上 下
229 / 290
11章【そんなに寄り添わないで】

28 微*

しおりを挟む



 見つめ合いながら、カナタが口にした言葉。
 それを聴いたツカサによって、ギッ、と。ベッドが、僅かに軋む。


「……今の敬語は、わざと? それとも、まだ罰ゲームは始まっていないってこと?」


 ツカサの表情が、笑みから真剣なものに変わる。
 その変化が【怒り】からではないと、カナタは分かっていた。


「どっちだと、思いますか?」


 だからこそ、カナタはジッとツカサを見つめる。……まるで、挑発するかのように。
 またしても敬語を遣ったカナタを見つめながら、ツカサはカナタの頬を優しく撫でた。


「ちょっと難しくて、分からないよ。でも、キスはしたくなった。……だから、罰ゲーム関係なくするね?」
「んっ」


 顔が近付き、触れる。
 もう何度も重ねた唇だというのに、いつも離れると『寂しい』と思ってしまうのは、なぜなのか。カナタは無意識のうちにツカサの服を握り、大きな瞳をツカサに向ける。

 一度、カナタは自らツカサにキスをした。そしてそのまま、唇を寄せて囁く。


「──抱いて、ツカサ君……っ」


 初めての強請り方に、ツカサは一瞬だけ言葉を失くした。
 しかし、すぐにいつもの笑みを浮かべる。


「いいよ。……俺も、カナちゃんを抱きたい」


 そう言い、ツカサは上着を脱ぐ。


「今日のカナちゃんも、ホントに可愛い。どうしてカナちゃんは、毎日毎日俺を惚れ直させちゃうのかな。魔性すぎて、ちょっと心配」
「なにか、悪いこと……しちゃって、ますか?」
「悪くはないよ。ただ、他の奴から言い寄られたらイヤだなぁって気持ち」
「そんなこと、あるわけないですよ」
「でもなぁ。カナちゃん、可愛いからなぁ……」


 服を脱ぎ、服を脱がす。ツカサによって行為の準備を進められながら、カナタは頬を膨らませた。


「オレよりも、ツカサさんの方が心配です。よく、女のお客さんからジーッと見つめられているじゃないですか。それに、窓側に置いてあるピアノを弾くときも……いっぱい、視線を集めています」
「使えるものは使った方がいいでしょ? 俺があの店にいる理由は【客寄せパンダ】だからね。……でも、カナちゃんがイヤならもう弾かないよ?」
「……ピアノを弾くツカサさんも好きなので、見られなくなるのは嫌です」
「ワガママなカナちゃんも可愛いっ!」


 膝を抱えて、ツカサは笑う。


「なんだってするし、なんだって叶えるよ。俺はカナちゃんが一番だから、カナちゃんの望むことが俺の望み。……だと、思う。うん」
「どうして目を逸らすんですか?」
「カナちゃんからの別れ話だけは受け止められないからかな……」
「しないですよっ!」


 手早く裸にされたカナタは、恨めしそうにツカサを睨む。


「こんな恥ずかしいこと、ツカサさんとしかできません。……ツカサさんとしか……したく、ないですし……っ」


 ゴニョゴニョと言い淀むカナタを見て、ツカサはまたしても笑みをこぼす。


「そっか。……嬉しいなぁ」


 自身の指を舐めて、ツカサは目を細めた。


「俺も、こうして『抱きたい』と思うのはカナちゃんだけ。結婚したいのも、生涯添い遂げたいのも……全部、俺の特別はカナちゃんだけだよ」


 濡れた指が、カナタの後孔に触れた時。
 カナタは身を震わせながら、小さな声で呟いた。

 ──「同じで、嬉しい」と。




しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

風の魔導師はおとなしくしてくれない

BL / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:407

催淫魔法士の日常

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:30

リオ・プレンダーガストはラスボスである

BL / 連載中 24h.ポイント:27,730pt お気に入り:1,517

恋と愛とで抱きしめて

恋愛 / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:1,519

男になった元悪役令嬢と召喚勇者

BL / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:339

数十年ぶりに再会した神様に執着されて神隠しに遭う話

BL / 連載中 24h.ポイント:198pt お気に入り:291

俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

BL / 連載中 24h.ポイント:6,107pt お気に入り:1,732

【完結】優しくしないで

BL / 完結 24h.ポイント:418pt お気に入り:1,439

処理中です...