

 対する松葉瀬は、ズルズルと豪快に食べ進めている。


「うちの会社って、ベータじゃないの……ボクとセンパイだけじゃないですかぁ? 健康診断で後天性のお仲間が増えたら、楽しそうですよねぇ?」


 松葉瀬は生まれつき……すなわち、先天性のアルファだ。

 そして矢車も先天性なのだと、松葉瀬は本人から、いつかのどこかで言われていた。

 【先天性】があるのなら、当然【後天性】もある。

 それは健康診断の際に発覚するケースもあるらしいが、そんなものは極めて稀だ。

 松葉瀬は垂れてきた横髪を耳にかけ、矢車を見ずに相槌を打つ。


「俺はテメェを【仲間】だなんて気色悪い目で見たことはねェけどな」
「辛辣ぅ、感じ悪ぅい、キモォい」
「捻り潰すぞブス」


 レンゲの上にラーメンをのせて、矢車は笑った。


「でも正直なところ……自分以外のアルファが身近にいたら、嬉しくなったりしませんか?」


 残っていたもやしを食べた後、松葉瀬は一瞬だけ想像する。

 自分以外の、アルファ。

 それが、職場にいるビジョンを。


「……まぁ、そうだな。アルファがどうのこうのって話されたら、そのアルファに話題の矛先を向けられるってことだろ。嬉しいわ」
「本当にセンパイって、見下げたクズですよねぇ?」
「ラーメンに沈めんぞゴラ」


 まるで女子のようにゆっくりとラーメンを食べ進める矢車を、松葉瀬はジロリと睨んだ。

 そして、矢車が食べている途中のラーメンに箸を伸ばす。


「んむ? センパ――あぁっ! 酷いですセンパイ! そのチャーシュー、楽しみにとっておいたのにぃ!」
「うるせェカス後輩。弱肉強食だ」


 矢車が食べ進めているラーメンの器に浮いていた、チャーシュー。

 それを箸でつまみ、松葉瀬は遠慮容赦なく、自分の口に放り込んだ。

 矢車はわざとらしく頬を膨らませた後、正面に座る松葉瀬をキッと睨む。


「それってぇ? アルファとオメガ的な意味ですかぁ?」


 明らかな仕返しだ。

 アルファだからという理由で、思想や性格を決めつけられることを……松葉瀬は最も忌む。

 そして矢車は、そんな松葉瀬の特殊すぎる怒りの琴線を知っていた。


「先輩と後輩としてに決まってんだろ、馬鹿が。くたばれ、ゴミビッチ」


 露骨に不機嫌そうな態度をとる松葉瀬を見て、矢車は満足そうだ。

 チャーシューの恨みを晴らし終えた矢車は、残りのラーメンを啜る。

 特にすることもなくなった松葉瀬は、苛立ちを隠すことなく矢車を睨む。

 すると不意に……矢車の後ろ髪が、はらりと垂れ下がる。

 襟足を覆うように伸びた、後ろ髪。

 それは、こだわりなのか。
 それとも……うなじを隠す為。

 松葉瀬はコップに注がれた水を一口だけ飲み、矢車から視線を外す。


「……テメェはどうなんだよ」
「んぇ? なにがですかぁ?」


 メンマを箸でつまんだ矢車が、小首を傾げる。

 その動きによって、髪がサラリと踊った。


「だから、さっきの例え話」
「センパイ以外のアルファがいたら、ですか? ……それがなにか?」
「っとに、頭わりィな、昼行灯が」


 コップをテーブルに置き、松葉瀬は頬杖をつく。


「首、隠すのかよ」


 そう呟いた松葉瀬は、意地でも矢車を見ようとはしなかった。




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