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8章【そんなに惚れ直させないで】

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 カナタが、変わった先。
 その先にあるのは、カナタがツカサ以外の誰かを選ぶという未来。

 そこにツカサがいるかどうかなんて、愚問に決まっていた。


「いるとか、いないとかじゃないよ。カナちゃんが、俺を置いて行くんだ。カナちゃんが、俺を連れて行かないんじゃないか」


 冷えた指が、徐々にぬるい体温へと変わっていく。
 カナタの首が持つ体温を、少しずつ奪っているから。
 それほどまでにハッキリと、カナタの首を掴んでいるのだ。

 死を感じながらも、カナタは言葉を続ける。


「ツカサさんは、オレが変わると嫌なんですか?」
「そうだよ、イヤだ。カナちゃんが変わるのなら、俺は裏切り者のカナちゃんを殺す。俺から背を向けた方向にある【先】なんて、絶対に与えてやらない。カナちゃんは、俺と幸せになるんだから」


 カナタが【変わる】ということは、ツカサとの運命を否定することとイコールになると。
 ツカサのそんな主張が、カナタにも通じたのだろう。

 カナタは口を開き、一度、閉じる。
 そして再度、カナタは口を開いた。


「……それじゃあ」


 ──別れましょう。

 そう言われることを、ツカサは直感的に覚悟する。

 即座に、ツカサはカナタの首を力任せに絞め上げようとした。
 しかし……。


「──ツカサさんが『嫌だな』って思わない方法を、一緒に考えませんか?」


 続くカナタの言葉は、ツカサにとっては予想外のものだった。

 ビクリと、ツカサの体が震える。
 それは、カナタの言葉に驚いたからではない。


「オレは、変わりたいです。だけど、ツカサさんに嫌われたくないです。でも、だからといってどちらかを諦めるつもりはありません。……だから、どっちも叶えられる方法を、一緒に考えてくれませんか?」


 カナタの眼差しに、自分が映っていると気付いたから。

 ──カナタの目が、真っ直ぐとツカサだけを映していたからだ。


「オレは今、自分で選んだからここにいます。ツカサさんを好きになって、脅されたって理由じゃなく本心から恋人になって、そして今、ツカサさんとの未来に胸を弾ませています。今の自分になれたのは、ツカサさんのおかげです。オレを変えてくれた、ツカサさんのおかげなんです」


 こんなにも、カナタは真っ直ぐな目をしていただろうか、と。


「だから、大丈夫ですよ。これからもオレは、自分で選べます。……オレはずっと、ツカサさんを選び続けますから」


 こんなにも、カナタは強い男だったのか。
 恋人の首に両手を添えながら、ツカサは漠然とそんなことを考えた。

 同じところまで落ちてきてくれないのならば、引きずり落とす。
 そうした覚悟を持って、ツカサはカナタと接してきた。

 けれど、カナタは違う。


「ツカサさんが嫌なことは、なんですか? 本当に、オレが変わることが嫌なんですか?」


 ──カナタは【ツカサの手を引き、同じところまで引き上げよう】としてくれていた。

 カナタの手が、首に添えられたツカサの手に触れる。

 その手が、あまりにも優しくて。
 その手が、あまりにも愛おしかったから。


「……カナちゃんが、俺以外の人を好きになるかもしれない……っ。俺はそれが、イヤだ……っ」


 ツカサは素直に、自分の気持ちを口にした。




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